秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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剣術大会

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「なあ、今日も見せてくれるか?」

「それは構いませんが、それほど剣にご興味があるのでしたら、少しだけ手解きいたしましょうか?」

なんと!

ユリウスの剣捌きは見事だった。あの日から毎日それを見るのが日課になり、楽しみの一つになっている。

見ているだけで充分満足だったが、まさか俺が剣を…!

「やる!やりたい!いいのか!」

「では後ほど練習用の剣をお持ちしましょう。」

魔物を倒せるまで強くなったら、一人でも冒険の旅に行けるのでは?勇者なんて呼ばれるようになったら、ちょっと、どうする?

「ノア様、スープが溢れています。」

「…え?」

「口元にも。」

ユリウスが溢れたスープと、俺の口元をさっと拭いてくれた。

「おう、ありがと。」

「いいえ。」

いい感じだ。初めは遠慮がちだったユリウスも、やっと俺との食事に慣れてきたようだ。




「では始めましょう。まずは、基本の持ち方と姿勢です。」

ユリウスが用意してくれた短い剣を持ち、ユリウスの真似をする。

俺もユリウスのように長い剣が良かったが、重過ぎて片手で持ち上げることさえ出来なかった。

ユリウス恐るべし。

「…こうか?」

「いえ、身体がぶれております。もっと姿勢を正して下さい。」

剣どころか、姿勢から注意された。

「こ、こう?」

「いいえ。」

「こう?」

「いいえ。」

ああ、くそ!

「ノア様は少々猫背ぎみなのです。そこから正して行きましょう。」

「えええ。そんなのいいから、剣を振りたい。」

「初めに変な癖がつくとなかなか直りづらいのです。基本が大切です。」

「ちっ。」

「ノア様、舌打ちはおやめ下さい。」

頭上からはくすくすと笑い声が聞こえてくる。

ここは中庭だ。ぐるりと取り囲む部屋の窓から、何人かの妃が俺を見下ろして笑っている。

「まさかノアも剣術大会に出るつもり?」

うるさい。無視だ。無視。

俺だってやればできるんだから。

毎日見ていたユリウスの姿を思い浮かべ、ぶんと剣を振り回す。

イメージ通りじゃないか!

ほら!って、あれ?

「ノア様!」

そのままころんと、転んだ。

同じようにやったつもりだったのに。

天を仰げば、驚いた顔をして俺を見下ろす妃たちの顔が見える。

「まだノア様に剣は早かったかもしれません。まずは、体幹を鍛えるところから始めましょう。」

ユリウスが服についた土を払って起こしてくれるが、なんとも恥ずかしい。

くすくすとした笑い声が、また大きくなる。

「ほら、ちゃんとユリウスの言う事を聞かないから。」

「ユリウスに直接教えてもらえるなんて、なかなかないことなのよう。」

「体幹…いつになったら剣を振れるようになるかしら…」

ああもう、うるさい!

「今日はもうやめる!勝手に見るなよ!稽古中なのに!」

と言ったら、また笑われた。

くそ、なんなんだ。

こんなんじゃ集中できない。とりあえず部屋に戻ろう。立てかけられたままの梯子を登り始めると、笑いを堪える一妃が見えた。

「…ユリウスは大会に出られるんだよな?」

「どうかの?まだわからん。」

「父さんを呼んで。俺から頼むから。」

「よかろう。ノアに呼ばれていると知れば、すぐに駆けつけてくるだろう。」

「本当は呼びたくないけど。」

「ふっ。そんな顔をするな。」

余程嫌そうな顔をしていたのかもしれない。父さんは、なんていうか、少し苦手だ。

「じゃあ、頼んだよ母様。」

「お前も、に励めよ。」

なんで、稽古を強調するんだ?

ぷっと吹き出す一妃を横目に、部屋まで一気に梯子を登り切ると、ばんと窓を閉めてやった。

「…ノア様、わたしが余計な申し出をしたばかりに。もうお辞めになりますか。」

部屋に戻ってきたユリウスは申し訳なさそうな顔をしていた。

とんでもない。

母様たちがうるさいだけだ。

「いいや、ここでもう少し特訓してから中庭に出よう。絶対に驚かせてやる!」

「ここで、ですか?」

ユリウスが戸惑うのも無理はない。

部屋の中は雑然としていて、足の踏み場もないからな。

まずは部屋を片付けて、特訓するスペースを確保せねば。

床上に散乱した本を片付け始めると、ユリウスも手伝ってくれた。

「ありがと。絶対見返してやる!」

「…剣をお嫌いになったのかと、心配しました。」

「いいや。好きだぞ。俺もユリウスみたいになりたいからな。」

隣りにいるユリウスの手が止まったので、顔を覗き込む。

「どうした?」

「いえ、わたしのようになど…」

「だって、かっこいいだろ。」

「かっこ…。ノア様にそう仰っていただけるなんて、光栄です。」

一瞬だけユリウスが笑った。

初めて見るその顔に、なぜかどきっとした。

笑うとあんな顔になるんだな。

ふうん。

「ノア!ノア!わたしに会いたがっていると聞いたぞ!愛しいノア!」

がちゃがちゃと、扉の鍵を開錠する音と、あまり聞きたくない言葉が聞こえてくる。

あ、忘れてた。

それにしても、早くないか?

どうやら父さんが来てくれたようだ。









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