「この事例は、現時点のAIが持つ限界を象徴しています」と戦略コンサルタントの高野輝氏は解説する。
「エッジケース――たとえば似たような商品の取り違えや、複数人が同時に棚を操作するシーン――に対してAIが高い精度で対応するためには、依然として膨大な学習データと人的な検証が欠かせない。コンピュータービジョンの進化は著しいが、完全無人での商業運用には、まだ相応のコストがかかるのが現実です」
Grabango(競合の無人決済技術プロバイダー)のCEO、Will Glaser氏は「アマゾンが設計した『センサーフュージョン』システムは、コストと精度の面で課題があった。小売向けAIの可能性は十分あるが、Just Walk Outに関しては導入・運用コストが法外に高いことが根本的な問題だった」と指摘する。さらに「棚に設置されたセンサーは数千の単一障害点を生み出し、毎週メンテナンスのために停止させる必要があった」とも述べた。
「無人店舗のウォークスルー型は、初期導入費用だけで数千万円、月次ランニングコストも相当な規模になります。通常の有人店舗と比べて圧倒的に低い売上規模の小型店では、コストの回収が構造的に難しい。アマゾンのケースも、技術の未熟さよりも経済合理性の問題として捉えるべきでしょう」(同)
無人化の経済的な問題と並んで、顧客体験の問題も深刻だった。有人店舗であれば、バーコードの読み取りエラーやトラブルは店員が即座に対応できる。しかし無人店舗では、そうした「小さな摩擦」が解決できないまま顧客の不満として積み重なる。
酒類・たばこの年齢確認については、多くの国・地域で店員による目視確認が法的に義務付けられており、完全自動化の大きな障壁となっている。また、高齢者やスマートフォン操作に不慣れな層にとっての利用障壁も、社会的包摂の観点から無視できない課題だ。
中国では同様の試みであるウォークスルー型無人コンビニ「BingoBox」が一時400店舗まで拡大したが、「本当に会計できているのか不安」という消費者の心理的不安が利用率の伸びを抑制し、急速に縮小した事例がある。無人決済への信頼感の醸成には、時間と実績の積み重ねが不可欠なのだ。
翻って日本国内の動向を見ると、大手コンビニ各社の選択はより現実主義的だ。ファミリーマートはオフィスビルや医療施設など閉じた商圏を対象とした無人決済店舗の展開を進める一方、ローソンは深夜帯の省人化実験において、売り場を無人にしながらもバックヤードに最低1名のスタッフを常駐させるハイブリッド運営を採用している。また、アバターを通じた遠隔接客(「AVACOM」)を活用し、一人のオペレーターが複数店舗を遠隔サポートするモデルも実証が進んでいる。
これらに共通するのは、「完全無人化」ではなく「省人化」という発想だ。人を完全に排除することではなく、ITによって一人の人間が担える仕事の範囲を広げることを目指している。
「日本のコンビニが慎重な姿勢を保っているのは、単なる保守性ではありません」とある小売研究者は指摘する。
「おでんや揚げ物、宅配業務、住民票交付など、コンビニが担う多様な機能の多くは、人の手と判断なしには成立しない。その現実を踏まえれば、『完全無人化』が目指すべきゴールではないことは明らかです」(同)
ただし、Amazon Goの10年間を「失敗」の一語で括るのは正確ではない。アマゾン自身は閉鎖発表の中で、Amazon Goを「Just Walk Out技術を開発したイノベーションハブ」と位置づけ、同技術は現在、病院やスポーツアリーナを含む世界5カ国360以上のサードパーティ拠点で稼働していると説明した。