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黒髪の少年
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「遅くなりました。すぐに朝食の準備を…。ずいぶんと、むくれておりますね。」
ルドルフが手際よく朝食の準備を整えてくれる。
「別に。お腹空いてないし。待ってないし。むくれてなんかいないぞ。」
お腹は空いているし、ずっと待っていた。それなのに、口から出るのは真逆の言葉だ。
「ユリウスを待っていたんですね。」
「別に。待ってないって言っただろ!」
ルドルフを責めてもしょうがないのに、つい責めるような強い口調になってしまう。
「王宮で色々ありまして…。とりあえず、召し上がって下さい。」
ルドルフの言葉は、どこか歯切れが悪い。そもそも色々って、漠然としすぎだろ。
「……ユリウスに、何かあったのか?」
「いえ。いや、そうですね。」
一体どっちなんだよ。
ルドルフは一緒に朝食を摂ることもなく、すぐにまた部屋を出て行ってしまった。
中途半端な状況報告が気になって、朝食どころじゃない。
手に取ったパンを一口だけ齧ると、窓辺に行って中庭を見渡す。今日に限ってどの窓も閉められたままで、母様たちの気配が感じられない。
やっぱり何かあったんだ。
こうしちゃいられない。今の状況はチャンスだ。
羽は以前失敗したが、一番単純な方法は試せていない。
寝室から掛け布を何枚も持ち出し、端と端を入念に結びつけると、一番大きなソファの足許にぐるぐるとまきつけ、またしっかりと結びつける。
うわあ、完璧なのでは?
掛け布の強度を確認して、窓から布を垂らしてみても、やっぱり誰も注意してくる人がいない。
念の為、フード付きのマントを羽織って、大きく深呼吸する。
大丈夫。行ける。
別に何処かに逃げ出すつもりじゃない。
ちょっと様子を見て、帰ってくればいい。
何が起こっているのか、確認して来るだけだ。
ユリウスに会いに行こうとしている訳じゃないからな!
ふんっ。
繋がった掛け布をロープ代わりに、ゆっくりと中庭に向かって降りて行く。
何度も母様たちの部屋の窓を確認したが、やっぱり誰も出てこない。
布の長さは十分じゃなかったが、これくらいなら簡単に飛び降りられる。
どんっと飛び降り空を仰ぎ見ると、中庭にいるのはやっぱり俺一人で、こんな簡単な方法でここまで降りられたことにひどく驚いた。
剣術大会のあの日に通った道順を思い出しながらなんとか門まで辿り着くと、さてどうしたものかと途方に暮れる。
そうだよな。
部屋を出ることばかりに気を取られ、門番の存在を忘れていた。
ここまで来て戻りたくなんかない。
「ユーリ!」
植栽の影に隠れ暫く悩んでいると、大きな呼び声が耳に響いてきた。
ユーリ……?
植栽の脇からそっと顔を出し、声の方に目を向けると、険しい顔をしたユリウスが早足でこちらに向かって来るのが見える。
試合中でさえ、いつもと同じ飄々とした様子だったのに、思わず尻込みしてしまうぐらい今の様子は険しい。
少し離れて後ろからついて来るのは、俺と同じ黒い髪をした見知らぬ奴だ。
「待って!ユーリ!」
後ろ姿しか見えないのに、二人の門番が驚いている様子が伝わって来る。
「何故待たねばならないのですか?それに、わたしの名はユーリではございません。」
門から少し離れた所で、ユリウスが振り返った。
「だって、どう見てもユーリだし。ねえ、ここは何処?ユーリも向こうから来たんでしょう?お願いだから、ぼくも一緒に連れて行って。」
「何をお話しされているのか、理解できかねます。あなた様の件については、第一王子がなんとかなさるはずです。」
俺に背を向けたユリウスの表情は見えない。ユリウスが言うように、金髪の兄と数人の騎士が遅れてやって来た。
だいぶ慌てている。
少し離れた所にいるとは言え、思わず飛び出していた俺の姿など、誰の目にも入っていないようだ。
「いや、離して!ユーリといたい!こんな所でユーリに会えるなんて!」
嫌がるそいつは、兄と騎士達に王宮の方へと連れ去られて行った。
ずっとユーリと叫び続けている。
ユーリ、だと?
俺でさえ、ユーリなんて慣れ慣れしく呼んだことなんてないぞ!
誰だよ、あいつ!
同じ黒髪だし!
門を通り抜けたユリウスと目が合う。
一瞬の瞬きの後、疾風が巻き起こったのかと思った。
あっという間に俺の元まで駆けつけ、何も言わずさっとローブに隠すよう抱きかかえる。
門番はきっと俺の存在に気がついていない。
「…ユリ…ウ」
「なぜですか?なぜここに?」
「それ、は…」
「何をなさるおつもりで?」
「……ウスが、」
「わたしが?」
淡々とした口調には、静かな怒りが感じられる。
お前が来ないからだろ。
なんでお前が怒ってるんだよ
それになんだよ、ユーリって……
ルドルフが手際よく朝食の準備を整えてくれる。
「別に。お腹空いてないし。待ってないし。むくれてなんかいないぞ。」
お腹は空いているし、ずっと待っていた。それなのに、口から出るのは真逆の言葉だ。
「ユリウスを待っていたんですね。」
「別に。待ってないって言っただろ!」
ルドルフを責めてもしょうがないのに、つい責めるような強い口調になってしまう。
「王宮で色々ありまして…。とりあえず、召し上がって下さい。」
ルドルフの言葉は、どこか歯切れが悪い。そもそも色々って、漠然としすぎだろ。
「……ユリウスに、何かあったのか?」
「いえ。いや、そうですね。」
一体どっちなんだよ。
ルドルフは一緒に朝食を摂ることもなく、すぐにまた部屋を出て行ってしまった。
中途半端な状況報告が気になって、朝食どころじゃない。
手に取ったパンを一口だけ齧ると、窓辺に行って中庭を見渡す。今日に限ってどの窓も閉められたままで、母様たちの気配が感じられない。
やっぱり何かあったんだ。
こうしちゃいられない。今の状況はチャンスだ。
羽は以前失敗したが、一番単純な方法は試せていない。
寝室から掛け布を何枚も持ち出し、端と端を入念に結びつけると、一番大きなソファの足許にぐるぐるとまきつけ、またしっかりと結びつける。
うわあ、完璧なのでは?
掛け布の強度を確認して、窓から布を垂らしてみても、やっぱり誰も注意してくる人がいない。
念の為、フード付きのマントを羽織って、大きく深呼吸する。
大丈夫。行ける。
別に何処かに逃げ出すつもりじゃない。
ちょっと様子を見て、帰ってくればいい。
何が起こっているのか、確認して来るだけだ。
ユリウスに会いに行こうとしている訳じゃないからな!
ふんっ。
繋がった掛け布をロープ代わりに、ゆっくりと中庭に向かって降りて行く。
何度も母様たちの部屋の窓を確認したが、やっぱり誰も出てこない。
布の長さは十分じゃなかったが、これくらいなら簡単に飛び降りられる。
どんっと飛び降り空を仰ぎ見ると、中庭にいるのはやっぱり俺一人で、こんな簡単な方法でここまで降りられたことにひどく驚いた。
剣術大会のあの日に通った道順を思い出しながらなんとか門まで辿り着くと、さてどうしたものかと途方に暮れる。
そうだよな。
部屋を出ることばかりに気を取られ、門番の存在を忘れていた。
ここまで来て戻りたくなんかない。
「ユーリ!」
植栽の影に隠れ暫く悩んでいると、大きな呼び声が耳に響いてきた。
ユーリ……?
植栽の脇からそっと顔を出し、声の方に目を向けると、険しい顔をしたユリウスが早足でこちらに向かって来るのが見える。
試合中でさえ、いつもと同じ飄々とした様子だったのに、思わず尻込みしてしまうぐらい今の様子は険しい。
少し離れて後ろからついて来るのは、俺と同じ黒い髪をした見知らぬ奴だ。
「待って!ユーリ!」
後ろ姿しか見えないのに、二人の門番が驚いている様子が伝わって来る。
「何故待たねばならないのですか?それに、わたしの名はユーリではございません。」
門から少し離れた所で、ユリウスが振り返った。
「だって、どう見てもユーリだし。ねえ、ここは何処?ユーリも向こうから来たんでしょう?お願いだから、ぼくも一緒に連れて行って。」
「何をお話しされているのか、理解できかねます。あなた様の件については、第一王子がなんとかなさるはずです。」
俺に背を向けたユリウスの表情は見えない。ユリウスが言うように、金髪の兄と数人の騎士が遅れてやって来た。
だいぶ慌てている。
少し離れた所にいるとは言え、思わず飛び出していた俺の姿など、誰の目にも入っていないようだ。
「いや、離して!ユーリといたい!こんな所でユーリに会えるなんて!」
嫌がるそいつは、兄と騎士達に王宮の方へと連れ去られて行った。
ずっとユーリと叫び続けている。
ユーリ、だと?
俺でさえ、ユーリなんて慣れ慣れしく呼んだことなんてないぞ!
誰だよ、あいつ!
同じ黒髪だし!
門を通り抜けたユリウスと目が合う。
一瞬の瞬きの後、疾風が巻き起こったのかと思った。
あっという間に俺の元まで駆けつけ、何も言わずさっとローブに隠すよう抱きかかえる。
門番はきっと俺の存在に気がついていない。
「…ユリ…ウ」
「なぜですか?なぜここに?」
「それ、は…」
「何をなさるおつもりで?」
「……ウスが、」
「わたしが?」
淡々とした口調には、静かな怒りが感じられる。
お前が来ないからだろ。
なんでお前が怒ってるんだよ
それになんだよ、ユーリって……
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