たとえば1500万人の1%が参加しただけで15万人。単価10万円なら、データ提供だけで150億円規模の売上になる。福澤氏は静かに語る。
「製薬企業は世界にたくさんあります。最初に行う日本での展開は実質的“PoC”となり、この結果を米国の製薬会社に示せば、本格的なスケールはアメリカで起こります」
福澤氏はMSD(メルク)に27年在籍し、1999年MSDの完全子会社だったPBM(Pharmacy Benefit Manager)企業にも出向した経験を持つ。
「米国のPBMでは、処方データを膨大に集め“標準治療”を決めていた。まさにリアルワールドデータが医療を変えるのを目の当たりにした」
さらに、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の研究に触れた経験も大きかった。
「免疫は魔法のようだった。ウイルスが来ればある細胞が働き、別の病気には別の免疫が動く。これをデータ化すれば、未来の病気が読めるのではないか」
そして2020年、コロナ禍により当時行っていた医療コンサル事業が止まり、逆に構想を一気に形にする時間が生まれた。長年温めてきた「免疫×遺伝子×生活習慣の統合」という思想が、特許として結実した。
Edgewaterはビジネスとしてのスケールだけでなく、医療費削減という社会課題にも深く切り込む。
「企業の健保データは“健康すぎる”。本当に価値があるのは、65歳以上の“病気の変化が激しい層”のデータなんです」
高齢者が毎年免疫検査を受け、生活習慣データと紐づければ、病気の予測精度は飛躍的に向上する。
さらに、データ提供者にはポイント還元や年金加算など、社会的インセンティブを返す仕組みも構想している。
「医療データは社会資産になる。個人の健康が社会全体の価値になる仕組みを作りたい」
最後に、経営者・スタートアップ創業者が抱える健康課題について尋ねると、福澤氏はこう語った。
「経営者は自分が倒れれば会社が止まる。富裕層向けに、遺伝子×免疫の統合検査を郵送で受けられるサービスも開始したい。予測医療は“未来を買う”行為になる」
個人だけでなく、企業の健康経営にも応用できる可能性は広い。社員のリスク把握や、生活習慣改善プログラムとも連携し得る。
福澤氏の言葉は最後まで一貫していた。
「病気を予測できなければ、予防はできない。方法論がなかっただけで、データを集めれば予測は可能になる。あとは社会実装するだけです」
免疫・遺伝子・生活習慣データの統合──。これは、予防医療の“理想”とされながら、誰も実現できなかった領域だ。
Edgewaterのアプローチは、医療費増大、高齢化、製薬開発の非効率性という社会課題に対し、“データから医療を再デザインする”という新しい産業モデルを提示している。
そして日本で生まれたこのモデルは、1500万人が遺伝子検査を受けるアメリカ市場でさらに巨大化する可能性を秘めている。
「これは医療のGAFAMモデルになる」
病気の未来を読む技術が社会をどう変えるのか。Edgewaterの挑戦は、その第一歩にすぎない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)