
●この記事のポイント
楽天が無償提供を開始した「Rakuten AI」を、ChatGPT・Gemini・Claudeと比較。DeepSeek系モデルを基盤に日本語データで最適化し、高速・低コスト・業務適合性を強みとする。AIを収益源ではなく経済圏強化のインフラと位置づけ、年間100億円規模の利益改善を実現する戦略の本質を分析。
楽天グループが自社開発の大規模言語モデル(LLM)「Rakuten AI」を、法人・個人向けに広く展開する方針を打ち出した。OpenAIの「ChatGPT」やグーグルの「Gemini」、アンソロピックの「Claude」といったグローバルメガテックが、月額20ドル前後のサブスクリプションモデルやAPI従量課金を収益の柱に据えるなか、楽天の「無料(あるいは極めて低コスト)での開放」という戦略は、一見すると異質に映る。
しかし、この動きを単なる「後発による価格破壊」と捉えるのは早計だ。ここで問うべきは、単純なベンチマークスコアの優劣ではない。「なぜ楽天は無料で提供できるのか」、そして「そのAIはビジネスの現場で『武器』になるのか」――。この2点にこそ、生成AIブームが「熱狂」から「実務」へと移行するなかでの、本質的な競争環境の変化が表れている。
結論から言えば、Rakuten AIは世界最強の汎用モデルを目指してはいない。だが、日本国内のビジネスシーンにおいて「最もコストパフォーマンスに優れた現実解」という独自のポジションを射止めようとしている。
●目次
Rakuten AIは、完全なゼロからの開発(フルスクラッチ)ではなく、オープンソースの基盤モデルをベースに、楽天が保有する膨大な日本語資産を用いて追加学習(ファインチューニング)を施したモデルだ。
一部では、中国のDeepSeekなどの高性能なオープンモデルを土台にしているとの指摘もある。これに対し「中身は借り物ではないか」という批判的な声も散見されるが、専門家の見方は異なる。ITジャーナリストの小平貴裕氏はこう指摘する。
「現在のLLM開発は、モデルの巨大さを競うフェーズから、特定のドメイン(領域)や言語にいかに最適化するかという『垂直統合』の段階へ移行しています。楽天のアプローチは、技術的な虚栄心よりも、日本のビジネス現場での“実用性”に冷徹なまでに軸足を置いたものです」
事実、Rakuten AIには以下の3つの明確な強みがある。
1. 日本語特化のコンテキスト理解
グローバルモデルは英語圏の膨大なデータで学習されているため、日本語の敬語表現やビジネス特有の言い回しにおいて、どこか「翻訳調」の違和感が残ることがある。対して楽天は、国内最大級のECサイト「楽天市場」や「楽天証券」「楽天カード」といった多岐にわたるサービスを通じ、日本人の購買行動や問い合わせの文脈をデータとして蓄積してきた。これが、自然で、かつ日本の商習慣に即した回答精度に直結している。
2. 推論速度と計算効率の最適化
Rakuten AIは、パラメータ数を絞った軽量なモデル設計を採用している。これにより、巨大なモデルが抱える「回答までのタイムラグ」という弱点を克服した。企業にAI導入支援を手がける立場から小平氏はこう評価する。
「企業がAIを基幹業務に組み込む際、ボトルネックになるのは『100点満点の回答』ではなく『80点の回答をいかに低遅延・低コストで返せるか』です。1回のプロンプトに数十秒かかるAIでは、カスタマーサポートのチャットには使えません。楽天はその『現場の肌感覚』を優先しています」