迷えるオトナ女子のための自分らしさのトリセツ

「ほめられても否定してしまう…」ネガティブな自分をひっくり返す、簡単な方法

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「自分はどうしたいか」を見つけることが大事

20年以上、臨床心理士として臨床活動をしていると、「自分らしさが分からない」という人と出会うことがよくあります。相談者様の困っていること、うまくいかないことなど、たくさんお話をお伺いするのですが、きまって私は「このカウンセリングを通じて、どんな自分になりたいですか」と質問するようにしています。
悩みごとは次から次にわいてくるけれど、いざ自分がどうなりたいか、どう暮らしたいかも分からない、思い浮かばないという人がいらっしゃるからです。

つらい、苦しい、うまくいかない。その苦しさや悩みのモトが「外部」「環境」にあるととらえると、その悩みは「変えられない」ものと認識されてしまいます。
苦しい状況を改善するためには、まず「自分がどうしたいか」「自分がどのように生きたいか」を明確にする必要があります。そして、そのために「自分が」どうすればよいかを考えることが大切なのです。
それでは、自分の「こうしたい」という気持ちに気づくためには、どのように模索すればよいのでしょうか。
自分のなかにある「本心」を探すヒントは「肯定 or 否定」にあります。

あなたは、他人から「魅力的ですね」とほめられた時、心の中でどのような反応が起きるでしょうか。口では「いえいえ、そんなー!」と謙遜しながらも、内心、「相手に自分の魅力が伝わるのだな」と感じた人は、「自分が魅力的である」ということを「肯定」しています。一方で、「自分が魅力的だなんてとんでもない、相手は自分をからかっているのだ」と「否定」で反応した人は、自分のことを魅力的だとはとらえていません。

今度は、外出した時のことを思い出してみましょう。
人混みを歩いてとても疲れてしまい、人通りの少ない自然豊かな公園の中にあるカフェでお茶をした時、「一人の時間が落ち着く」と感じた人は、人混みの多い場所を「否定」して、人の少ない安心して静かに過ごせる環境を「肯定」していることになります。逆に一人でいると寂しく、誰かとつながりたいと感じる人は、頻繁に人の集まる場所に出かけるかもしれません。こうした人は、一人の時間を「否定」して、人と関わることを「肯定」しているということになります。
「自分がどのような人間なのか分からない」と言う人でも、このように、場面に応じて心の中で「肯定」や「否定」を繰り返しているのです。

「図」と「地」をひっくり返してみる

ところで、あなたは、「ルビンの壺」と呼ばれる図形を見たことがありますか? 一つの画面の中に黒地を用いた部分と白地を用いた部分があり、見え方によって「向き合った2人の顔」にも「壷」にも見えるという不思議な図形です。「壺」が図になって見える時には、周りの図形は背景として沈み、「向き合った2人の顔」を図として見た場合は、先ほどまで「壺」に見えていた部分が背景となります。

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このように、ある対象が他の対象を背景として浮き上がって認識される関係を「図と地の関係」といい、ゲシュタルト心理学の核となるとらえ方になります。ゲシュタルトとは、いくつかの要素が集まり、一つの図形のようにまとまりのある形態のことを指します。ゲシュタルト心理学は、精神や意識をゲシュタルトとしてとらえ、人間の精神を、部分や要素の集合ではなく、全体性や構造に重点を置いてとらえる心理学です。
図と地の関係は、心理療法や日常会話でも応用されていますので、取り上げてみましょう。

先ほどの例を「図と地の関係」に照らしてみると、こうです。
自分のことを「魅力的だ」と「肯定」した人は、「自分は魅力的な人間だ」という「図」を認識しています。実にシンプルですよね。逆に、「魅力的だ」を「否定」した人は、自分のことを「魅力的ではない・・・・人間」という「図」を認識しています。
それでは、自分のことを「魅力的ではない」ということを「図」として認識している人は、いったい自分のことをどのような人間だととらえているのでしょうか。「魅力的ではないけれど、いったい自分はどういう人間なのだろう」と自分のことが分からない人が、自分のことを知るためには、どうすればよいのでしょうか。

そのヒントは、「地」の方にあります。「図」ではなく「地」のほうに目を向けてみてください。「地」に着目すると、自分でも気がついていない、隠れていた「図」が浮かんでくるかもしれません。

どういうことかというと、もしかするとこの人は、自分のことを「魅力的」とは思えないけれど「個性的だね」「おもしろいね」と言われると、「確かに自分は個性的だし、おもしろいと言われた方がしっくりくる」と肯定するかもしれないということです。
「魅力的ではない」という「図」に着目している間は、「地」として隠れていた要素は背景に沈んでいるので気づかないままなのですが、「地」に視点を移して、よく目をこらしてみると「個性的」「おもしろい」という要素が「図」として浮かび上がってくるかもしれません。
不思議なことに、「個性的」「おもしろい」という要素が「図」として認識できるようになると、先ほどの「魅力的ではない」というとらえ方は、背景として「地」に沈んであまり気にならなくなる、ということが起きます。わたしはこれを「ひっくり返し大作戦」と呼んでいます。

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プロフィール

高井祐子
高井祐子

神戸心理療法センター代表。公認心理師。臨床心理士。アンガーマネジメントファシリテーター。主に認知行動療法、マインドフルネスを用いて個人心理療法をおこなう。20年のカウンセラー歴を持ち、2025年4月までに、のべ15,602名と関わる。オンラインカウンセリングでは、日本全国のみならず海外からの相談に対応、グローバルに「こころの専門家」として活動している。著書に『認知行動療法で「なりたい自分」になる』(創元社)、『「自分の感情」の整えかた・切り替えかた』(大和出版)、『ラクに生きるための「心の地図」』(ナツメ社)などがある。

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