婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊

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第三部 世界と対立

第20話 不穏な兆し

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王都の政務室には、午前の陽光さえ沈むような重い空気が漂っていた。

「……辺境領の報告書です。聖女エリシアによる浄化が順調に進行。鉱山も稼働し、商人の往来が急激に増加しています」

重臣が読み上げると、周囲の視線が一斉に鋭くなる。

「瘴気の地が、数週間で“安全圏”とはな……」
「聖女が本気を出せば、国の計算など容易に覆るということだ」

ため息がいくつも漏れた。

「勇者も一緒だろう? 民が集まり始めていると聞く。――反乱の芽に十分な要素だ」

「聖女が力を蓄えているのではないか」
「教会の管理下を離れた以上、誰にも制御できん」

怯えと焦燥が混ざった声が次々と飛び交う。

その瞬間、教会上層の司祭が机を指で叩いた。

「彼女は『魔王を倒した聖女』です。英雄は、王権にとって脅威となり得る。油断は禁物でしょう」

静かに告げたその言葉が、部屋全体を冷やした。



同じ頃、隣国アルヴェル王国でも状況は深刻だった。

「レオンが辺境で活動している。しかも聖女と共にか」

「弟は……“勇者”になった瞬間から危険だった。だから討伐へ送り出したのだ」

「戻ってきた以上、これ以上目立たせるわけにはいかぬ」

兄王子たちは苛立ちを隠さない。

「領地を持つ勇者と聖女。
そんなもの、小国一つと変わらぬ」

重臣のその一言が、会議をさらに重くした。



そして、伯爵家。

ドレスの裾を整えていた妹リュシアは、侍女の報告を聞いて不機嫌さを隠さなかった。

「また姉さまの話?」

「は、はい。辺境が急速に発展しているとのことで……」

リュシアは鏡越しに自分の表情を確認しながら、小さく吐息をついた。

「小さい頃から、あの人は何でも出来たのよ。
勉強も魔法も礼儀も、全部。
私は必死に追いかけても届かなくて……その度に隣で笑ってくれた」

優しい笑顔。
それが、ずっと重荷だった。

「婚約者も家の評価も手に入れて、王家からも称えられて……。なのに全部捨てて、“今度は領地”?」

声が震える。

「どうして、いつだって姉さまは輝くの。私の方がふさわしいのに……」

嫉妬が胸を刺し、悔しさが込み上げる。

侍女が恐る恐る口を開いた。

「聖女様は反乱など、お考えではないかと……」

「そんなわけない!」
リュシアは勢いよく振り返った。

「強い人は、いつか全部持っていくの。
あの人は、そういう人よ」


こうして王都、隣国、伯爵家――
まったく違う場所で、同じ噂が育っていた。

“聖女エリシアと勇者レオンは、力を蓄えている。”

その言葉は恐怖となり、
恐怖は妄想を呼び、
妄想は――排除の火種へと変わっていく。

世界は静かに、不穏へ進み始めていた。
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