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第1章 私と極悪上司
4.みんな、同じように思ってるんだ
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前日は打って変わって、どんよりと重い気持ちで出社した。
「おはようございます……」
私の、斜め前の席の持ち主はまだ、出勤してきていなかった。
もそもそと準備をし、まだある時間で昨日の復習なんてやってみる。
「っはよっす」
始業時間ギリギリになって京塚主任が出勤してきた。
なんか椅子に座るとき、じろっと冷たい視線で見下ろされた気がしたけど、……気のせいだと思いたい。
朝礼が終わり、業務がはじまる。
「昨日教えた入力、やっとけ」
私にデータを渡し、京塚主任は別の仕事をはじめた。
……今日は、上手くやる。
深呼吸をして、入力をはじめた。
――ピンコン。
【入力値が有効ではありません】
「うっ」
しばらくは順調にできていたものの、昨日と同じメッセージが上がってくる。
「どれ、だろ?」
昨日、京塚主任が私に教えることなく処理してしまったところだから、わからない。
助けを求めるように彼を見たら、目があった。
教えてほしいと口を開きかけたものの、速攻で逸らしてしまう。
だって――手間かけさせんなっ! って眼鏡の奥の目が語っていたから。
「……詰んだ」
はぁーっ、とため息をついたら同時に他からも聞こえてきた。
席を立った京塚主任が私の後ろに立ち、昨日と同じで操作をして実行ボタンを押す。
「おい、西山!」
「ハ、ハイッ!」
弾かれるように向こうの島で、私と京塚主任の間くらいの男性が弾かれるように立ち上がる。
そのまま彼はマッハで京塚主任の前に立った。
「オマエ、いい加減にしろよ?
いつになったら正確にオーダー票書けるんだ?
ああっ?」
「す、すみません!」
長身の京塚主任から高圧的に見下ろされ、西山さんは完全に怯えている。
「入社何年目だよ、オマエ?」
「に、二年です……」
「もう後輩も入ってきたのに、まだ新入社員気分か、あ?」
じろっ、と眼光鋭く眼鏡の奥から京塚主任に睨みつけられ、西山さんはびくっと身体を大きく揺らした。
「オーダー票くらい、まともに書けや。
こっちが迷惑するんだし」
「す、すみませんでした!」
勢いよく下げられた西山さんのあたまの上に、京塚主任がため息を落とす。
「次はないと思えよ」
「ハ、ハイッ!
肝に銘じておきます!」
西山さんがさらに深く、あたまを下げた。
京塚主任が席に戻り、彼もすっかり肩を落としてとぼとぼと自分の席へ戻っていった。
……えーっ!?
そんなに怒鳴んなくてもいいよね……。
確かに、彼のせいで手間は取らされたけど。
すでに京塚主任はなんでもない顔で作業を再開している。
絶対に彼を怒らせるようなことだけはしないようにしようと、固く誓った。
「終わったか」
「はい」
京塚主任から声をかけられ、顔を上げる。
「じゃあ、次を教えるぞ」
仏頂面で今日も彼は私に仕事を教えてくれた。
それを一言一句漏らさぬよう集中してきき、メモに取る。
「じゃあ、これ、入力しておけ」
「はい」
また、もらったデータを元に入力していく。
今度はなんの問題もなく進められた。
お昼は今日も、休憩室で作ってきたお弁当を食べる。
「ここ、いいかな?」
「あ、はい。
どうぞ」
蓋を開けてすぐ、私の前にカップ麺とコンビニおにぎりを掴んだ西山さんが座った。
「どう?
仕事は慣れた?」
おにぎりのビニールをバリバリと剥ぎ、西山さんが頬張る。
にこにこと笑っている彼は、誰かさんと違って非常に人がよさそうに見えた。
「あー……。
その、まあ」
曖昧な笑みで、言葉を濁す。
京塚主任の下なんて無理です! なんて言えるわけがない。
「まあ、あの人の下とか大変だと思うけど」
私の答えに、西山さんが苦笑いを浮かべる。
それに、周りの人間も同じように思っているんだと少し、安心した。
「なんかあったらいつでも言ってよ。
それこそ、京塚主任の愚痴でもさ」
ちらっと、彼の視線が少し前を向く。
そこでは昨日と同じで、京塚主任がお弁当を食べていた。
「えっと。
そのときは、よろしくお願いします」
笑みを貼り付けて返事をする。
こうやって話しかけられて適当に返事をすることはできるが、それ以上は無理だし。
「そうだ。
今日、飲みにいかない?
歓迎会も兼ねて」
「あ、えっと。
今日は、ちょっと」
「なんだ、残念」
彼はそれ以上、私を誘う気はないらしく、勢いよくラーメンを啜った。
聞いてほしい話も、訊きたい話もたくさんある。
でも、私にはまだ、そんなスキルがないし。
午後からも京塚主任に怯えながら仕事をこなし、今日も終業時間になると同時に。
「おつかれっしたー」
京塚主任は私を無視して、さっさと帰っていった。
「……まあ、いいけどさ」
私もそれ以上、する仕事がないから帰るけど。
「おはようございます……」
私の、斜め前の席の持ち主はまだ、出勤してきていなかった。
もそもそと準備をし、まだある時間で昨日の復習なんてやってみる。
「っはよっす」
始業時間ギリギリになって京塚主任が出勤してきた。
なんか椅子に座るとき、じろっと冷たい視線で見下ろされた気がしたけど、……気のせいだと思いたい。
朝礼が終わり、業務がはじまる。
「昨日教えた入力、やっとけ」
私にデータを渡し、京塚主任は別の仕事をはじめた。
……今日は、上手くやる。
深呼吸をして、入力をはじめた。
――ピンコン。
【入力値が有効ではありません】
「うっ」
しばらくは順調にできていたものの、昨日と同じメッセージが上がってくる。
「どれ、だろ?」
昨日、京塚主任が私に教えることなく処理してしまったところだから、わからない。
助けを求めるように彼を見たら、目があった。
教えてほしいと口を開きかけたものの、速攻で逸らしてしまう。
だって――手間かけさせんなっ! って眼鏡の奥の目が語っていたから。
「……詰んだ」
はぁーっ、とため息をついたら同時に他からも聞こえてきた。
席を立った京塚主任が私の後ろに立ち、昨日と同じで操作をして実行ボタンを押す。
「おい、西山!」
「ハ、ハイッ!」
弾かれるように向こうの島で、私と京塚主任の間くらいの男性が弾かれるように立ち上がる。
そのまま彼はマッハで京塚主任の前に立った。
「オマエ、いい加減にしろよ?
いつになったら正確にオーダー票書けるんだ?
ああっ?」
「す、すみません!」
長身の京塚主任から高圧的に見下ろされ、西山さんは完全に怯えている。
「入社何年目だよ、オマエ?」
「に、二年です……」
「もう後輩も入ってきたのに、まだ新入社員気分か、あ?」
じろっ、と眼光鋭く眼鏡の奥から京塚主任に睨みつけられ、西山さんはびくっと身体を大きく揺らした。
「オーダー票くらい、まともに書けや。
こっちが迷惑するんだし」
「す、すみませんでした!」
勢いよく下げられた西山さんのあたまの上に、京塚主任がため息を落とす。
「次はないと思えよ」
「ハ、ハイッ!
肝に銘じておきます!」
西山さんがさらに深く、あたまを下げた。
京塚主任が席に戻り、彼もすっかり肩を落としてとぼとぼと自分の席へ戻っていった。
……えーっ!?
そんなに怒鳴んなくてもいいよね……。
確かに、彼のせいで手間は取らされたけど。
すでに京塚主任はなんでもない顔で作業を再開している。
絶対に彼を怒らせるようなことだけはしないようにしようと、固く誓った。
「終わったか」
「はい」
京塚主任から声をかけられ、顔を上げる。
「じゃあ、次を教えるぞ」
仏頂面で今日も彼は私に仕事を教えてくれた。
それを一言一句漏らさぬよう集中してきき、メモに取る。
「じゃあ、これ、入力しておけ」
「はい」
また、もらったデータを元に入力していく。
今度はなんの問題もなく進められた。
お昼は今日も、休憩室で作ってきたお弁当を食べる。
「ここ、いいかな?」
「あ、はい。
どうぞ」
蓋を開けてすぐ、私の前にカップ麺とコンビニおにぎりを掴んだ西山さんが座った。
「どう?
仕事は慣れた?」
おにぎりのビニールをバリバリと剥ぎ、西山さんが頬張る。
にこにこと笑っている彼は、誰かさんと違って非常に人がよさそうに見えた。
「あー……。
その、まあ」
曖昧な笑みで、言葉を濁す。
京塚主任の下なんて無理です! なんて言えるわけがない。
「まあ、あの人の下とか大変だと思うけど」
私の答えに、西山さんが苦笑いを浮かべる。
それに、周りの人間も同じように思っているんだと少し、安心した。
「なんかあったらいつでも言ってよ。
それこそ、京塚主任の愚痴でもさ」
ちらっと、彼の視線が少し前を向く。
そこでは昨日と同じで、京塚主任がお弁当を食べていた。
「えっと。
そのときは、よろしくお願いします」
笑みを貼り付けて返事をする。
こうやって話しかけられて適当に返事をすることはできるが、それ以上は無理だし。
「そうだ。
今日、飲みにいかない?
歓迎会も兼ねて」
「あ、えっと。
今日は、ちょっと」
「なんだ、残念」
彼はそれ以上、私を誘う気はないらしく、勢いよくラーメンを啜った。
聞いてほしい話も、訊きたい話もたくさんある。
でも、私にはまだ、そんなスキルがないし。
午後からも京塚主任に怯えながら仕事をこなし、今日も終業時間になると同時に。
「おつかれっしたー」
京塚主任は私を無視して、さっさと帰っていった。
「……まあ、いいけどさ」
私もそれ以上、する仕事がないから帰るけど。
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