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第1章 私と極悪上司
5.子供を溺愛って想像できない
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その後も、京塚主任との関係は変わらなかった。
わからないことがあっても、訊く隙を与えてくれない。
それに私がトラブっていたら、説明なくさっさと解決してしまう。
訊けばいいのはわかっていたが、あの目に睨まれたらなにも言えなくなってしまう。
入社して一週間ほどたったその日は、歓迎会だった。
「京塚主任は来ないんですね」
会場になった居酒屋に、彼の姿はない。
いや別に、彼と飲みたかったとか全くないけど。
でも、直属の上司なのに部下の歓迎会に出席しないなんて、ますます私は彼に嫌われているんじゃないかと思えてくる。
「あー、杏里ちゃんがいるからね、あの人」
隣に座った西山さんは、手酌でビールを飲んでいる。
ここではお酌文化なんてものはなく、飲みたい人が自分で注いで自分で飲むシステムなのらしい。
素晴らしい。
「杏里ちゃん?」
とは奥様のことですか?
「京塚主任の娘さん。
これがあの人に似てなくて、すっごく可愛いの!」
西山さんはゲラゲラおかしそうに笑っている。
「あの人、杏里ちゃんを溺愛しているからさー。
飲み会よりも杏里ちゃんが大事だから、仕方ない」
「……はぁ……」
あの顔で、娘を溺愛? 想像ができない……。
だってそもそも、結婚していること自体が想像できないんだもん。
あ、でも、毎日お弁当持ってきているみたいだし、意外と愛妻家なのかな?
他にも京塚主任の情報が得られないかと思ったけれど、年は三十二ということしかわからなかった。
まあ、いない人の噂を肴にお酒を飲む、なんて悪趣味だもんね。
飲み会はだらだら続くこともなく、すっぱり時間になって終わった。
お酌といい、そのへん、とてもいい会社に就職したと思う。
……上司はあれだけど。
それでも半月ほどたてば、どうにかこうにか仕事はこなせるようになっていた。
――ピンコン。
「あー……」
上がってきた警告を確認し、マニュアルをくる。
自分なりに作ったそれは、かなりの厚みになっていた。
「これ、かな……?」
実行ボタンを押せば、今度はエラーは出ずに新しい画面になった。
「よし、っと……」
自分なりに調べ、試行錯誤でやっていく。
もうすっかり、その癖がついていた。
――プルルルッ。
「はい。
スーリールカンパニー営業部、星谷です」
初日、あんなにダメダメだっただ電話も、もう慣れたもの。
『YMコーポレートの岸田です。
三島さんはいらっしゃいますか』
素早く見た席に彼はいない。
そのまま視線を移動させ、行動予定を確認する。
「申し訳ありません、ただいま外出しております」
よし、完璧!
なんて安心したのも束の間。
『そうですか。
あの、納期の件で確認をしたいのですが、よろしいですか?』
「納期でございますか……?」
さらなる試練が襲いかかってきて、わたわたと慌てた。
けれど小さく深呼吸して気を落ち着ける。
「少々、お待ちください」
保留ボタンを押し、マウスを握る。
社内共通スケジュール表を見れば、納期の確認なんて簡単……簡単……じゃ、なかった。
目的の表はすぐに見つかったが、どれが納期なのかわからない。
ちらっ、と京塚主任を見たものの、すぐに顔面へ視線を戻す。
……納期、なんだから一番最後の奴のはず。
目星をつけ、受話器を取って保留を解除した。
「お待たせいたしました。
六月十三日になっております」
『当初の予定どおりなんですね!
わかりました、ありがとうございます。
では、失礼いたします』
電話が切れ、ひと仕事終えた気分。
……でもなんか、引っかかるのはなんでだろう?
わからないことがあっても、訊く隙を与えてくれない。
それに私がトラブっていたら、説明なくさっさと解決してしまう。
訊けばいいのはわかっていたが、あの目に睨まれたらなにも言えなくなってしまう。
入社して一週間ほどたったその日は、歓迎会だった。
「京塚主任は来ないんですね」
会場になった居酒屋に、彼の姿はない。
いや別に、彼と飲みたかったとか全くないけど。
でも、直属の上司なのに部下の歓迎会に出席しないなんて、ますます私は彼に嫌われているんじゃないかと思えてくる。
「あー、杏里ちゃんがいるからね、あの人」
隣に座った西山さんは、手酌でビールを飲んでいる。
ここではお酌文化なんてものはなく、飲みたい人が自分で注いで自分で飲むシステムなのらしい。
素晴らしい。
「杏里ちゃん?」
とは奥様のことですか?
「京塚主任の娘さん。
これがあの人に似てなくて、すっごく可愛いの!」
西山さんはゲラゲラおかしそうに笑っている。
「あの人、杏里ちゃんを溺愛しているからさー。
飲み会よりも杏里ちゃんが大事だから、仕方ない」
「……はぁ……」
あの顔で、娘を溺愛? 想像ができない……。
だってそもそも、結婚していること自体が想像できないんだもん。
あ、でも、毎日お弁当持ってきているみたいだし、意外と愛妻家なのかな?
他にも京塚主任の情報が得られないかと思ったけれど、年は三十二ということしかわからなかった。
まあ、いない人の噂を肴にお酒を飲む、なんて悪趣味だもんね。
飲み会はだらだら続くこともなく、すっぱり時間になって終わった。
お酌といい、そのへん、とてもいい会社に就職したと思う。
……上司はあれだけど。
それでも半月ほどたてば、どうにかこうにか仕事はこなせるようになっていた。
――ピンコン。
「あー……」
上がってきた警告を確認し、マニュアルをくる。
自分なりに作ったそれは、かなりの厚みになっていた。
「これ、かな……?」
実行ボタンを押せば、今度はエラーは出ずに新しい画面になった。
「よし、っと……」
自分なりに調べ、試行錯誤でやっていく。
もうすっかり、その癖がついていた。
――プルルルッ。
「はい。
スーリールカンパニー営業部、星谷です」
初日、あんなにダメダメだっただ電話も、もう慣れたもの。
『YMコーポレートの岸田です。
三島さんはいらっしゃいますか』
素早く見た席に彼はいない。
そのまま視線を移動させ、行動予定を確認する。
「申し訳ありません、ただいま外出しております」
よし、完璧!
なんて安心したのも束の間。
『そうですか。
あの、納期の件で確認をしたいのですが、よろしいですか?』
「納期でございますか……?」
さらなる試練が襲いかかってきて、わたわたと慌てた。
けれど小さく深呼吸して気を落ち着ける。
「少々、お待ちください」
保留ボタンを押し、マウスを握る。
社内共通スケジュール表を見れば、納期の確認なんて簡単……簡単……じゃ、なかった。
目的の表はすぐに見つかったが、どれが納期なのかわからない。
ちらっ、と京塚主任を見たものの、すぐに顔面へ視線を戻す。
……納期、なんだから一番最後の奴のはず。
目星をつけ、受話器を取って保留を解除した。
「お待たせいたしました。
六月十三日になっております」
『当初の予定どおりなんですね!
わかりました、ありがとうございます。
では、失礼いたします』
電話が切れ、ひと仕事終えた気分。
……でもなんか、引っかかるのはなんでだろう?
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