スターリンク一強は本当に安全か?KDDI・ドコモ・ソフトバンクが同時採用の明暗

 一方で、スターリンクへの依存が高まることにはリスクがあると懸念する。

「特定の企業が通信衛星インフラを事実上独占すると、価格変更や仕様変更の影響を受けやすくなる。また、宇宙ごみ(スペースデブリ)や衛星の故障、軍事衝突などによって衛星網に支障が出れば、広範囲の通信品質が一気に低下する可能性もある。さらに、スターリンクが世界的に優勢な一方で、アマゾンのKuiperやASTスペースモバイルといった競合の商用化が遅れており、市場競争が不足しつつある点も問題だ」(岡崎氏)

 日本の通信3社が同じ衛星サービスを採用したことで“単一障害点”が生まれた面も否めず、今後は複数回線のバックアップ確保が重要になる。

KDDI・ドコモ・ソフトバンクが採用、HAPSも台頭

 日本ではKDDIが先行してスターリンクを採用し、山間部の基地局バックアップとして運用を開始した。続いてNTTドコモとソフトバンクも採用を発表し、2025年以降に商用利用が本格化する見通しである。ソフトバンクは衛星通信に加え、高度20kmを飛行する無人航空機を使った「HAPS(空飛ぶ基地局)」の開発にも力を入れ、低コストかつ広域に通信網を展開する新たな方法を模索している。

 さらに、離島の観光地や建設現場ではスターリンクの携帯端末が利用され、従来比で通信コストが3~5割減った例もある。実利用はすでに広がっており、衛星通信が地域の通信課題を解消する手段として定着しつつある。

 総務省情報通信政策研究所の特別研究員の一人は「スターリンクは技術的優位性が際立つが、依存度が高まると通信の多様性が損なわれる」と指摘する。また「日本の通信3社が同一衛星基盤を採用した判断は合理的だが、バックアップとしてHAPSや他の衛星通信サービスの確保が必要だ」と述べる。衛星通信がインフラ化するほど、複数手段を持つことの重要性が増すとの見方が広がっている。

 衛星通信市場は今後も年率10%前後で拡大するとみられ、スターリンクの優勢は続きそうだ。とはいえ、アマゾンのKuiperが2026年の商用化を計画しており、競争環境が再形成される可能性もある。日本ではHAPSや国産衛星の研究開発が加速し、災害対策や遠隔地のインフラ整備で活用が広がるだろう。衛星通信は地上ネットワークを補完する「第3のインフラ」として存在感をさらに高めていくと考えられる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)