もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ

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「母の実家からついて来たメイドが出入りの宝石商との間に作った子で、私が産まれる前からここにいました」
「それなのにお咎めなし?」

パーシヴァルが身を乗り出す。

「はい。何も悪い事はしていませんから。ただ、難しい人を愛してしまっただけで……父は、ルシアンが消えてしまった後、彼女に一生暮らせるだけのお金を持たせて、追い出しました……」
「辛いんですか?」

喉を詰まらせた私にマクミラン司祭が問う。
私は俯いた。そんな私の手を、クリスが握って勇気付けてくれる。

「はい。ただみんなで幸せになると信じていましたから。それが、全て、壊れてしまって……」

なんとか言葉を絞り出した私の手を撫でてから、クリスが問い返した。

「あいつは何をやらかしたんです?教皇庁から派遣されるなんて大事だ。まさか、今度はシスター相手に結婚詐欺を?」
「!」

クリスの口から出た言葉は衝撃的で、私はびくりと肩を揺らしてしまう。
マクミラン司祭は冷静だった。

「シスターに被害はありませんし相手にもしません」
「まさか、結婚詐欺どころじゃなく──」
「やめて」

私はクリスを止めた。でも、顔を上げられない。辛過ぎる。

「彼は結婚詐欺なんて浅ましい罪を犯したわけではないわ。真実の愛を見つけたの。それだけ」
「そう言い切れる保証は?」

マクミラン司祭の声にはもう優しさの欠片もなかったけれど、私はそれが清々しく思えて顔を上げた。笑顔が零れるくらい、清々しい。そして事実を口にする。

「何も盗られていません。ただ、彼が去っただけ」
「あなた以外は違う」

マクミラン司祭と正面から見つめ合い、私は初めて反発を覚えた。

「どういう意味?」

美しい司祭は信じられない事実を突き返してくる。

「ある者は金品と髪を奪われ、ある者は家宝を、ある者は着の身着のまま連れ去られた」
「!」

私は声にならない悲鳴をあげ両手で口を押さえ硬直した。反対にクリスは大きく項垂れて呻き、涙声に近い罵りを洩らす。

「悪魔め……何という事を……!」
「だからあなたの助けが必要なのです、エスター。居場所を知らないのなら、あの男が行きそうな場所を教えてください」
「誰を誘拐したんです?」

クリスの口から次々と恐ろしい罪が紡ぎ出され、私は更に震えた。

「何かの、間違いです……彼がそんな……」

真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら、エスター。

そう言って去っていったルシアンの笑顔が蘇り、叫び出しそうな衝動に駆られる。けれどその衝動は忽ち萎み、私は真実に気づいてしまう。いつもそう。現実を受け入れるのは得意。

「彼を見つけないと……」
「そうです、エスター。どこにいると思いますか?」

私が泣いていると思ったのか、クリスがマクミラン司祭から庇うように肩を掴み顔を覗き込んでくる。私の涙は溢れてはいなかった。この3年で多少は大人になったのだ。

震える手でクリスを押し退け、私は一つだけ思い当たる場所をマクミラン司祭に告げた。もし私に関係のある場所で彼が身を潜めるとしたら、そこしかなかった。

「レイヴァンズクロフトの山荘」
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