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最終章 極悪上司と結婚指環
3.杏里の不安
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トイレまできて、入り口で立ち止まっている杏里ちゃんが見えた。
「どう……」
声を掛けかけて、途切れる。
中で話している、女性の声が聞こえてきたから。
「京塚主任、かわいそー。
あんなガキがいるから、再婚もできないんでしょ?」
「ねー、生意気だしさ。
京塚主任、ちょっといいなーとは思うけど、あのガキがついてくるんだと思ったら、無理」
言いたい放題の彼女たちに、カッと腹の底が熱くなる。
「ちょっ……」
「……いいの」
杏里ちゃんが私の手を掴み、止めた。
「知ってるから。
杏里がパパの、邪魔になってるの」
俯いてしまった、彼女の顔は見えない。
けれどそんな彼女に、さらに腹の中が熱くなる。
「きて!」
杏里ちゃんを連れ、一階下へ降りる。
会議室しかないそこのトイレなら、利用者はほとんどいない。
「あのね。
パパは杏里ちゃんが邪魔だなんて、これっぽっちも思ってないよ。
絶対に」
肩に手を置き、しゃがんでしっかりと杏里ちゃんと目をあわせる。
みるみるうちに、彼女の目には涙が溜まっていった。
「でも、みんな言ってる。
パパは杏里のせいで再婚もできないし、杏里のせいでお仕事もできないんだって」
「みんなって、誰!?
他の人はどうでもいいの。
杏里ちゃんはパパにそう言われたの?」
ふるふると彼女が首を振る。
「でも、本当は思ってるかもしれない……」
「ああ、もうっ!」
肩を持つ手を一度揺らすと、杏里ちゃんは目を一杯一杯開いて私を見た。
「私から見て、パパは杏里ちゃんを大事にしてるよ?
杏里ちゃんが熱出したって聞いたら飛んで帰るし、いつも杏里ちゃんのことを考えてる。
だから、信じてあげよ?」
「……うん」
まばたきした彼女の目から、大粒の涙が落ちていく。
思わずそのまま、抱き締めていた。
「あんな奴ら、私よりパパに愛されなくて妬いてるんでしょ、って見下してやればいいのよ。
いつもの杏里ちゃんみたいに」
「……あんた、杏里のこと、どう思ってるの?」
身体を離して、彼女の顔を見る。
「ツンデレお姫様?」
「……ムカつく」
そう言いつつも、彼女は笑顔だった。
「ほら、トイレ済ませて早くもどろ?
あんまり遅いと、パパが心配する」
「そうだね」
ハンカチで彼女の顔を拭いてやり、用事を済ませる。
戻ったら案の定、京塚主任はそわそわしていた。
「遅かったな。
なんかあったのか?」
眼鏡の下で、眉が寄る。
けれど。
「なんでもないよ、パパ」
杏里ちゃんが手を握り、私を見上げる。
「そーですよ。
女のトイレは長いものです」
彼女と顔を見合わせ、笑いあった。
「なら、いいが」
京塚主任は釈然としていないが、これは女同士の秘密、ってことで。
仕事のことは心配しても仕方ないので、頑張るしかないのだが、気になることがひとつ。
午後からも西山さんは、心ここにあらず、といった感じでぼーっと座っていたから。
「お疲れ様でしたー」
「おつかれっしったー」
適当な時間になって、帰る。
私たちは事務だから早上がりだが、営業の人たちはもっと遅いみたい。
それでも帰れるだけましだよね。
開発の人たちは昨日から泊まり込みらしいし。
「じゃあ、お疲れ様でした」
「お疲れー」
自転車に杏里ちゃんを乗せ、京塚主任は帰っていった。
電動アシストじゃない自転車で。
「……すごっ」
そりゃ、お腹すくよね……。
「そうだ」
明日もお弁当は作らないと言っていた。
なら、……お弁当、作っていったら喜んでくれるかな?
「どう……」
声を掛けかけて、途切れる。
中で話している、女性の声が聞こえてきたから。
「京塚主任、かわいそー。
あんなガキがいるから、再婚もできないんでしょ?」
「ねー、生意気だしさ。
京塚主任、ちょっといいなーとは思うけど、あのガキがついてくるんだと思ったら、無理」
言いたい放題の彼女たちに、カッと腹の底が熱くなる。
「ちょっ……」
「……いいの」
杏里ちゃんが私の手を掴み、止めた。
「知ってるから。
杏里がパパの、邪魔になってるの」
俯いてしまった、彼女の顔は見えない。
けれどそんな彼女に、さらに腹の中が熱くなる。
「きて!」
杏里ちゃんを連れ、一階下へ降りる。
会議室しかないそこのトイレなら、利用者はほとんどいない。
「あのね。
パパは杏里ちゃんが邪魔だなんて、これっぽっちも思ってないよ。
絶対に」
肩に手を置き、しゃがんでしっかりと杏里ちゃんと目をあわせる。
みるみるうちに、彼女の目には涙が溜まっていった。
「でも、みんな言ってる。
パパは杏里のせいで再婚もできないし、杏里のせいでお仕事もできないんだって」
「みんなって、誰!?
他の人はどうでもいいの。
杏里ちゃんはパパにそう言われたの?」
ふるふると彼女が首を振る。
「でも、本当は思ってるかもしれない……」
「ああ、もうっ!」
肩を持つ手を一度揺らすと、杏里ちゃんは目を一杯一杯開いて私を見た。
「私から見て、パパは杏里ちゃんを大事にしてるよ?
杏里ちゃんが熱出したって聞いたら飛んで帰るし、いつも杏里ちゃんのことを考えてる。
だから、信じてあげよ?」
「……うん」
まばたきした彼女の目から、大粒の涙が落ちていく。
思わずそのまま、抱き締めていた。
「あんな奴ら、私よりパパに愛されなくて妬いてるんでしょ、って見下してやればいいのよ。
いつもの杏里ちゃんみたいに」
「……あんた、杏里のこと、どう思ってるの?」
身体を離して、彼女の顔を見る。
「ツンデレお姫様?」
「……ムカつく」
そう言いつつも、彼女は笑顔だった。
「ほら、トイレ済ませて早くもどろ?
あんまり遅いと、パパが心配する」
「そうだね」
ハンカチで彼女の顔を拭いてやり、用事を済ませる。
戻ったら案の定、京塚主任はそわそわしていた。
「遅かったな。
なんかあったのか?」
眼鏡の下で、眉が寄る。
けれど。
「なんでもないよ、パパ」
杏里ちゃんが手を握り、私を見上げる。
「そーですよ。
女のトイレは長いものです」
彼女と顔を見合わせ、笑いあった。
「なら、いいが」
京塚主任は釈然としていないが、これは女同士の秘密、ってことで。
仕事のことは心配しても仕方ないので、頑張るしかないのだが、気になることがひとつ。
午後からも西山さんは、心ここにあらず、といった感じでぼーっと座っていたから。
「お疲れ様でしたー」
「おつかれっしったー」
適当な時間になって、帰る。
私たちは事務だから早上がりだが、営業の人たちはもっと遅いみたい。
それでも帰れるだけましだよね。
開発の人たちは昨日から泊まり込みらしいし。
「じゃあ、お疲れ様でした」
「お疲れー」
自転車に杏里ちゃんを乗せ、京塚主任は帰っていった。
電動アシストじゃない自転車で。
「……すごっ」
そりゃ、お腹すくよね……。
「そうだ」
明日もお弁当は作らないと言っていた。
なら、……お弁当、作っていったら喜んでくれるかな?
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