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ユリウスの婚約
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ユリウスが戻らないまま夜を迎えた。
乱雑に積み重ねられた本を整理整頓して、寝台に横たわる。今晩はもう、読む気にはなれない。
こうして距離を置いている間、ユリウスは俺のことを考えたりするんだろうか。
俺は一日中ユリウスのことばかり考えていた。
何度も扉に目をやるが、誰も訪れては来ない。
『…まだ起きていらしたのですか?』
そう言って、何事もなかったかのように戻ってこないだろうか。
右に左にと、何度も打つ寝返りのせいで掛け布はぐちゃぐちゃだ。
さわさわとしたままの心を何とかしようと、また寝返りをうつ。
…そう、こんなことは、初めてじゃない。
ユリウスがいなくなる時、そこには大抵マホが絡んでいる。
きっと1番に頼まれて、仕方なく会っていたんだ。
目が覚めたら、ぐちゃぐちゃになった掛け布を直しながらユリウスが起こしてくれるはずだ。
『どのように寝たらこのような有様になるのですか?不思議でしょうがありません。』
すんとした顔で、きっとこう言われるに違いない。
それまで夢の中でユリウスと会ってこよう。
大丈夫。今度は、きっと大丈夫だ……。
コトリ、と小さな物音で目を覚ます。
朝…か?
…ユリウス?
寝台から起き上がろうとして、床に転がった飴玉に気がつく。いつもユリウスがくれる飴玉だ。
部屋の中には、俺一人。
サイドテーブルから飴玉が落ちたのかもしれない。
拾いあげようとかがみ込むと、ぽたりと一粒の雫が床を濡らした。
一粒、二粒…
どんな夢を見ていたのか、もう思い出せない。
もしかしたら、夢の中でも会えなかったのかもしれない。
霞がかかったように、頭の中がぼんやりとしている。
突然、ばんっ!と大きな音と共に扉が開き、思わず身体が跳ね上がる。
「ノア、起きているか!?一体どういう事だ?お前は知っていたのか?」
「…兄さん?どうしたの?」
「…お前、泣いていたのか?」
寝台に座り込んで呆然としていた俺の顔を1番が覗き込む。
「え?泣いて、る?」
「……知っていたのか?そなたも、それぐらいユリウスのことを慕っていたのだな。だが、シオンとのことを決断したのだろう?」
1番が何の話しをしているのか、まだぼんやりとしたままの頭では理解が及ばない。
「…ユリウスは?」
部屋の中を見回しても、ユリウスはいない。
「…ノア?ユリウスはもうここへは来ない。まだ寝惚けているのか?」
「来ない?どうして?まだ朝になったばかりだからか?きっともうすぐ起こしに来てくれる。今朝は早く目が覚めたんだ。」
「何を言ってるんだ。もう昼時じゃないか。」
「……え?」
1番がカーテンを開くと、すでに日が高く昇っていた。
「…ユリウスは?何か用事があって遅くなっているのか?」
「聞いていないのか?」
「だから、何を?あ、兄さんがあいつに、マホに会って欲しいなんて言ったから、だからユリウスは…」
1番は首を振って、俺の両肩に手を乗せた。そのままじっと、真剣な表情で見据えてくる。
「ノア、知らなかったのなら落ち着いて聞け。どういう経緯かはまだわからない。だが、ユリウスはもうここへは来ない。お前の護衛も外された。」
嫌な予感がする。この先は聞きたくない。
「嫌だ。聞きたくない。父さんに言って、ユリウスをもう一度護衛に戻してもらう。そして、ユリウスと婚約する。だから、それ以上は……」
「ノア!」
1番の剣幕に思わず身を引くと、さらに強い力で肩を揺さぶられる。
「…ユリウスとマホが婚約することになった。先程父上が認めたばかりだ。」
何を言ってるんだ。そんなことある訳がない。ユリウスはマホを厭っていた。俺には確かにそう見えていた。追いかけてくるマホをユリウスは冷たく振り払っていたじゃないか。
「…そんな訳、ない。そんなの嘘だ。きっと父さんが無理矢理…」
そうだ、父さんが無理矢理命じたから、ユリウスは断りきれなかっただけだ。
俺が何とかしてやる。
だって、ユリウスは俺と……
肩に乗せられた1番の手を振り払い、扉の外に駆け出す。
ユリウス、ユリウスに会わないと……
「ノア!待て、戻ってこい!誰か、誰かノアを止めろ!!!」
ばたばたと扉が開き、他の王子たちが何事かと廊下へ飛び出してくる。
その横をすり抜けるように、ユリウスの元へとひたすらに駆ける。
自由に動き回れるこのフロアを通り抜けて、それから何処に行けば良いんだ?
わからない。わからないけど、もう待っているだけは嫌だ。
「ユリウス!どこだ!ユリウス!!!」
走りながらずっと、俺はユリウスの名を呼び続けた。
乱雑に積み重ねられた本を整理整頓して、寝台に横たわる。今晩はもう、読む気にはなれない。
こうして距離を置いている間、ユリウスは俺のことを考えたりするんだろうか。
俺は一日中ユリウスのことばかり考えていた。
何度も扉に目をやるが、誰も訪れては来ない。
『…まだ起きていらしたのですか?』
そう言って、何事もなかったかのように戻ってこないだろうか。
右に左にと、何度も打つ寝返りのせいで掛け布はぐちゃぐちゃだ。
さわさわとしたままの心を何とかしようと、また寝返りをうつ。
…そう、こんなことは、初めてじゃない。
ユリウスがいなくなる時、そこには大抵マホが絡んでいる。
きっと1番に頼まれて、仕方なく会っていたんだ。
目が覚めたら、ぐちゃぐちゃになった掛け布を直しながらユリウスが起こしてくれるはずだ。
『どのように寝たらこのような有様になるのですか?不思議でしょうがありません。』
すんとした顔で、きっとこう言われるに違いない。
それまで夢の中でユリウスと会ってこよう。
大丈夫。今度は、きっと大丈夫だ……。
コトリ、と小さな物音で目を覚ます。
朝…か?
…ユリウス?
寝台から起き上がろうとして、床に転がった飴玉に気がつく。いつもユリウスがくれる飴玉だ。
部屋の中には、俺一人。
サイドテーブルから飴玉が落ちたのかもしれない。
拾いあげようとかがみ込むと、ぽたりと一粒の雫が床を濡らした。
一粒、二粒…
どんな夢を見ていたのか、もう思い出せない。
もしかしたら、夢の中でも会えなかったのかもしれない。
霞がかかったように、頭の中がぼんやりとしている。
突然、ばんっ!と大きな音と共に扉が開き、思わず身体が跳ね上がる。
「ノア、起きているか!?一体どういう事だ?お前は知っていたのか?」
「…兄さん?どうしたの?」
「…お前、泣いていたのか?」
寝台に座り込んで呆然としていた俺の顔を1番が覗き込む。
「え?泣いて、る?」
「……知っていたのか?そなたも、それぐらいユリウスのことを慕っていたのだな。だが、シオンとのことを決断したのだろう?」
1番が何の話しをしているのか、まだぼんやりとしたままの頭では理解が及ばない。
「…ユリウスは?」
部屋の中を見回しても、ユリウスはいない。
「…ノア?ユリウスはもうここへは来ない。まだ寝惚けているのか?」
「来ない?どうして?まだ朝になったばかりだからか?きっともうすぐ起こしに来てくれる。今朝は早く目が覚めたんだ。」
「何を言ってるんだ。もう昼時じゃないか。」
「……え?」
1番がカーテンを開くと、すでに日が高く昇っていた。
「…ユリウスは?何か用事があって遅くなっているのか?」
「聞いていないのか?」
「だから、何を?あ、兄さんがあいつに、マホに会って欲しいなんて言ったから、だからユリウスは…」
1番は首を振って、俺の両肩に手を乗せた。そのままじっと、真剣な表情で見据えてくる。
「ノア、知らなかったのなら落ち着いて聞け。どういう経緯かはまだわからない。だが、ユリウスはもうここへは来ない。お前の護衛も外された。」
嫌な予感がする。この先は聞きたくない。
「嫌だ。聞きたくない。父さんに言って、ユリウスをもう一度護衛に戻してもらう。そして、ユリウスと婚約する。だから、それ以上は……」
「ノア!」
1番の剣幕に思わず身を引くと、さらに強い力で肩を揺さぶられる。
「…ユリウスとマホが婚約することになった。先程父上が認めたばかりだ。」
何を言ってるんだ。そんなことある訳がない。ユリウスはマホを厭っていた。俺には確かにそう見えていた。追いかけてくるマホをユリウスは冷たく振り払っていたじゃないか。
「…そんな訳、ない。そんなの嘘だ。きっと父さんが無理矢理…」
そうだ、父さんが無理矢理命じたから、ユリウスは断りきれなかっただけだ。
俺が何とかしてやる。
だって、ユリウスは俺と……
肩に乗せられた1番の手を振り払い、扉の外に駆け出す。
ユリウス、ユリウスに会わないと……
「ノア!待て、戻ってこい!誰か、誰かノアを止めろ!!!」
ばたばたと扉が開き、他の王子たちが何事かと廊下へ飛び出してくる。
その横をすり抜けるように、ユリウスの元へとひたすらに駆ける。
自由に動き回れるこのフロアを通り抜けて、それから何処に行けば良いんだ?
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走りながらずっと、俺はユリウスの名を呼び続けた。
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