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ユリウスの婚約
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ユリウスの気持ちが全く分からない。
思い浮かぶ事を色々やってみるが、特に何にも変わらない。
近寄ろうとしてもすっと引かれるし、実は嫌われてるんじゃないかと思うぐらいだ。
「ユリウス、あのさ、」
「はい。」
「俺はユリウスのこと…す、す、…」
「……す…?」
涼やかな目で見つめられると、頬が紅潮するだけで、何にも言えなくなる。
以前なら、好きだぞ、なんて簡単に言えたのに。意識するとなかなか言えなくなるもんだ。
最近よく見る夢の中では、いつもユリウスが隣にいる。
夢の中の俺は現実よりも背が高く、ユリウスと交わし合う目線が近い。剣の腕前もなかなかだ。
寂れた荒野を馬で駆け回って、剣を交える。乾いた土の匂いと、頬を撫でる風、交わし合う剣の音が心地いい。
隣にいるユリウスはよく笑う。こんな顔するんだな。
きっとこれは、俺の願望が見させる夢だ。
いつも隣にいたはずのユリウスが、ふいにいなくなるところで目が覚める。
心にぽっかり穴が空いた様な気持ちになり、ユリウスが現れるまで不安な気持ちで朝を迎える。
…俺はだいぶ重症なのかもしれない。
思い慕う相手の気持ちを知るにはどうしたらいいのか、とりあえず年が近い9番に相談してみた。
そういう話しは母上の大好物だよ、と9番を通して九妃から届けられた大量の本を読み漁ることが今の日課だ。
時折ふわあっと、九妃の甘く優しい匂いが漂い、母様たちに会いたくなる。他の王子たちの手前、会いたいなんて気軽に言えないような気がして、そこは我慢だ。
今頃中庭でお茶会を開いているかな。
今日はどんな菓子が並んでいるんだろう。
また伸びてきた髪は、これから誰に切ってもらえばいいんだろうか。
離れた場所で控えるユリウスを尻目に、頁をすすめていく。
………へえ。ふむふむ。ほほう。なるほど。
「ノア様、寝不足ですか?お疲れのようですが。」
「……ん、少し。」
あくびを噛み殺して、向いに座るシオンに答える。
こうして会うのは、三度目だ。
紫色で埋め尽くされたこの中庭は、父さんの気配が感じられて今だに落ち着かない。母様たちと過ごした中庭が恋しい。
「…婚約のこと、いかがですか?」
まだ諦めていないようだ。
「しないって言っただろ。父さんにも言ったのに、全然話しを聞いてくれないんだ。」
三度目になり、話し方も大分ぞんざいになってきているが、シオンは全く気にする様子がない。
ある意味一緒にいて楽は楽だ。
「まだユリウス様のことを諦めていないのですね。」
「…煩い。」
「ユリウス様の様子を見ていると何の変化もないようですし、諦めも肝心なのでは?剣の腕ならわたしだってそれなりですし、顔だって悪くはないと思いますが、どこか不服でしょうか?」
「え?お前、剣が得意なのか?」
「これでも騎士ですし、ユリウス様程ではありませんが。」
今年の優勝は1番で、シオンは準優勝だったらしい。そう言えば、兄さんとシオンは学友と言っていたな。
兄さんの話しを持ちかけると、ずっと饒舌だったシオンの口が止まった。
兄さんの話しをしている間、ずっと苦虫を潰したような笑みを浮かべている。
仲がいいのかと思っていたけど、案外そうでもないのかもしれない。
「…シュヴァリエの話しはやめましょう。それよりも、今日はユリウス様の方をあまり振り返らないのですね。」
「ん?気がついたか?…今は距離を置いている所だ。」
九妃の本を昨晩遅くまで読み漁った結果、『距離を置くこと』を試してみることにした。
「…距離、ですか?」
「近くにいすぎると、相手への気持ちに気がつかないことがあるんだろう?距離を置くと分かるらしいぞ。」
シオンは口に手を当てて、下を向くとぷるぷると震えて小刻みに笑い始めた。
「おい、何で笑うんだよ。」
「ぷ…いや、誰かの入れ知恵ですか?」
シオンは笑いを堪えるのに必死だ。
「違う。昨晩勉強したんだ。なんで笑うんだ。」
笑われる筋合いは全くない。笑われるなんて心外だ。
シオンは暫くの間笑い続けると、ユリウスがいる方を目で指し示した。
振り返って、やっと気がつく。
「ユリウス…は?」
そこにいたはずのユリウスはいなく、代わりに見守っていたのはルドルフだった。
ここまで一緒に来たはずなのに。
「距離を置いているのなら、ちょうどいいではありませんか。先程ルドルフ様がいらして、ユリウス様はその後何処かへ向かわれましたよ。」
さわさわと吹く風に揺られて、濃淡の異なる紫色の花たちが揺れている。
距離を置こうと決めたはずなのに、ユリウスがいない景色はさわさわと俺の心を揺さぶった。
思い浮かぶ事を色々やってみるが、特に何にも変わらない。
近寄ろうとしてもすっと引かれるし、実は嫌われてるんじゃないかと思うぐらいだ。
「ユリウス、あのさ、」
「はい。」
「俺はユリウスのこと…す、す、…」
「……す…?」
涼やかな目で見つめられると、頬が紅潮するだけで、何にも言えなくなる。
以前なら、好きだぞ、なんて簡単に言えたのに。意識するとなかなか言えなくなるもんだ。
最近よく見る夢の中では、いつもユリウスが隣にいる。
夢の中の俺は現実よりも背が高く、ユリウスと交わし合う目線が近い。剣の腕前もなかなかだ。
寂れた荒野を馬で駆け回って、剣を交える。乾いた土の匂いと、頬を撫でる風、交わし合う剣の音が心地いい。
隣にいるユリウスはよく笑う。こんな顔するんだな。
きっとこれは、俺の願望が見させる夢だ。
いつも隣にいたはずのユリウスが、ふいにいなくなるところで目が覚める。
心にぽっかり穴が空いた様な気持ちになり、ユリウスが現れるまで不安な気持ちで朝を迎える。
…俺はだいぶ重症なのかもしれない。
思い慕う相手の気持ちを知るにはどうしたらいいのか、とりあえず年が近い9番に相談してみた。
そういう話しは母上の大好物だよ、と9番を通して九妃から届けられた大量の本を読み漁ることが今の日課だ。
時折ふわあっと、九妃の甘く優しい匂いが漂い、母様たちに会いたくなる。他の王子たちの手前、会いたいなんて気軽に言えないような気がして、そこは我慢だ。
今頃中庭でお茶会を開いているかな。
今日はどんな菓子が並んでいるんだろう。
また伸びてきた髪は、これから誰に切ってもらえばいいんだろうか。
離れた場所で控えるユリウスを尻目に、頁をすすめていく。
………へえ。ふむふむ。ほほう。なるほど。
「ノア様、寝不足ですか?お疲れのようですが。」
「……ん、少し。」
あくびを噛み殺して、向いに座るシオンに答える。
こうして会うのは、三度目だ。
紫色で埋め尽くされたこの中庭は、父さんの気配が感じられて今だに落ち着かない。母様たちと過ごした中庭が恋しい。
「…婚約のこと、いかがですか?」
まだ諦めていないようだ。
「しないって言っただろ。父さんにも言ったのに、全然話しを聞いてくれないんだ。」
三度目になり、話し方も大分ぞんざいになってきているが、シオンは全く気にする様子がない。
ある意味一緒にいて楽は楽だ。
「まだユリウス様のことを諦めていないのですね。」
「…煩い。」
「ユリウス様の様子を見ていると何の変化もないようですし、諦めも肝心なのでは?剣の腕ならわたしだってそれなりですし、顔だって悪くはないと思いますが、どこか不服でしょうか?」
「え?お前、剣が得意なのか?」
「これでも騎士ですし、ユリウス様程ではありませんが。」
今年の優勝は1番で、シオンは準優勝だったらしい。そう言えば、兄さんとシオンは学友と言っていたな。
兄さんの話しを持ちかけると、ずっと饒舌だったシオンの口が止まった。
兄さんの話しをしている間、ずっと苦虫を潰したような笑みを浮かべている。
仲がいいのかと思っていたけど、案外そうでもないのかもしれない。
「…シュヴァリエの話しはやめましょう。それよりも、今日はユリウス様の方をあまり振り返らないのですね。」
「ん?気がついたか?…今は距離を置いている所だ。」
九妃の本を昨晩遅くまで読み漁った結果、『距離を置くこと』を試してみることにした。
「…距離、ですか?」
「近くにいすぎると、相手への気持ちに気がつかないことがあるんだろう?距離を置くと分かるらしいぞ。」
シオンは口に手を当てて、下を向くとぷるぷると震えて小刻みに笑い始めた。
「おい、何で笑うんだよ。」
「ぷ…いや、誰かの入れ知恵ですか?」
シオンは笑いを堪えるのに必死だ。
「違う。昨晩勉強したんだ。なんで笑うんだ。」
笑われる筋合いは全くない。笑われるなんて心外だ。
シオンは暫くの間笑い続けると、ユリウスがいる方を目で指し示した。
振り返って、やっと気がつく。
「ユリウス…は?」
そこにいたはずのユリウスはいなく、代わりに見守っていたのはルドルフだった。
ここまで一緒に来たはずなのに。
「距離を置いているのなら、ちょうどいいではありませんか。先程ルドルフ様がいらして、ユリウス様はその後何処かへ向かわれましたよ。」
さわさわと吹く風に揺られて、濃淡の異なる紫色の花たちが揺れている。
距離を置こうと決めたはずなのに、ユリウスがいない景色はさわさわと俺の心を揺さぶった。
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