【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい

文字の大きさ
18 / 57

(18)帝国の庭での出会い

しおりを挟む
翌朝、アリシアは宮廷の庭園を歩きながら、少し恥ずかしさを感じていた。

昨晩の晩餐会がまだ心の中に残っており、特にあの無表情の皇帝、カイゼルとのやり取りが思い出されて顔が熱くなる。

彼が自分をどう思っているのか、未だにさっぱりわからない。

そう思いながらも、広大な庭園の美しさにすっかり心を奪われていた。

色とりどりの花々が風に揺れ、大理石の噴水がきらきらと光っている。

遠くの方では宮廷の鷹匠が鷹を飛ばしているのが見え、アリシアはその姿にも感嘆の声を漏らした。

「ふわぁ……広すぎて、どこがどこだか……」

彼女は呆れたように自分に言い聞かせるが、実際にはどこから歩き始めたのかすら覚えていない。

この庭園、確かに広すぎる。

迷子になって当然だろう、と心の中で少し笑っていた。

その時、背後から唐突に低い声が響いてきた。

「お前、迷ったのか?」

アリシアは思わずギクリとして振り返った。

そこには、無表情のカイゼルが立っていた。

彼がこんな場所にいるとは予想していなかったアリシアは、一瞬パニックになりながらも、慌てて言葉を口にした。

「い、いえ、迷ってなんかないです!ただ……ちょっと歩いていただけで!」  

「迷ったと言え。」  

「だから、迷ってないですって!」  

カイゼルは少し首をかしげて、無表情を崩さずに彼女を見つめている。

けれど、その微妙な仕草に、どこか困惑しているような気配を感じたアリシアは、心の中で少しだけ勝った気がした。

「なら、なぜ同じ場所を三度も回っている。」  

「……それは、道を覚えようとしてただけです!」  

自信満々に答えたものの、実際には完全に迷子になっていたアリシア。

カイゼルは一瞬、目を細め――その目が笑みを含んでいるのかどうかはわからなかったが、何かしらの反応を示した。

その後、彼は近くのベンチを指差した。

「ここに座れ。」  

「えっ?」  

「休め。迷子は疲れる。」  

カイゼルに言われるまま、アリシアは仕方なくベンチに腰を下ろした。

すると、カイゼルはどこからか小さな木箱を取り出し、彼女の前にそっと置いた。

その様子にアリシアは驚きの表情を浮かべた。

「これを食べろ。」  

木箱の中には、素朴な焼き菓子が入っていた。

豪華な宮廷で目にするような、煌びやかな料理とは程遠いシンプルな菓子に、アリシアはしばし言葉を失った。

「これ……陛下が?」  

「いや、宮廷の老女が焼いた。余が毎朝食べているものだ。」  

「陛下って、こんな地味なものを食べてるんですか?」  

驚くアリシアに、カイゼルはいつものように淡々と答えた。

「豪華な料理は好きではない。味が複雑すぎる。」  

「へえ……意外です。」  

アリシアは一つ、菓子を口に運んだ。

その素朴な甘さとほんのり香ばしさが広がり、思わず懐かしい気持ちになった。

こんな素朴な味が、どこか心を温かくさせる。

「美味しい……!」  

「そうだろう。」  

カイゼルの表情に少し誇らしげなものを見たアリシアは、思わず笑みを浮かべてしまった。

こんな無表情な彼でも、こうしてほんの少しだけ嬉しそうに見えると、なんだか自分まで嬉しくなってしまう。

「陛下がこういうお茶目なところを見せるなんて、誰も信じませんよ。」
  
「余はお茶目ではない。」  

「いえ、十分お茶目です!」  

アリシアが軽口を叩くと、カイゼルは無表情なまま少しだけ眉をひそめたが、それでもどこかとんでもなく微妙な変化があった。

もしかしたら、彼が本当に無表情だと思っているのは自分だけかもしれない。彼の中に、こんな温かさが隠れていたなんて、とアリシアは思わず胸が高鳴る。

「……でも、こんな風に普通に話せるのも、なんだか新鮮ですね。」  

アリシアは小さな声で言って、カイゼルをちらりと見る。

その視線を感じたカイゼルは、少しだけ肩をすくめるような仕草を見せた。

「普通に話す?余は最初から普通に話している。」  

「それはそうなんですけどね…」  

アリシアはくすっと笑いながら、再びカイゼルの顔を見た。

無表情の中にも、ほんのわずかな柔らかさを感じる自分が不思議だ。

もしかしたら、この庭園のように、彼の心にもまだ知られていない美しさが隠れているのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

処理中です...