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第11話 「命を懸けて、かかって来い」
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「何だよ、それ……千歳は何も悪くないじゃん」
千歳の話を聞いた夏樹は、迷わずそう言った。話が正しければ、千歳に非があるとは思えない。オメガの社会進出を妨げる壁があることは話に聞いていたが、実際に聞くと、ここまで胸糞の悪い話だとは思わなかった。
「ありがとうございます。そう言って貰えるだけで嬉しいですよ」
千歳は静かに言った。
夏樹は、最初に会った時から感じていた千歳との距離感の正体がわかった気がした。これは『アルファ』を警戒していてもおかしくない。
「千歳はさ……『アルファ』が嫌い?」
「それは……」
千歳は、少し考えるそぶりを見せてから、言葉を続けた。
「正直、よくわかりません。悪い人ばかりではないのはわかっているんですが……もう、無条件に信じることは出来ないと思います」
「そっか……」
アルファの世界で戦うことを選んだ異色のオメガ“矢崎千歳”。
彼は戦いの中で“勝利”と“自由”の味を知った……だが、同時にアルファの“冷酷さ”も“傲慢さ”も知ってしまったのだ。
オメガがアルファに劣っていないのだと……アルファの庇護等なくとも歩いて行けるのだと……そして、アルファは絶対ではないのだと……一度知ってしまったオメガはもう“坐して守られる存在”には戻れない。
千歳は二度と、世間が求める“素直で従順なオメガ”にはなれないのだ。
いや、それは千歳にとって、人生の否定であり、心の死に等しい……戻ること等、出来るはずもない。
「オレは、そいつらみたいなことはしないよ」
これだけは夏樹でも誓える。千歳の過去に関しても、現場にいたらそいつらを(出来るかどうかは兎も角)殴ってやるところだ。
「『番』になっても、何も変わらない。千歳は千歳のやりたいことをやっていいよ。応援するからさ」
夏樹の中では、千歳は泳いでいる時が一番生き生きして見えるのだ。それを奪うなんてことはしない。それこそ、損失だ。
「なあ、どうしたら信じてくれる?」
「……夏樹は、俺と『番』になりたいんですか?」
真剣な夏樹の問いに、千歳は少し目をそらしながら返した。
「もちろん!最初に会った時も言っただろ?オレ達は『運命』だって!“諦めるつもりはない”って!」
これは、夏樹の中でずっと変わらないことだ。千歳を『番』にしたい。アルファとしての本能に根差した物だとしても、千歳を自分だけの物にしたくて仕方がないのだ。今首筋を差し出されたら、すぐ『番契約』することであろう。
「では、質問を変えます……夏樹は“なぜ”そうまでして俺と『番』になりたいんですか?」
「え……?なぜって……」
千歳から飛び出した思わぬ疑問に、夏樹は思考停止した。しかし、千歳の言葉は続く。
「今は抑制剤が進歩しているから、オメガも『ヒート』に煩わされずに暮らすことが出来ます。ネックガードも質が上がっているから、部外者がそうそう外せる物じゃありません。社会の仕組みも変わって来ていますから、必ずしもアルファの庇護下に入らなくても生きていけます。何より……『番契約』はオメガにとって一生物です。1回してしまえば、もう後戻りは出来ない。アルファと違って“やっぱりやめた”は出来ないんです」
「あ……」
千歳が言っていることは真理だ。アルファがオメガを逃がさない様に進化した仕組みなだけに、『番契約』はどうしてもアルファ優位に出来ている。昔、オメガの社会的地位が低く、アルファと番契約する以外『ヒート』を抑える術がなかった時代は、“それ”でよかったのかもしれない。しかし、今は医学や社会意識の進歩に伴い、諸々の問題は解消されつつある。敢えて指摘する者がいなかっただけで、オメガが背負いこむリスクは割に合わなくなって来ているのだ。
「“ベータの様に交際して、結婚する”……それじゃ、ダメなんですか?例え『番』としての契りを交わさなくても、共に在ることは出来ます。法律が繋がりを守ってくれます」
千歳が言っていることは正しい。論理的に考えるのなら、“ダメ”ではない。合理的に見るなら、寧ろ、それが最善だ。……しかし、それが感情的に受け入れられるかどうかは別物でもあった。
「(それでもオレは千歳と『番』になりたいんだ……!)」
これは夏樹のエゴだ。千歳を『番』にすることで、夏樹自身の証を刻みたいのだ。理性の部分で“千歳は物ではない”と分かっていても、本能の部分が所有欲を促して来る。“このオメガを己のモノにせよ”と……。正直、千歳が他のアルファのところへ行こうものなら、狂って死ぬかもしれない。相手のアルファを殺すかもしれない。アルファの衝動がこんなにも乱暴で恐ろしいとは思っていなかった。
だが、夏樹は、そんなことは間違っても口には出来なかった。ここでそれを口にすれば、これまで千歳を傷つけて来たアルファ達と同じに為り下がってしまう様な気がしたのだ。
「はぁ……」
黙り込んでしまった夏樹に、千歳は溜息を吐いた。そもそも、答えを“期待していなかった”のかもしれない。
「ただ1つ、言えることがあるのだとしたら、俺は“アルファに従属するだけのオメガ”にはなりたくない。俺が『番』に求める条件は1つ。“絶対的な庇護者”ではなく、“対等なパートナー”になってくれることです」
「パートナー?」
夏樹の口から言葉が零れた。
「はい」
千歳は頷くと、夏樹の顔を覗き込んだ。
「俺と『番』になりたいのなら、“誠意”を見せてください。『番契約』は対等じゃありません。『番契約』をした瞬間、オメガはアルファに自分の“人生”を……ひいては“命”を預けることになります。ならば、アルファもオメガに“全て”を懸けてください。その“覚悟”を見せて欲しい」
夏樹の胸が深く高鳴った。“好き”だとか、“守りたい”だとか、そんな感情だけでは足りない……もっと奥にある覚悟を突き付けられた様な気さえした。
固まる夏樹の目を真っ直ぐに見据えた千歳は、挑戦的な笑みを浮かべながら、言葉を重ねる。
「俺が欲しければ……“命を懸けて、かかって来い”」
「……っ!」
刃の切っ先を突き付ける様な……鋭い千歳の言葉に、夏樹は思わず息を呑んだ。目の前にいるはずなのに、千歳が遠い。
千歳の話を聞いた夏樹は、迷わずそう言った。話が正しければ、千歳に非があるとは思えない。オメガの社会進出を妨げる壁があることは話に聞いていたが、実際に聞くと、ここまで胸糞の悪い話だとは思わなかった。
「ありがとうございます。そう言って貰えるだけで嬉しいですよ」
千歳は静かに言った。
夏樹は、最初に会った時から感じていた千歳との距離感の正体がわかった気がした。これは『アルファ』を警戒していてもおかしくない。
「千歳はさ……『アルファ』が嫌い?」
「それは……」
千歳は、少し考えるそぶりを見せてから、言葉を続けた。
「正直、よくわかりません。悪い人ばかりではないのはわかっているんですが……もう、無条件に信じることは出来ないと思います」
「そっか……」
アルファの世界で戦うことを選んだ異色のオメガ“矢崎千歳”。
彼は戦いの中で“勝利”と“自由”の味を知った……だが、同時にアルファの“冷酷さ”も“傲慢さ”も知ってしまったのだ。
オメガがアルファに劣っていないのだと……アルファの庇護等なくとも歩いて行けるのだと……そして、アルファは絶対ではないのだと……一度知ってしまったオメガはもう“坐して守られる存在”には戻れない。
千歳は二度と、世間が求める“素直で従順なオメガ”にはなれないのだ。
いや、それは千歳にとって、人生の否定であり、心の死に等しい……戻ること等、出来るはずもない。
「オレは、そいつらみたいなことはしないよ」
これだけは夏樹でも誓える。千歳の過去に関しても、現場にいたらそいつらを(出来るかどうかは兎も角)殴ってやるところだ。
「『番』になっても、何も変わらない。千歳は千歳のやりたいことをやっていいよ。応援するからさ」
夏樹の中では、千歳は泳いでいる時が一番生き生きして見えるのだ。それを奪うなんてことはしない。それこそ、損失だ。
「なあ、どうしたら信じてくれる?」
「……夏樹は、俺と『番』になりたいんですか?」
真剣な夏樹の問いに、千歳は少し目をそらしながら返した。
「もちろん!最初に会った時も言っただろ?オレ達は『運命』だって!“諦めるつもりはない”って!」
これは、夏樹の中でずっと変わらないことだ。千歳を『番』にしたい。アルファとしての本能に根差した物だとしても、千歳を自分だけの物にしたくて仕方がないのだ。今首筋を差し出されたら、すぐ『番契約』することであろう。
「では、質問を変えます……夏樹は“なぜ”そうまでして俺と『番』になりたいんですか?」
「え……?なぜって……」
千歳から飛び出した思わぬ疑問に、夏樹は思考停止した。しかし、千歳の言葉は続く。
「今は抑制剤が進歩しているから、オメガも『ヒート』に煩わされずに暮らすことが出来ます。ネックガードも質が上がっているから、部外者がそうそう外せる物じゃありません。社会の仕組みも変わって来ていますから、必ずしもアルファの庇護下に入らなくても生きていけます。何より……『番契約』はオメガにとって一生物です。1回してしまえば、もう後戻りは出来ない。アルファと違って“やっぱりやめた”は出来ないんです」
「あ……」
千歳が言っていることは真理だ。アルファがオメガを逃がさない様に進化した仕組みなだけに、『番契約』はどうしてもアルファ優位に出来ている。昔、オメガの社会的地位が低く、アルファと番契約する以外『ヒート』を抑える術がなかった時代は、“それ”でよかったのかもしれない。しかし、今は医学や社会意識の進歩に伴い、諸々の問題は解消されつつある。敢えて指摘する者がいなかっただけで、オメガが背負いこむリスクは割に合わなくなって来ているのだ。
「“ベータの様に交際して、結婚する”……それじゃ、ダメなんですか?例え『番』としての契りを交わさなくても、共に在ることは出来ます。法律が繋がりを守ってくれます」
千歳が言っていることは正しい。論理的に考えるのなら、“ダメ”ではない。合理的に見るなら、寧ろ、それが最善だ。……しかし、それが感情的に受け入れられるかどうかは別物でもあった。
「(それでもオレは千歳と『番』になりたいんだ……!)」
これは夏樹のエゴだ。千歳を『番』にすることで、夏樹自身の証を刻みたいのだ。理性の部分で“千歳は物ではない”と分かっていても、本能の部分が所有欲を促して来る。“このオメガを己のモノにせよ”と……。正直、千歳が他のアルファのところへ行こうものなら、狂って死ぬかもしれない。相手のアルファを殺すかもしれない。アルファの衝動がこんなにも乱暴で恐ろしいとは思っていなかった。
だが、夏樹は、そんなことは間違っても口には出来なかった。ここでそれを口にすれば、これまで千歳を傷つけて来たアルファ達と同じに為り下がってしまう様な気がしたのだ。
「はぁ……」
黙り込んでしまった夏樹に、千歳は溜息を吐いた。そもそも、答えを“期待していなかった”のかもしれない。
「ただ1つ、言えることがあるのだとしたら、俺は“アルファに従属するだけのオメガ”にはなりたくない。俺が『番』に求める条件は1つ。“絶対的な庇護者”ではなく、“対等なパートナー”になってくれることです」
「パートナー?」
夏樹の口から言葉が零れた。
「はい」
千歳は頷くと、夏樹の顔を覗き込んだ。
「俺と『番』になりたいのなら、“誠意”を見せてください。『番契約』は対等じゃありません。『番契約』をした瞬間、オメガはアルファに自分の“人生”を……ひいては“命”を預けることになります。ならば、アルファもオメガに“全て”を懸けてください。その“覚悟”を見せて欲しい」
夏樹の胸が深く高鳴った。“好き”だとか、“守りたい”だとか、そんな感情だけでは足りない……もっと奥にある覚悟を突き付けられた様な気さえした。
固まる夏樹の目を真っ直ぐに見据えた千歳は、挑戦的な笑みを浮かべながら、言葉を重ねる。
「俺が欲しければ……“命を懸けて、かかって来い”」
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