35 / 36
エピローグ 極悪上司ととうこ~京塚side
3.透子のと別れ
しおりを挟む
新入社員のうちは忙しいので、早く子供は欲しかったが、しばらくは控えた。
そうして結婚して四年目、――杏里が、生まれた。
なにもかも幸せで、透子と出会わせてくれた神に感謝したほどだ。
けれど不幸は唐突にやってくる。
そろそろ二人目、欲しいね。
サンタにお願いしたら大人でも、プレゼントくれないかな。
なんて笑いあっていた、クリスマス直前。
「透子、おっせーな」
待ち合わせの時間はとっくに過ぎていた。
杏里もジュースを飲み終わり、飽きてきている。
「杏里。
ママを迎えに行こうか」
「うん!」
勢いよく頷いた杏里と、店を出る。
その日、休日出勤した透子と外で、待ち合わせをしていた。
クリスマスのイルミネーションを見て、食事をして帰ろう、と。
――ピーポー、ピーポー。
店を出ると、どこからともなく救急車の音が聞こえてきた。
「事故か?」
なぜか、胸騒ぎがする。
杏里を抱き上げ、透子が歩いてくるであろう道を反対に辿った。
それに連れて、救急車の音が大きくなっていく。
「……事故だって」
「……うわっ、ひっでー」
その交差点では、救急車が止まり、人垣ができていた。
「……いや。
そんなはずは」
人垣をかき分け、その前に出る。
そこに倒れていたのは――透子、だった。
「透子!」
夢中で駆け寄り、肩を揺らす。
でも、そのなにも映さない虚ろな瞳は、もう生きていないのだと物語っていた。
「離れて!」
俺に気づいた警察が、透子から俺を引き剥がそうとする。
「妻なんだ!
透子、透子!」
いくら呼びかけても透子はぴくりとも動かない。
「なんで、こんな……!」
そこからは記憶が曖昧で、ほとんどなにも覚えていない。
透子は横断歩道を渡っていたところを、信号無視で突っ込んできた車に跳ねられた。
しかも、倒れたところを避けきれなかった車にさらに轢かれて。
透子がその日、持っていたバッグの中には真新しい、母子手帳が入っていた。
「……パパ。
おなか、すいた」
小さな手が俺を引っ張り、振り返る。
「なんか適当に、そのへんにあるもん……」
そこまで言って、はっと気づいた。
いまは、何月何日だ?
あれから、何日たった?
あんなに透子が毎日、綺麗に整えていた家の中はすっかっり荒れ果てている。
積み重なる、カップラーメンとコンビニ弁当の容器。
「わかった」
こくんと頷いた、杏里はそこにあったお菓子を食べはじめた。
「……わるい、杏里。
ダメなパパですまない」
「……パーパ?」
杏里を、力一杯抱き締める。
透子がいなくなったからといって、腑抜けていてはダメだ。
俺にはまだ、杏里がいる。
その日から杏里のために頑張った。
そうすることで透子のいない現実を忘れるように。
けれど、あの日。
そうして結婚して四年目、――杏里が、生まれた。
なにもかも幸せで、透子と出会わせてくれた神に感謝したほどだ。
けれど不幸は唐突にやってくる。
そろそろ二人目、欲しいね。
サンタにお願いしたら大人でも、プレゼントくれないかな。
なんて笑いあっていた、クリスマス直前。
「透子、おっせーな」
待ち合わせの時間はとっくに過ぎていた。
杏里もジュースを飲み終わり、飽きてきている。
「杏里。
ママを迎えに行こうか」
「うん!」
勢いよく頷いた杏里と、店を出る。
その日、休日出勤した透子と外で、待ち合わせをしていた。
クリスマスのイルミネーションを見て、食事をして帰ろう、と。
――ピーポー、ピーポー。
店を出ると、どこからともなく救急車の音が聞こえてきた。
「事故か?」
なぜか、胸騒ぎがする。
杏里を抱き上げ、透子が歩いてくるであろう道を反対に辿った。
それに連れて、救急車の音が大きくなっていく。
「……事故だって」
「……うわっ、ひっでー」
その交差点では、救急車が止まり、人垣ができていた。
「……いや。
そんなはずは」
人垣をかき分け、その前に出る。
そこに倒れていたのは――透子、だった。
「透子!」
夢中で駆け寄り、肩を揺らす。
でも、そのなにも映さない虚ろな瞳は、もう生きていないのだと物語っていた。
「離れて!」
俺に気づいた警察が、透子から俺を引き剥がそうとする。
「妻なんだ!
透子、透子!」
いくら呼びかけても透子はぴくりとも動かない。
「なんで、こんな……!」
そこからは記憶が曖昧で、ほとんどなにも覚えていない。
透子は横断歩道を渡っていたところを、信号無視で突っ込んできた車に跳ねられた。
しかも、倒れたところを避けきれなかった車にさらに轢かれて。
透子がその日、持っていたバッグの中には真新しい、母子手帳が入っていた。
「……パパ。
おなか、すいた」
小さな手が俺を引っ張り、振り返る。
「なんか適当に、そのへんにあるもん……」
そこまで言って、はっと気づいた。
いまは、何月何日だ?
あれから、何日たった?
あんなに透子が毎日、綺麗に整えていた家の中はすっかっり荒れ果てている。
積み重なる、カップラーメンとコンビニ弁当の容器。
「わかった」
こくんと頷いた、杏里はそこにあったお菓子を食べはじめた。
「……わるい、杏里。
ダメなパパですまない」
「……パーパ?」
杏里を、力一杯抱き締める。
透子がいなくなったからといって、腑抜けていてはダメだ。
俺にはまだ、杏里がいる。
その日から杏里のために頑張った。
そうすることで透子のいない現実を忘れるように。
けれど、あの日。
0
あなたにおすすめの小説
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
逆バレンタインは波乱の予感!?
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
バレンタイン。
チョコを渡せずにいたら、反対に彼から渡された。
男だけもらえるのずるい!とか冗談で言ったのを真に受けたらしい。
それはいい。
それはいいが、中身はチョコじゃなくて指環と婚姻届!
普通なら喜ぶところだろうけど、私たちはもうすぐ終わりそうなカップルなのです……。
推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー
田古みゆう
恋愛
推し活女子と爽やかすぎる隣人――秘密の逢瀬は、推し活か、それとも…?
引っ越し先のお隣さんは、ちょっと優しすぎる爽やか青年。
今どき、あんなに気さくで礼儀正しい人、実在するの!?
私がガチのアイドルオタクだと知っても、引かずに一緒に盛り上がってくれるなんて、もはや神では?
でもそんな彼には、ちょっと不思議なところもある。昼間にぶらぶらしてたり、深夜に帰宅したり、不在の日も多かったり……普通の会社員じゃないよね? 一体何者?
それに顔。出会ったばかりのはずなのに、なぜか既視感。彼を見るたび、私の脳が勝手にざわついている。
彼を見るたび、初めて推しを見つけた時みたいに、ソワソワが止まらない。隣人が神すぎて、オタク脳がバグったか?
これは、アイドルオタクの私が、謎すぎる隣人に“沼ってしまった”話。
清く正しく、でもちょっと切なくなる予感しかしない──。
「隣人を、推しにするのはアリですか?」
誰にも言えないけど、でも誰か教えて〜。
※「エブリスタ」ほか投稿サイトでも、同タイトルを公開中です。
※表紙画像及び挿絵は、フリー素材及びAI生成画像を加工使用しています。
※本作品は、プロットやアイディア出し等に、補助的にAIを使用しています。
甘い失恋
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私は今日、2年間務めた派遣先の会社の契約を終えた。
重い荷物を抱えエレベーターを待っていたら、上司の梅原課長が持ってくれた。
ふたりっきりのエレベター、彼の後ろ姿を見ながらふと思う。
ああ、私は――。
昨日、彼を振りました。
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「三峰が、好きだ」
四つ年上の同僚、荒木さんに告白された。
でも、いままでの関係でいたかった私は彼を――振ってしまった。
なのに、翌日。
眼鏡をかけてきた荒木さんに胸がきゅんと音を立てる。
いやいや、相手は昨日、振った相手なんですが――!!
三峰未來
24歳
会社員
恋愛はちょっぴり苦手。
恋愛未満の関係に甘えていたいタイプ
×
荒木尚尊
28歳
会社員
面倒見のいい男
嫌われるくらいなら、恋人になれなくてもいい?
昨日振った人を好きになるとかあるのかな……?
自信家CEOは花嫁を略奪する
朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」
そのはずだったのに、
そう言ったはずなのに――
私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。
それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ?
だったら、なぜ?
お願いだからもうかまわないで――
松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。
だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。
璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。
そしてその期間が来てしまった。
半年後、親が決めた相手と結婚する。
退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる