秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

文字の大きさ
14 / 102
剣術大会

13

しおりを挟む
「なあ、今日も見せてくれるか?」

「それは構いませんが、それほど剣にご興味があるのでしたら、少しだけ手解きいたしましょうか?」

なんと!

ユリウスの剣捌きは見事だった。あの日から毎日それを見るのが日課になり、楽しみの一つになっている。

見ているだけで充分満足だったが、まさか俺が剣を…!

「やる!やりたい!いいのか!」

「では後ほど練習用の剣をお持ちしましょう。」

魔物を倒せるまで強くなったら、一人でも冒険の旅に行けるのでは?勇者なんて呼ばれるようになったら、ちょっと、どうする?

「ノア様、スープが溢れています。」

「…え?」

「口元にも。」

ユリウスが溢れたスープと、俺の口元をさっと拭いてくれた。

「おう、ありがと。」

「いいえ。」

いい感じだ。初めは遠慮がちだったユリウスも、やっと俺との食事に慣れてきたようだ。




「では始めましょう。まずは、基本の持ち方と姿勢です。」

ユリウスが用意してくれた短い剣を持ち、ユリウスの真似をする。

俺もユリウスのように長い剣が良かったが、重過ぎて片手で持ち上げることさえ出来なかった。

ユリウス恐るべし。

「…こうか?」

「いえ、身体がぶれております。もっと姿勢を正して下さい。」

剣どころか、姿勢から注意された。

「こ、こう?」

「いいえ。」

「こう?」

「いいえ。」

ああ、くそ!

「ノア様は少々猫背ぎみなのです。そこから正して行きましょう。」

「えええ。そんなのいいから、剣を振りたい。」

「初めに変な癖がつくとなかなか直りづらいのです。基本が大切です。」

「ちっ。」

「ノア様、舌打ちはおやめ下さい。」

頭上からはくすくすと笑い声が聞こえてくる。

ここは中庭だ。ぐるりと取り囲む部屋の窓から、何人かの妃が俺を見下ろして笑っている。

「まさかノアも剣術大会に出るつもり?」

うるさい。無視だ。無視。

俺だってやればできるんだから。

毎日見ていたユリウスの姿を思い浮かべ、ぶんと剣を振り回す。

イメージ通りじゃないか!

ほら!って、あれ?

「ノア様!」

そのままころんと、転んだ。

同じようにやったつもりだったのに。

天を仰げば、驚いた顔をして俺を見下ろす妃たちの顔が見える。

「まだノア様に剣は早かったかもしれません。まずは、体幹を鍛えるところから始めましょう。」

ユリウスが服についた土を払って起こしてくれるが、なんとも恥ずかしい。

くすくすとした笑い声が、また大きくなる。

「ほら、ちゃんとユリウスの言う事を聞かないから。」

「ユリウスに直接教えてもらえるなんて、なかなかないことなのよう。」

「体幹…いつになったら剣を振れるようになるかしら…」

ああもう、うるさい!

「今日はもうやめる!勝手に見るなよ!稽古中なのに!」

と言ったら、また笑われた。

くそ、なんなんだ。

こんなんじゃ集中できない。とりあえず部屋に戻ろう。立てかけられたままの梯子を登り始めると、笑いを堪える一妃が見えた。

「…ユリウスは大会に出られるんだよな?」

「どうかの?まだわからん。」

「父さんを呼んで。俺から頼むから。」

「よかろう。ノアに呼ばれていると知れば、すぐに駆けつけてくるだろう。」

「本当は呼びたくないけど。」

「ふっ。そんな顔をするな。」

余程嫌そうな顔をしていたのかもしれない。父さんは、なんていうか、少し苦手だ。

「じゃあ、頼んだよ母様。」

「お前も、に励めよ。」

なんで、稽古を強調するんだ?

ぷっと吹き出す一妃を横目に、部屋まで一気に梯子を登り切ると、ばんと窓を閉めてやった。

「…ノア様、わたしが余計な申し出をしたばかりに。もうお辞めになりますか。」

部屋に戻ってきたユリウスは申し訳なさそうな顔をしていた。

とんでもない。

母様たちがうるさいだけだ。

「いいや、ここでもう少し特訓してから中庭に出よう。絶対に驚かせてやる!」

「ここで、ですか?」

ユリウスが戸惑うのも無理はない。

部屋の中は雑然としていて、足の踏み場もないからな。

まずは部屋を片付けて、特訓するスペースを確保せねば。

床上に散乱した本を片付け始めると、ユリウスも手伝ってくれた。

「ありがと。絶対見返してやる!」

「…剣をお嫌いになったのかと、心配しました。」

「いいや。好きだぞ。俺もユリウスみたいになりたいからな。」

隣りにいるユリウスの手が止まったので、顔を覗き込む。

「どうした?」

「いえ、わたしのようになど…」

「だって、かっこいいだろ。」

「かっこ…。ノア様にそう仰っていただけるなんて、光栄です。」

一瞬だけユリウスが笑った。

初めて見るその顔に、なぜかどきっとした。

笑うとあんな顔になるんだな。

ふうん。

「ノア!ノア!わたしに会いたがっていると聞いたぞ!愛しいノア!」

がちゃがちゃと、扉の鍵を開錠する音と、あまり聞きたくない言葉が聞こえてくる。

あ、忘れてた。

それにしても、早くないか?

どうやら父さんが来てくれたようだ。









しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢アンジェはスキルひきこもりで、ざまあする!BLミッションをクリアするまで出られない空間で王子と側近のBL生活が始まる!

山田 バルス
BL
婚約破棄とスキル「ひきこもり」―二人だけの世界・BLバージョン!?  春の陽光の中、ベル=ナドッテ魔術学院の卒業式は華やかに幕を開けた。だが祝福の拍手を突き破るように、第二王子アーノルド=トロンハイムの声が講堂に響く。 「アンジェ=オスロベルゲン公爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」  ざわめく生徒たち。銀髪の令嬢アンジェが静かに問い返す。 「理由を、うかがっても?」 「お前のスキルが“ひきこもり”だからだ! 怠け者の能力など王妃にはふさわしくない!」  隣で男爵令嬢アルタが嬉しげに王子の腕に絡みつき、挑発するように笑った。 「ひきこもりなんて、みっともないスキルですわね」  その一言に、アンジェの瞳が凛と光る。 「“ひきこもり”は、かつて帝国を滅ぼした力。あなたが望むなら……体験していただきましょう」  彼女が手を掲げた瞬間、白光が弾け――王子と宰相家の青年モルデ=リレハンメルの姿が消えた。 ◇ ◇ ◇  目を開けた二人の前に広がっていたのは、真っ白な円形の部屋。ベッドが一つ、机が二つ。壁のモニターには、奇妙な文字が浮かんでいた。 『スキル《ひきこもり》へようこそ。二人だけの世界――BLバージョン♡』 「……は?」「……え?」  凍りつく二人。ドアはどこにも通じず、完全な密室。やがてモニターが再び光る。 『第一ミッション:以下のセリフを言ってキスをしてください。  アーノルド「モルデ、お前を愛している」  モルデ「ボクもお慕いしています」』 「き、キス!?」「アンジェ、正気か!?」  空腹を感じ始めた二人に、さらに追い打ち。 『成功すれば豪華ディナーをプレゼント♡』  ステーキとワインの映像に喉を鳴らし、ついに王子が観念する。 「……モルデ、お前を……愛している」 「……ボクも、アーノルド王子をお慕いしています」  顔を寄せた瞬間――ピコンッ! 『ミッション達成♡ おめでとうございます!』  テーブルに豪華な料理が現れるが、二人は真っ赤になったまま沈黙。 「……なんか負けた気がする」「……同感です」  モニターの隅では、紅茶を片手に微笑むアンジェの姿が。 『スキル《ひきこもり》――強制的に二人きりの世界を生成。解除条件は全ミッション制覇♡』  王子は頭を抱えて叫ぶ。 「アンジェぇぇぇぇぇっ!!」  天井スピーカーから甘い声が響いた。 『次のミッション、準備中です♡』  こうして、トロンハイム王国史上もっとも恥ずかしい“ひきこもり事件”が幕を開けた――。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

王子様から逃げられない!

一寸光陰
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

処理中です...