秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

文字の大きさ
16 / 102
剣術大会

15

しおりを挟む
条件とか言われたような気がするが、誰からも何も伝えられないないまま日々が過ぎて行った。

俺は観に行けないけど、ユリウスは参加できるようなので陰ながら応援するつもりだ。

あれから二人で部屋の中を整理して、ちゃんとスペースも確保した。ユリウスは文句一つ言わず、部屋の掃除を手伝ってくれた。

「ここじゃ剣を振ることはできないよな。皆んな練習してくるんだろ。ユリウスは大丈夫なのか?」

体幹を鍛えましょうと言われ、ユリウスから指示された事をこなしているが、これがなかなかきつい。隣りでは、もっと負荷がかかりそうな
事を涼しい顔をしたユリウスがこなしている。

「ご心配には及びません。」

「でもなあ…。」

ここのところ雨続きのため中庭に下りて練習することもできない。

せっかく参加できることになったのに、持ち得る力を十分に発揮させてやれないかもしれないと思うとなんだか申し訳ない。

「鍛錬は何処でもできますので。帰宅してからも時間はありますし。」

「ほんとに?」

「ええ。せっかくノア様のおかげで参加できるので、必ず結果を残します。」

「頑張れよ。」

「はい。」

ユリウス本人は参加することに対してのこだわりがあまりないようだったが、少しずつやる気が出てきたようだ。

もし優勝できなくても、ユリウスの剣捌きを初めて目にした感動は忘れられない。俺にとってのユリウスはずっと優勝だ。

「ノア様、午後は例の続きをいたしましょう。」

「いいのか?」

「はい。いい方法を考えてきました。」

「本当か!?やる、やる!」

意外にもユリウスは俺のからくり作りに興味を示し、今では一緒にあれやこれや考えながら作業を手伝ってくれる。

ユリウスの長い指はとても器用に動く。繊細なその動きを見ていると、それだけでも楽しい。

没頭しているとあっという間に夕飯の時間になり、湯浴みの支度を整え俺が寝台に入るのを見届けて、ユリウスは部屋を出て行く。

明日の朝まで、ユリウスはもう来ない。

「よし。やるか。」

もそもそと寝台から抜け出し、眠い目を擦りながら作業に取り掛かる。

剣術大会まではもう少しだ。

それまでに、間に合うといいんだが。



あっという間に、その日が来てしまった。結局ユリウスは殆ど練習できていなかったと思う。

なんだか俺一人が盛り上がっていたんじゃないかと、今になって少しだけ後悔している。

朝食を運んで来たユリウスは、いつもの騎士服とは違う正装だった。

「おはようございます。最近あまり眠れていないようですが、大丈夫ですか?」

正装のユリウスはまた雰囲気が異なり、つい見惚れてしまった。

「はよ。大丈夫。ちょっとね。それより、とうとうだな。体調とかは、どうだ?」

「ええ、万全です。昼まで間に合わないので、今日は昼の分まで多めに食事を用意してあります。」

「俺のことはいいから。今日はちゃんと大人しくしてるぞ。抜け出そうなんて考えないから、安心しろ。」

さすがに、今日は大人しくしているつもりだ。

朝食を食べ終わり、ユリウスはこれから大会に臨む。夕方までここには戻らないだろう。

「夕飯までには戻ります。必ず結果を残し、お伝えいたします。では、行って参ります。」

「おう!頑張れよ!ここからだけど、応援しているからな!」

ローブを翻して部屋を出て行くユリウスを見送っていると、ユリウスは扉の前で一度立ち止まりまた戻ってきた。

「どうした?忘れ物か?」

「いえ。ノア様、これを。」

「ん?」

ごそごそとポケットから取り出されたのは、数個の飴玉だ。

「その、ルドルフ様から、ノア様がお好きだとお聞きしていたので…」

ルドルフがくれるファンシーな包み紙とはまた違う。薄桃色、水色、若草色、蜜柑色…どれも綺麗な包み紙に包まれている。

「くれるのか?」

「長い時間お待たせするので…。」

ユリウスに向かって口を開けると、薄桃色の包み紙を解いて一つだけころんと入れられる。

「桃味…?」

「ええ、お嫌いですか?」

「いや、おいひいな。」

「良かった。では、行って参ります。」

「うん。」

ひらひらと手を振る俺に深く一礼して、今度こそユリウスは部屋を出て行った。

「飴玉、たくさんあるな…。全部食べ終わる頃には戻ってくるか?くそ、俺も観たかったのに…。」

今日は何にもする気が起きない。

朝食を食べ終わったばかりだと言うのに、もう一度寝台に戻って、ばさっと寝転んだ。

見慣れた天井をしばらく眺めていると、がちゃがちゃと開錠する音が聞こえる。

ユリウスか?まだ他に何か忘れ物?

「ノア様、お久しぶりです。」

扉を開いたのは、ルドルフだった。

「なんで?お前が代わりに?」

「いいえ。」

ルドルフは扉を開いたまま部屋へと入ろうとはしない。

「なんだよ。今日はちゃんと大人しくしてるし、抜け出そうとか考えたりしないぞ。」

「陛下からご伝言です。条件付きだと言っただろう。まずは、ナターシャの元へ行け、とのことです。」

え?ナターシャ?一妃のとこ?

ここを、出て?

「ここ、出ていいのか?」

ルドルフが扉を開いたまま、頷いている。

扉の向こうには、初めて目にする長い回廊が見えていた。




しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

ギャルゲー主人公に狙われてます

一寸光陰
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。 ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。 平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。 天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。 「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」 平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。

処理中です...