●この記事のポイント
・ソフトバンクGがOpenAIへの累計投資額でマイクロソフトを上回り、世界最大のAI投資家となった。一方で株価は2カ月で約4割下落。市場はその「勝利」を評価していない。
・孫正義氏はASI(人工超知能)実現を掲げ、半導体・ロボット・データセンターまでAIの全レイヤー支配を狙う。だが、その急進的戦略は財務リスクも孕む。
・株価上昇を前提とした“錬金術”は、AI競争や市況悪化で逆回転する恐れがある。2026年は、孫正義の投資家としての真価が厳しく問われる年となる。
2025年の大晦日、世界の金融市場が静まり返るなかで、ある巨額取引が完了した。
ソフトバンクグループ(SBG)は12月31日、米OpenAIへの追加出資分225億ドル(約3兆5,000億円)の払い込みを完了したと発表。これにより、SBGの累計出資額は、これまでOpenAI最大の支援者だった米マイクロソフトを上回った。
名実ともに、SBGは世界で最もOpenAIに影響力を持つ「筆頭オーナー」となった。生成AIという21世紀最大級の技術覇権を巡る競争において、日本企業が最前線に躍り出た瞬間でもある。
だが、この歴史的ニュースに対する市場の反応は、驚くほど冷淡だった。SBG株は2025年10月から12月にかけて、わずか2カ月で約4割下落。OpenAI出資という“勝利宣言”とは裏腹に、投資家は強烈な警戒シグナルを発している。
これはなぜか。孫正義会長兼社長が掲げる「ASI(人工超知能)」という壮大な構想は、新たな黄金時代の入口なのか。それとも、資産価格上昇を前提とした“錬金術経営”が限界を迎えつつある兆候なのか。
●目次
SBGの投資スピードは、もはや「積極的」という言葉では説明できない。
2025年だけを振り返っても、その異様さは際立つ。3月、AI半導体企業アンペア・コンピューティングを65億ドルで買収。8月には苦境にあった米インテルに20億ドルを投じ、製造技術への関与を深めた。10月にはスイスABBのロボット事業を53億ドルで取得し、「フィジカルAI」分野へ本格参入。さらに12月末、米デジタルブリッジ・グループを約4,500億円で買収すると発表した。
半導体(頭脳)、ロボット(身体)、データセンターや光ファイバー網(血管・神経)。SBGはAIが稼働するために必要なインフラの全レイヤーを垂直統合的に押さえにいっている。
IT分野に精通する証券アナリストはこう分析する。
「これは単なるAI投資ではありません。どのAIが勝っても“通行料”を取れる位置を取りに行く戦略です。かつてのVC的分散投資とは、明確に質が変わっています」(国内証券アナリスト)
この異常ともいえるスピード感の背景には、孫正義氏特有の強烈な危機意識がある。
近年の講演で孫氏は、ASIを「人類史上最大の進化」と位置づけ、「AIを使わない人間は、人間から見た金魚のような存在になる」とまで語っている。これは比喩というより、彼自身の世界観に近い。
かつて孫氏は「群戦略」を掲げ、勝者が読めない技術分野に広く投資してきた。しかし現在は、勝敗以前に“AI社会の前提条件”を握る方向へ舵を切っている。