家庭生活には困難が付き物です。家事はいくらやっても終わらない。育児は時間を奪っていく。保育園の送迎、子どもの体調不良、地域の行事にも参加しなくてはいけない。言うまでもなく仕事は忙しい。そして気づけば、家の空気がずっと張りつめているような状態になっている。
こんなときに話し合いをすると、必ずこじれます。
「そんな言い方しなくてもよくない?」
「手伝うって言ったよね?」
「こっちだって仕事してるんだけど」
家族のためを思って始めた話し合いなのに、気づくとひどい言い争いになっている。例にあげたセリフ、奥さんから言われたことがある方も多いのではないでしょうか。言ってしまったことがある人も多いかもしれません。
なぜ、夫婦の話し合いはケンカになってしまうのでしょうか。
よく言われるのは、言い方の問題。夫としては気をつけたいところですが……、とはいえ、言い方を優しくしたくらいで奥さんの怒りが収まらないことは、皆さんもご存じでしょう。
また、家事の負担がかたよっていることもケンカの原因としてよくあげられます。しかし、人には得意不得意があるため、負担を平等に分けるのは難しいものです。
では、どうすれば、夫婦で話し合えるようになるのでしょうか。
次のようなシチュエーションを想像してみてください。
あなたは在宅勤務で仕事中。奥さんは1歳の子どもの対応で手一杯。泣き声は止まらず、家事が滞っている。奥さんの子どもをあやす声が荒くなる。そこであなたは書斎から出て、「手伝ってほしいなら、口で言ってくれ」と言う。それから家事の分担についての話し合いになるが、奥さんは声を荒らげてあなたへの不満を言いつのる。「悪いのはいつも私」「大変さをわかってくれない」「いつもバカにしてる」、いわゆるヒステリックな瞬間が起きる。
こうした場合は、多くの男性はこう思います。「そんなに怒鳴らなくてもいいだろ」「手伝うって言ってるのに」「言い方がきつい」。そうして、騒ぎたてる奥さんを黙らせる方向に舵を切ってしまうのですが……、だいたい失敗します。
話し合いたい相手が怒っているときは、まずは怒りの感情に寄り添うことが大事です。
多くの場合、怒っている相手がしてほしいのは「自分への理解」です。シチュエーションのケースであれば、まずは「それは本当にきついよね」と、奥さんに寄り添ったほうがいいでしょう。
そうして話し合うための下地をつくったうえで、夫婦で納得のいく合意形成をすべく、話していきましょう。
改めて、夫婦の話し合いがこじれる構造をていねいに見てみましょう。
夫婦に限らず、多くの話し合いや交渉がこじれる最大の原因は、要求する側が「MUST(~すべき)」から始めているためです。とくに家庭内の話し合いが崩れる典型はほぼこれだと言って問題ないでしょう。家族は距離が近いため、いろいろな説明を省いて「MUST(~すべき)」を押しつけてしまうのです。
たとえば、以下のような「MUST(~すべき)」を夫婦は互いにぶけてしまいがちです。
「もっと家事を分担すべき」
「もっと効率よくやるべき」
「ちゃんと準備すべき」
「もっと落ち着くべき」
正論です。でも、正論は刺さります。そして刺さった瞬間、相手は心のトビラを閉じて「防御」に入ります。すると議論は、目的の共有ではなく、責任追及の戦いになってしまうのです。そうなってしまっては話し合いは進まず、協力関係は築けません。
では、どうしたらいいのでしょうか。変えるべきは、内容ではなく順番です。相手に何かをお願いしたいときは、次の順番で話すようにしましょう。
①WANT(~したい)
②CAN(~できる)
③CANNOT(~できない)
④NEVER(絶対に避けたい)
⑤MUST(~すべき)
この順番は、人が合意形成できる心理的な流れに沿っているため、話し合いがうまくいきやすいのです。繰り返しになりますが、もっとも重要なコツは、相手に何かを強くしててもらいたいと思っていても、どんなに自分が正しくても、「MUST(~すべき)」から始めないこと。それぞれのステップを解説していきます。
何かをお願いしたいとき、導入で自分と相手の「WANT(~したい)」をすり合わせることができると、さらなる合意形成が得やすくなります。
たとえば先にあげた例のように、奥さんに怒るのをやめるように言いたい場合、「いつも育児、大変だよね? もう少し楽ができる方法を一緒に考えてみない?」といったように、「YES」と言うしかないような合意形成を取るのがベストです。
逆に、理想でかためた「WANT(~したい)」を強要すると失敗しやすいです。「夫婦仲良くしよう」「互いに尊敬し合おう」「最高の家族を目指そう」といった理想論の「WANT(~したい)」は疲れている相手には届きません。
多くの夫婦で、相手に響きやすい「WANT(~したい)」はだいたい次のとおりです。
「家事の負担、もっと楽にしたいね」
「のんびりできる時間、つくりたいね」
「子どもがよく笑う毎日になったら嬉しいよね」
こうした質問であれば合意が取りやすいでしょう。自分が奥さんにやってもらいたいことであっても、奥さんにとっての利己目標(直接メリット)になっていることが重要です。奥さんにとって、現実的で、少しでもワクワクする未来の話をするのです。
また、気をつけるべきは「お前が悪い」をいっさい入れないこと。相手を非難する気持ちがあったとしても、攻撃性を完全にゼロしないと、相手は聞き入れてくれません。