秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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剣術大会

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条件とか言われたような気がするが、誰からも何も伝えられないないまま日々が過ぎて行った。

俺は観に行けないけど、ユリウスは参加できるようなので陰ながら応援するつもりだ。

あれから二人で部屋の中を整理して、ちゃんとスペースも確保した。ユリウスは文句一つ言わず、部屋の掃除を手伝ってくれた。

「ここじゃ剣を振ることはできないよな。皆んな練習してくるんだろ。ユリウスは大丈夫なのか?」

体幹を鍛えましょうと言われ、ユリウスから指示された事をこなしているが、これがなかなかきつい。隣りでは、もっと負荷がかかりそうな
事を涼しい顔をしたユリウスがこなしている。

「ご心配には及びません。」

「でもなあ…。」

ここのところ雨続きのため中庭に下りて練習することもできない。

せっかく参加できることになったのに、持ち得る力を十分に発揮させてやれないかもしれないと思うとなんだか申し訳ない。

「鍛錬は何処でもできますので。帰宅してからも時間はありますし。」

「ほんとに?」

「ええ。せっかくノア様のおかげで参加できるので、必ず結果を残します。」

「頑張れよ。」

「はい。」

ユリウス本人は参加することに対してのこだわりがあまりないようだったが、少しずつやる気が出てきたようだ。

もし優勝できなくても、ユリウスの剣捌きを初めて目にした感動は忘れられない。俺にとってのユリウスはずっと優勝だ。

「ノア様、午後は例の続きをいたしましょう。」

「いいのか?」

「はい。いい方法を考えてきました。」

「本当か!?やる、やる!」

意外にもユリウスは俺のからくり作りに興味を示し、今では一緒にあれやこれや考えながら作業を手伝ってくれる。

ユリウスの長い指はとても器用に動く。繊細なその動きを見ていると、それだけでも楽しい。

没頭しているとあっという間に夕飯の時間になり、湯浴みの支度を整え俺が寝台に入るのを見届けて、ユリウスは部屋を出て行く。

明日の朝まで、ユリウスはもう来ない。

「よし。やるか。」

もそもそと寝台から抜け出し、眠い目を擦りながら作業に取り掛かる。

剣術大会まではもう少しだ。

それまでに、間に合うといいんだが。



あっという間に、その日が来てしまった。結局ユリウスは殆ど練習できていなかったと思う。

なんだか俺一人が盛り上がっていたんじゃないかと、今になって少しだけ後悔している。

朝食を運んで来たユリウスは、いつもの騎士服とは違う正装だった。

「おはようございます。最近あまり眠れていないようですが、大丈夫ですか?」

正装のユリウスはまた雰囲気が異なり、つい見惚れてしまった。

「はよ。大丈夫。ちょっとね。それより、とうとうだな。体調とかは、どうだ?」

「ええ、万全です。昼まで間に合わないので、今日は昼の分まで多めに食事を用意してあります。」

「俺のことはいいから。今日はちゃんと大人しくしてるぞ。抜け出そうなんて考えないから、安心しろ。」

さすがに、今日は大人しくしているつもりだ。

朝食を食べ終わり、ユリウスはこれから大会に臨む。夕方までここには戻らないだろう。

「夕飯までには戻ります。必ず結果を残し、お伝えいたします。では、行って参ります。」

「おう!頑張れよ!ここからだけど、応援しているからな!」

ローブを翻して部屋を出て行くユリウスを見送っていると、ユリウスは扉の前で一度立ち止まりまた戻ってきた。

「どうした?忘れ物か?」

「いえ。ノア様、これを。」

「ん?」

ごそごそとポケットから取り出されたのは、数個の飴玉だ。

「その、ルドルフ様から、ノア様がお好きだとお聞きしていたので…」

ルドルフがくれるファンシーな包み紙とはまた違う。薄桃色、水色、若草色、蜜柑色…どれも綺麗な包み紙に包まれている。

「くれるのか?」

「長い時間お待たせするので…。」

ユリウスに向かって口を開けると、薄桃色の包み紙を解いて一つだけころんと入れられる。

「桃味…?」

「ええ、お嫌いですか?」

「いや、おいひいな。」

「良かった。では、行って参ります。」

「うん。」

ひらひらと手を振る俺に深く一礼して、今度こそユリウスは部屋を出て行った。

「飴玉、たくさんあるな…。全部食べ終わる頃には戻ってくるか?くそ、俺も観たかったのに…。」

今日は何にもする気が起きない。

朝食を食べ終わったばかりだと言うのに、もう一度寝台に戻って、ばさっと寝転んだ。

見慣れた天井をしばらく眺めていると、がちゃがちゃと開錠する音が聞こえる。

ユリウスか?まだ他に何か忘れ物?

「ノア様、お久しぶりです。」

扉を開いたのは、ルドルフだった。

「なんで?お前が代わりに?」

「いいえ。」

ルドルフは扉を開いたまま部屋へと入ろうとはしない。

「なんだよ。今日はちゃんと大人しくしてるし、抜け出そうとか考えたりしないぞ。」

「陛下からご伝言です。条件付きだと言っただろう。まずは、ナターシャの元へ行け、とのことです。」

え?ナターシャ?一妃のとこ?

ここを、出て?

「ここ、出ていいのか?」

ルドルフが扉を開いたまま、頷いている。

扉の向こうには、初めて目にする長い回廊が見えていた。




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