秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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真帆

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ぼくの周りにはいつも勝手に人が集まってくる。

頼んでもいないのに世話を焼いてきたり、欲しくもない物を贈られたり、纏わりつく好意が途絶えることはなかった。

この見た目がそうさせているのだと、物心がつく頃にはすでに理解していた。

ぼくを使って金儲けをしようとする両親は不仲で、大学進学を機に逃げるように家を飛び出した。

初めは不安だったが、その心配も杞憂に終わった。

上手く利用すれば生活していく上で役立つと分かったからだ。

あんなに鬱陶しく感じていた他人からの好意を、ぼくはいつの間にか利用する術を身につけていた。




この見た目をより際立たせるため、着るものや髪型など身だしなみには気を遣った。小柄な自分に合うように、既成の服を手直ししたり、気が向けば一から作ることもあった。手先の器用さには自信がある。

見た目を磨けば磨くほど、集まってくる人のはより高まった。

あの頃、何が欲しかったんだろう?

自分では手が出ない何かが欲しくて、初めて自分の身を差し出した。

一度経験してしまえば、少しばかりあった躊躇いは一瞬で消えてなくなった。

ちやほやしてくる中から数人を選び、関係を結ぶ。

需要と供給が一致した関係だ。

ぼくは上手くやれていると、その時過信していた。



数人いる中の一人が、執拗に付き纏うようになった。

どうやって調べたのか、教えてもいない家の間で待ち伏せしていたり、他に関係を結んでいた相手に嫌がらせを始めたり、それらは次第にエスカレートしていった。

その日も、家の前ではそいつが待ち伏せしていた。もう辞めて欲しいときつく言い放つと、みるみる形相が変わり、恐ろしさのあまりぼくは逃げ出した。

逃げても逃げても執拗に追いかけてくる。ぼくはただひたすら走り回って、気がつくと全く知らない静かな住宅街に迷い込んでいた。

もう走れない。まだ追いかけて来ているようで、怖くて後ろを振り返ることもできない。限界が来て倒れ込んだとき、後ろから声がした。


「…おい、大丈夫か。」


あいつがここまで追いかけてきたのかと、初めはその声に心臓が震え上がった。

振り返った先にいたのは、すらりと背が高く涼しげな顔立ちの男で、あいつとは似ても似つかない風貌の男だった。

「…た、助けて、お願い!」

「まさか、誰かに追われているのか?」

あいつが追いついていないか、きょろきょろと辺りを見回すぼくの様子を不審そうに問い詰めてくる。

早口で付き纏われていることを説明し、もう一度懇願する。

「…だから、お願い、少しの間でいいから、匿って!このままじゃ家にも帰れない!」

すらりと伸びた脚に縋りついて、上目遣いで見つめる。

「面倒事はごめんだ。それに、いつまでもここでこうしていられては困る。」

背を向けようとする男にもう一度縋り付くと、男は小さく溜め息を吐いて、ついて来いと言ってくれた。

小さな門扉をくぐり、小さな庭を通り抜けると、小さな一軒家があり、男はそこの住人のようだった。

自分から他人にあんなに懇願したのは、生まれて初めてのことだ。

無理矢理名前を聞き出すと、男はと名乗ってくれた。

少し休んだら帰れと言われたものの、暗くなってきた道を一人で帰るのは怖いし、そもそもここがどこなのかも分からない。

一晩だけ泊めて欲しいとまた懇願して、なんとかその日は泊めて貰うことができた。

泊まっていけと懇願されることはあったのに、ぼくから懇願して渋々と了承を得るなんて、少しだけプライドが傷つく。

襲ってきたあいつのことなんて忘れて、ぼくは悠理というその男に興味を惹かれた。

見た目は好みだ。低く通る声もいい。

一晩泊めてくれたお礼に、一晩だけなら抱かせてやってもいい。

リビングに放置されたまま待ち続けていたのに、悠理は朝まで一度も寝室から出てくることはなかった。

帰ってからもお礼と言ってまた悠理の元を訪ね、それから何度も何度もぼくは悠理の元を訪れるようになった。

何をして生活しているのか、悠理は一人で暮らしていて、時折不在にすることもあったが、大抵はその家にいた。

学生のような、もっと歳上のような、年齢も不詳だ。

冗談なのか、自分でも分からないと言っていた。

悠理の住む家は生活感がなく、必要最低限の物が整然と並べられているだけで、いつも静寂が漂っていた。

大学生活の喧騒から逃れるように、無理矢理に訪れ、無理矢理に隣でコーヒーを飲む。マグカップは持参した。

ぼくのしつこさに折れたのか、歓迎されることはないが無理に追い返されることもなくなった。

その頃には、何人か続いていた関係からも遠のくようになっていた。

悠理と過ごす時間は、今まで生きてきた中で、一番穏やかで心地がいいものだった。

ぼくは悠理のことが好きだ。

難しい顔をして本を読み耽っていた悠理が、ふと顔を上げた。

ああ、声に出ていたのかもしれない。

「…悠理、好きだよ。」

悠理だってきっと同じ気持ちだと、ぼくは信じて疑うことはなかった。
















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