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4話~仲間~
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~仲間~
カーテンの隙間から、まだ沈みきっていない夕陽の橙が差し込んでいて、木製のデスクに柔らかく影を落としていた。
窓の外からは、どこかの部屋で誰かが弾いているらしい古い楽器の音が風に乗ってかすかに聞こえてくる。
部屋は個室にしては思っていたよりも広く、造りも堅牢だ。
壁際には作り付けの書棚と小さなワードローブも備え付けられており、寝台はシングルサイズだが収納付きアルコーブベッドで、白を基調にしたカーテンがかかっていて、普段、ソファーとしても使えそうだ。
「……何この貴族仕様」
まあ、実際この体の持ち主は正真正銘、王家に次ぐ名門コルベール公爵家の嫡男。他の生徒もほぼ貴族だし、それも当然か。
俺は部屋の中央でくるりとひと回りして、改めて空間を見渡し、それから柔らかそうなベッドにダイブした。
「はぁぁああ。疲れたぁ」
……ふぅ、と小さく息をつく
加護を受けた『ベネン』を眺めてもまだ全然、実感がない。まるで舞台の袖に立って、幕が上がるのを待っている役者みたいな気分だ。いや、そもそも俺はこの劇に出演する予定のなかった部外者なんだけど……。
夢みたいな話――そう思う反面、体の下のベッドの感触や目に映る光景が、ここが現実であることを否応なく突きつけてくる。
異世界に転生して、しかも愛読していたBL小説の当て馬キャラになるだなんて、都合が良すぎて現実味がなさすぎる。しかし、俺は確かにここにいる。
仰向けになると見上げた低い天井は白く滑らかで、差し込む陽の光がゆっくりと形を変えながら移ろいでいた。
その時、ふと、先ほどのアルチュールの口の動きを思い出す。
「あとで行く」って……マジで来るつもり?
ああ、もう認めるわ。
この物語りの当て馬キャラって、こんなにモテ設定の人気者だったっけ?
そんなはずない、と頭を振る。
俺の知ってるセレスタン・ギレヌ・コルベールは、確かに見目麗しく聡明な青年だったが、自分の気持ちを言葉にするのが超絶下手くそで、大雑把に言えば堅物。ゆえに、肝心の本命である『金の君』には友人と思われたままなんら進展はなく、報われない片想いを抱え身を引く切ない役回りだった。
それがどうして、その本命のリシャール殿下に加えてアルチュール、ナタン、レオまで妙に好意的なんだよ。
「フラグ……、変わってないよな? 変な展開になったら俺、全力で逃げるぞ……?」
俺が好きなのは、オッパイであり、雄っパイではない。
不安を拭いきれないまま、もう一度深く息を吐く。
「はぁ、先ずは近い将来、来るかもしれない国を襲う厄災に向け、そして推しキャラたちを守るためにも、この学院で出来ることはやっておかないとな……」
だらりと伸び切った体の隅々に心の中で号令をかけ、起き上がって部屋の隅に置かれていたスーツケースに手を伸ばす。
既にこの世界は原作ルートから外れてしまっている。次に何が起きるかは分からない。しかし、少なくとも現在のセレスタンとしての学生生活が、今、ここから始まるのだ。
荷物をほどいてようやく現実的な「生活」の手触りを確認し始めた矢先――不意に、扉がコツ、コツと二度、控えめに叩かれた。
思ったより早い。「あとで行く」と言われたが、あれからまだ五分ぐらいしか経ってないような気がする。
俺は軽く身なりを整え、扉を開けた。
予想通り、そこに居たのはアルチュールだった。
「よう、入っていいか?」
軽く無造作にかき上げた前髪の隙間から覗く鋭い双眸に、一瞬たじろぎそうになる。近距離で見るイケメンは凄まじい。けれどその声音は、思ったよりもずっとくだけていて、やや気恥ずかしそうですらあった。
初めてお友達のお部屋に遊びに来ました、ってところだな。
「どうぞ。早いな。自分の荷物は片付けなくていいのか?」
「んなの、後でいいだろ」
学校から帰宅後、玄関で靴を脱がず、ランドセルを上がりかまちに置きっぱなしにして、そのまま友達の家へ走って行く昭和の子供か?
扉を開けて促すと、アルチュールは躊躇いなく一歩足を踏み入れ、そして、部屋の中をぐるりと見回した。
「同じ作りなんだな」
「ん?」
「てっきり、セレスの部屋はもっと豪華なんだと思ってた。……王家に次ぐ名家の嫡男だし」
俺は小さく肩をすくめ、曖昧に笑った。
「殿下の部屋も同じだと思うぞ」
実際、原作でも各生徒の寮の間取りに違いはない。
「へえ、そうなのか」
無遠慮に歩を進めながらそう言ったアルチュールの視線が、ふとデスクの上で止まる。
彼の長身が影を落とす先には、担当するプティ・フレールが俺だと分かったあと、レオが急いで作ってくれたサシェと小さなメモがあった。
アルチュールの眉が、ぴくりとわずかに動いた。笑みも消えて無言のまま、表情がやや強張る。俺は内心で「あ、拗ねた」と気付く。口元はへの字。でも目線はメモから離れない。分かりやすすぎて可愛い……、などと一瞬、思ってしまった。
「セレスのグラン・フレールはやけに気が利くんだな」
アルチュールはそっけなく言いながら部屋の反対側の壁に視線を移す。
そのとき、また扉が「コンコン」と控えめに鳴った。
アルチュールに軽く目配せしてから扉を開けると、現れたのは予想を裏切らない顔ぶれ――リシャール殿下とナタンだった。
「セレスさま、荷解きは順調ですか?」
先に口を開いたのは、ナタン。
「いや、まだだけど別に手伝わなくていいぞ。自分で出来る」
ナタンは「いえ、別に手伝いに来たわけではなく、このあと、一緒に食堂に行こうと誘いに来ただけです」と笑みを浮かべ、そのまま部屋の中に足を踏み入れる。「まさか、先客が居るとは思いませんでしたけどね」
ナタンの視線が、デスク前のアルチュールの方へと流れた。何気ないように見える仕草に、わずかに探るような色が混じっている。
続いてリシャール殿下も部屋に入って来た。その動きに一切のためらいはなく、あまりにも自然で、まるでここにいるのが当然とでも言いたげだ。
「来る途中、リっシャーールと会いました」
「殿下と呼べ。邪魔をするよ、セレス」
何この、異常にイケメン密度の高い空間。
こんな展開望んでたわけじゃないんだけど……。
そんな俺の内心とは裏腹に、その場の空気は以外にも和やかで、結局、四人で他愛もない話をしながらまったりと過ごした。
やがて時計塔の鐘が鳴り、「じゃあ、行こうか」とリシャール殿下が立ち上がる。
こうして、顔面偏差値の暴力ともいえる三人に囲まれた中身こってり腐男子オタクな俺――という、なんともチグハグなパーティーで、食堂へと向かうことになった。
センター俺、左右にリシャールとアルチュール、背後にナタン……、なにこれ、「何とか教授の総回診」じゃねぇんだよ――。
༺ ༒ ༻
それから一週間が過ぎた。
その間、俺たち『サヴォワール』寮生を含む一年生は、校舎内の案内や教科書の配布、各種オリエンテーションに追われていた。学院の規則や授業の進め方、学内の施設の使い方など、初めての環境に戸惑いながらも少しずつ慣れていった日々だった。
慌ただしさに紛れて、ナタンともゆっくり話す機会がほとんどなかったぐらいだ。朝夕に四人で顔を合わせる程度で、食事は授業開始までは決められた席でとることになっていたため、自由に話せる時間は限られていた。
そして迎えた朝。朝靄の残る校庭に本鈴の鐘の音が響き渡る。初春の肌寒い風が袖口をくすぐるなか、俺たち一年生は本校舎の中庭に整列していた。
いよいよ、初めての正式な授業が始まる。
先ず、第三寮『ソルスティス』の寮監、ルシアン・ボンシャンが生徒たちに命じたのは、魔術適性に応じた属性ごとのチーム分けからだった。
それは、生徒一人一人の属性をお互いが確認すると同時に、今後行動を共にする可能性のある同じ属性の仲間たちとの初顔合わせを兼ねたものでもあった。
風、火、水、土――魔術の属性は、表向きにはこの四種だけ。
だが、『光』の存在については、一切言及されることはなかった。
それは、俺の持つ『光属性』に関して、かなり厳重に箝口令が敷かれ、学院内でも限られた者しか知らない秘密事項となったからだ。
加護の授与に同席していたリシャール殿下やアルチュール、ナタンたちも例外ではなく、昨晩、夕食後に個別に呼ばれ、口止めされたと本人たちから聞いている。
もっとも、彼らが軽々しく外に漏らすような人物でないことは、言われるまでもなく分かってはいるが……、
いや、ナタンなら機会があれば、「うちのセレスさまは、光の属性もお持ちなんですよ」とか自慢気に言いかねない……、と想像して、思わず苦笑が漏れた。
――不安はつきない。
原作の展開からすでに逸脱してしまった今、俺の知る「物語」は、もう当てにならない。
この先、何が待っているのか? 微かなざわめきが心の底にじんわりと沈んでいる。
「では、これより一人ずつ魔術師の伝書使となる“コルネイユ”の卵を授けます。各自、この授業が終わったあと、一旦、自室に戻って保管し、一日一度、忘れずに魔力を与え、大切に育てて下さい。魔力の与え方については、第二寮『レスポワール』のジャン・ピエール・カナード寮監が後ほどお話しいたします。また、孵化の時期は個体差がありますが、強い魔力を感知すればより早く殻を破ることでしょう」
長い灰色の髪をまっすぐに伸ばし、後ろで一つに束ねたルシアン・ボンシャンは、始終穏やかな笑みをたたえながら、静かにそう告げた。
年齢でいえば五十代後半のはずだが、どう見ても三十代前半にしか見えない。もしかして人魚の肉でも食べたのか、何かの仮面でも着けたのか――そんな突拍子もない妄想が浮かんでしまうくらい、彼は現実離れした雰囲気をまとっている。
原作本編では、実は、他の講師全員が束になってかかっても敵うかどうかは分からない最強の魔導士と表記され、剣術魔法の授業が『サヴォワール』のデュボアが担当しているのは、ボンシャンに任せると下手したら死人が出るかもしれないから――などと実しやかに噂されていたりする。
「では、デュボア先生、配布をお願い致します」
「おうよっ。任せとけ」
ボンシャンの指示のもと、デュボアが大きな木箱を抱え、整列した一年生に次々と卵を手渡す。
木箱の中からひとつずつ取り出されるそれは、硬い漆黒の殻に覆われていた。
生徒たちは、にわかにざわめき、期待の混じった視線を交わしている。
この世界において、コルネイユは伝令や私的通信に主に使われていて、彼(彼女)らは主に似た性質を持つと言われるのだが、つまり、それは育て方次第で性格や能力が変わるということだ。
……育て方次第。
俺が孵化させたら、伝令を途中で落っことしてきたり、勝手にどこかへ寄り道したり、人気のない所で二人っきりで居る生徒を身を潜めて観察するコルネイユになったりして?
そんな想像がふと頭をよぎり、思わず自分で笑いそうになる。
――いやいや、真面目にやらねば。
そう気を引き締めたところで、ついに俺の名前が呼ばれた。
「セレスタン・ギレヌ・コルベール」
名を呼ばれデュボアから渡された卵を両手で慎重に受け取った。大きさは、片方の掌にすっぽりと収まるほど。表面は絹のようになめらかで、ほんのりとした光沢を帯びている。触れた瞬間ひんやりとした感触が指先に伝わり、その奥に、まるで水底で鼓動する心臓のような命の気配があった。
生きている。
これはただの卵ではない。
まだ殻の中に眠っているのは、これから自分と共に歩む存在――。
辺りを見渡せば、他の生徒たちもそれぞれに卵を手に取り、どこか神妙な面持ちでその存在を確かめていた。アルチュールは驚きや興奮を隠せず、ナタンは困惑をにじませていて、リシャール殿下は愛おしげに微笑みかけている。
やがて全員に卵が行き渡ったことが確認されると、第二寮『レスポワール』の寮監、ジャン・ピエール・カナードがひとつ息を吐き、首元に手を添え、青竹色のアスコットタイに軽く指を滑らせてから、ゆっくりと前へと進み出た。
とたんに空気がすっと引き締まり、周囲が自然と彼に注目する。
言葉を発する前から、彼の存在そのものが場を律する力を持っていた。
「それでは――コルネイユの卵への魔力の与え方について、このように木でできた模造卵を使い、実演を交えて説明する」
カナードは、背筋を伸ばしたまま、ジャケットのポケットから黒い卵を取り出した。
年齢は三十歳前後。短い薄茶色の髪を几帳面に撫でつけ、整った顔立ちに縁の細い眼鏡をかけている。その印象は一言で言えば「理知的」で、無駄な感情を排した静けさの中に、確かな自信と冷静な判断力が滲んでいる。
また、「彼の講義は明快かつ的確」、「一分の無駄もない洗練された言葉で綴られ、聴く者の理解を自然と導く力がある」と原作内でも評価されていた。生徒の間で密かに『インテリ眼鏡くん』というあだ名で呼ばれるシーンが何度か出て来たが――もっとも、それを本人の前で口に出来る者は一人としていなかった。
「今、皆の掌の中にある卵は、まだ未成熟の魔導生物。これに適切に魔力を分け与え、徐々に慣れさせ信頼関係を築いていくことで、やがてコルネイユは孵化し、君たちの最初の従者となるだろう」そう言って、カナードは掌の上の卵にそっと指先を添え、「まず、深く息を吸い……、自分の内なるサリトゥに意識を向ける。心を静かに。雑念は排除。次に、胸元に満ちる魔力を一点――この卵の中心にある核へ向け、糸を垂らすように送り込む」と続けた。
静寂が周囲を包む中、カナードの言葉に合わせるように、彼のベネンがふわりと淡く発光した。卵の表面には微細な紋様のような光が一瞬浮かび上がり、それが波紋となって静かに広がっていく。
「魔力は、強すぎてもいけないが、弱すぎても通じない。相手はまだ生まれていない命だということを忘れないように。はじめは自己紹介のつもりで、「自分はこういう者だ」と伝えればいい。大切なのは、支配と従属ではなく協調と対話、通じ合うこと」
その言葉には、どこか詩のような響きがあった。理論的でありながら感情を内包し、静けさの中に確かな情熱を感じさせる語り口。
しばしの静寂ののち、隣に立っていたルシアン・ボンシャンが優しく口を開いた。
「では、今から一分間、皆さんも自分の卵に少しだけ魔力を流してみてください。深呼吸して、焦らず……、感覚を探ることから始めましょう」
その声は、まるで風に乗る囁きのように穏やかで、しかし不思議なことに生徒全員の耳にしっかりと届いた。ひとつの指示が、静かに、けれども確かに、空間を包み込む。
生徒たちは一斉に、両手の中の卵へと視線を落とし、俺もまた、ゆっくりと目を閉じ心を鎮めた。
掌に感じる卵の重み。その奥に、かすかな命の鼓動を感じながら、胸の奥に渦巻く魔力を――そっと、静かに流し込んでいく。
――この卵から、どんなコルネイユが生まれるんだろう?
胸の奥に漂う期待と不安。そのふたつが静かに溶け合い、ひとつの想いとなって、そっと卵の核へと流れ込んでいく。
それがどんな姿を持ち、どんな性格で、どんな「声」で俺に応えてくれるのか。
だが、その疑問は、早くもその日の夕方、予想外の形で答えを得ることになる。
初日の授業を平穏無事に終え、夕暮れの光が学院を茜色に染める頃、俺は、リシャール、アルチュール、ナタンと連れ立って食堂を後にした。
道すがら、リシャール殿下は相変わらず気さくにナタンと談笑している。その笑い声は澄んでいて、いつもの王族然とした振る舞いとはまるで別人のようだった。時折り、ほんのわずかに屈託のない少年の表情を見せるが、これがきっと彼本来の素顔なのだろうと思う。
ナタンの方はといえば、相変わらずのマイペースぶりだ。
俺……、というより正確には「セレスタン・ギレヌ・コルベール」本体を、彼の中で最上位の主として認識しているためか、王太子に対する態度はいたってぞんざい。敬語どころか、敬意のかけらも感じられない。
それがかえってリシャールには心地よいのか、気を遣われることに慣れすぎた王子にとってナタンの歯に衣着せぬ言葉は新鮮な風……いや、暴風のように感じられているのだろう。
かたや、俺の隣を歩くアルチュールは、始終変わらぬ穏やかな表情で、歩調をぴたりと合わせてくれていた。さっき食べた肉が柔らかかったとか、お代わり自由のスープが美味かったとか、そんな会話の途中、時折、こちらに視線を向けては優しく微笑むその様子に、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。……こっちは、ワンコの散歩かな。
しかし、この淡々とした時間が、どこかやけに贅沢に思えた。
推しと並んで歩ける日が来るなんて、ドメワンのページを何度も読み返していたあの頃の俺に教えてやりたい。
今のところ、『腐』的な供給は全くない。アルチュールとリシャールの間には、原作にあったような甘い気配も、運命の糸も、残念ながら見当たらない。
けれど、推しの近くに居られるというだけで、充分に活力となってくれる。
やがて寮の三階、自室の前にたどり着いて、「んじゃ、また明日」と、俺が手を振ると、ナタンが「しっかり休んでくださいよ、セレスさま」と軽く頭を下げ、リシャールも少し声を潜めて「おやすみ、セレスタン」と言ってくれた。アルチュールは最後に「よい夜を」と、囁くように微笑んでから、名残惜しそうに背を向ける。
そして、俺は自室のドアノブに手をかけた。
――と、その瞬間、
指先に、緊張が走り、ベネンがほんの僅かに熱を持った。
気配を感じる。
意を決してドアを開けると、室内の釣り灯と壁面灯がふわりと柔らかい光を放つ。各部屋の照明機器は火属性の魔法陣を内蔵した魔道具で、陽が暮れると足音や気配を感知して自動的に明かりが灯るよう設定されている。もちろん、所定の呪文『アリューム』『エンドゥ』を唱えれば、点灯、消灯することも可能だ。
静かで、整った空間。
けれど、明らかに空気の密度が違っていた。肌を撫でるような、張り詰めた気配。
――何かがいる。
そんな確信に近い直感に促されながら、俺はベッドに視線を向け、枕元の小さなクッションの上に乗せていた黒い卵を見て息を呑んだ。
――表面に、ひびが入っている。
「うそだろ。今朝、魔力を通したばかりだぞ? それも、一回……」
思わず口に出し、慌てて傍に腰を下ろす。ひびは一箇所だけではない。蜘蛛の巣のように細かく広がっていて、その中心から微かな音が聞こえた。
コツ……コツ……。
規則的でありながら、心細い。けれど、それが確かに内側から発せられていることは間違いなかった。
「まさか……、今?」
瞬きも忘れて見つめる中、卵の殻の一部がぱきりと割れ、白いものが覗く。
驚いたことに、隙間から見えたそれは雪のような羽根だった。
さらに、ぱらぱらと殻が崩れ落ち、はじめに小さな頭がのそりと動いたあと、殻は花が開くように綺麗に割れ、全身が真っ白な羽毛に包まれた掌に収まるほどの小さなコルネイユが現れた。
だが、その白はただの白ではなかった。
一枚一枚の羽根の先端には、まるで真珠を極限まで小さくしたような粒が付いていて、それらが灯りに反射し、淡く光を放つ。虹色のヴェールを纏ったような繊細で美しい輝きがあまりにも神秘的で、この世界の理の外側から舞い降りてきたかのような気配すらまとっていた。
しばらく呆然と見惚れていると、白いコルネイユが静かに目を開けた。
驚くことに、瞳は、ルビーよりも赤く、まっすぐこちらを見上げている。
小さな嘴が、微かに動く。
息を詰めたまま、そっと両手を差し出すと、コルネイユはしばらく俺の顔を見つめていたが、やがてゆっくりと首をかしげてから、ひょい、とその細い足で掌に乗った。
柔らかくて温かい。
「……生まれた、んだな」
俺の掌の中で、コルネイユは僅かに羽をふるわせ、真珠のような粒が、室内灯の光りで星のように瞬いた。
ついさっきまで、たしかにただの卵だったもの。
いや、ただの卵ではなかったかもしれないけれど、卵であったことは確かだ。
しかし、今、俺の手のひらには、小さな命がいる。
胸の奥が、じんわりと熱くなった。この美しい鳥が、俺――いや、セレスタンの伝書使となる存在。
滅茶苦茶カワイイじゃねえか! まさか初日に孵化するとは思わなかったけどな。
「……しっかし、見たことないぞ、こんなの。白だなんて。いや、そもそもコルネイユって黒いもんだろ」
原作に、こんな個体はいなかった。
規格外。イレギュラー。あるいは――光の属性、チート能力の影響か。
「……こっちも色々あったけどさ、お前も普通じゃなさそうだな?」
小さなコルネイユは、じっと俺を見つめている。
「ようこそ」
思わずそう口に出したとき、赤い瞳がぱちりと瞬き、一度羽ばたいたあと、俺の肩にちょこんととまった。
まるで、そこが最初から自分の居場所であるかのように。
「……さて、これからどうすればいいんだ?」
俺は溜息をついた。
孵化は本来、もう少し先。早くて二十日、遅くて一カ月はかかる。それが初日にしてこの状態。
イレギュラーであるのは間違いない。
肩の上のコルネイユは身体を丸め、俺の首筋に温もりを預けてきた。
現実問題として――どうしたらいいのか、お手上げだ。
先ず、誰もこんなに早く殻を割って出て来るとは微塵も考えていなかったから、寝床もエサも、水も、何ひとつ用意されていない。
元々、コルネイユの成長は早い。生まれて大人になるまで、たったの一カ月足らずだが、その間は、主となった生徒が寮室で世話をし、育て上げることになっている。食事を与え、魔力を与え――成長の過程全てにおいて主が関わり、共に過ごすことで、絆を育んでいく。
そうして築かれた信頼関係は、成鳥となり、寮の時計塔にある専用の小屋や、中庭で他の仲間たちと過ごすようになった後も、決して消えることはない。彼らは主の呼びかけに応え、命じられれば知性ある魔術的存在として働く。勿論、人語を理解し流ちょうに操る。
それが、この学園における原作設定にも出て来た育成課程だが――それも『通常の孵化スケジュール』の話。
卵を受け取ったその日に生まれたこの個体に関しては、まったくの例外。
今、俺と共にいるこの白い雛鳥は、既にその常識から大きく外れている。
両隣の二人とナタンに相談するべきか……、いや――。
「……ここはグラン・フレールだよな」
俺は割れた殻もそのままに、肩の上の雛鳥を左の掌に誘導し、制服姿で部屋を出た。階段を降り、幸いにも誰とも出くわさずにレオの部屋の前までたどり着く。
「失礼します。セレスタンです」
軽くノックをすると、間もなくして内側からノブが回る音がしてドアが開いた。
「どうした、セレス?」
扉を開けたレオは、丈長の白いリネンの部屋着に鮮やかなティールブルーのナイトガウンを羽織って、目元に僅かな疲れの影を滲ませながらも相変わらず砕けた調子でそう言った。だがその視線が、白いコルネイユに届いた瞬間、眉を跳ね上げる。
「おい、ちょっと待て、それって……」
「勉強中でしたか?」
「そうだが、丁度、休憩をしようと思っていたところだ」入り口からは、奥のデスク上に山積みになった本が見えていた。「――って、そんなことはどうでもいい。兎に角、俺の予想が当たっているのなら、それは拾ったとかではなく、まさかとは思うが……、もう孵ったのか? 初日、一番初めの授業で伝書使の卵が配られる。つまりそれは、今朝、受け取ったばかりだろう?」
俺が小さく頷くと、レオは一瞬だけ唖然としたような顔をしてから、直ぐに「よし、中入れ。話はそれからだ」と笑った。
「お邪魔します」
「散らかってて悪りぃ。課題やってたけど、セレスが帰寮後に制服のままルームシューズにも履き替えずに来たってことは、ただ事じゃないってことだからな」
俺は軽く礼をしてから促されるまま中に足を踏み入れた。
「ようこそ、弟くん。さあ、座って」
レオは、デスクの上にあった本を脇に避け、今しがた自分が座っていただろう椅子を俺にすすめた。そして、本人はベッドサイドに置いていたオットマンを引きずって来て腰を下ろす。丸く膨らんだ座面の縁には金糸の飾り紐がぐるりと巡らされている。
「で、状況は?」
「朝に一度、魔力を与えただけで、ついさっき殻を割って出て来ました。特に何かしたわけでもなく、ベッドのクッションの上に置いていたら、勝手に……」
「白い羽毛に、赤い目か……。見た目からして異例だな。伝書使になるコルネイユの卵ってのは、配られる前、個体の差異が大きく出ないよう、こと細かに性別鑑定に至るまで事前に魔術で均一に管理されている。ってことは、つまり――」
「特異な個体、ということですよね?」
俺が言うと、ああ、と静かに頷いた。
「……まあ、そうなる。だけど、特異ってのは悪い意味じゃない。セレス、何か呪文でも唱えたか?」
「いえ、なにも」
「そうか」
レオは小さく笑って、身を乗り出した。何故か目を輝かせている。
「楽しんでます?」
問いかけると、レオは口の端を上げていたずらっぽく笑った。
思わず、「#ふつくしい」のタグを付けたくなる表情だ。
「魔術絡みの不可解な現象ってのは、何かの兆しだったり、新しい発見の種だったりするからな。しかもセレスの伝書使は白――全身、真っ白だろ? 色素欠乏って風ではなく、明確に『白』ってのが面白い」そう言って、レオは俺の手の中の雛鳥に、人差し指でそっと触れた。「――セレス自身が、何か相当変わった魔力の持ち主ってことかもしれない」
俺のグラン・フレールは、中々の慧眼をお持ちらしい。
「孵化まで最低でも二十日かかるってのは、エネルギーの蓄積と、個体の準備期間込みってことだ。それを約半日で突破したとはな。凄いな」
撫でられているコルネイユは羽をふるりと揺らし、目を細めた。雛特有のふやけた表情が庇護欲を掻き立てられる。
「……はは。かわいいじゃねぇか、コイツ」
レオが楽しげに笑うと、コルネイユが小さな声で「ぐふぅ」と鳴いた。
……今、「ぐふぅ」って言ったか? 言ったよなこいつ……?
どことなく満更でもなさそうな表情で、レオの指に頭をすり付けている。
……男子寮に配られる卵は、雄――。確かに原作でもそうだった。雌ではない。はずなのに、何この懐き方は……?
「しかし、これはもう俺だけじゃ対応しきれないな」レオは腕を組んで暫く考え込んだあと、直ぐに首肯した。「今からデュボア先生のところへ行こうか。報告と記録と管理が必要になる。餌と籠も。即、手配できるはずだ」
「お願いします」
コルネイユはレオの視線を一瞥すると、欠伸をしてから手の中で羽毛を膨らませて丸くなった。レオは一瞬、口元をほころばせ、「寝床を用意してやるからな」と言って、俺と一緒に部屋を出た。
中庭に面した回廊を暫く並んで歩く。
職員寮の二階にヴィクター・デュボアの部屋はあった。
レオが軽くノックすると、部屋の奥から無骨な男の声が聞こえた。
「誰だ?」
「レオ・ド・ヴィルヌーヴです。セレスタン・ギレヌ・コルベールと一緒に、報告があってまいりました」
短い沈黙の後、中から重たい扉が開く。
出てきたのは、絹のように滑らかな光沢を放つ薄象牙色の上質なガウンの下から筋肉質な胸元をのぞかせた屈強な男――サヴォワール寮の寮監、ヴィクター・デュボア。逆立つような短髪をわしわしと掻きながら、彼は俺とレオを順に見やった。
「何事だ?」
レオが一歩前に出て応えた。
「セレスの伝書使が先ほど孵化しました。あまりにも早すぎるため、報告と確認を兼ねてご相談に伺いました」
その言葉に、デュボアの表情が引き締まる。
俺が掌を差し出すと、彼の視線が白い雛へと注がれた。
「成る程、これまた、随分と珍しい色だな」
コルネイユは俺の手の中で目を細め、軽くくちばしを鳴らした。その仕草に、デュボアの顔がくしゃりと綻ぶ。
「うん……。よし、中へ入れ。話を聞こう」
促されるまま俺とレオは部屋に入った。木製の棚には魔術理論書と魔動物図鑑が雑然と積まれ、壁には武具と共に古そうな魔道写真も何枚か飾られている。その前に、小さな丸テーブルを囲むようにして、二人掛けのソファーと一脚の肘掛け椅子が置かれていた。散らかってはいたが、不思議と居心地の悪くない空間。規律よりも実用を重んじる性格が、そのまま部屋にも表れているのだろう。型破りで、けれど信頼に足る人物の生活の一端を垣間見たような気がして、俺は思わず心の力を抜いていた。
「まあ、座りなさい」
促され、レオと並んでソファに腰を下ろす。デュボアは報告書と思われる書類と水差しとグラスが置かれたテーブル越しに、肘掛け椅子へと体を預けた。
寮監の部屋は単なる宿舎ではない。寮務や管理記録もこなす作業場を兼ねている。
俺が手の中の雛をそっと撫でていると、デュボアが俺たちをリラックスさせようとしているのか、満面の笑みを浮かべてこちらに目を向けた。
「てっきり、交際宣言でもしに来たのかと思ったぞ」
その唐突な一言に、俺の思考は一瞬フリーズした。
「……はぁ~?」
間の抜けた声が勝手に口から漏れる。一方で、隣のレオはというと、唇の端を愉快そうに持ち上げた。
「それでもよかったかもしれませんね」焦る俺を尻目に、レオはしれっと続けた。「『銀の君』は人気者ですから、先手が肝心かと」
「なっ、なに言って……!」
耳まで赤くなった俺を見て、ヴィクターがガハハと笑い、レオも続いて笑いながら、「冗談だ」とさらりと流し、肩をすくめた。「ちょっと乗ってみただけだ」
「びっ、びっくりするじゃないですかっ」
その時だった――。
「うっ……、ん゛ん゛ん゛尊い……」
手の中の雛が、うつむいてふるふると身を震わせながら、感極まったような調子でぼそりと小さく呟いたのだ。
俺は静かに息を呑み、笑っているレオとデュボアに気づかれないよう、そーっと目線を合わせた。
赤くつぶらな瞳が、まっすぐ俺を見つめ返してくる。
え、待って、やばい。この子、残念な子だ……。
左の翼を自らの胸に当て、背を丸めてふるふると肩を揺らすように震えるその姿は、まるで二次創作の濃厚CPに遭遇したオタクそのもの。
――この雛鳥、腐ってやがる!!
俺は心の中で絶叫した。
日本で、モノノイ・マリンボール先生の小説に悶絶していた自分。数々のカップリング論争に心を焦がし、夜な夜な推しカプの考察に耽り、妄想と愛で日常を回していた俺にそっくりじゃねぇか!?
まさか、この異世界で……、しかも俺の伝書使として目覚めた存在が、同じ志を持つ仲間だったとは。
俺は思わず、雛鳥をぎゅっと胸に引き寄せそうになって、寸前で思いとどまる。
冷静になれ、セレス。いや、伊丹トキヤ。
「セレス?」
レオが小さく首を傾げてこちらを見ている。
デュボアも心配そうに眉を寄せ、重厚な声で問いかけて来た。
「コルベール、どうかしたか? ――無理もないか。こんな異例の事態は。俺も初めてだ」
そう言って椅子からゆっくり立ち上がると、部屋の奥の棚を探り革張りのバスケットと小袋を取り出して来た。
「先ずは、寝床だが……、少し古くてすまないが、このバスケットは寒さも魔力の干渉も防げる特製品だ。しばらくはこれを使ってくれ。袋には浄化魔法をかけた清潔な巣材が入っている。後日、また新しいのを渡す。餌は、孵化直後のコルネイユ用に調合されたものを使うんだが……、これは、あとで隣の薬草研究室にレオに取りに行ってもらって鳥籠も届けさせるから心配はいらない」
バスケットを手渡しながらデュボアは俺をまっすぐ見つめる。
「お前が不安になるのも当然だ。けれど、これは異例ではなく特例。珍しいというだけで、排除されたり孤立したりすることはない。明日には他の寮監とも情報を共有して、正式に対応を協議する」
その声には、どこか人としての温かみがあり確かな責任感と信頼が込められていた。威圧でも慰めでもない――。
デュボア先生、ご心配をおかけして申し訳ございません。腐男子鳥との出会いに舞い上がっていただけです……、とは言えない。
あと、転生前にドメワン友達がネットでデュボア先生のことを『陽だまりのゴリラ(褒めてます)』って呼んでて、うっかり共感してしまった過去もお許しください……。すみません。
……と、心の中で土下座していると、目の前のその人は真摯に正面から俺を見つめていた。
「お前は、ただこの雛鳥を大切にしてやればいい。あとは、俺たち大人の仕事だ」
頼れる大人の気遣いに、一瞬、言葉に詰まったが、俺は笑顔を作って答えた。
「はい。ありがとうございます」
そっと掌の中へ目配せを送る。すると、まるで通じたかのように、雛は小さくくちばしを鳴らし、再び丸くなって羽毛を膨らませた。
どうやらさっきの「尊い」と呟いた声は、レオやデュボアには届いていなかったようだ。もし聞かれていたら、確実に説明がつかない。しかし、この世界に来て、初めて出会った『腐仲間』かもしれない相手がまさか自分の伝書使とは……。
白い雛鳥がくくっと喉を鳴らした。それが、どこか得意げに聞こえたのは、きっと気のせいではない。
「それから、割れた卵の殻は部屋にあるな?」
「はい」
もちろん。
魔力を注がれ孵化したあとのコルネイユの卵殻は、極めて希少な素材。それを魔法で一塊にすると、主と伝書使専用の通信稀石となる。この知識は、魔法学院の生徒はもとより、王都や辺境の住民にとっても常識。
原作では、学院に通うキャラクターと伝書使たちは皆、いつも身に着けやすいものに加工して肌身離さず持っていた。
まさか、今こうして自分がその現物を手にする日が来るなんて――。思わず、胸の奥がじんわりと熱くなる。無理、死ぬ。
「細かい破片も全て取っておいて、明日、また授業が終わったらここに持って来るように。『ソルスティス寮』寮監のルシアン・ボンシャン先生が魔力を込めた専用の瓶を用意しておく」
「分かりました」
デュボアは視線を落とし、低く静かな声で続けた。
「――で、名前は、もう決めたか?」
「名前……」
思わず聞き返すと、彼は俺の手元に視線をやりながら、言葉を継いだ。
「名を与えるってのはな、ただの飾りじゃない。主が己の使いに名を付けるってことは、その存在をこの世界に刻むってことだ。誰でもない『それ』が、お前の『大切な存在』になる瞬間。まあ本来、命名までの時間は、せめて二週間以上あるはずなんだが……、直ぐに決めなきゃならないのは少し気の毒だとは思っている」
レオが隣で穏やかに微笑んだ。
「セレスなら、きっと素敵な名前を付けるさ」
俺は、雛鳥を見つめた。ふわふわの羽毛は、雪のように白い。
確かこの世界の言葉で『雪』って……、
「……『ネージュ』っていうのは、どうでしょう?」
俺の提案に、赤い瞳が、まっすぐこちらを見つめ返してくる。
――気に入ってくれたらしい。
レオが笑みを深める。
デュボアも腕を組んだまま、ゆっくりと頷いた。
「白いやつに、よく似合ってるな」
俺の中に、小さく、でも確かに何かが灯った気がした。
寮の自室に戻ると、俺はすぐにネージュをデスクの上に降ろし、バスケットの中に巣材を敷き詰めた。デュボアの言っていた通り、革張りの外装には小さな魔法陣がびっくしりと刻まれていて触れるとほんのりと温かい。例えるなら、外気温に応じて自動で温度調整をする電気毛布といったところか。
俺が寝床を作っているのを真横でまじまじと眺めていた白い雛鳥が、小さくくちばしを鳴らして羽をふるわせる。
「ほら、お前の家だ」
指の先にそっと乗せて、バスケットの中央に降ろすと、ネージュは少し歩いてからふかふかの巣材の上にちょこんと腰を下ろし満足げに目を細めた。
「――うん、まあ、悪くねぇな。初日にしちゃ及第点ってとこか」
「……ぇ?」
「とはいえ、シルクのクッションがあればもっと良かったかな。ブルー系の。ほら、レオが着ていたガウンみたいな緑がかった青。ああいう色合い、落ち着くんだよ」
…………、
「ええぇぇえ!?」
あまりにも自然に、しかも妙に落ち着いたバリトンボイスで語り出したその声に、俺は思わず目を見開いた。
まさか……、この静謐な気配を纏う月光の化身みたいな見た目のコルネイユが、こんな声でこんな口調で喋るとは、誰が想像するかってぇの。
「ちょ、ちょっと待って!」
「どうした、主? 無理、しんどいか?」
真顔で問い返してくるその口調はどこか気遣ってすらいて、逆に怖い。
確かに、『ちょっと待って=突然の衝撃』、『無理=受け止められない』、『しんどい=思考回路が追い付かない』という現状は合っている。
合っている。うん合ってるな。
いや、だが、違う、そうじゃない!!
「なんでそんなに喋れる!?」
「あん? そりゃ喋るだろ。何をそんなに驚いてんだ? お前ぇさん、自分が何の属性持ってるのか忘れたか? あんな強烈な魔力流されたら、そりゃ卵だってびっくりしてひっくり返って直ぐに孵っちまうだろ。殻の中で高速回転するかと思ったわ」
「口悪りいな!?」
「いやいや、お前ぇさんの記憶から出来てるんだけどなぁ……、そのへんの口調」
「……はいぃ~?」
「お前ぇさんが魔力注入したときな、すげぇ量の記憶という情報も雪崩れ込んできたんだわ。全記憶ではなかったにしろ、こっちはまだ胚子だったってのによ。まるっと『人格形成』ってヤツを時短で済まされた感じ」
「それ、俺のせいってこと!?」
そういえば――、
伝書使のコルネイユは主に伝令や私的通信に使われていて、彼(彼女)らは主に似た性質を持つ。
それは育て方次第で性格や能力が変わる。
あっ……、俺のせいだわ、これ。
「造形美という言葉だけでは足りない、人を惑わせる冷たい美貌を持ちながら、中身はちょい悪。だが、弱き者の涙だけは見過ごせない一本芯が通ったバリトンボイスのスパダリ攻め。お前ぇさんの理想、つまり『推しを形にした相棒』――で、俺が産まれたってワケ」
「うわああああ! やめてぇえええ!」
どこぞの赤ちゃんミームかよ!
つまり俺は、無意識のうちに理想の相棒を具現化した結果、人格未完成の段階から中二病の塊みたいな美形のコルネイユをひねり出してしまったってこと!?
恥ずかしさで身体が熱い。むしろ燃えて灰になりたい。お願い、誰かこの記憶をフォーマットしてくれ……!
内包していた癖を他者によって外部に晒され限界を迎えた俺は、ベッドにダイブした。クッションの弾力が一瞬だけ全てを受け止めてくれたが、現実は容赦なくのしかかってくる。
殺しに来てやがる! も~やだ~~!
「あっ、もしかして……」
「何だ?」
「お前、俺が転生してきたってことも……」
「知っている。情報と感情が混ざった強力な魔力が卵に注がれりゃ、趣味も、性癖も、BLの推しカプ傾向も、まるっとお見通し。もう隠さなくていいぜ。ここでは俺が唯一の『腐仲間』。安心して萌え語りをしろ」
「もう、ほんと無理ぃいいい!!」
誰か助けて。
その時――、
コンコン、と控えめなノック音が聞こえた。
「セレス、俺だ。エサを持ってきた」
……救世主、キターーーーーーー。
飛び起きてドアを開けると、片手に学院の紋章が入った大きな手提げの皮袋を持ったレオが立っていた。
袋の口はきゅっと紐で結ばれていて中は見えないが、ほんのりと穀物や果物、他にもハーブのような香りが漂ってくる。鼻をくすぐるその匂いに、バスケットの中のネージュがピクリと反応した。
「悪いなセレス、遅くなって」
「いや、全然……! 良かった! 今ちょうど、ひと段落ついたところで……、あっ、中入って」
嘘はついてない。段落どころか精神的には章が終わったくらいの打撃を受けたが――。
閉じられたドア越しに廊下の気配が遠のいていくのを感じながら、俺は心の中で手を合わせる。
レオが来なかったら、情報量が多すぎて脳がショートしてたんじゃないだろうか。
「本当に助かる」
「セレスが伝書使を無事に育てるのは、担当のグラン・フレールとしても喜ばしいことだからな」
俺に袋を手渡しながらレオが興味深げにバスケットを覗き込むと、ネージュは彼を上目遣いで一瞥したあと小首を傾げてピィとだけ鳴いた。孵ったばかりであることを踏まえてか、流石に自分がベラベラ喋れるとは思われたくないらしい。
しかし、猫をかぶるのが実に上手いな、鳥のくせに。
「セレス、皮袋の中から先ず鳥籠を出して机に置いて。そして、その中に入っている容器を取り出して、水を」
レオに促されて俺は袋の紐を解き、中身をのぞき込んだ。縦長で丸屋根型の籠の中に容器と小さな布袋がいくつも詰められていて、それぞれに「朝」「夜」「回復」などのラベルが丁寧に縫い込まれている。
なるほど、デュボア先生、さすがぬかりない。
言われた通り、それをデスクに置いてアーチ状の大きな両開き扉を開け、中から小さな陶器の水入れを取り出す。籠本体にも透かしもようの中に魔術刻印が刻まれているが、この水入れも魔道具なのだろう。器の底には細やかな意匠で浄化の魔法陣が描かれている。見た目にも機能にも無駄がないその造りは、どこか品格すらあり、美しい。
俺はデスクの端にそれらを並べ、置いてあった水差しからこぼさぬように水を注いだ。
すると、ネージュはバスケットの中でくるりと身を翻し、白い翼をふわりと広げて軽やかに跳ね、そのまま、ごく自然な動きで水入れの前まで歩み寄り少し香りを確かめるように首を傾げてから小さな舌先でそっと水を飲みはじめた。
その仕草は不思議と上品で、まるで食卓で出されたワインを試すかのようだった。
眺めていたレオが少し目を細めながら、バスケットを鳥籠の中に入れ、寮室の壁から突き出すように伸びていたゲージスタンドにそれをぶら下げた。
ネージュは水を飲み終えると、羽毛に顔をうずめるようにしてくちばしを拭い、俺の方へ目を向ける。
「ネージュ、これ食べられるか?」
レオがそう言って、ポケットの中から薄い葉に包まれた幾つかの小さな実を取り出した。葡萄に似た淡い青紫の果実。
「俺の伝書使、キアランという名なんだけど、そいつが好きな木の実なんだ。中庭の端にたくさん自生してる。甘くて柔らかくて消化にもいい。外に出れるようになったら、頼ってやってくれ」
差し出された果実にネージュはすぐに反応し、小さなくちばしで器用に皮を剥き、果肉をちびちびと食べ始めた。熟した香りがふわりと漂う。
「……気に入ってくれたようで、何よりだ」
「ありがとう、レオ」
俺が小さく頭を下げると、彼は「気にするな」と軽く笑った。
――「遅くなって」って、そういうことか……。ネージュのために、わざわざ実を摘みに行ってくれてたんだ。
「よかったら、座ってください」
俺はデスク前の椅子を引き、手で示す。
「じゃあ、少しだけ……」
レオは遠慮がちにうなずいて腰を下ろし、静かに足を組んだ。
「それからセレス、寮監からの伝言だ。他の生徒たちの卵が孵り始めるまでは、この件は伏せておけとのこと。特別な卵を渡されたんじゃないかとか、色々と余計な憶測をする者が出てこないとも限らないからな。まあ、うちの学院にはそんなやつは居ないだろうが、無用な混乱を招く可能性は限りなく無くしたい。その間、ネージュをこの部屋から勝手に連れ出すことは禁止。事情があり移動が必要な場合は、袋の中に入っている専用の携帯ゲージを使え。外から中は見えないし、魔力遮断と防音の処理が施されている」
「わかった」
俺がうなずくとレオは安心したように息をついた。暫くして、ゆっくりと果肉を食べ終えたネージュがふわりと飛んでバスケットへ戻り、羽をふるわせ小さくあくびをしている。
「あと、しっかり休ませてやれ。まだ生まれたばかりだ」
そう言ってレオは静かに立ち上がり、椅子を元の位置に戻した。
その穏やかな仕草を見ながら、ふと思う。
……兄って、こんな感じなんだな。実年齢は、俺のほうが年上だけど……。
転生前も転生後も妹しかいない俺には、どこか新鮮で少しだけ胸があたたかくなる感覚だった。
「……じゃあな、セレス」ドアノブに手をかけたところで、レオが一度だけ振り返る。「何かあれば、すぐ呼べ」
微笑を残し、彼は部屋を後にした。
扉が閉まると、籠の中からネージュが目を細めながら俺の方をちらりと見て言った。
「その微笑は、曇りなき理知の光を湛えながらも包むような温かさを滲ませていた。レオは、きっと嵐の日には風よけとなる広い背中を差し出してくれるだろう。胸板も厚い。推せるな」
「……お前なぁ」
呆れつつも返す言葉が見つからず、俺はため息まじりにデスクの明かりを落とすと、鳥籠の扉を閉めずにケージカバーをそっと被せた。
༺ ༒ ༻
翌朝――。
「一緒に食堂へ……」と、リシャール、アルチュール、ナタンが揃って部屋を訪れたその瞬間、案の定、バスケットからひょこっと顔を出したネージュの存在が、あっさりバレた。
レオから聞いたヴィクター・デュボア寮監の「この件は伏せておけ」という忠告が、一日すら持たなかったのは、もはやこの三人に対してはお約束というべきか……。取り合えず、この件も『光属性』のときと同様、口止めということで――特にナタン。
カーテンの隙間から、まだ沈みきっていない夕陽の橙が差し込んでいて、木製のデスクに柔らかく影を落としていた。
窓の外からは、どこかの部屋で誰かが弾いているらしい古い楽器の音が風に乗ってかすかに聞こえてくる。
部屋は個室にしては思っていたよりも広く、造りも堅牢だ。
壁際には作り付けの書棚と小さなワードローブも備え付けられており、寝台はシングルサイズだが収納付きアルコーブベッドで、白を基調にしたカーテンがかかっていて、普段、ソファーとしても使えそうだ。
「……何この貴族仕様」
まあ、実際この体の持ち主は正真正銘、王家に次ぐ名門コルベール公爵家の嫡男。他の生徒もほぼ貴族だし、それも当然か。
俺は部屋の中央でくるりとひと回りして、改めて空間を見渡し、それから柔らかそうなベッドにダイブした。
「はぁぁああ。疲れたぁ」
……ふぅ、と小さく息をつく
加護を受けた『ベネン』を眺めてもまだ全然、実感がない。まるで舞台の袖に立って、幕が上がるのを待っている役者みたいな気分だ。いや、そもそも俺はこの劇に出演する予定のなかった部外者なんだけど……。
夢みたいな話――そう思う反面、体の下のベッドの感触や目に映る光景が、ここが現実であることを否応なく突きつけてくる。
異世界に転生して、しかも愛読していたBL小説の当て馬キャラになるだなんて、都合が良すぎて現実味がなさすぎる。しかし、俺は確かにここにいる。
仰向けになると見上げた低い天井は白く滑らかで、差し込む陽の光がゆっくりと形を変えながら移ろいでいた。
その時、ふと、先ほどのアルチュールの口の動きを思い出す。
「あとで行く」って……マジで来るつもり?
ああ、もう認めるわ。
この物語りの当て馬キャラって、こんなにモテ設定の人気者だったっけ?
そんなはずない、と頭を振る。
俺の知ってるセレスタン・ギレヌ・コルベールは、確かに見目麗しく聡明な青年だったが、自分の気持ちを言葉にするのが超絶下手くそで、大雑把に言えば堅物。ゆえに、肝心の本命である『金の君』には友人と思われたままなんら進展はなく、報われない片想いを抱え身を引く切ない役回りだった。
それがどうして、その本命のリシャール殿下に加えてアルチュール、ナタン、レオまで妙に好意的なんだよ。
「フラグ……、変わってないよな? 変な展開になったら俺、全力で逃げるぞ……?」
俺が好きなのは、オッパイであり、雄っパイではない。
不安を拭いきれないまま、もう一度深く息を吐く。
「はぁ、先ずは近い将来、来るかもしれない国を襲う厄災に向け、そして推しキャラたちを守るためにも、この学院で出来ることはやっておかないとな……」
だらりと伸び切った体の隅々に心の中で号令をかけ、起き上がって部屋の隅に置かれていたスーツケースに手を伸ばす。
既にこの世界は原作ルートから外れてしまっている。次に何が起きるかは分からない。しかし、少なくとも現在のセレスタンとしての学生生活が、今、ここから始まるのだ。
荷物をほどいてようやく現実的な「生活」の手触りを確認し始めた矢先――不意に、扉がコツ、コツと二度、控えめに叩かれた。
思ったより早い。「あとで行く」と言われたが、あれからまだ五分ぐらいしか経ってないような気がする。
俺は軽く身なりを整え、扉を開けた。
予想通り、そこに居たのはアルチュールだった。
「よう、入っていいか?」
軽く無造作にかき上げた前髪の隙間から覗く鋭い双眸に、一瞬たじろぎそうになる。近距離で見るイケメンは凄まじい。けれどその声音は、思ったよりもずっとくだけていて、やや気恥ずかしそうですらあった。
初めてお友達のお部屋に遊びに来ました、ってところだな。
「どうぞ。早いな。自分の荷物は片付けなくていいのか?」
「んなの、後でいいだろ」
学校から帰宅後、玄関で靴を脱がず、ランドセルを上がりかまちに置きっぱなしにして、そのまま友達の家へ走って行く昭和の子供か?
扉を開けて促すと、アルチュールは躊躇いなく一歩足を踏み入れ、そして、部屋の中をぐるりと見回した。
「同じ作りなんだな」
「ん?」
「てっきり、セレスの部屋はもっと豪華なんだと思ってた。……王家に次ぐ名家の嫡男だし」
俺は小さく肩をすくめ、曖昧に笑った。
「殿下の部屋も同じだと思うぞ」
実際、原作でも各生徒の寮の間取りに違いはない。
「へえ、そうなのか」
無遠慮に歩を進めながらそう言ったアルチュールの視線が、ふとデスクの上で止まる。
彼の長身が影を落とす先には、担当するプティ・フレールが俺だと分かったあと、レオが急いで作ってくれたサシェと小さなメモがあった。
アルチュールの眉が、ぴくりとわずかに動いた。笑みも消えて無言のまま、表情がやや強張る。俺は内心で「あ、拗ねた」と気付く。口元はへの字。でも目線はメモから離れない。分かりやすすぎて可愛い……、などと一瞬、思ってしまった。
「セレスのグラン・フレールはやけに気が利くんだな」
アルチュールはそっけなく言いながら部屋の反対側の壁に視線を移す。
そのとき、また扉が「コンコン」と控えめに鳴った。
アルチュールに軽く目配せしてから扉を開けると、現れたのは予想を裏切らない顔ぶれ――リシャール殿下とナタンだった。
「セレスさま、荷解きは順調ですか?」
先に口を開いたのは、ナタン。
「いや、まだだけど別に手伝わなくていいぞ。自分で出来る」
ナタンは「いえ、別に手伝いに来たわけではなく、このあと、一緒に食堂に行こうと誘いに来ただけです」と笑みを浮かべ、そのまま部屋の中に足を踏み入れる。「まさか、先客が居るとは思いませんでしたけどね」
ナタンの視線が、デスク前のアルチュールの方へと流れた。何気ないように見える仕草に、わずかに探るような色が混じっている。
続いてリシャール殿下も部屋に入って来た。その動きに一切のためらいはなく、あまりにも自然で、まるでここにいるのが当然とでも言いたげだ。
「来る途中、リっシャーールと会いました」
「殿下と呼べ。邪魔をするよ、セレス」
何この、異常にイケメン密度の高い空間。
こんな展開望んでたわけじゃないんだけど……。
そんな俺の内心とは裏腹に、その場の空気は以外にも和やかで、結局、四人で他愛もない話をしながらまったりと過ごした。
やがて時計塔の鐘が鳴り、「じゃあ、行こうか」とリシャール殿下が立ち上がる。
こうして、顔面偏差値の暴力ともいえる三人に囲まれた中身こってり腐男子オタクな俺――という、なんともチグハグなパーティーで、食堂へと向かうことになった。
センター俺、左右にリシャールとアルチュール、背後にナタン……、なにこれ、「何とか教授の総回診」じゃねぇんだよ――。
༺ ༒ ༻
それから一週間が過ぎた。
その間、俺たち『サヴォワール』寮生を含む一年生は、校舎内の案内や教科書の配布、各種オリエンテーションに追われていた。学院の規則や授業の進め方、学内の施設の使い方など、初めての環境に戸惑いながらも少しずつ慣れていった日々だった。
慌ただしさに紛れて、ナタンともゆっくり話す機会がほとんどなかったぐらいだ。朝夕に四人で顔を合わせる程度で、食事は授業開始までは決められた席でとることになっていたため、自由に話せる時間は限られていた。
そして迎えた朝。朝靄の残る校庭に本鈴の鐘の音が響き渡る。初春の肌寒い風が袖口をくすぐるなか、俺たち一年生は本校舎の中庭に整列していた。
いよいよ、初めての正式な授業が始まる。
先ず、第三寮『ソルスティス』の寮監、ルシアン・ボンシャンが生徒たちに命じたのは、魔術適性に応じた属性ごとのチーム分けからだった。
それは、生徒一人一人の属性をお互いが確認すると同時に、今後行動を共にする可能性のある同じ属性の仲間たちとの初顔合わせを兼ねたものでもあった。
風、火、水、土――魔術の属性は、表向きにはこの四種だけ。
だが、『光』の存在については、一切言及されることはなかった。
それは、俺の持つ『光属性』に関して、かなり厳重に箝口令が敷かれ、学院内でも限られた者しか知らない秘密事項となったからだ。
加護の授与に同席していたリシャール殿下やアルチュール、ナタンたちも例外ではなく、昨晩、夕食後に個別に呼ばれ、口止めされたと本人たちから聞いている。
もっとも、彼らが軽々しく外に漏らすような人物でないことは、言われるまでもなく分かってはいるが……、
いや、ナタンなら機会があれば、「うちのセレスさまは、光の属性もお持ちなんですよ」とか自慢気に言いかねない……、と想像して、思わず苦笑が漏れた。
――不安はつきない。
原作の展開からすでに逸脱してしまった今、俺の知る「物語」は、もう当てにならない。
この先、何が待っているのか? 微かなざわめきが心の底にじんわりと沈んでいる。
「では、これより一人ずつ魔術師の伝書使となる“コルネイユ”の卵を授けます。各自、この授業が終わったあと、一旦、自室に戻って保管し、一日一度、忘れずに魔力を与え、大切に育てて下さい。魔力の与え方については、第二寮『レスポワール』のジャン・ピエール・カナード寮監が後ほどお話しいたします。また、孵化の時期は個体差がありますが、強い魔力を感知すればより早く殻を破ることでしょう」
長い灰色の髪をまっすぐに伸ばし、後ろで一つに束ねたルシアン・ボンシャンは、始終穏やかな笑みをたたえながら、静かにそう告げた。
年齢でいえば五十代後半のはずだが、どう見ても三十代前半にしか見えない。もしかして人魚の肉でも食べたのか、何かの仮面でも着けたのか――そんな突拍子もない妄想が浮かんでしまうくらい、彼は現実離れした雰囲気をまとっている。
原作本編では、実は、他の講師全員が束になってかかっても敵うかどうかは分からない最強の魔導士と表記され、剣術魔法の授業が『サヴォワール』のデュボアが担当しているのは、ボンシャンに任せると下手したら死人が出るかもしれないから――などと実しやかに噂されていたりする。
「では、デュボア先生、配布をお願い致します」
「おうよっ。任せとけ」
ボンシャンの指示のもと、デュボアが大きな木箱を抱え、整列した一年生に次々と卵を手渡す。
木箱の中からひとつずつ取り出されるそれは、硬い漆黒の殻に覆われていた。
生徒たちは、にわかにざわめき、期待の混じった視線を交わしている。
この世界において、コルネイユは伝令や私的通信に主に使われていて、彼(彼女)らは主に似た性質を持つと言われるのだが、つまり、それは育て方次第で性格や能力が変わるということだ。
……育て方次第。
俺が孵化させたら、伝令を途中で落っことしてきたり、勝手にどこかへ寄り道したり、人気のない所で二人っきりで居る生徒を身を潜めて観察するコルネイユになったりして?
そんな想像がふと頭をよぎり、思わず自分で笑いそうになる。
――いやいや、真面目にやらねば。
そう気を引き締めたところで、ついに俺の名前が呼ばれた。
「セレスタン・ギレヌ・コルベール」
名を呼ばれデュボアから渡された卵を両手で慎重に受け取った。大きさは、片方の掌にすっぽりと収まるほど。表面は絹のようになめらかで、ほんのりとした光沢を帯びている。触れた瞬間ひんやりとした感触が指先に伝わり、その奥に、まるで水底で鼓動する心臓のような命の気配があった。
生きている。
これはただの卵ではない。
まだ殻の中に眠っているのは、これから自分と共に歩む存在――。
辺りを見渡せば、他の生徒たちもそれぞれに卵を手に取り、どこか神妙な面持ちでその存在を確かめていた。アルチュールは驚きや興奮を隠せず、ナタンは困惑をにじませていて、リシャール殿下は愛おしげに微笑みかけている。
やがて全員に卵が行き渡ったことが確認されると、第二寮『レスポワール』の寮監、ジャン・ピエール・カナードがひとつ息を吐き、首元に手を添え、青竹色のアスコットタイに軽く指を滑らせてから、ゆっくりと前へと進み出た。
とたんに空気がすっと引き締まり、周囲が自然と彼に注目する。
言葉を発する前から、彼の存在そのものが場を律する力を持っていた。
「それでは――コルネイユの卵への魔力の与え方について、このように木でできた模造卵を使い、実演を交えて説明する」
カナードは、背筋を伸ばしたまま、ジャケットのポケットから黒い卵を取り出した。
年齢は三十歳前後。短い薄茶色の髪を几帳面に撫でつけ、整った顔立ちに縁の細い眼鏡をかけている。その印象は一言で言えば「理知的」で、無駄な感情を排した静けさの中に、確かな自信と冷静な判断力が滲んでいる。
また、「彼の講義は明快かつ的確」、「一分の無駄もない洗練された言葉で綴られ、聴く者の理解を自然と導く力がある」と原作内でも評価されていた。生徒の間で密かに『インテリ眼鏡くん』というあだ名で呼ばれるシーンが何度か出て来たが――もっとも、それを本人の前で口に出来る者は一人としていなかった。
「今、皆の掌の中にある卵は、まだ未成熟の魔導生物。これに適切に魔力を分け与え、徐々に慣れさせ信頼関係を築いていくことで、やがてコルネイユは孵化し、君たちの最初の従者となるだろう」そう言って、カナードは掌の上の卵にそっと指先を添え、「まず、深く息を吸い……、自分の内なるサリトゥに意識を向ける。心を静かに。雑念は排除。次に、胸元に満ちる魔力を一点――この卵の中心にある核へ向け、糸を垂らすように送り込む」と続けた。
静寂が周囲を包む中、カナードの言葉に合わせるように、彼のベネンがふわりと淡く発光した。卵の表面には微細な紋様のような光が一瞬浮かび上がり、それが波紋となって静かに広がっていく。
「魔力は、強すぎてもいけないが、弱すぎても通じない。相手はまだ生まれていない命だということを忘れないように。はじめは自己紹介のつもりで、「自分はこういう者だ」と伝えればいい。大切なのは、支配と従属ではなく協調と対話、通じ合うこと」
その言葉には、どこか詩のような響きがあった。理論的でありながら感情を内包し、静けさの中に確かな情熱を感じさせる語り口。
しばしの静寂ののち、隣に立っていたルシアン・ボンシャンが優しく口を開いた。
「では、今から一分間、皆さんも自分の卵に少しだけ魔力を流してみてください。深呼吸して、焦らず……、感覚を探ることから始めましょう」
その声は、まるで風に乗る囁きのように穏やかで、しかし不思議なことに生徒全員の耳にしっかりと届いた。ひとつの指示が、静かに、けれども確かに、空間を包み込む。
生徒たちは一斉に、両手の中の卵へと視線を落とし、俺もまた、ゆっくりと目を閉じ心を鎮めた。
掌に感じる卵の重み。その奥に、かすかな命の鼓動を感じながら、胸の奥に渦巻く魔力を――そっと、静かに流し込んでいく。
――この卵から、どんなコルネイユが生まれるんだろう?
胸の奥に漂う期待と不安。そのふたつが静かに溶け合い、ひとつの想いとなって、そっと卵の核へと流れ込んでいく。
それがどんな姿を持ち、どんな性格で、どんな「声」で俺に応えてくれるのか。
だが、その疑問は、早くもその日の夕方、予想外の形で答えを得ることになる。
初日の授業を平穏無事に終え、夕暮れの光が学院を茜色に染める頃、俺は、リシャール、アルチュール、ナタンと連れ立って食堂を後にした。
道すがら、リシャール殿下は相変わらず気さくにナタンと談笑している。その笑い声は澄んでいて、いつもの王族然とした振る舞いとはまるで別人のようだった。時折り、ほんのわずかに屈託のない少年の表情を見せるが、これがきっと彼本来の素顔なのだろうと思う。
ナタンの方はといえば、相変わらずのマイペースぶりだ。
俺……、というより正確には「セレスタン・ギレヌ・コルベール」本体を、彼の中で最上位の主として認識しているためか、王太子に対する態度はいたってぞんざい。敬語どころか、敬意のかけらも感じられない。
それがかえってリシャールには心地よいのか、気を遣われることに慣れすぎた王子にとってナタンの歯に衣着せぬ言葉は新鮮な風……いや、暴風のように感じられているのだろう。
かたや、俺の隣を歩くアルチュールは、始終変わらぬ穏やかな表情で、歩調をぴたりと合わせてくれていた。さっき食べた肉が柔らかかったとか、お代わり自由のスープが美味かったとか、そんな会話の途中、時折、こちらに視線を向けては優しく微笑むその様子に、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。……こっちは、ワンコの散歩かな。
しかし、この淡々とした時間が、どこかやけに贅沢に思えた。
推しと並んで歩ける日が来るなんて、ドメワンのページを何度も読み返していたあの頃の俺に教えてやりたい。
今のところ、『腐』的な供給は全くない。アルチュールとリシャールの間には、原作にあったような甘い気配も、運命の糸も、残念ながら見当たらない。
けれど、推しの近くに居られるというだけで、充分に活力となってくれる。
やがて寮の三階、自室の前にたどり着いて、「んじゃ、また明日」と、俺が手を振ると、ナタンが「しっかり休んでくださいよ、セレスさま」と軽く頭を下げ、リシャールも少し声を潜めて「おやすみ、セレスタン」と言ってくれた。アルチュールは最後に「よい夜を」と、囁くように微笑んでから、名残惜しそうに背を向ける。
そして、俺は自室のドアノブに手をかけた。
――と、その瞬間、
指先に、緊張が走り、ベネンがほんの僅かに熱を持った。
気配を感じる。
意を決してドアを開けると、室内の釣り灯と壁面灯がふわりと柔らかい光を放つ。各部屋の照明機器は火属性の魔法陣を内蔵した魔道具で、陽が暮れると足音や気配を感知して自動的に明かりが灯るよう設定されている。もちろん、所定の呪文『アリューム』『エンドゥ』を唱えれば、点灯、消灯することも可能だ。
静かで、整った空間。
けれど、明らかに空気の密度が違っていた。肌を撫でるような、張り詰めた気配。
――何かがいる。
そんな確信に近い直感に促されながら、俺はベッドに視線を向け、枕元の小さなクッションの上に乗せていた黒い卵を見て息を呑んだ。
――表面に、ひびが入っている。
「うそだろ。今朝、魔力を通したばかりだぞ? それも、一回……」
思わず口に出し、慌てて傍に腰を下ろす。ひびは一箇所だけではない。蜘蛛の巣のように細かく広がっていて、その中心から微かな音が聞こえた。
コツ……コツ……。
規則的でありながら、心細い。けれど、それが確かに内側から発せられていることは間違いなかった。
「まさか……、今?」
瞬きも忘れて見つめる中、卵の殻の一部がぱきりと割れ、白いものが覗く。
驚いたことに、隙間から見えたそれは雪のような羽根だった。
さらに、ぱらぱらと殻が崩れ落ち、はじめに小さな頭がのそりと動いたあと、殻は花が開くように綺麗に割れ、全身が真っ白な羽毛に包まれた掌に収まるほどの小さなコルネイユが現れた。
だが、その白はただの白ではなかった。
一枚一枚の羽根の先端には、まるで真珠を極限まで小さくしたような粒が付いていて、それらが灯りに反射し、淡く光を放つ。虹色のヴェールを纏ったような繊細で美しい輝きがあまりにも神秘的で、この世界の理の外側から舞い降りてきたかのような気配すらまとっていた。
しばらく呆然と見惚れていると、白いコルネイユが静かに目を開けた。
驚くことに、瞳は、ルビーよりも赤く、まっすぐこちらを見上げている。
小さな嘴が、微かに動く。
息を詰めたまま、そっと両手を差し出すと、コルネイユはしばらく俺の顔を見つめていたが、やがてゆっくりと首をかしげてから、ひょい、とその細い足で掌に乗った。
柔らかくて温かい。
「……生まれた、んだな」
俺の掌の中で、コルネイユは僅かに羽をふるわせ、真珠のような粒が、室内灯の光りで星のように瞬いた。
ついさっきまで、たしかにただの卵だったもの。
いや、ただの卵ではなかったかもしれないけれど、卵であったことは確かだ。
しかし、今、俺の手のひらには、小さな命がいる。
胸の奥が、じんわりと熱くなった。この美しい鳥が、俺――いや、セレスタンの伝書使となる存在。
滅茶苦茶カワイイじゃねえか! まさか初日に孵化するとは思わなかったけどな。
「……しっかし、見たことないぞ、こんなの。白だなんて。いや、そもそもコルネイユって黒いもんだろ」
原作に、こんな個体はいなかった。
規格外。イレギュラー。あるいは――光の属性、チート能力の影響か。
「……こっちも色々あったけどさ、お前も普通じゃなさそうだな?」
小さなコルネイユは、じっと俺を見つめている。
「ようこそ」
思わずそう口に出したとき、赤い瞳がぱちりと瞬き、一度羽ばたいたあと、俺の肩にちょこんととまった。
まるで、そこが最初から自分の居場所であるかのように。
「……さて、これからどうすればいいんだ?」
俺は溜息をついた。
孵化は本来、もう少し先。早くて二十日、遅くて一カ月はかかる。それが初日にしてこの状態。
イレギュラーであるのは間違いない。
肩の上のコルネイユは身体を丸め、俺の首筋に温もりを預けてきた。
現実問題として――どうしたらいいのか、お手上げだ。
先ず、誰もこんなに早く殻を割って出て来るとは微塵も考えていなかったから、寝床もエサも、水も、何ひとつ用意されていない。
元々、コルネイユの成長は早い。生まれて大人になるまで、たったの一カ月足らずだが、その間は、主となった生徒が寮室で世話をし、育て上げることになっている。食事を与え、魔力を与え――成長の過程全てにおいて主が関わり、共に過ごすことで、絆を育んでいく。
そうして築かれた信頼関係は、成鳥となり、寮の時計塔にある専用の小屋や、中庭で他の仲間たちと過ごすようになった後も、決して消えることはない。彼らは主の呼びかけに応え、命じられれば知性ある魔術的存在として働く。勿論、人語を理解し流ちょうに操る。
それが、この学園における原作設定にも出て来た育成課程だが――それも『通常の孵化スケジュール』の話。
卵を受け取ったその日に生まれたこの個体に関しては、まったくの例外。
今、俺と共にいるこの白い雛鳥は、既にその常識から大きく外れている。
両隣の二人とナタンに相談するべきか……、いや――。
「……ここはグラン・フレールだよな」
俺は割れた殻もそのままに、肩の上の雛鳥を左の掌に誘導し、制服姿で部屋を出た。階段を降り、幸いにも誰とも出くわさずにレオの部屋の前までたどり着く。
「失礼します。セレスタンです」
軽くノックをすると、間もなくして内側からノブが回る音がしてドアが開いた。
「どうした、セレス?」
扉を開けたレオは、丈長の白いリネンの部屋着に鮮やかなティールブルーのナイトガウンを羽織って、目元に僅かな疲れの影を滲ませながらも相変わらず砕けた調子でそう言った。だがその視線が、白いコルネイユに届いた瞬間、眉を跳ね上げる。
「おい、ちょっと待て、それって……」
「勉強中でしたか?」
「そうだが、丁度、休憩をしようと思っていたところだ」入り口からは、奥のデスク上に山積みになった本が見えていた。「――って、そんなことはどうでもいい。兎に角、俺の予想が当たっているのなら、それは拾ったとかではなく、まさかとは思うが……、もう孵ったのか? 初日、一番初めの授業で伝書使の卵が配られる。つまりそれは、今朝、受け取ったばかりだろう?」
俺が小さく頷くと、レオは一瞬だけ唖然としたような顔をしてから、直ぐに「よし、中入れ。話はそれからだ」と笑った。
「お邪魔します」
「散らかってて悪りぃ。課題やってたけど、セレスが帰寮後に制服のままルームシューズにも履き替えずに来たってことは、ただ事じゃないってことだからな」
俺は軽く礼をしてから促されるまま中に足を踏み入れた。
「ようこそ、弟くん。さあ、座って」
レオは、デスクの上にあった本を脇に避け、今しがた自分が座っていただろう椅子を俺にすすめた。そして、本人はベッドサイドに置いていたオットマンを引きずって来て腰を下ろす。丸く膨らんだ座面の縁には金糸の飾り紐がぐるりと巡らされている。
「で、状況は?」
「朝に一度、魔力を与えただけで、ついさっき殻を割って出て来ました。特に何かしたわけでもなく、ベッドのクッションの上に置いていたら、勝手に……」
「白い羽毛に、赤い目か……。見た目からして異例だな。伝書使になるコルネイユの卵ってのは、配られる前、個体の差異が大きく出ないよう、こと細かに性別鑑定に至るまで事前に魔術で均一に管理されている。ってことは、つまり――」
「特異な個体、ということですよね?」
俺が言うと、ああ、と静かに頷いた。
「……まあ、そうなる。だけど、特異ってのは悪い意味じゃない。セレス、何か呪文でも唱えたか?」
「いえ、なにも」
「そうか」
レオは小さく笑って、身を乗り出した。何故か目を輝かせている。
「楽しんでます?」
問いかけると、レオは口の端を上げていたずらっぽく笑った。
思わず、「#ふつくしい」のタグを付けたくなる表情だ。
「魔術絡みの不可解な現象ってのは、何かの兆しだったり、新しい発見の種だったりするからな。しかもセレスの伝書使は白――全身、真っ白だろ? 色素欠乏って風ではなく、明確に『白』ってのが面白い」そう言って、レオは俺の手の中の雛鳥に、人差し指でそっと触れた。「――セレス自身が、何か相当変わった魔力の持ち主ってことかもしれない」
俺のグラン・フレールは、中々の慧眼をお持ちらしい。
「孵化まで最低でも二十日かかるってのは、エネルギーの蓄積と、個体の準備期間込みってことだ。それを約半日で突破したとはな。凄いな」
撫でられているコルネイユは羽をふるりと揺らし、目を細めた。雛特有のふやけた表情が庇護欲を掻き立てられる。
「……はは。かわいいじゃねぇか、コイツ」
レオが楽しげに笑うと、コルネイユが小さな声で「ぐふぅ」と鳴いた。
……今、「ぐふぅ」って言ったか? 言ったよなこいつ……?
どことなく満更でもなさそうな表情で、レオの指に頭をすり付けている。
……男子寮に配られる卵は、雄――。確かに原作でもそうだった。雌ではない。はずなのに、何この懐き方は……?
「しかし、これはもう俺だけじゃ対応しきれないな」レオは腕を組んで暫く考え込んだあと、直ぐに首肯した。「今からデュボア先生のところへ行こうか。報告と記録と管理が必要になる。餌と籠も。即、手配できるはずだ」
「お願いします」
コルネイユはレオの視線を一瞥すると、欠伸をしてから手の中で羽毛を膨らませて丸くなった。レオは一瞬、口元をほころばせ、「寝床を用意してやるからな」と言って、俺と一緒に部屋を出た。
中庭に面した回廊を暫く並んで歩く。
職員寮の二階にヴィクター・デュボアの部屋はあった。
レオが軽くノックすると、部屋の奥から無骨な男の声が聞こえた。
「誰だ?」
「レオ・ド・ヴィルヌーヴです。セレスタン・ギレヌ・コルベールと一緒に、報告があってまいりました」
短い沈黙の後、中から重たい扉が開く。
出てきたのは、絹のように滑らかな光沢を放つ薄象牙色の上質なガウンの下から筋肉質な胸元をのぞかせた屈強な男――サヴォワール寮の寮監、ヴィクター・デュボア。逆立つような短髪をわしわしと掻きながら、彼は俺とレオを順に見やった。
「何事だ?」
レオが一歩前に出て応えた。
「セレスの伝書使が先ほど孵化しました。あまりにも早すぎるため、報告と確認を兼ねてご相談に伺いました」
その言葉に、デュボアの表情が引き締まる。
俺が掌を差し出すと、彼の視線が白い雛へと注がれた。
「成る程、これまた、随分と珍しい色だな」
コルネイユは俺の手の中で目を細め、軽くくちばしを鳴らした。その仕草に、デュボアの顔がくしゃりと綻ぶ。
「うん……。よし、中へ入れ。話を聞こう」
促されるまま俺とレオは部屋に入った。木製の棚には魔術理論書と魔動物図鑑が雑然と積まれ、壁には武具と共に古そうな魔道写真も何枚か飾られている。その前に、小さな丸テーブルを囲むようにして、二人掛けのソファーと一脚の肘掛け椅子が置かれていた。散らかってはいたが、不思議と居心地の悪くない空間。規律よりも実用を重んじる性格が、そのまま部屋にも表れているのだろう。型破りで、けれど信頼に足る人物の生活の一端を垣間見たような気がして、俺は思わず心の力を抜いていた。
「まあ、座りなさい」
促され、レオと並んでソファに腰を下ろす。デュボアは報告書と思われる書類と水差しとグラスが置かれたテーブル越しに、肘掛け椅子へと体を預けた。
寮監の部屋は単なる宿舎ではない。寮務や管理記録もこなす作業場を兼ねている。
俺が手の中の雛をそっと撫でていると、デュボアが俺たちをリラックスさせようとしているのか、満面の笑みを浮かべてこちらに目を向けた。
「てっきり、交際宣言でもしに来たのかと思ったぞ」
その唐突な一言に、俺の思考は一瞬フリーズした。
「……はぁ~?」
間の抜けた声が勝手に口から漏れる。一方で、隣のレオはというと、唇の端を愉快そうに持ち上げた。
「それでもよかったかもしれませんね」焦る俺を尻目に、レオはしれっと続けた。「『銀の君』は人気者ですから、先手が肝心かと」
「なっ、なに言って……!」
耳まで赤くなった俺を見て、ヴィクターがガハハと笑い、レオも続いて笑いながら、「冗談だ」とさらりと流し、肩をすくめた。「ちょっと乗ってみただけだ」
「びっ、びっくりするじゃないですかっ」
その時だった――。
「うっ……、ん゛ん゛ん゛尊い……」
手の中の雛が、うつむいてふるふると身を震わせながら、感極まったような調子でぼそりと小さく呟いたのだ。
俺は静かに息を呑み、笑っているレオとデュボアに気づかれないよう、そーっと目線を合わせた。
赤くつぶらな瞳が、まっすぐ俺を見つめ返してくる。
え、待って、やばい。この子、残念な子だ……。
左の翼を自らの胸に当て、背を丸めてふるふると肩を揺らすように震えるその姿は、まるで二次創作の濃厚CPに遭遇したオタクそのもの。
――この雛鳥、腐ってやがる!!
俺は心の中で絶叫した。
日本で、モノノイ・マリンボール先生の小説に悶絶していた自分。数々のカップリング論争に心を焦がし、夜な夜な推しカプの考察に耽り、妄想と愛で日常を回していた俺にそっくりじゃねぇか!?
まさか、この異世界で……、しかも俺の伝書使として目覚めた存在が、同じ志を持つ仲間だったとは。
俺は思わず、雛鳥をぎゅっと胸に引き寄せそうになって、寸前で思いとどまる。
冷静になれ、セレス。いや、伊丹トキヤ。
「セレス?」
レオが小さく首を傾げてこちらを見ている。
デュボアも心配そうに眉を寄せ、重厚な声で問いかけて来た。
「コルベール、どうかしたか? ――無理もないか。こんな異例の事態は。俺も初めてだ」
そう言って椅子からゆっくり立ち上がると、部屋の奥の棚を探り革張りのバスケットと小袋を取り出して来た。
「先ずは、寝床だが……、少し古くてすまないが、このバスケットは寒さも魔力の干渉も防げる特製品だ。しばらくはこれを使ってくれ。袋には浄化魔法をかけた清潔な巣材が入っている。後日、また新しいのを渡す。餌は、孵化直後のコルネイユ用に調合されたものを使うんだが……、これは、あとで隣の薬草研究室にレオに取りに行ってもらって鳥籠も届けさせるから心配はいらない」
バスケットを手渡しながらデュボアは俺をまっすぐ見つめる。
「お前が不安になるのも当然だ。けれど、これは異例ではなく特例。珍しいというだけで、排除されたり孤立したりすることはない。明日には他の寮監とも情報を共有して、正式に対応を協議する」
その声には、どこか人としての温かみがあり確かな責任感と信頼が込められていた。威圧でも慰めでもない――。
デュボア先生、ご心配をおかけして申し訳ございません。腐男子鳥との出会いに舞い上がっていただけです……、とは言えない。
あと、転生前にドメワン友達がネットでデュボア先生のことを『陽だまりのゴリラ(褒めてます)』って呼んでて、うっかり共感してしまった過去もお許しください……。すみません。
……と、心の中で土下座していると、目の前のその人は真摯に正面から俺を見つめていた。
「お前は、ただこの雛鳥を大切にしてやればいい。あとは、俺たち大人の仕事だ」
頼れる大人の気遣いに、一瞬、言葉に詰まったが、俺は笑顔を作って答えた。
「はい。ありがとうございます」
そっと掌の中へ目配せを送る。すると、まるで通じたかのように、雛は小さくくちばしを鳴らし、再び丸くなって羽毛を膨らませた。
どうやらさっきの「尊い」と呟いた声は、レオやデュボアには届いていなかったようだ。もし聞かれていたら、確実に説明がつかない。しかし、この世界に来て、初めて出会った『腐仲間』かもしれない相手がまさか自分の伝書使とは……。
白い雛鳥がくくっと喉を鳴らした。それが、どこか得意げに聞こえたのは、きっと気のせいではない。
「それから、割れた卵の殻は部屋にあるな?」
「はい」
もちろん。
魔力を注がれ孵化したあとのコルネイユの卵殻は、極めて希少な素材。それを魔法で一塊にすると、主と伝書使専用の通信稀石となる。この知識は、魔法学院の生徒はもとより、王都や辺境の住民にとっても常識。
原作では、学院に通うキャラクターと伝書使たちは皆、いつも身に着けやすいものに加工して肌身離さず持っていた。
まさか、今こうして自分がその現物を手にする日が来るなんて――。思わず、胸の奥がじんわりと熱くなる。無理、死ぬ。
「細かい破片も全て取っておいて、明日、また授業が終わったらここに持って来るように。『ソルスティス寮』寮監のルシアン・ボンシャン先生が魔力を込めた専用の瓶を用意しておく」
「分かりました」
デュボアは視線を落とし、低く静かな声で続けた。
「――で、名前は、もう決めたか?」
「名前……」
思わず聞き返すと、彼は俺の手元に視線をやりながら、言葉を継いだ。
「名を与えるってのはな、ただの飾りじゃない。主が己の使いに名を付けるってことは、その存在をこの世界に刻むってことだ。誰でもない『それ』が、お前の『大切な存在』になる瞬間。まあ本来、命名までの時間は、せめて二週間以上あるはずなんだが……、直ぐに決めなきゃならないのは少し気の毒だとは思っている」
レオが隣で穏やかに微笑んだ。
「セレスなら、きっと素敵な名前を付けるさ」
俺は、雛鳥を見つめた。ふわふわの羽毛は、雪のように白い。
確かこの世界の言葉で『雪』って……、
「……『ネージュ』っていうのは、どうでしょう?」
俺の提案に、赤い瞳が、まっすぐこちらを見つめ返してくる。
――気に入ってくれたらしい。
レオが笑みを深める。
デュボアも腕を組んだまま、ゆっくりと頷いた。
「白いやつに、よく似合ってるな」
俺の中に、小さく、でも確かに何かが灯った気がした。
寮の自室に戻ると、俺はすぐにネージュをデスクの上に降ろし、バスケットの中に巣材を敷き詰めた。デュボアの言っていた通り、革張りの外装には小さな魔法陣がびっくしりと刻まれていて触れるとほんのりと温かい。例えるなら、外気温に応じて自動で温度調整をする電気毛布といったところか。
俺が寝床を作っているのを真横でまじまじと眺めていた白い雛鳥が、小さくくちばしを鳴らして羽をふるわせる。
「ほら、お前の家だ」
指の先にそっと乗せて、バスケットの中央に降ろすと、ネージュは少し歩いてからふかふかの巣材の上にちょこんと腰を下ろし満足げに目を細めた。
「――うん、まあ、悪くねぇな。初日にしちゃ及第点ってとこか」
「……ぇ?」
「とはいえ、シルクのクッションがあればもっと良かったかな。ブルー系の。ほら、レオが着ていたガウンみたいな緑がかった青。ああいう色合い、落ち着くんだよ」
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「ええぇぇえ!?」
あまりにも自然に、しかも妙に落ち着いたバリトンボイスで語り出したその声に、俺は思わず目を見開いた。
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コンコン、と控えめなノック音が聞こえた。
「セレス、俺だ。エサを持ってきた」
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飛び起きてドアを開けると、片手に学院の紋章が入った大きな手提げの皮袋を持ったレオが立っていた。
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レオがそう言って、ポケットの中から薄い葉に包まれた幾つかの小さな実を取り出した。葡萄に似た淡い青紫の果実。
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「わかった」
俺がうなずくとレオは安心したように息をついた。暫くして、ゆっくりと果肉を食べ終えたネージュがふわりと飛んでバスケットへ戻り、羽をふるわせ小さくあくびをしている。
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「……お前なぁ」
呆れつつも返す言葉が見つからず、俺はため息まじりにデスクの明かりを落とすと、鳥籠の扉を閉めずにケージカバーをそっと被せた。
༺ ༒ ༻
翌朝――。
「一緒に食堂へ……」と、リシャール、アルチュール、ナタンが揃って部屋を訪れたその瞬間、案の定、バスケットからひょこっと顔を出したネージュの存在が、あっさりバレた。
レオから聞いたヴィクター・デュボア寮監の「この件は伏せておけ」という忠告が、一日すら持たなかったのは、もはやこの三人に対してはお約束というべきか……。取り合えず、この件も『光属性』のときと同様、口止めということで――特にナタン。
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あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。
誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。
どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。
そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。
『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』
『K』と名乗る謎の太客。
【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
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「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
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聞いてた話と何か違うんですけど!
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