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2回目の人生
何事も程々に
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屋敷に戻り、執事にカバンとコートを預けるとヴィオレッタは侍女のエルザを呼ぶ。
「お嬢様、お帰りなさいませ。今日は変わった茶葉がありますよ」
「いいわね。お願い出来るかしら。あと少し頼みがあるのだけど」
「承知致しました。ジルは呼んだ方がよろしいですか」
「ジル‥‥そうね。お願いするわ」
変わった形の瓶を手に取ると小さじに少しだけ茶葉を取り、ゆっくりと低温の湯で蒸らしていく。
湯の中で茶葉が広がっているのだろう。ほんのりとした甘い香りが鼻腔を擽る。
テーブルの上にガラス製のソーサーを置き、同じガラス製のカップを置く。
注がれていく茶はほんのりと新緑を感じさせる色がついただけである。
茶を注ぐエルザに「あなたの分も」と言うと、静かにソファを経って棚から菓子の入った籠を手に取る。
向かいにエルザが腰を下ろすと、菓子に手を伸ばす。
小分けにされた袋を幾つか取り出すとテーブルに並べる。
「エルザ。調べて欲しい事があるの」
「何でございましょうか」
「1つ目はゲパン伯爵、どんな些細なものも漏らさずに。それには噂も含まれるのを忘れないで」
「イストン地方の代理領主ですね」
「そう。2つ目は市井にジェシーという女性がいるはず。こちらも漏らさずに」
「承知致しました。市井はジルに…」
「いえ、ジルにはちょっと危険が伴うけれどアベント侯爵家を調べてもらうわ」
「アベント侯爵家‥‥あのユーダリス様の家ですか?」
「そう。エルザでは顔が知られているから危険すぎるの」
エルザは静かに頷くと、茶器を持ち淹れた茶をゆっくりと味わう。
ヴィオレッタも香りを楽しんだ後に口をつけた。
「変わったお茶ね」
「はい。いつも茶を飲む温度では香りが飛ぶそうです。冷たすぎてもダメで体温より少し低めの温度で淹れるのが良いそうです。奥様のご実家からはいつも変わった物が届くので覚えるのは大変ですが楽しいですね」
そこに兄のエヴァンスが帰宅をするなり、ヴィオレッタを呼びながら廊下を歩いてくる。
聞える足音からすると、あまり機嫌が良くないのだろうとそっと茶器を置く。
案の定、ノックもなしに扉を開けると隣に腰を掛けるなりエルザに茶を頼む。
「ヴィオ。ここにいたのか」
「馬車があるのですから、屋敷のどこかにはおります。かくれんぼをする幼子では御座いません」
「それはそうだが…そんなのはどうでもいい」
前のめりになり、小さく「出た」とエヴァンスが呟く。
その小さな言葉をエルザは聞き逃さずに、目くばせをすると扉横に控えていた侍女が一礼をして部屋の外に出ると扉を閉める。扉の閉まる音に勇んだ事に気が付いたエヴァンスはキョロキョロと周りを見回し腰を下ろした。
「まさかとは思ったが‥‥3つ目で大当たりだった」
「大当たりでございましたか」
「騒ぎになるのも面倒だからな。規制線を張って箝口令を敷いてきたところだ」
「賢明な措置だと思います。この事を陛下は?」
「一報だけは入れてきた。だが詳細な報告はこれからになる。しかし何故判ったんだ」
「年齢と場所。それに少し藪をつついただけ。お父様がお帰りになれば五月蠅いでしょうねぇ」
「何を暢気な!こっちはこれからまともにブリンダとも会えないんだぞ」
「良いではありませんか。華を育ててこそ男の誉れですわ」
ヴィオレッタは1回目の人生を思い出してから何もしなかったわけではない。
習い事を初めてレオンとの時間を削減し、距離を取る。愛称で呼ばせないなど些細な事は行った。
中等部の3年間でヴィオレッタなりに調べる事は行っている。
ただ、未来の事は書物には当然記載はされてない。準える物はない。頼りは記憶のみ。
歪が生じるだろうというのは簡単に想像ができる。
何も知らない(思い出していない)者はその歪を歪と感じることなく生きている。
その場に順応するのに違和感を感じないものは記憶がないという事だ。
その為、身の回りで【同じ行動】をする者をチェックして調べる。
ヴィオレッタがもしやと思ったのは側妃のレクシーではない。
兄のエヴァンエスが大当たりだったと言うまでアレクセイ第二王子殿下ではないかと考えていた。
しかし、【大当たり】を見つけた事でアレクセイ第二王子殿下の線は消えた。
残るのは1人。もう少し探せばいるのかも知れないと思うが、今の時点では残りは1人である。
側妃レクシーはおそらく‥‥。そう考えるとブルリと震える体を自分の両手で抱きしめる。
ヴィオレッタに取ってユーダリスが早々に仕掛けてきたのは想定外だった。
勿論、本人自らが「前の人生」を告白するとは思ってもいなかった。
側近候補として中等部で接した時はユーダリスも警戒をしていたのかも知れない。
ユーダリスが記憶を持っているのは本当だろう。
語った中の半分は経験に基づくもの、残りの半分の半分は未体験の真実。残りは嘘と憶測だろう。
如何せん彼は動きすぎである。そして幼いのだ。
【好奇心は猫をも殺す】
心で呟いて、菓子を半分に割る。
片方を「ブリンダに会いたい~」と頭を抱える兄に差し出し、残りを口に放り込んだ。
「お嬢様、お帰りなさいませ。今日は変わった茶葉がありますよ」
「いいわね。お願い出来るかしら。あと少し頼みがあるのだけど」
「承知致しました。ジルは呼んだ方がよろしいですか」
「ジル‥‥そうね。お願いするわ」
変わった形の瓶を手に取ると小さじに少しだけ茶葉を取り、ゆっくりと低温の湯で蒸らしていく。
湯の中で茶葉が広がっているのだろう。ほんのりとした甘い香りが鼻腔を擽る。
テーブルの上にガラス製のソーサーを置き、同じガラス製のカップを置く。
注がれていく茶はほんのりと新緑を感じさせる色がついただけである。
茶を注ぐエルザに「あなたの分も」と言うと、静かにソファを経って棚から菓子の入った籠を手に取る。
向かいにエルザが腰を下ろすと、菓子に手を伸ばす。
小分けにされた袋を幾つか取り出すとテーブルに並べる。
「エルザ。調べて欲しい事があるの」
「何でございましょうか」
「1つ目はゲパン伯爵、どんな些細なものも漏らさずに。それには噂も含まれるのを忘れないで」
「イストン地方の代理領主ですね」
「そう。2つ目は市井にジェシーという女性がいるはず。こちらも漏らさずに」
「承知致しました。市井はジルに…」
「いえ、ジルにはちょっと危険が伴うけれどアベント侯爵家を調べてもらうわ」
「アベント侯爵家‥‥あのユーダリス様の家ですか?」
「そう。エルザでは顔が知られているから危険すぎるの」
エルザは静かに頷くと、茶器を持ち淹れた茶をゆっくりと味わう。
ヴィオレッタも香りを楽しんだ後に口をつけた。
「変わったお茶ね」
「はい。いつも茶を飲む温度では香りが飛ぶそうです。冷たすぎてもダメで体温より少し低めの温度で淹れるのが良いそうです。奥様のご実家からはいつも変わった物が届くので覚えるのは大変ですが楽しいですね」
そこに兄のエヴァンスが帰宅をするなり、ヴィオレッタを呼びながら廊下を歩いてくる。
聞える足音からすると、あまり機嫌が良くないのだろうとそっと茶器を置く。
案の定、ノックもなしに扉を開けると隣に腰を掛けるなりエルザに茶を頼む。
「ヴィオ。ここにいたのか」
「馬車があるのですから、屋敷のどこかにはおります。かくれんぼをする幼子では御座いません」
「それはそうだが…そんなのはどうでもいい」
前のめりになり、小さく「出た」とエヴァンスが呟く。
その小さな言葉をエルザは聞き逃さずに、目くばせをすると扉横に控えていた侍女が一礼をして部屋の外に出ると扉を閉める。扉の閉まる音に勇んだ事に気が付いたエヴァンスはキョロキョロと周りを見回し腰を下ろした。
「まさかとは思ったが‥‥3つ目で大当たりだった」
「大当たりでございましたか」
「騒ぎになるのも面倒だからな。規制線を張って箝口令を敷いてきたところだ」
「賢明な措置だと思います。この事を陛下は?」
「一報だけは入れてきた。だが詳細な報告はこれからになる。しかし何故判ったんだ」
「年齢と場所。それに少し藪をつついただけ。お父様がお帰りになれば五月蠅いでしょうねぇ」
「何を暢気な!こっちはこれからまともにブリンダとも会えないんだぞ」
「良いではありませんか。華を育ててこそ男の誉れですわ」
ヴィオレッタは1回目の人生を思い出してから何もしなかったわけではない。
習い事を初めてレオンとの時間を削減し、距離を取る。愛称で呼ばせないなど些細な事は行った。
中等部の3年間でヴィオレッタなりに調べる事は行っている。
ただ、未来の事は書物には当然記載はされてない。準える物はない。頼りは記憶のみ。
歪が生じるだろうというのは簡単に想像ができる。
何も知らない(思い出していない)者はその歪を歪と感じることなく生きている。
その場に順応するのに違和感を感じないものは記憶がないという事だ。
その為、身の回りで【同じ行動】をする者をチェックして調べる。
ヴィオレッタがもしやと思ったのは側妃のレクシーではない。
兄のエヴァンエスが大当たりだったと言うまでアレクセイ第二王子殿下ではないかと考えていた。
しかし、【大当たり】を見つけた事でアレクセイ第二王子殿下の線は消えた。
残るのは1人。もう少し探せばいるのかも知れないと思うが、今の時点では残りは1人である。
側妃レクシーはおそらく‥‥。そう考えるとブルリと震える体を自分の両手で抱きしめる。
ヴィオレッタに取ってユーダリスが早々に仕掛けてきたのは想定外だった。
勿論、本人自らが「前の人生」を告白するとは思ってもいなかった。
側近候補として中等部で接した時はユーダリスも警戒をしていたのかも知れない。
ユーダリスが記憶を持っているのは本当だろう。
語った中の半分は経験に基づくもの、残りの半分の半分は未体験の真実。残りは嘘と憶測だろう。
如何せん彼は動きすぎである。そして幼いのだ。
【好奇心は猫をも殺す】
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