【完結】悪役令嬢アナスタシアは破滅を嗤う

藤原遊

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第一部 聖女セラフィーナと幸福の罠

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 「アナスタシア様、お久しぶりですわ!」

 弾けるような明るさで、セラフィーナが立ち上がった。
 相変わらず絵に描いたような完璧さだ。

 ふわりと揺れる薄桃色のドレス。金色の髪は柔らかなウェーブを描き、宝石のように輝く翡翠の瞳が真っ直ぐこちらを見つめている。
 まったく、神の加護というのは手加減というものを知らないらしい。

「ごきげんよう、セラフィーナ様。お変わりなくお過ごしのようで何よりですわ」

 私は微笑を返す。表情は穏やかに、声色は丁寧に。こういう挨拶は、もう何度も繰り返してきた。
 内心では、いつものように思っている。

 ――まったくもって隙がないわね。

 この手のヒロインにありがちな、少し天然でドジっ子な場面だとか、嫉妬に揺れる不安定な表情だとか、そういう要素は彼女には存在しない。
 優しく、朗らかで、誰に対しても分け隔てなく微笑む。周囲の貴族たちは彼女の一挙手一投足にうっとりとした顔を向けている。
 これが“聖女”。まさに、そういうキャラクターだ。

 私が彼女に嫉妬しているとでも思っているのかしら。
 違うわよ。むしろ、その徹底ぶりに軽く感心してるくらいよ。

 けれど、私の役目はここからだったはずだ。
 本来ならここで私は、彼女に皮肉のひとつも言い放ち、周囲の男たちの怒りを買い、破滅の道が始まる。
 それが、筋書き通りの流れ。

 ……の、はずだった。

「実は、アナスタシア様にぜひご挨拶を申し上げたくて。本当にお会いできて嬉しいんです!」

 セラフィーナは、わざわざ私の手を取ってきた。
 柔らかな手のひらが触れる。
 きらきらした笑顔。まるで私が友人でもあるかのように。

「まあ……それは光栄ですわ」

 私は自動的に微笑んだ。けれど内心では、思わず目を細めたくなった。
 ……何なの、この新展開?

 王太子だけじゃなく、聖女までが妙に好意的に絡んでくるなんて、聞いてない。
 私の記憶しているシナリオとは完全に違う流れに突入している。

 隣で王太子ユリウスが優雅に微笑みながら言葉を添えた。

「アナスタシア、君とセラフィーナはすぐに打ち解けられるだろうと思っていたよ」

 だから、それ、原作であなたが言う台詞じゃないから。
 私は心の中でそっと突っ込む。

 ……いや、まあ、いいわ。
 筋書きが崩れたのなら、それはそれで。
 私の破滅が遅れるだけ。
 いずれどこかで、予定通り破滅は訪れるはず。

 ――たぶん、ね。
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