【完結】錬金術ギルドを追放された私、王太子妃を救ったら二人のイケメンに溺愛されてギルド長になりました

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第一章

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「クロエ・フォンテーヌ、お前を錬金術ギルドから追放する」
錬金術ギルドの大広間に、冷たい宣告が響き渡った。
私は顔を上げ、頭上でふんぞり返るギルド長のアントワーヌ・ド・モンモランシー伯爵を見つめた。赤ら顔の中年男は、勝ち誇った笑みを浮かべている。その隣には同僚のジュリエット・ラヴァルが、ハンカチで目元を押さえながら震えていた。
「クロエが私の研究成果を盗んだんです......! 三年もかけて開発した『輝石の精製法』を......私、信じていたのに......」
嘘だ。
心の中で叫んだ言葉は、声にならない。その精製法は、私が徹夜を重ねて編み出したものだった。純度九十パーセントを超える魔力結晶の精製――それは錬金術師として十年かけて積み上げてきた、私の集大成だったのに。
「見てくださいまし、これが証拠です」
ジュリエットが差し出したのは、私の研究ノートの写しだった。ただし、彼女の筆跡で書き直されている。私の机からいつの間に盗まれたのだろう。
「ギルド長、どうかクロエに厳正な処分を......」
「無論だとも、ジュリエット嬢。君のような才能ある錬金術師を守るのは、私の務めだからね」
アントワーヌの視線が私に向けられる。嫌悪と侮蔑に満ちた目だ。
ああ、そうか。この人は最初から、私を追い出したかったのだ。
理由は簡単。私は平民だから。モンモランシー家の令嬢であるジュリエットとは、生まれた時から価値が違う。実力主義を謳うギルドでさえ、結局は血統が物を言う。
「弁明はないのか」
アントワーヌの声に、私は静かに首を横に振った。
どうせ何を言っても無駄だ。このギルドで平民の私に味方などいない。貴族出身のジュリエットの涙の方が、どんな真実よりも重い。それが、この世界の掟だ。
「では決定だ。明日の朝までに荷物をまとめて出ていけ。これ以上ギルドの名誉を汚すな」
周囲の錬金術師たちが、一斉に私から視線を逸らした。誰も異議を唱えない。かつて私に笑いかけてくれた人々も、今は冷たい石像のようだ。
十年間、必死に努力してきた。誰よりも早くギルドに来て、誰よりも遅くまで研究に没頭した。それなのに、すべてが一瞬で崩れ去った。
胸が締め付けられる。でも、ここで泣いたら負けだ。
大広間を出ようとした時、誰かが私の腕を掴んだ。
「待てよ」
低い声。振り返ると、北方出身の錬金術師エリック・ノルドストロームが立っていた。銀髪に氷のような青い瞳。王宮付きの特級錬金術師である彼が、なぜ私などを呼び止めるのか。
「......何か用ですか、ノルドストローム様」
「その精製法、本当にラヴァル嬢が開発したものか?」
私は苦笑した。この期に及んで、味方のふりをされても困る。
「ギルド長がそう判断されたのですから」
「俺が聞いているのはお前の意見だ」
真っ直ぐな視線。嘘を許さない、鋭い眼差し。
私は一瞬言葉を失った。でも、首を振る。もう、どうでもいい。真実を訴えたところで、何も変わらない。
「もう、どうでもいいんです。失礼します」
エリックは眉をひそめたが、それ以上は追及してこなかった。彼の手を振りほどいて、私は大広間を後にした。
背中に刺さる視線を感じながら。

翌朝、私は小さな荷物を抱えてギルドを後にした。十年間過ごした場所を振り返ることもなく。
そして三ヶ月後――
王都の下町で、私は小さな薬屋を営んでいた。間口三メートルほどの小さな店。平民相手の安い薬草や簡単な傷薬を売る、ささやかな商いだ。
ギルドでの研究費と比べれば雀の涙のような収入だけれど、不思議と心は穏やかだった。ここには嘘も裏切りもない。お客さんは薬が効けば素直に喜んでくれるし、効かなければ文句を言う。それでいい。
「クロエちゃん、今日も店番かい?」
隣の八百屋のマリーおばさんが、笑顔で声をかけてきた。
「ええ、まあ。でも最近、お客さんも増えてきて」
「そりゃそうさ。あんたの薬は本当によく効くからね。うちの亭主の腰痛も、あんたの軟膏で治ったんだよ」
「それは良かった。あの軟膏、ちょっと特別な配合で――」
そんな会話をしていた時、店の扉が開いた。
カラン、カラン。
「失礼、薬を――」
顔を上げた途端、私は固まった。
フランソワ・ド・ラフェリエール侯爵。
王太子の側近で、宮廷一の美男子と名高い人物が、なぜこんな場末の薬屋に。蜂蜜色の髪に深い緑の瞳、優雅な刺繍が施された上質な服。この下町には明らかに不釣り合いな存在だ。
「......あの、侯爵様?」
「君がクロエ・フォンテーヌか」
優雅な物腰で近づいてくる彼に、私は警戒心を募らせた。また貴族だ。もう懲り懲りなのに。
「はい、そうですが、ご用件は?」
「実は君に依頼したいことがある」
フランソワは周囲を確認してから、声を潜めた。店の外では、マリーおばさんが興味津々な顔で覗いている。
「王太子妃が原因不明の病に倒れた。宮廷医も錬金術師も手の施しようがないと言っている」
「......それで、なぜ私に?」
「君の薬の評判を聞いてね。特に、他の錬金術師には作れない特殊な調合ができると」
私は黙った。確かに最近、通常では治せない病を治したことが何度かあった。でもそれは、ギルドで禁じられていた『複合精製』という技術を使っていたからで――
「報酬は君の望むだけ出そう。爵位も約束する。王太子妃を救えば、君はこの国の英雄だ」
「お断りします」
即答した私に、フランソワは驚いたように目を見開いた。
「なぜだ? これは君にとって名誉挽回の絶好の機会では?」
「私は、もう貴族社会に関わりたくないんです。それに、私ごときでは――」
「......ギルドを追放されたことか」
鋭い指摘に、私は息を呑んだ。
「調べさせてもらった。どうやら冤罪だったようだね。モンモランシー伯爵とラヴァル家には、婚姻の話があるらしい」
ああ、そういうことか。すべてが繋がった。ジュリエットはアントワーヌの息子の婚約者候補だったのだ。だから彼女の手柄が必要だった。私の研究成果を奪ってでも。
「今更、そんなこと――」
「クロエ」
不意に、聞き慣れた声がした。振り返ると、エリックが店の入り口に立っていた。
なぜ。
なぜ、この人がここに。
「なぜ、ここに......」
「探していた」
エリックは大股で近づいてくると、私とフランソワの間に割って入った。その動きは、まるで私を守るように。
「ラフェリエール侯爵」
「これはこれは、ノルドストローム卿。まさかこんな所でお会いするとは」
フランソワが優雅に微笑む。二人は知り合いなのか。
エリックは無表情のまま言った。
「クロエは俺の助手だ。勝手に引き抜かないでもらいたい」
「助手?」
私は驚いて声を上げた。いつの間にそんな話になったのか。
「聞いてませんよ、そんな話!」
「今決めた」
「は?」
あまりに強引な物言いに呆れていると、フランソワが楽しそうに笑った。
「なるほど、そういうことか。では、私も正式に申し込もう。クロエ嬢、私の専属錬金術師になってもらえないか? 王宮で働けば、あらゆる資材が使い放題だ」
「だから断ると――」
「王太子妃を見殺しにできるのか?」
フランソワの声が急に真剣になった。
「このままでは、あと一週間も持たない。君にしか救えない命があるとしたら? それでも断るのか?」
私は唇を噛んだ。確かに、見殺しにはできない。錬金術師として、人の命を救えるなら――でも、また貴族社会に戻るのは――
「条件があります」
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