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第二章
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「聞こう」
「診察だけです。治せなかったら、すぐに解放してください。それと――」
私はフランソワとエリック、二人を見比べた。
「変な噂を立てないでください。私はもう、貴族社会の陰謀には巻き込まれたくないので」
「いいだろう」
フランソワが頷いた時、エリックが割って入った。
「俺も同行する」
「なぜ君が?」
「クロエの身の安全を守るためだ。それに、王太子妃の症状には北方の毒草が関わっている可能性がある」
「......なぜそれを?」
「調べた」
二人の男が睨み合う。フランソワは余裕の笑みを浮かべ、エリックは氷のような無表情。
その間で、私はため息をついた。
なぜこんなことになってしまったのか。
王宮――
豪華な寝室。天蓋付きのベッドで、王太子妃は青白い顔で横たわっていた。息は浅く、額には冷や汗が浮かんでいる。
「これは......」
侍医長が首を横に振った。
「もう我々には打つ手がありません。せめて苦痛を和らげることしか――」
「待ってください」
私は王太子妃に近づき、その手を取った。細く、冷たい手。命の灯火が消えかけている。
「クロエ、分かるのか?」
エリックの問いに、私は目を閉じた。
そして、密かに力を発動させる。
『秘められし過去の欠片(フラグマン・カシェ)』
私だけが持つ、特異な能力。物に残された記憶を読み取る力。ギルドでは誰にも明かさなかった、私の秘密。この力があったからこそ、他の錬金術師には真似できない調合ができた。
王太子妃の体に残る毒の痕跡から、その正体を探る。
意識が沈んでいく。そして――見えた。
深い青色に輝く結晶。それを砕き、精製し、無色透明な液体に変える工程。高度な錬金術の技術。そして、その液体を王太子妃の食事に混入する、白い手。
「......これは」
目を開けた私の顔色を見て、エリックが鋭く問うた。
「何か分かったのか?」
「『蒼晶毒』です。北方の鉱山でしか採れない稀少な鉱石から作られる劇薬」
フランソワが息を呑んだ。
「蒼晶毒......それは北方でも製造が禁じられている――」
「ええ。しかも、これを作るには相当な錬金術の技術が必要です。王都で作れる人物は......」
限られている。そう言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。
エリックが低い声で言った。
「解毒剤は?」
「作れます。ただ......」
私は王太子妃の青ざめた顔を見つめた。毒はかなり進行している。
「材料を集めるのに時間がかかります。それに、調合も複雑で」
「必要なものを言え。すべて用意させる」
フランソワが力強く言った。
「君に必要な材料も、設備も、すべてだ」
私は頷き、必要な薬草と鉱石のリストを書き出した。北方の氷雪草、南方の紅蓮の実、そして希少な銀結晶――どれも高価で入手困難なものばかりだ。
「これだけあれば、三日あれば作れます」
「三日か......」
侍医長が不安そうに呟いた。
「王太子妃が、それまで持つかどうか......」
「持たせます」
私は断言した。
「まず、毒の進行を遅らせる処置をします。エリック様、氷の魔術を使えますか?」
「ああ」
「では、王太子妃の体温を下げてください。毒の活性を抑えます。その間に、私は応急処置の薬を調合します」
それから三日間は、まさに戦いだった。
王宮の一室を借り、私は調合に没頭した。エリックは付きっきりで材料を準備し、時には助言をくれた。フランソワは外部との連絡を一手に引き受け、必要な物資を次々と運んできた。
二日目の夜、私は限界に達していた。
「クロエ、少し休め」
エリックが紅茶を差し出した。
「でも、あと少しで――」
「倒れたら元も子もない」
強引に椅子に座らされ、紅茶を飲まされる。温かい液体が喉を通り、少し頭が冷えた。
「......なぜ、こんなに協力してくれるんですか?」
問いかけると、エリックは窓の外を見ながら答えた。
「お前が追放された時、俺は何もできなかった。それが心残りだった」
「え?」
「お前の研究ノートを見たことがある。あの精製法は、明らかにラヴァル嬢の能力を超えていた。だが、証拠がなかった」
エリックは拳を握りしめた。
「だから今度は、お前を守る」
その言葉に、胸が熱くなった。
そして三日目の朝、ついに解毒剤が完成した。
淡い青色に輝く液体。これを王太子妃に飲ませれば――
「できました」
私の声に、部屋にいた全員が振り返った。
王太子妃に解毒剤を飲ませると、すぐに効果が現れた。青白かった顔に血色が戻り、呼吸が深くなっていく。
「......ここは?」
王太子妃が目を覚ました時、王太子が涙を浮かべて彼女の手を握った。
「良かった......本当に良かった......」
王太子妃の回復は、瞬く間に王宮中の噂になった。
そして一週間後、錬金術ギルドから使者が来た。
「クロエ様、ぜひギルドにお戻りください」
膝をつく使者――以前、私を冷たい目で見ていた上級錬金術師だ――を見下ろしながら、私は冷たく言った。
「お断りします」
「しかし、ギルド長のアントワーヌ様が直々に、名誉回復と昇進を約束されております」
「そのアントワーヌに伝えてください。私はもう、ギルドには戻らないと。あそこは才能を潰す場所だと、よく分かりましたから」
使者が青ざめて去った後、エリックが肩を竦めた。
「容赦ないな」
「当然です。あの人たちは、私が成功したから掌を返しただけ。もし失敗していたら、また陥れようとしたはずです」
「......その通りだ」
エリックは窓の外を見ながら、声を低くした。
「ところで、蒼晶毒の件だが」
「......ええ」
私も表情を引き締めた。調査の結果、恐ろしい事実が判明していた。
王太子妃に毒を盛った犯人――それは、アントワーヌとジュリエットだった。
「まさか、あの二人が......」
「二人は密かに結託していた。王太子妃の持つ領地を狙っていたんだ」
エリックが説明する。
「王太子妃が死ねば、その領地は王家に返還される。そして新たな所有者を決める際に、ギルドの推薦が大きな力を持つ。アントワーヌは、自分の息子をその領地の領主にするつもりだった」
「そのために、王太子妃を......」
吐き気がした。どこまで腐っているのか、あの人たちは。
「証拠は?」
「ジュリエットの研究室から、蒼晶毒の原料が見つかった。フランソワが極秘で調査させたんだ」
私は驚いてエリックを見た。
「それに――」
エリックは一通の書状を取り出した。
「アントワーヌがジュリエットに宛てた指示書だ。『計画通りに事を運べ。王太子妃の死後、すべては我々のものになる』と書かれている」
書状を確認し、私は震える手でそれを返した。
「これで十分だな」
「ええ。でも、どうやってこれを......」
「お前の研究ノートを回収した時に、一緒にな」
エリックが小さく笑った。
「ジュリエットは証拠を隠すのが下手だった」
「診察だけです。治せなかったら、すぐに解放してください。それと――」
私はフランソワとエリック、二人を見比べた。
「変な噂を立てないでください。私はもう、貴族社会の陰謀には巻き込まれたくないので」
「いいだろう」
フランソワが頷いた時、エリックが割って入った。
「俺も同行する」
「なぜ君が?」
「クロエの身の安全を守るためだ。それに、王太子妃の症状には北方の毒草が関わっている可能性がある」
「......なぜそれを?」
「調べた」
二人の男が睨み合う。フランソワは余裕の笑みを浮かべ、エリックは氷のような無表情。
その間で、私はため息をついた。
なぜこんなことになってしまったのか。
王宮――
豪華な寝室。天蓋付きのベッドで、王太子妃は青白い顔で横たわっていた。息は浅く、額には冷や汗が浮かんでいる。
「これは......」
侍医長が首を横に振った。
「もう我々には打つ手がありません。せめて苦痛を和らげることしか――」
「待ってください」
私は王太子妃に近づき、その手を取った。細く、冷たい手。命の灯火が消えかけている。
「クロエ、分かるのか?」
エリックの問いに、私は目を閉じた。
そして、密かに力を発動させる。
『秘められし過去の欠片(フラグマン・カシェ)』
私だけが持つ、特異な能力。物に残された記憶を読み取る力。ギルドでは誰にも明かさなかった、私の秘密。この力があったからこそ、他の錬金術師には真似できない調合ができた。
王太子妃の体に残る毒の痕跡から、その正体を探る。
意識が沈んでいく。そして――見えた。
深い青色に輝く結晶。それを砕き、精製し、無色透明な液体に変える工程。高度な錬金術の技術。そして、その液体を王太子妃の食事に混入する、白い手。
「......これは」
目を開けた私の顔色を見て、エリックが鋭く問うた。
「何か分かったのか?」
「『蒼晶毒』です。北方の鉱山でしか採れない稀少な鉱石から作られる劇薬」
フランソワが息を呑んだ。
「蒼晶毒......それは北方でも製造が禁じられている――」
「ええ。しかも、これを作るには相当な錬金術の技術が必要です。王都で作れる人物は......」
限られている。そう言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。
エリックが低い声で言った。
「解毒剤は?」
「作れます。ただ......」
私は王太子妃の青ざめた顔を見つめた。毒はかなり進行している。
「材料を集めるのに時間がかかります。それに、調合も複雑で」
「必要なものを言え。すべて用意させる」
フランソワが力強く言った。
「君に必要な材料も、設備も、すべてだ」
私は頷き、必要な薬草と鉱石のリストを書き出した。北方の氷雪草、南方の紅蓮の実、そして希少な銀結晶――どれも高価で入手困難なものばかりだ。
「これだけあれば、三日あれば作れます」
「三日か......」
侍医長が不安そうに呟いた。
「王太子妃が、それまで持つかどうか......」
「持たせます」
私は断言した。
「まず、毒の進行を遅らせる処置をします。エリック様、氷の魔術を使えますか?」
「ああ」
「では、王太子妃の体温を下げてください。毒の活性を抑えます。その間に、私は応急処置の薬を調合します」
それから三日間は、まさに戦いだった。
王宮の一室を借り、私は調合に没頭した。エリックは付きっきりで材料を準備し、時には助言をくれた。フランソワは外部との連絡を一手に引き受け、必要な物資を次々と運んできた。
二日目の夜、私は限界に達していた。
「クロエ、少し休め」
エリックが紅茶を差し出した。
「でも、あと少しで――」
「倒れたら元も子もない」
強引に椅子に座らされ、紅茶を飲まされる。温かい液体が喉を通り、少し頭が冷えた。
「......なぜ、こんなに協力してくれるんですか?」
問いかけると、エリックは窓の外を見ながら答えた。
「お前が追放された時、俺は何もできなかった。それが心残りだった」
「え?」
「お前の研究ノートを見たことがある。あの精製法は、明らかにラヴァル嬢の能力を超えていた。だが、証拠がなかった」
エリックは拳を握りしめた。
「だから今度は、お前を守る」
その言葉に、胸が熱くなった。
そして三日目の朝、ついに解毒剤が完成した。
淡い青色に輝く液体。これを王太子妃に飲ませれば――
「できました」
私の声に、部屋にいた全員が振り返った。
王太子妃に解毒剤を飲ませると、すぐに効果が現れた。青白かった顔に血色が戻り、呼吸が深くなっていく。
「......ここは?」
王太子妃が目を覚ました時、王太子が涙を浮かべて彼女の手を握った。
「良かった......本当に良かった......」
王太子妃の回復は、瞬く間に王宮中の噂になった。
そして一週間後、錬金術ギルドから使者が来た。
「クロエ様、ぜひギルドにお戻りください」
膝をつく使者――以前、私を冷たい目で見ていた上級錬金術師だ――を見下ろしながら、私は冷たく言った。
「お断りします」
「しかし、ギルド長のアントワーヌ様が直々に、名誉回復と昇進を約束されております」
「そのアントワーヌに伝えてください。私はもう、ギルドには戻らないと。あそこは才能を潰す場所だと、よく分かりましたから」
使者が青ざめて去った後、エリックが肩を竦めた。
「容赦ないな」
「当然です。あの人たちは、私が成功したから掌を返しただけ。もし失敗していたら、また陥れようとしたはずです」
「......その通りだ」
エリックは窓の外を見ながら、声を低くした。
「ところで、蒼晶毒の件だが」
「......ええ」
私も表情を引き締めた。調査の結果、恐ろしい事実が判明していた。
王太子妃に毒を盛った犯人――それは、アントワーヌとジュリエットだった。
「まさか、あの二人が......」
「二人は密かに結託していた。王太子妃の持つ領地を狙っていたんだ」
エリックが説明する。
「王太子妃が死ねば、その領地は王家に返還される。そして新たな所有者を決める際に、ギルドの推薦が大きな力を持つ。アントワーヌは、自分の息子をその領地の領主にするつもりだった」
「そのために、王太子妃を......」
吐き気がした。どこまで腐っているのか、あの人たちは。
「証拠は?」
「ジュリエットの研究室から、蒼晶毒の原料が見つかった。フランソワが極秘で調査させたんだ」
私は驚いてエリックを見た。
「それに――」
エリックは一通の書状を取り出した。
「アントワーヌがジュリエットに宛てた指示書だ。『計画通りに事を運べ。王太子妃の死後、すべては我々のものになる』と書かれている」
書状を確認し、私は震える手でそれを返した。
「これで十分だな」
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