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「山荘だって!?」

クリスの声が裏返る。

「なっ、な、な、なんだそれ……ええっ!?」

混乱しているクリスを宥めながらも、私の体からは汗が噴き出してくる。ルシアンが実際に罪を犯したかもしれないという焦りに加え、後悔と羞恥心に苛まれてどうにかなってしまいそうだった。

打ち明ける相手が聖職者という事が更に辛い。

「レイヴァンズクロフトというと……」
「街道に出て南に馬を走らせ半日程の距離です。あとは麓からどの程度上るのかによりますね」

マクミラン司祭にパーシヴァルが答えた。次は私の番だ。
額の汗を拭いてから、目を上げられず白状する。

「ちょうど行商人の中継地点で、周囲の集落や農園、牧場などの収益にもなる簡易的な宿場町があります。三方を砦に囲まれた比較的安全な土地で、ウィンダムから南はレイノルズとクロスビーからの出入りが活発なためそれぞれの警備兵が街道を往復しています」

王都と教皇庁はウィンダム伯領から見て北西に位置している。護衛らしき騎士のパーシヴァルは地形を正確に把握しているようだけれど、長閑な賑わいまでは想像していないだろう。

「父は私に領地経営を教えてくれる際、実務についてはレイヴァンズクロフトの管理を手伝わせるところから始めました。地形は頭に入っていましたし、かつてはルシアンの父親がクロスビー伯領を通って来ていたのを知っていましたから、嬉しくて、捗りました……」
「領地経営の勉強が?」
「はい」

私はすっかりマクミラン司祭に懺悔する気持ちで続けた。

「私がそこに住む領民の暮らしを理解したいと言うと、父がお金をくれました。商売をさせてくれたのです。私は帳簿だけですが、当時15才になっていたルシアンが宿を仕切ってくれました。それが成功して元の資金の8倍程に膨らみ、父は私の成果だと認めてくれた為、好きに使いました」
「それで山荘を買った?」
「はい。まだ彼との仲を許してもらえないだろうと思い込んでいたので……駆け落ちするつもりで」

消え入りそうな声を絞り出し、私は顔を覆った。隣ではクリスが苦々しい溜息を継ぎ続けている。

「エスター。何才の時?」

優しい声で尋ねてくれたのは、クリスではなくマクミラン司祭。

「13才でした」
「天才だな!」

パーシヴァルが驚きの声を洩らす。

「ええ。言ったでしょう。優秀なんですよ、エスターは」

クリスは愕然としながら私を褒める。その後は呆然と経緯を説明していた。

「覚えていますよ。ルシアンの何の働きが認められてそうなったのかずっと不思議でしたが、エスターと婚約する事になり、メイウェザー伯爵の養子になったんです。僕も、あいつを慕っていましたから、喜んだ……」

クリスも顔を覆ってしまう。

「ごめんなさい」

たまらず私が謝った瞬間にマクミラン司祭が身を乗り出した。

「クリス。無垢なエスターは恋に落ちたんだ。何も悪い事はしていない。相手が悪かった。彼女を責めるな」
「ええ、わかっていますよ。僕だってミシェルしか頭になかった時期ですから。ただ、悔しくて……僕がついていながら、気づかなかった」
「君も子供で悪を知らなかった。だが……」

刹那、マクミラン司祭は言い淀み、彼を断罪する。

「ルシアンは違う」

まるで彼を悪そのものとして憎悪しているかのように、マクミラン司祭の声は低く残酷に響いた。
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