「家族」というチームのつくり方

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奥さんの心配性に、どこまで付き合えばいいの?

前回、多くの場合、女性は男性より危険への感度が高いため、奥さんが心配性なのは普通であること。そして、奥さんに心穏やかにいてもらうためには、心配性の奥さんをも上回る危機感を持ってあげるのが大事だということを、会社における社長とナンバー2の関係になぞらえて書きました。

とはいえ、旦那さんである皆さんも覚えがあると思いますが、奥さんの心配性が過剰に感じられる機会も少なくないでしょう。
飛行機には乗らない、クマが出る可能性がほんの少しでもあるところには行かない、子どもにスマホは持たせない、キャンプはさせない、包丁は持たせない、自転車は乗らせない、一人暮らしはさせない、海外留学はさせない、といったようになんでも否定してきた場合、奥さんの危機感に寄り添いたいと思っても、すべてその通りにするのは現実的ではありません。

では、どうしたらいいのでしょうか。ビジネス組織の現場でも使われている対処法をもとに、具体的に考えてみましょう。夫婦間であっても、以下の5つのステップが有効です。

①    危機感に寄りそう
②    危機を正しく把握する
③    危機をレベル分けする
④    受け入れられる危機から試す
⑤    危機を感じてくれていることに感謝し、ねぎらう

①    危機感に寄り添う

このファーストステップが何より大切です。奥さんの危機感を「そんなことを感じる必要はない」と突き放したり、「起こる可能性は低い」と確率論で諭したりしてはいけません。
やるべきは危機感に寄り添うこと。「たしかにそんなことが起こったら怖いね」という思いを共有する。すべてはここから始まります。

具体的な方法としては、意外かもしれませんが、危機感を刺激する情報をシェアするのが有効です。
たとえば、クマを怖がっている奥さんにクマのニュースを送る、というもの。さらに不安をあおるだけでは? と思うかもしれませんが、実際は逆です。人は、自分以上に心配している人がいると思えると、むしろ安心できるのです。自分は奥さんと同じ熱量で危機感を持っていますよ、ということが伝われば、奥さんは落ち着きを取り戻し、あなたを信頼するようになることでしょう。
奥さんを上回る危機感で、情報をシェアする。これが第一歩です。

②    危機を正しく把握する

危機感に寄り添うことで落ち着いてもらい、奥さん以上の危機感を持っていると思ってもらうことで、たしかな信頼を得たとします。次にやることは、その危機を正しく把握することです。

そもそも、何かの出来事を危機ととらえ、心配性を発動してしまうのは、その出来事によって強いられる変化に、過度に悲観的な未来を想像してしまうからです。変化を回避すれば、危機に見舞われるのを避けられるかもしれませんが、よりよい未来は手に入りません。
「いまよりも年収を上げる」とか、「いまよりも休みを増やす」とか、「いまよりも子どもの学力を上げる」とか、「いまよりも幸せを得られるようにする」とか、何かよりよい未来を望むのならば、変化に向き合わなければなりません。変化は、危機をともないます。しかし、すべての危機を避けていては未来はよくなっていきません。そのことは、心配性な人もわかっているはずです。それでも危機が怖くて、変化を受け入れられないのです。

奥さんから、危機ばかり指摘されてしまって何もできないという状況のとき、どうすればいいのか。
「変化する」と「現状維持」とでの、それぞれの「メリット」「デメリット」を考えてみましょう。「変化する」と「メリット」があります。同時に「変化する」と「デメリット」も存在しています。「現状維持」で変化しない場合も同じで、「メリット」を享受している一方で「デメリット」にもさらされています。これは当たり前のことなのですが、心配性に陥って冷静さを欠いていると、偏ったものの見方しかできなくなっています。
たとえば、心配性のあまり飛行機に乗ることを拒否している場合、奥さんは、飛行機事故に遭うという「変化するデメリット」にばかり目が行っています。その一方で「変化するメリット」――たとえば海外旅行に行けることや、子どもに豊かな海外経験を積ませられることは見えていません。同様に、いまこうむっているはずの「現状維持のデメリット」――飛行機を利用できないという不便さにもそれほど気づいていないという状態なのです。

基本的に人は保守的な生き物なので、「変化する」と「現状維持」の二択を迫られた際に、現状維持を選択しがちです。「変化するデメリット」や「現状維持メリット」にだけ目を向け、変更することから目をそむけてしまうのです。
しかし、それでは進歩はありません。いまの生活をよりよくするには、私たちはもっと、「変化するメリット」と「現状維持のデメリット」に着目しなければいけないのです。

では、どうすれば心配性にとらわれた目線を変えることができるのか。それは、質問することです。そうすることで、見えてなかったポイントを可視化するのです。
奥さんの危機感にきちんと寄り添って受け止めながらも、「では、変わらないままでいるデメリットってないかな?」と話を振ってみます。「また、変わるメリットはどうだろうか?」と質問していくと、徐々にそちらにも目を向けなければいけないことが確認できるのです。

そうして話を振ってみると、多くの場合、じつは奥さんも気づいていないわけではないことがわかってくるはずです。変化するデメリットに目が行きすぎて、危機を正しく把握できていないだけなのです。
こうした、メリット、デメリットを可視化するプロセスを経ることで、危機を正しく把握し、お互いの認識を一致させやすくなります。

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プロフィール

高野俊一
高野俊一

組織開発コンサルタント。
1978年生まれ。日本最大規模のコンサルティング会社にて組織開発に13年関わり、300名を超えるコンサルタントの中で最優秀者に贈られる「コンサルタント・オブ・ザ・イヤー」を獲得。これまでに年200回、トータル2000社を超える企業の組織開発研修の企画・講師を経験。
指導してきたビジネスリーダーは累計2万人を超える。
2012年、組織開発専門のコンサルティング会社「株式会社チームD」を設立、現代表。
2020年よりYouTubeチャンネル『タカ社長のチームD大学』を開設。2023年6月現在、チャンネル登録者約3万5000人、総再生回数380万回。
2021年より、アルファポリスサイト上にてビジネス連載「上司1年目は“仕組み”を使え!」をスタート。改題・改稿を経て、このたび出版化。
著書に『その仕事、部下に任せなさい。』(アルファポリス)がある。

著書

チームづくりの教科書

高野俊一 /
成績が振るわない。メンバーが互いに無関心で、いっさい協力し合わない。仕事を...

その仕事、部下に任せなさい。

高野俊一 /
通算100万PVオーバーを記録した、アルファポリス・ビジネスのビジネスWeb連載の...
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