メジャーの審判の協力を得られなかったため、マイナーリーグの審判による不安定な判定が問題にもなった。さらに、決勝ラウンドを米国内で開催しながら、米国が決勝に残れず、米国内のファンからもカゲの薄い大会となってしまった。
ところが、そうした見方に変化をもたらしたのが前回23年の第5回大会だった。17年の第4回大会で初めて優勝した米国は連覇を目指し、エンゼルスの主砲、マイク・トラウトをはじめ各球団の主力級のメンバーをそろえ、順当に勝ち進んだ。コロナ禍で2年間、大会が延期され、国際大会に飢えていたこともあったのか、マイアミのローンデポ・パークで行われた準々決勝以降の5試合は超満員の観客で埋まった。米国の野球ファンには「強い米国」を印象付ける格好の機会になるはずだった。
ところがその米国の前に決勝戦で立ちはだかったのが侍ジャパンだった。3-2の日本リードで迎えた9回、大谷翔平がクローザーとして登板、最後はチームメートのトラウトを空振り三振に打ち取って米国の連覇の夢を打ち砕いた。
大谷がグラブを高々と投げ上げ、喜びを爆発させたシーンは米国内でも何度も映し出された。一部の好事家の間でしか話題にならなかったWBCが全米の注目を集めるイベントへとグレードアップした瞬間でもあった。
Netflixは1997年、米カリフォルニア州で創業、郵送によるDVDレンタルから始まり、やがてネットを通じて映画大手の作品を独占的に配信するようになり、海外にも進出。同社ホームページによると現在190を超える国・地域に3億人の有料会員を抱える巨大企業に成長した。
日本国内では2015年に事業をスタートした。国内の加入者は24年上半期に1000万人を突破したという。
前回23年の大会の日本向け放映権料は30億円前後とされているが、今回、Netflixへの販売額は150億円と報じられている。WBCIがビジネスの観点から放映権料の桁が違うNetflixを選んだのは当然なのかもしれない。皮肉な見方をすれば、二刀流大谷がWBCの価値を高め、日本のテレビ局から放映権を奪い去ったともいえる。
日本野球機構(NPB)の榊原定征コミッショナーはNetflixのライブ放送終了後、時間をおいて地上波テレビで録画放送ができないかなど、さまざまな救済策を模索し、WBCIやNetflix側と交渉を続けているが、開幕まで2カ月に迫った時点で明確な返答が戻っていない。
注目のスポーツイベントの放映がテレビからネットに切り替わる動きはすでに他のスポーツで進行している。象徴的なのはプロボクシングの世界だ。
米国では早くから「ペイ・パー・ビュー」方式による有料放送が浸透してきたが、日本でもその動きは加速している。日本ボクシング界最高のスーパースター、井上尚弥は昨年、国内外で4度の防衛戦を戦ったが、いずれもネットメディアが生中継し、地上波テレビでの放映はなかった。
12月27日にサウジアラビアで戦ったアラン・ピカソ(メキシコ)戦の井上のファイトマネーは自己最多の100億円に達したと伝えられているが、従来のテレビ局を通じた方式ではこれほどの資金を集めることはできない。井上を育てた大橋ジムの大橋秀行会長は「井上に高額なファイトマネーを提供できるのはテレビ局ではなくなった」と説明している。スポンサーから番組の広告料として資金を集めるテレビ局の従来のビジネスモデルでは対応できなくなったことを示している。
MLBは昨年3月、東京でドジャースとカブスの開幕試合を行った。両チームには大谷や山本由伸、鈴木誠也、今永昇太と4人の日本人選手が顔をそろえ、ファンの人気が沸騰。興行として大成功をおさめた。MLBにしてもNetflixにしても、日本国内でのビジネスに自信を深めたに違いない。