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61話 デート -3-
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シエルはというと、まだ得意げに胸を膨らませ、「拙者、忍者ものも好きでござる。兄貴が教えてくれたでござる」と言った。
「ネージュ……!」
思わず俺が突っ込む。だがネージュは涼しい顔で、さらに追い打ちをかけてきた。
「パパとママも今度、帯クルクル、よいではないかーで楽しんでみて!」
「帯クルクル?」
アルチュールがきょとんとする。
「長ーい帯を、引っ張ってクルクルクルーって脱がすんだ!」
やめてくれ。
俺のライフポイント、もうマイナスなんだけど。
心の中で頭を抱えつつ、必死に平静を装うしかなかった。
二・五次元舞台俳優のように整った顔立ちの若い店主が支払いカウンターの向こうで肩を震わせながら、口元をきゅっと押さえて完全に笑いを堪えている。
しかし、流石、BL世界が元なだけあって、通りすがりのモブやモブオジ、他の客まで超イケメン。
「――これ四つ下さい!!」
俺はほとんど投げやりに声を張って、銀のバラの足環を示した。
店主は、頬を震わせつつ真面目な顔に戻そうと必死なまま頷き、丁寧に布の上へ並べて包装を始める。
アルチュールは隣で、気まずそうに額へ手を当てていた。ネージュとシエルは、壁の一角に作られていた止まり木に移動し、まだ「よいではないかー!」「あーれー」「成敗してくれる」「死して屍、拾うものなし」などと言ってと小声で遊んでいる。ただの止まり木ではなく、梯子や小さな橋、トンネルが組み合わさったちょっとした鳥用遊戯装置のような構造で凝った作りだ。流石、伝書使専用にアクセサリーを置いているだけあって、気配りが効いている。
しかし頼む。もう黙ってくれ。
ようやく会計が済み、紙袋を受け取って安堵の息をついたその瞬間、ふと視線を引き寄せられた。
棚の上には、木で彫られた精巧な手のマネキンが置かれており、その親指に金属の輪が嵌められていた。
繊細な魔紋が刻まれ、光の角度で淡く揺らめいて見える。
「……これ、弓引き用の指輪だな」
隣でアルチュールがぽつりと呟いた。その独り言を、少し離れたところにいた店主がすぐに拾った。
「お客様、よくお気づきで」
そう言いながら店主が近づいてきて、木製の手をそっと持ち上げる。指輪が、まるで本物の指に触れているかのようにしっくり馴染んでいた。
「こちらは当店の新作でして、一見ただの装飾品に見えますが、実は弓術用のサムリングでございます。金属製ではありますが、装着者の魔力をわずかに感知し、ゆるやかに伸縮して指にぴたりと寄り添う仕組みになっております。弓を引いた際に起こる摩擦を減らし、親指を保護する効果も大変高いんですよ」
店主は誇らしげに説明しながら、関節が動くマネキンの親指を軽く曲げて見せる。
魔紋がふっと光を吸い込み、まるで生きているように金属がわずかに形を変えた。
「……ちなみに、お客様がお付けになっているそのイヤーカフも、当店の品で、このサムリングと同じ、装着時にわずかに伸縮する加工が施されております」
「え?」
思わず耳へ触れる。ロジェから贈られた、この耳殻に吸い付くような銀のイヤーカフ。
「なるほど……ここの商品だったのか」自然と小さく息が漏れる。「道理で、付けた瞬間に馴染むわけだ。ロジェの御用達なら安心できる」
店主は満足げに頷き、マネキンをそっと元の場所へ戻した。
俺とアルチュールは改めてサムリングへ視線を落とす。
「殿下に似合いそうだな……」
「うん。いいな、これ。こちらの金のほう、包んでください」
俺は、並んだ五種類のうち金色のサムリングを手に取り、店主へと差し出した。
同じ店で、ロジェにはマント留めを選んだ。二つの飾り金具が細い鎖で繋がれ、真鍮の金色が柔らかく光る。マントの前を留めつつ、飾りとしても美しい。これならきっと、甘い面差しのロジェに似合う。
そして、ニコラには、小さな銀のクロスのペンダントを。
柔らかな曲線で描かれた十字の中心に、小さな青い石がはめられている。ロジェとニコラ、二人の瞳と同じ色だ。
会計を済ませてぐるりと店内を見渡すが、肝心の“アルチュール自身が気に入りそうなもの”……となると、いまいちピンとくるものがない。
そこで、店主が声をかけてきた。
「他にも何かお探しでしょうか?」
「彼に贈りたいんだけど……使い魔が収納できる、バングルのようなものってありますか?」
俺が手のひらを上にしてそっとアルチュールに向けそう言うと、店主は「ああ」と目を細め、「でしたら、少々特殊な品がございます」と、店の奥へ消えていった。
その背中が見えなくなると同時に、アルチュールが小さく俺の名を呼んだ。
「セレス……俺は別になにも……」
「いいから。今日は俺の好きにさせてくれないか?」
しばらくして戻ってきた店主の手には、黒い金属の輪があった。
「こちらは、使い魔を収めておくことのできる特別製のバングルでございます。こちらも使用される方の魔力を感知するとゆるやかに伸縮し、腕の太さに合わせてほどよく締まる仕組みになっておりまして、軽いアームガードとしても手首から前腕まで保護できる構造となっております」
店主はそこで一度ことばを区切り、静かに微笑んだ。
「素材はオブジディエンヌ=フェール。黒曜石の闇めいた輝きと鉄の強靭さを併せ持つ、魔法に適した希少素材です。透かし彫りの文様もあり、夜の光を受けると黒金属の表面に複雑な影が浮かび上がります」
「ネージュ……!」
思わず俺が突っ込む。だがネージュは涼しい顔で、さらに追い打ちをかけてきた。
「パパとママも今度、帯クルクル、よいではないかーで楽しんでみて!」
「帯クルクル?」
アルチュールがきょとんとする。
「長ーい帯を、引っ張ってクルクルクルーって脱がすんだ!」
やめてくれ。
俺のライフポイント、もうマイナスなんだけど。
心の中で頭を抱えつつ、必死に平静を装うしかなかった。
二・五次元舞台俳優のように整った顔立ちの若い店主が支払いカウンターの向こうで肩を震わせながら、口元をきゅっと押さえて完全に笑いを堪えている。
しかし、流石、BL世界が元なだけあって、通りすがりのモブやモブオジ、他の客まで超イケメン。
「――これ四つ下さい!!」
俺はほとんど投げやりに声を張って、銀のバラの足環を示した。
店主は、頬を震わせつつ真面目な顔に戻そうと必死なまま頷き、丁寧に布の上へ並べて包装を始める。
アルチュールは隣で、気まずそうに額へ手を当てていた。ネージュとシエルは、壁の一角に作られていた止まり木に移動し、まだ「よいではないかー!」「あーれー」「成敗してくれる」「死して屍、拾うものなし」などと言ってと小声で遊んでいる。ただの止まり木ではなく、梯子や小さな橋、トンネルが組み合わさったちょっとした鳥用遊戯装置のような構造で凝った作りだ。流石、伝書使専用にアクセサリーを置いているだけあって、気配りが効いている。
しかし頼む。もう黙ってくれ。
ようやく会計が済み、紙袋を受け取って安堵の息をついたその瞬間、ふと視線を引き寄せられた。
棚の上には、木で彫られた精巧な手のマネキンが置かれており、その親指に金属の輪が嵌められていた。
繊細な魔紋が刻まれ、光の角度で淡く揺らめいて見える。
「……これ、弓引き用の指輪だな」
隣でアルチュールがぽつりと呟いた。その独り言を、少し離れたところにいた店主がすぐに拾った。
「お客様、よくお気づきで」
そう言いながら店主が近づいてきて、木製の手をそっと持ち上げる。指輪が、まるで本物の指に触れているかのようにしっくり馴染んでいた。
「こちらは当店の新作でして、一見ただの装飾品に見えますが、実は弓術用のサムリングでございます。金属製ではありますが、装着者の魔力をわずかに感知し、ゆるやかに伸縮して指にぴたりと寄り添う仕組みになっております。弓を引いた際に起こる摩擦を減らし、親指を保護する効果も大変高いんですよ」
店主は誇らしげに説明しながら、関節が動くマネキンの親指を軽く曲げて見せる。
魔紋がふっと光を吸い込み、まるで生きているように金属がわずかに形を変えた。
「……ちなみに、お客様がお付けになっているそのイヤーカフも、当店の品で、このサムリングと同じ、装着時にわずかに伸縮する加工が施されております」
「え?」
思わず耳へ触れる。ロジェから贈られた、この耳殻に吸い付くような銀のイヤーカフ。
「なるほど……ここの商品だったのか」自然と小さく息が漏れる。「道理で、付けた瞬間に馴染むわけだ。ロジェの御用達なら安心できる」
店主は満足げに頷き、マネキンをそっと元の場所へ戻した。
俺とアルチュールは改めてサムリングへ視線を落とす。
「殿下に似合いそうだな……」
「うん。いいな、これ。こちらの金のほう、包んでください」
俺は、並んだ五種類のうち金色のサムリングを手に取り、店主へと差し出した。
同じ店で、ロジェにはマント留めを選んだ。二つの飾り金具が細い鎖で繋がれ、真鍮の金色が柔らかく光る。マントの前を留めつつ、飾りとしても美しい。これならきっと、甘い面差しのロジェに似合う。
そして、ニコラには、小さな銀のクロスのペンダントを。
柔らかな曲線で描かれた十字の中心に、小さな青い石がはめられている。ロジェとニコラ、二人の瞳と同じ色だ。
会計を済ませてぐるりと店内を見渡すが、肝心の“アルチュール自身が気に入りそうなもの”……となると、いまいちピンとくるものがない。
そこで、店主が声をかけてきた。
「他にも何かお探しでしょうか?」
「彼に贈りたいんだけど……使い魔が収納できる、バングルのようなものってありますか?」
俺が手のひらを上にしてそっとアルチュールに向けそう言うと、店主は「ああ」と目を細め、「でしたら、少々特殊な品がございます」と、店の奥へ消えていった。
その背中が見えなくなると同時に、アルチュールが小さく俺の名を呼んだ。
「セレス……俺は別になにも……」
「いいから。今日は俺の好きにさせてくれないか?」
しばらくして戻ってきた店主の手には、黒い金属の輪があった。
「こちらは、使い魔を収めておくことのできる特別製のバングルでございます。こちらも使用される方の魔力を感知するとゆるやかに伸縮し、腕の太さに合わせてほどよく締まる仕組みになっておりまして、軽いアームガードとしても手首から前腕まで保護できる構造となっております」
店主はそこで一度ことばを区切り、静かに微笑んだ。
「素材はオブジディエンヌ=フェール。黒曜石の闇めいた輝きと鉄の強靭さを併せ持つ、魔法に適した希少素材です。透かし彫りの文様もあり、夜の光を受けると黒金属の表面に複雑な影が浮かび上がります」
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