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第三章
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翌日、王宮の大広間で糾弾裁判が開かれた。
豪華な広間に、貴族たちが居並んでいる。その中央に、鎖で繋がれたアントワーヌとジュリエットが立たされていた。
「アントワーヌ・ド・モンモランシー、ジュリエット・ラヴァル。王太子妃暗殺未遂の罪により、両名を断罪する」
国王の厳かな声が響く。
アントワーヌは真っ青な顔で膝をついていた。あの傲慢だった男が、今は哀れな罪人だ。
「ま、待ってください! これは何かの間違いです! 私はただ――」
「間違い?」
王太子が冷たく言った。
「では、なぜ蒼晶毒がラヴァル嬢の研究室から見つかった? なぜ貴公の指示書が存在する? なぜ王太子妃の侍女への賄賂の記録がある?」
「それは......それは......」
ジュリエットが泣き崩れながら叫んだ。
「クロエの陰謀です! 私を陥れるために、すべて仕組んだんです! 彼女は私を妬んで――」
「黙れ」
エリックの一喝に、広間が静まり返った。
「お前たちは三ヶ月前、クロエの研究を奪い、彼女を追放した。その時の証拠がある」
エリックが提示したのは、私の研究ノートの原本だった。ジュリエットが隠し持っていたものを、密かに回収していたのだ。
「筆跡鑑定の結果、これがクロエの真筆であることは明白。つまり、『輝石の精製法』は元々クロエの研究だった。お前たちは才能ある錬金術師を妬み、陥れ、追放した」
フランソワが続けた。
「そして今度は、王太子妃の命を狙った。理由は領地の簒奪。証拠は山ほどある」
アントワーヌの顔から血の気が引いていく。
「そんな......まさか......全部、見つかっていたのか......」
「お前たちの浅知恵など、とうの昔にお見通しだ」
王太子が立ち上がった。
「両名とも、財産没収の上、終身刑に処す」
その瞬間、私は前に出た。
「お待ちください!」
王太子が訝しげに私を見る。
「なぜ止める? 彼らは君を陥れ、君の人生を破壊しようとした。そして私の妻の命を狙った」
「確かに私は彼らを恨んでいます」
私は深呼吸した。心臓が激しく打っている。
「でも、終身刑は......それでは、彼らは何も学ばない」
「では、どうしろと?」
私は二人を見据えた。アントワーヌは怯えた目で、ジュリエットは憎悪に満ちた目で、私を睨んでいる。
「彼らから錬金術師の資格を剥奪し、すべての財産と爵位を没収する。そして一般市民として生きることを提案します」
広間がざわついた。
「......なぜだ?」
フランソワが静かに問う。私は静かに答えた。
「彼らにとって、力を失い平民として生きることこそ、最大の罰だからです。牢獄で死ぬより、自分たちが見下してきた平民として、毎日を生き抜く方が、ずっと辛いでしょう」
アントワーヌとジュリエットの顔が絶望に歪んだ。
「そ、そんな! 平民になるくらいなら、死んだ方がマシだ!」
「それこそが、あなたたちの本性です」
私は冷たく言い放った。
「平民を見下し、才能を踏みにじり、命さえ軽んじてきた。その報いを、身をもって味わってください。私が味わった屈辱を、今度はあなたたちが味わう番です」
静寂。
国王は少し考えてから、ゆっくりと頷いた。
「クロエ・フォンテーヌの提案を受け入れよう。これは慈悲ではなく、正当な報いである」
「やめてください! お願いします! 何でもしますから――」
ジュリエットの悲鳴が響く中、私は背を向けた。
もう、この人たちのことは、どうでもいい。
こうして、二人の悪党は裁かれた。
しかし――
エリックが小声で言った。
「クロエ、事件はまだ終わっていない」
「......え?」
「蒼晶毒の入手ルートを調べた。アントワーヌとジュリエットだけでは、あれは手に入らない」
背筋に冷たいものが走った。
まだ、黒幕がいるということか。
その夜、私は王宮の客室で眠れずにいた。
豪華な天蓋付きのベッド。柔らかな絹のシーツ。こんな贅沢な寝室は、平民の私には縁のないものだった。でも、心は少しも休まらなかった。
事件は解決した。アントワーヌとジュリエットは罰を受けた。
それなのに、何かが引っかかる。
アントワーヌは確かに欲深い男だったが、王太子妃暗殺などという大それたことを本当に考えるだろうか。失敗すれば一族郎党皆殺しだ。そこまでのリスクを負うほど、彼は大胆ではなかった。
ジュリエットも同じだ。彼女は狡猾だが、臆病でもある。人の研究を盗むことはできても、王族を殺すなど――
誰かが、彼らを操っていたとしたら――
もっと大きな力を持った、黒幕が。
扉をノックする音で、思考が中断された。
「クロエ、起きているか?」
エリックの声だった。こんな夜更けに、何か緊急事態でも?
急いで扉を開けると、彼は険しい表情で立っていた。普段の涼しげな表情とは違う、何か深刻な事態を告げる顔。
「何かあったんですか?」
「王宮の地下牢で、アントワーヌが殺された」
血の気が引いた。
「殺された......? 誰に?」
「それを調べに行く。お前も来い」
「でも、私は――」
「お前の力が必要だ」
エリックは私の手を取った。その手は冷たく、でも力強い。
「口封じだとしたら、犯人は黒幕だ。お前にしか、真相は見えない」
私は頷いた。
地下牢への階段は長く、薄暗かった。松明の明かりだけが、石造りの壁を照らしている。
「怖いか?」
エリックが後ろから声をかけてきた。
「......少し」
「俺がついている」
その言葉に、少しだけ勇気が湧いた。
地下牢は陰惨な空気に包まれていた。湿った石壁、かび臭い空気、そして――死の匂い。
アントワーヌは牢の中で、苦悶の表情を浮かべたまま息絶えていた。目を見開き、何かを訴えるように手を伸ばしたまま。
「毒殺のようだな」
エリックが冷静に遺体を調べながら言う。
「口の周りに変色がある。飲み物に毒を混入されたようだ」
私は深呼吸した。死体を見るのは、まだ慣れない。
「クロエ、お前の力を使ってくれ」
頷いて、私は震える手を遺体に触れさせた。冷たい。もう温もりなど残っていない。
目を閉じて、『秘められし過去の欠片(フラグマン・カシェ)』を発動させた。
意識が沈んでいく。そして――視えた。
黒いフードを被った人物が、鉄格子の間からアントワーヌに何かを差し入れる光景。ワインの瓶だ。
「これを飲めば、すべてが許される。家族も守られる」
低く、抑揚のない声。
アントワーヌは震えながらワインを受け取り、一気に飲み干す。そして数秒後、苦しみ始める。
「助けてくれ......約束が......違う......」
黒フードの人物は無言で立ち去る。その去り際に、フードを少し上げた瞬間――
深紅の瞳。漆黒の髪。そして、左の頬にある小さな傷痕。
「まさか......」
目を開けた私の顔を見て、エリックが鋭く問うた。
「どうした? 犯人が視えたのか?」
私は震える声で答えた。
「宮廷魔導師のセバスチャン・ドゥ・ヴィルヌーヴ公爵です」
エリックの表情が凍りついた。
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「アントワーヌ・ド・モンモランシー、ジュリエット・ラヴァル。王太子妃暗殺未遂の罪により、両名を断罪する」
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「お前たちは三ヶ月前、クロエの研究を奪い、彼女を追放した。その時の証拠がある」
エリックが提示したのは、私の研究ノートの原本だった。ジュリエットが隠し持っていたものを、密かに回収していたのだ。
「筆跡鑑定の結果、これがクロエの真筆であることは明白。つまり、『輝石の精製法』は元々クロエの研究だった。お前たちは才能ある錬金術師を妬み、陥れ、追放した」
フランソワが続けた。
「そして今度は、王太子妃の命を狙った。理由は領地の簒奪。証拠は山ほどある」
アントワーヌの顔から血の気が引いていく。
「そんな......まさか......全部、見つかっていたのか......」
「お前たちの浅知恵など、とうの昔にお見通しだ」
王太子が立ち上がった。
「両名とも、財産没収の上、終身刑に処す」
その瞬間、私は前に出た。
「お待ちください!」
王太子が訝しげに私を見る。
「なぜ止める? 彼らは君を陥れ、君の人生を破壊しようとした。そして私の妻の命を狙った」
「確かに私は彼らを恨んでいます」
私は深呼吸した。心臓が激しく打っている。
「でも、終身刑は......それでは、彼らは何も学ばない」
「では、どうしろと?」
私は二人を見据えた。アントワーヌは怯えた目で、ジュリエットは憎悪に満ちた目で、私を睨んでいる。
「彼らから錬金術師の資格を剥奪し、すべての財産と爵位を没収する。そして一般市民として生きることを提案します」
広間がざわついた。
「......なぜだ?」
フランソワが静かに問う。私は静かに答えた。
「彼らにとって、力を失い平民として生きることこそ、最大の罰だからです。牢獄で死ぬより、自分たちが見下してきた平民として、毎日を生き抜く方が、ずっと辛いでしょう」
アントワーヌとジュリエットの顔が絶望に歪んだ。
「そ、そんな! 平民になるくらいなら、死んだ方がマシだ!」
「それこそが、あなたたちの本性です」
私は冷たく言い放った。
「平民を見下し、才能を踏みにじり、命さえ軽んじてきた。その報いを、身をもって味わってください。私が味わった屈辱を、今度はあなたたちが味わう番です」
静寂。
国王は少し考えてから、ゆっくりと頷いた。
「クロエ・フォンテーヌの提案を受け入れよう。これは慈悲ではなく、正当な報いである」
「やめてください! お願いします! 何でもしますから――」
ジュリエットの悲鳴が響く中、私は背を向けた。
もう、この人たちのことは、どうでもいい。
こうして、二人の悪党は裁かれた。
しかし――
エリックが小声で言った。
「クロエ、事件はまだ終わっていない」
「......え?」
「蒼晶毒の入手ルートを調べた。アントワーヌとジュリエットだけでは、あれは手に入らない」
背筋に冷たいものが走った。
まだ、黒幕がいるということか。
その夜、私は王宮の客室で眠れずにいた。
豪華な天蓋付きのベッド。柔らかな絹のシーツ。こんな贅沢な寝室は、平民の私には縁のないものだった。でも、心は少しも休まらなかった。
事件は解決した。アントワーヌとジュリエットは罰を受けた。
それなのに、何かが引っかかる。
アントワーヌは確かに欲深い男だったが、王太子妃暗殺などという大それたことを本当に考えるだろうか。失敗すれば一族郎党皆殺しだ。そこまでのリスクを負うほど、彼は大胆ではなかった。
ジュリエットも同じだ。彼女は狡猾だが、臆病でもある。人の研究を盗むことはできても、王族を殺すなど――
誰かが、彼らを操っていたとしたら――
もっと大きな力を持った、黒幕が。
扉をノックする音で、思考が中断された。
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血の気が引いた。
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「それを調べに行く。お前も来い」
「でも、私は――」
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目を開けた私の顔を見て、エリックが鋭く問うた。
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