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剣術大会
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だから嫌だったんだ。
「ノア!ノア~」
父さんはいつものように俺を抱き上げて頬擦りしてくる。もう十三になるって言うのに、いつまでも子ども扱い。
だが今日は、我慢だ。
「そんなに父さんに会いたかったのか?」
いや、全く。
頬擦りされ、顔中に口付けされ、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。されるがままに、耐えるしかない。
…我慢だ。
「ノア、ほら父さんにも。」
俺の口元に頬を擦り寄せてくる…
部屋の隅に控えているユリウスに助けを求めようとしたが、ユリウスは見て見ぬふりをしたままだ。
くそ。
…がま、ん、がま…
「うわあああ!やっぱり、無理!離せ!離せってば!」
「はは。相変わらずノアは口が悪いなあ。一応は王族なんだよ。」
「うるさい!無理なもんは無理なんだよ!いいから早く離せ!」
「会いたいと言ってきたのはノアなのに。」
「ユリウス、助けろ!」
なんとか父さんを押し退け、ユリウスの背後に逃げ込んで隠れる。
「しょうのない子だなあ。本当に可愛くてしょうがないよ。」
そういいながら、せっかく片付けた本を蹴散らし、どかっと椅子に腰をおろす。
せっかくユリウスと片付けたのに。
「ふうん。ユリウスとはうまくやっているようじゃないか。嫉妬しちゃうなあ。」
ユリウスを通して俺を見てくるその眼、父さんのあの眼が苦手だ。
べたべた触ってくるのも嫌だが、俺を捕らえて離そうとしないあの目つきが本当に嫌だ。
俺も同じ色なんだけど。
「何言ってんだよ、勝手にユリウスを護衛に決めたのは父さんとルドルフだ。ユリウスしかいないんだから、うまくやるしかないだろ。」
「そうだね。でも少し後悔してるよ。ここに来る時にナターシャに会ってね、ナターシャから聞いた話しは本当なのかな。なあ、ユリウス、どうなんだ?」
ユリウスの背中から緊張が伝わってくる。
「ユリウスは何も言ってない。母様に頼んだのは俺だから。」
父さんがユリウスを見る目は笑っていない。口元だけが笑っている。
「ずっとユリウスの後ろにいるつもりか?ノア、ここにおいで。」
俺はまだ、本気で父さんに逆らうことができない。
「…ユリウス、ごめんな。俺が何とかするから。なんも言わなくていいからな。」
騎士服の袖口をくっと引っ張り、少し屈んでくれたその耳元に囁くと、ユリウスは少しだけ首を左右に振った。
「…ノア様、」
「剣術大会、絶対参加させてやるからな。」
「………」
仕切り直しだ。
ユリウスの背後から仕方なく父さんの元まで行き隣りに座る。そこじゃない、ここにと膝上に乗せられる。
うーん。すごく、嫌だ。
「ユリウスを剣術大会に出してくれ。前回優勝してるんだろ。それに、ユリウスは本当に凄いんだ!俺も観に行きたい。」
今度は何度も頭を撫でられ、髪を掬い上げられている。
「少し髪を切ってもらったんだね。それに今日はちゃんと下も履いている。わたしといる時は履いていない方がいいな。」
おい、人の話しをちゃんと聞けよ。
「この間切ってもらった。ユリウスに剣の稽古をつけてもらっているから、ちゃんと下も履いている。だから、いい?」
「だめだよ。」
「はあ?なんで!!!」
「まだ時期尚早だ。」
「意味がわかんない。」
「それに、ユリウスにはノアを護衛する仕事がある。」
「俺も観に行けばいいだろ!」
「だめだ。」
「じゃあいいよ!だったら、ユリウスだけでも参加させてくれ。その日は一人でもちゃんと大人しくしているから。」
ユリウスは参加しなくてもいいと言っていたけど、勿体ない。
あんなに凄くて前回だって優勝しているのに、俺の護衛なんかになったせいでその機会を逃すなんて俺の気が許さない。
めちゃくちゃ観に行きたかったけど、一妃が口添えしても駄目だったんだろう。
今回はユリウスの剣術大会の方が優先だ。
「ほう。自分のことよりユリウスのことを優先するのか。少し大人になったんだな。」
「だって、しょうがないだろ。」
「…父さんの言うことを何でも聞けるか?」
「あ?急になんだよ。」
父さんは何を考えているのか、急に黙り込んでしまった。
頭を撫でる仕草はそのままなので、早く終わらないかなと思う。
しんとした部屋の中で、ぽっぽっ、と以前作ったからくり時計が鳴り出した。適当に作ったので、鳴る時間も適当だ。時計の役割は果たしていない。
ユリウスに視線を移すと、また少しだけ首を横に振って、王が話し始めるのをしゃんと待ち続けている。
「わかったよ、ノア。ユリウスを参加させよう。確かにユリウスがいないと、つまらないからね。」
え?
思わず顔をあげると、父さんがまた額に口付けしてくる。
いや、だから、そういうのは、いらない。
「その代わり条件があるよ。それはナターシャに伝えておこう。せっかくここまで来たから、今晩はナターシャの元で過ごして帰ろうかな。」
条件が何なのかさっぱり分からないが、とりあえずユリウスの参加は決定だ。
父さんがここに来るとなぜか母様たちがぐったりとしてしまうので、あまり虐めるなと言うと大笑いされた。
部屋を出て行く際、父さんはユリウスに何か声を掛けていたようだが、俺には聞こえて来なかった。
承知しておりますと言う、ユリウスの返事だけがはっきりと耳に聞こえていた。
「ノア!ノア~」
父さんはいつものように俺を抱き上げて頬擦りしてくる。もう十三になるって言うのに、いつまでも子ども扱い。
だが今日は、我慢だ。
「そんなに父さんに会いたかったのか?」
いや、全く。
頬擦りされ、顔中に口付けされ、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。されるがままに、耐えるしかない。
…我慢だ。
「ノア、ほら父さんにも。」
俺の口元に頬を擦り寄せてくる…
部屋の隅に控えているユリウスに助けを求めようとしたが、ユリウスは見て見ぬふりをしたままだ。
くそ。
…がま、ん、がま…
「うわあああ!やっぱり、無理!離せ!離せってば!」
「はは。相変わらずノアは口が悪いなあ。一応は王族なんだよ。」
「うるさい!無理なもんは無理なんだよ!いいから早く離せ!」
「会いたいと言ってきたのはノアなのに。」
「ユリウス、助けろ!」
なんとか父さんを押し退け、ユリウスの背後に逃げ込んで隠れる。
「しょうのない子だなあ。本当に可愛くてしょうがないよ。」
そういいながら、せっかく片付けた本を蹴散らし、どかっと椅子に腰をおろす。
せっかくユリウスと片付けたのに。
「ふうん。ユリウスとはうまくやっているようじゃないか。嫉妬しちゃうなあ。」
ユリウスを通して俺を見てくるその眼、父さんのあの眼が苦手だ。
べたべた触ってくるのも嫌だが、俺を捕らえて離そうとしないあの目つきが本当に嫌だ。
俺も同じ色なんだけど。
「何言ってんだよ、勝手にユリウスを護衛に決めたのは父さんとルドルフだ。ユリウスしかいないんだから、うまくやるしかないだろ。」
「そうだね。でも少し後悔してるよ。ここに来る時にナターシャに会ってね、ナターシャから聞いた話しは本当なのかな。なあ、ユリウス、どうなんだ?」
ユリウスの背中から緊張が伝わってくる。
「ユリウスは何も言ってない。母様に頼んだのは俺だから。」
父さんがユリウスを見る目は笑っていない。口元だけが笑っている。
「ずっとユリウスの後ろにいるつもりか?ノア、ここにおいで。」
俺はまだ、本気で父さんに逆らうことができない。
「…ユリウス、ごめんな。俺が何とかするから。なんも言わなくていいからな。」
騎士服の袖口をくっと引っ張り、少し屈んでくれたその耳元に囁くと、ユリウスは少しだけ首を左右に振った。
「…ノア様、」
「剣術大会、絶対参加させてやるからな。」
「………」
仕切り直しだ。
ユリウスの背後から仕方なく父さんの元まで行き隣りに座る。そこじゃない、ここにと膝上に乗せられる。
うーん。すごく、嫌だ。
「ユリウスを剣術大会に出してくれ。前回優勝してるんだろ。それに、ユリウスは本当に凄いんだ!俺も観に行きたい。」
今度は何度も頭を撫でられ、髪を掬い上げられている。
「少し髪を切ってもらったんだね。それに今日はちゃんと下も履いている。わたしといる時は履いていない方がいいな。」
おい、人の話しをちゃんと聞けよ。
「この間切ってもらった。ユリウスに剣の稽古をつけてもらっているから、ちゃんと下も履いている。だから、いい?」
「だめだよ。」
「はあ?なんで!!!」
「まだ時期尚早だ。」
「意味がわかんない。」
「それに、ユリウスにはノアを護衛する仕事がある。」
「俺も観に行けばいいだろ!」
「だめだ。」
「じゃあいいよ!だったら、ユリウスだけでも参加させてくれ。その日は一人でもちゃんと大人しくしているから。」
ユリウスは参加しなくてもいいと言っていたけど、勿体ない。
あんなに凄くて前回だって優勝しているのに、俺の護衛なんかになったせいでその機会を逃すなんて俺の気が許さない。
めちゃくちゃ観に行きたかったけど、一妃が口添えしても駄目だったんだろう。
今回はユリウスの剣術大会の方が優先だ。
「ほう。自分のことよりユリウスのことを優先するのか。少し大人になったんだな。」
「だって、しょうがないだろ。」
「…父さんの言うことを何でも聞けるか?」
「あ?急になんだよ。」
父さんは何を考えているのか、急に黙り込んでしまった。
頭を撫でる仕草はそのままなので、早く終わらないかなと思う。
しんとした部屋の中で、ぽっぽっ、と以前作ったからくり時計が鳴り出した。適当に作ったので、鳴る時間も適当だ。時計の役割は果たしていない。
ユリウスに視線を移すと、また少しだけ首を横に振って、王が話し始めるのをしゃんと待ち続けている。
「わかったよ、ノア。ユリウスを参加させよう。確かにユリウスがいないと、つまらないからね。」
え?
思わず顔をあげると、父さんがまた額に口付けしてくる。
いや、だから、そういうのは、いらない。
「その代わり条件があるよ。それはナターシャに伝えておこう。せっかくここまで来たから、今晩はナターシャの元で過ごして帰ろうかな。」
条件が何なのかさっぱり分からないが、とりあえずユリウスの参加は決定だ。
父さんがここに来るとなぜか母様たちがぐったりとしてしまうので、あまり虐めるなと言うと大笑いされた。
部屋を出て行く際、父さんはユリウスに何か声を掛けていたようだが、俺には聞こえて来なかった。
承知しておりますと言う、ユリウスの返事だけがはっきりと耳に聞こえていた。
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