ウェザーニューズ、AI活用等で月7千時間の労働削減…過去最高益、創出した時間を「攻めの業務」に

浮いた時間でカスタマーサクセスを強化

 同社は、こうしたシステムの開発を内製で行っている。

「2022年にリリースされたOpenAIのChatGPTの利用が広まった頃から弊社のエンジニアが少しずつ生成AIを使い始めて、社員全員が安心して使えるようなクローズドな社内環境と社内ツールを開発・展開してきました。当初は使わない社員も多く、社員全員が使わなければ大きな効果は出ないということで、今年の3月から全社的なイベントとしてハッカソンを開催し、全10回ほどで約800人が参加しました。ある意味で社員の挑戦を全社的に後押ししたそういうイベントに社員に参加してもらい、AIに触れる機会をつくっています。これだけの規模でやるというのは珍しいと思いますが、社長を筆頭に『社員全員がまずはAIに触ってみるんだ』ということを会社として強く打ち出したことが、社内での普及につながったと感じております。

 ちなみに弊社ではAI系の開発は入社3年目くらいの若手エンジニアたちがリードすることも多いです。入社数年の若手がいきなり開発の最前線に立って成果を出していますが、市場では高いスキルを持つAI人材を集めるのが難しいなか、幸運にも弊社にはそうした人材が集まっています。また、AI活用では扱えるデータが豊富にあることが重要な要素となってきますが、弊社には約40年にわたり蓄積してきた気象データやお客様のデータがあり、それを活用することができるという点も非常に大きいと感じています」(出羽氏)

 同社はAI活用による労働時間削減で浮いた時間を、より創造的な仕事や顧客へのサービス品質向上に役立てているという。

「これまでは顧客が増えると、それに応じて作業量が増えてオペレーターの人数が増えることがありましたが、そういうことがなくなりました。また、社員の退職のたびに新規採用して補充する必要もなくなりました。これにより中途採用がほとんどなくなり、そこにかかるコストや労力が減り、採用に関してはほとんどすべてが新規採用というかたちになりつつあります。

 一部のオペレーターについては業務内容を変えて、SaaSサービスを拡販するためのカスタマーサクセスを担当してプロダクトの内容をお客様にお伝えしたり、解約率の低下やクロスセル・アップセルなど攻めの業務を担うようになっています。このほか、オペレーションの経験・知識を持った社員がエンジニアにジョブチェンジして、お客様視点を持ってプロダクトの開発に取り組んでいるケースもあります。そういったかたちで社員の役割を変化させ、将来的にはオペレーター部門の人数は減らしつつ付加価値のある業務に人員をシフトしていければと考えております」(出羽氏)

ダイレクトに業績に影響

 こうした取り組みは目に見えて大きく業績向上に寄与しているという。同社IR担当者はいう。

「2025年5月期決算見通しとしては、第3四半期決算発表時点で売上高は計画値の235億円で据え置いた一方、営業利益は4億円ほど、約10%の上方修正となりました。AIによる業務効率化、人件費などの費用削減がダイレクトに業績に影響してきております。弊社が中期経営計画(24年5月期~26年5月期)で掲げている5つの大きいテーマの一つがAIであり、社内での業務効率化のみならず、新サービスも開発していきトップラインを伸ばすというところもしっかりやっていきたいと考えております」

 同社は今後、AI活用をさらに推進していく計画だ。

「有料会員の個人のお客様に対して、お天気エージェントというAIエージェントを使ったサービスを提供しておりますが、今後は企業のお客様向けにもAIエージェントを活用したサービス、個別企業に特化した、例えば海運会社向けAIエージェントや自治体向けAIエージェントなども展開していこうと考えております。

 さらに、気象に関することであれば何でも答えられるAIエージェントのような世界観を作っていければと考えております。将来的には他社様のAIエージェントと弊社のAIエージェントが話し合って何かを解決していくというかたちも、実現できるかもしれません」(出羽氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)