秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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アミュレットとメダル

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静寂に包まれた深夜、音を立てずに扉が開かれる。

寝台に潜ませていた剣を握り、胸を目掛けて振り下ろされた相手の剣を振り払うと、そこにいたのは、やはりあの騎士だった。

「ふ…気付かれていたとはな。」

「狙いは真帆か?」

「お前ごときが、軽々しくその名を口にするな!」

騎士の声と共に、部屋の中には十数人の男たちが入り込んでくる。

食堂で見かけた、他の達だ。

騎士の指示で部屋中をくまなく探し始めるが、真帆は見つからない。もう一人の騎士に連れられ、ついさっきここから出発したばかりだ。

「マホ様がお前の部屋に入るのを見届けた。お前のような者に穢されずにいたことは却って僥倖だな。」

数人を追跡に回すと、騎士は目の前に立ち塞がった。

「本当に気に食わない。お前如きがルドルフ様の跡を継ぎ、マホ様まで手に入れようとするとはな。」

「真帆を攫ってどうするつもりだ?」

「あの方は聖女だ。あの黒髪に、迸る光!お前も王族でさえも、もっとマホ様を敬うべきだったのに!お前たちが大事にしないから、光を失ってしまわれた。
わたしたちなら、光を取り戻すことができる!」

騎士の目は完全に常軌を失っている。

わたしたち、と言うことは他にもマホを狙っている者がいると言うことだ。

この騎士一人だけの策略ではない。

記憶が戻る前、真帆が夜会に繰り出しては貴族達を手玉にとっていたことを耳にしていた。真帆はやり過ぎたのだ。

「聖女なんていない。真帆はただの真帆でしかない。目を覚ませ。」

「お前のような者が側にいるから、マホ様は光を失ってしまわれたのだ。わたしたちはマホ様を聖女として迎え入れる。お前は邪魔なんだ。ここで、消えてもらう。」

一斉にたちが襲いかかってくる。

戦時中の、命をかけて向かってくる敵とは違う。

この者たちにそこまでの覚悟はない。

一人、二人と薙ぎ倒してしまえば、他の者たちはじりじりと後退りし始めた。

「お前は何も手を汚さずに、見ているだけか?」

「…始めからこいつらに殺れるなんて、思ってはいないさ。どうせ最後は俺が殺るつもりだった。」

この騎士とやり合うのは初めてだ。稽古中は、いつもわたしと組み合うことを避けていた。

「…忠告だ。ここで止めておけ。」

「はっ!俺の実力を知らないようだな。お前の実力なんて、たかが知れている。本来なら、俺が団長に…」

騎士が構えるより先に、相手の携えた剣を振り払い、その喉元へ切先を突きつける。騎士はごくりと唾を飲み込んだ。

「だから、忠告しただろう。大人しく連行されるんだな。命まで取るつもりはない。」

突きつけた切先が、少しだけ喉を掠めると、一筋の血が流れ出した。

「お前なんかに、お前なんかに!」

血走った目が、ぎろりと睨みつけてくる。

最後までこの部下はわたしを認めることはなかったのだな。

…マホと、あの騎士は上手く逃げられただろうか。あの騎士は馬捌きが上手いし、何より勘がいい。きっと、大丈夫だ。

「…ひっ!!!」

部屋の外から悲鳴が上がる。

この宿の主人だ。

騒ぎを聞きつけて、ここまで来てしまったのだろう。

主人が客たちに囚われると、騎士は恍惚の笑みを浮かべた。

「マホ様の思し召しだ!やはり、神は我々の味方なのだ!」



形成が逆転すると、これまでの鬱憤を晴らすかのように、殴る蹴るの暴行が始まった。

一振りの剣で容易く死なせようと思えない程、わたしのことを厭っていたのだろう。

縛り上げられた身体から、ゆっくりと血が流れ出す。

騎士はずっと何か訳のわからない言葉を発し続けており、味方の者たちでさえその異常ぶりに困惑しているようだ。

背中合わせに縛られている宿の主人には、幸い暴行は振るわれていない。

「そろそろいいか。マホ様をお迎えに上がらなければ。」

騎士は満足した様子で立ち上がると、剣を抜いた。

背中から緊張が伝わってくる。

こんなことに巻き込まれた主人が気の毒だ。

「真帆はお前たちで満足できると思うか?」

「…何?」

「真帆がどんな声で鳴くのか、知らないだろう?お前は穢れていないと言っていたが、」

騎士がわなわなと震え上がる様子が見て取れる。

「わたしを殺したら、真帆はお前のことを決して許しはしないだろうな。」

「お前…まさか、すでに…マホ様を!」

「ああ、真帆はすでに、」

ニヤリと笑ってみせると、殺してやる!と言う声と共に騎士が大きく剣を振りかざした。

袖口に仕込んであったカッターで切り込みを入れた主人の縄は既に解けている。

頭に血が昇った騎士は全く気がついていないようだった。

「行け!」

どんと背中を押すと、主人は2階の窓から飛び降りた。

下には、店の軒先がある。

上手く降りれば、怪我することなく下まで降りられるだろう。

真帆もできたのだから、大丈夫だ。

『ユリウス!』

目を閉じると、聞きなれた声が聞こえてくる。

思い浮かぶのは、いつもころころと表情が変わるあの方の姿だ。

今になって気がつくとは思わなかった。

あの方の想いに、理由を付けて向き合うことを避けていたのは、わたしの方だ。

認めることが、怖かったのだろうか。

振り落とされた刃が突き刺さる。

今度こそ、きっと最後だ。

もう生まれ変わることは、ないだろう。

がしゃんと胸元のメダルが音を立てる。

「ユリウス!!!」

朦朧とした景色の中に、ノア様がいる。

一括りに結えた黒髪には、不恰好に結ばれたリボンが揺らめく。

またすぐに、結び直して差し上げないと…

ノア様はそう言う事には、案外不器用だから…



















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