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第12話 「”アルファの先輩”として、何か力になれることがあるかもしれないしね?」
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「ただいまー……」
夏樹は、帰りの挨拶と共に、家に入った。改札へ入って行く千歳を見送った後、夏樹はずっと上の空だった。
「命を懸けて、かかってこい」
千歳に投げ掛けられた言葉が、夏樹の頭の中でグルグル回っていた。”命を懸ける”なんて言葉を実際に聞くとは思わなかった……だが、冗談だと笑い飛ばせない気迫が、間違いなくそこにあった。
幸せな『運命の番』の元に『アルファ』として生を受けた夏樹にとって、『番契約』とは、”愛の証”であり、”幸せの象徴”だった。永遠を誓い合う清らかな物だった……だが、その認識は、今日、千歳と話したことで根底から揺らいでしまった。
アルファとオメガでは、『番契約』の重さが天と地程も違うのだ。『番』とは、オメガにとっては一生物なのだ。やり直しが利かない一度きりの物。オメガの視点で見れば、『番契約』は相手のアルファに全てをゆだねる行為に他ならないのだ。アルファとは全然違う。
夏樹は、どこか夢を見ていたのかもしれない。字面を見て、理解した気になっていただけなのかもしれない。夏樹が千歳を好きな気持ちは変わらない……変わらないが、あの時、夏樹が千歳に返せる言葉はなかった。ただ”好きだ”と繰り返すのは簡単だが、それをしても千歳は納得してくれなかっただろう。夏樹の言葉には、それだけの重みがない。
「おかえり、ナツ君!」
「うわっ!?」
そんな夏樹の気持ち等、知ったことかとばかりに抱き着いて来た男がいた。夏樹が30年程歳を重ねればこうなるであろうと言う風貌の中年男で、手には小さな紙袋を下げている。夏樹の父にして、母の7歳年上の『番』――加原和樹だった。どうやら、出張から帰って来たらしい。
「ほら、お土産だよ!どうしたんだい?ナツ君がそんな顔してたら、母さんが悲しむじゃないか!ほら、我って笑って!」
父はウインクしながら、夏樹の頬を持ち上げ、無理矢理笑顔を作ろうとする。
「(うぜぇ……!)」
大学生にもなった息子にとって、この父の態度はうっとおしい以外の何物でもない。特に、今は悩み事のある夏樹にとって、このテンションで来られるのはうっとおしい通り越して、苛ただしい。反抗期はとっくに終えたはずだったが……また、出戻りしてしまいそうだ。
「和樹!あまり、夏樹を揶揄わないで」
そんな夏樹の苛立ちを察したのか、母が助け舟を出してくれた。
「ははは!母さんにそう言われたんじゃ、仕方ない!もう少し、ナツ君と遊んでいたかったんだが……ここらで止めておこう」
母の言葉で夏樹から離れた父は、母の方へ向かって行く。
「母さん、オレがいない間寂しかっただろ?今日は久々に……」
「夏樹の前で止してよ……っ」
「いいじゃないか、見せ付けてやれば!どうせなら、夏樹の成人式に弟か妹をプレゼントするって言うのはどうかな?」
夏樹の目の前で、父と母は惚気始めた。積極的に絡んでいるのは主に父だが、母もまた、まんざらでもないのがわかる。
「(万年新婚夫婦め!)」
はっきり言って、目に毒だ。『運命の番』を目の前に思い悩む夏樹にとっては、両親の関係は”超”が何重にも連なる程羨ましい物である。それと同時に、千歳に母の様な反応を返させられない『アルファ』の自分に腹が立つ。
夏樹はすっかり二人の世界に入った両親を置き去りに、先に風呂に入ることにした。
その夜、夏樹はふと目が覚めた。同時に、喉の渇きを感じた夏樹が台所へ向かうと、途中のリビングのソファで、父がテレビを見ていた。放送されているのは、結婚式の様子……いや、両親の結婚式の録画映像だった。
「(また、見てんのかよ……)」
夏樹は、内心そう思いながら、こそこそと台所へ潜り込み、用を足した。見付かると面倒だからだ。何が哀しくて、何度も両親の結婚式を見せられなければならないのだろうか?
「おう、ナツ君か!こんな時間にどうしたんだ?」
しかし、そんな夏樹の願いは虚しく、あっさり父に見付かってしまった。
「よかったら、一緒に見て行かないか?母さん、綺麗だろ?今も綺麗だけど!」
「いや、それ前も見たってば……」
ちなみに、見たのはこれで11回目だ。本当によく飽きない物である。さっさと話を打ち切って寝室に戻ろうとした夏樹だったが、父は簡単には放してくれなかった。
「そう言えば、ナツ君、『運命の番』に会ったんだって?母さんから聞いたぞ?」
「……っ」
その言葉に、夏樹は思わず足を止めた。父は、面白そうに話を続ける。
「どんな子なんだ?どのくらいまで進んだんだ?もう『番契約』は出来たのか?今度、会わせてくれないか?」
「(呑気な親父め……)」
夏樹は、矢継ぎ早な父の質問に、何も返せずにただ立ち尽くしていた。
「もしかして、上手く行っていないのかい?」
何も言わない夏樹の姿に、流石の父も何かを察した様だ。
「……だったら、何だよ」
図星を突かれた夏樹の言葉が、心なしか刺々しくなる。そもそも、”どうしたら、上手く行くのかわからない”のだ。『番契約』をする上での”誠意”なんて、どうしたら見せられるのだろう?そんなことは誰も言っていなかったし、どこにも書いてなかった。
「だったら、ここで話してみないかい?」
拳を握り締めて俯く息子の姿に、父は神妙な顔付きになって言った。
「ナツ君が『運命』を見付けられたことは、親として純粋に喜ばしいし、ナツ君が本気でその人のことを思っているのなら、全力で応援したい。『アルファの先輩』として、何か力になれることがあるかもしれないしね?」
「父さん……」
父の真摯な様子に、夏樹は少し迷った後、話すことを決めた。
夏樹は、帰りの挨拶と共に、家に入った。改札へ入って行く千歳を見送った後、夏樹はずっと上の空だった。
「命を懸けて、かかってこい」
千歳に投げ掛けられた言葉が、夏樹の頭の中でグルグル回っていた。”命を懸ける”なんて言葉を実際に聞くとは思わなかった……だが、冗談だと笑い飛ばせない気迫が、間違いなくそこにあった。
幸せな『運命の番』の元に『アルファ』として生を受けた夏樹にとって、『番契約』とは、”愛の証”であり、”幸せの象徴”だった。永遠を誓い合う清らかな物だった……だが、その認識は、今日、千歳と話したことで根底から揺らいでしまった。
アルファとオメガでは、『番契約』の重さが天と地程も違うのだ。『番』とは、オメガにとっては一生物なのだ。やり直しが利かない一度きりの物。オメガの視点で見れば、『番契約』は相手のアルファに全てをゆだねる行為に他ならないのだ。アルファとは全然違う。
夏樹は、どこか夢を見ていたのかもしれない。字面を見て、理解した気になっていただけなのかもしれない。夏樹が千歳を好きな気持ちは変わらない……変わらないが、あの時、夏樹が千歳に返せる言葉はなかった。ただ”好きだ”と繰り返すのは簡単だが、それをしても千歳は納得してくれなかっただろう。夏樹の言葉には、それだけの重みがない。
「おかえり、ナツ君!」
「うわっ!?」
そんな夏樹の気持ち等、知ったことかとばかりに抱き着いて来た男がいた。夏樹が30年程歳を重ねればこうなるであろうと言う風貌の中年男で、手には小さな紙袋を下げている。夏樹の父にして、母の7歳年上の『番』――加原和樹だった。どうやら、出張から帰って来たらしい。
「ほら、お土産だよ!どうしたんだい?ナツ君がそんな顔してたら、母さんが悲しむじゃないか!ほら、我って笑って!」
父はウインクしながら、夏樹の頬を持ち上げ、無理矢理笑顔を作ろうとする。
「(うぜぇ……!)」
大学生にもなった息子にとって、この父の態度はうっとおしい以外の何物でもない。特に、今は悩み事のある夏樹にとって、このテンションで来られるのはうっとおしい通り越して、苛ただしい。反抗期はとっくに終えたはずだったが……また、出戻りしてしまいそうだ。
「和樹!あまり、夏樹を揶揄わないで」
そんな夏樹の苛立ちを察したのか、母が助け舟を出してくれた。
「ははは!母さんにそう言われたんじゃ、仕方ない!もう少し、ナツ君と遊んでいたかったんだが……ここらで止めておこう」
母の言葉で夏樹から離れた父は、母の方へ向かって行く。
「母さん、オレがいない間寂しかっただろ?今日は久々に……」
「夏樹の前で止してよ……っ」
「いいじゃないか、見せ付けてやれば!どうせなら、夏樹の成人式に弟か妹をプレゼントするって言うのはどうかな?」
夏樹の目の前で、父と母は惚気始めた。積極的に絡んでいるのは主に父だが、母もまた、まんざらでもないのがわかる。
「(万年新婚夫婦め!)」
はっきり言って、目に毒だ。『運命の番』を目の前に思い悩む夏樹にとっては、両親の関係は”超”が何重にも連なる程羨ましい物である。それと同時に、千歳に母の様な反応を返させられない『アルファ』の自分に腹が立つ。
夏樹はすっかり二人の世界に入った両親を置き去りに、先に風呂に入ることにした。
その夜、夏樹はふと目が覚めた。同時に、喉の渇きを感じた夏樹が台所へ向かうと、途中のリビングのソファで、父がテレビを見ていた。放送されているのは、結婚式の様子……いや、両親の結婚式の録画映像だった。
「(また、見てんのかよ……)」
夏樹は、内心そう思いながら、こそこそと台所へ潜り込み、用を足した。見付かると面倒だからだ。何が哀しくて、何度も両親の結婚式を見せられなければならないのだろうか?
「おう、ナツ君か!こんな時間にどうしたんだ?」
しかし、そんな夏樹の願いは虚しく、あっさり父に見付かってしまった。
「よかったら、一緒に見て行かないか?母さん、綺麗だろ?今も綺麗だけど!」
「いや、それ前も見たってば……」
ちなみに、見たのはこれで11回目だ。本当によく飽きない物である。さっさと話を打ち切って寝室に戻ろうとした夏樹だったが、父は簡単には放してくれなかった。
「そう言えば、ナツ君、『運命の番』に会ったんだって?母さんから聞いたぞ?」
「……っ」
その言葉に、夏樹は思わず足を止めた。父は、面白そうに話を続ける。
「どんな子なんだ?どのくらいまで進んだんだ?もう『番契約』は出来たのか?今度、会わせてくれないか?」
「(呑気な親父め……)」
夏樹は、矢継ぎ早な父の質問に、何も返せずにただ立ち尽くしていた。
「もしかして、上手く行っていないのかい?」
何も言わない夏樹の姿に、流石の父も何かを察した様だ。
「……だったら、何だよ」
図星を突かれた夏樹の言葉が、心なしか刺々しくなる。そもそも、”どうしたら、上手く行くのかわからない”のだ。『番契約』をする上での”誠意”なんて、どうしたら見せられるのだろう?そんなことは誰も言っていなかったし、どこにも書いてなかった。
「だったら、ここで話してみないかい?」
拳を握り締めて俯く息子の姿に、父は神妙な顔付きになって言った。
「ナツ君が『運命』を見付けられたことは、親として純粋に喜ばしいし、ナツ君が本気でその人のことを思っているのなら、全力で応援したい。『アルファの先輩』として、何か力になれることがあるかもしれないしね?」
「父さん……」
父の真摯な様子に、夏樹は少し迷った後、話すことを決めた。
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