【完結】錬金術ギルドを追放された私、王太子妃を救ったら二人のイケメンに溺愛されてギルド長になりました

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第四章

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「......確かなのか?」
「間違いありません。左の頬の傷痕も、あの深紅の瞳も」
セバスチャン・ドゥ・ヴィルヌーヴ。王国最高位の魔導師にして、国王の従兄弟。二十歳で宮廷魔導師に任命された天才。その魔力は国王をも凌ぐと噂される。そして何より――その権力は計り知れない。
「なぜ、彼が......」
「分からない。だが、これは厄介なことになった」
エリックが頭を抱えた。
「証拠がない。お前の能力は公式には認められていないから、証言としても使えない」
その時、背後から冷たい声が響いた。
「なぜ、でしょうね」
心臓が跳ね上がった。
振り返ると、セバスチャンが立っていた。四十代半ばの精悍な顔立ち。漆黒の髪に、深紅の瞳。そして左の頬には、確かに小さな傷痕がある。
いつから、そこにいたのか。
「これは、ヴィルヌーヴ公爵」
エリックが私の前に立ち、警戒しながら言う。セバスチャンは薄く笑った。
「深夜の地下牢で、何をなさっているのですか? まさか、死体を検分に?」
「それはこちらの台詞です」
私が言うと、セバスチャンの目が危険に細められた。
「ほう。平民の小娘が、私に意見するとは。錬金術師ギルドを追放された身で、随分と大胆になったものだ」
その言葉に、私は息を呑んだ。彼は、私のことを知っている。
瞬間、強大な魔力が私を押し潰そうとした。
息ができない。膝が震える。まるで巨大な岩で押し潰されるような圧迫感。これが、国王をも凌ぐという魔力――
「やめろ」
エリックが私の前に立った。彼の錬金術の力――北方の氷雪の力――がセバスチャンの魔力とぶつかり合う。
「ノルドストローム卿、その女に肩入れしすぎでは? まさか、惚れたとか?」
セバスチャンの嘲笑に、エリックは動じなかった。
「彼女は王太子妃の命の恩人だ。その恩人を脅すとは、魔導師の沽券に関わるのでは?」
「ええ、知っています。素晴らしい働きでした」
セバスチャンの笑みが深まった。
「だからこそ、彼女には、もっと大きな役割を担ってもらおうと思っているのです」
不吉な言葉。その響きに、私は身を震わせた。
「どういう、意味ですか......?」
「いずれ分かりますよ、クロエ・フォンテーヌ嬢。あなたの力は、とても......特別だから」
セバスチャンはそう言い残し、闇に消えていった。
まるで煙のように。魔力で瞬間移動したのだ。
「クロエ」
エリックが私の肩に手を置いた。
「大丈夫か?」
「......ええ。でも、彼は私の能力を知っている」
「そのようだな」
エリックの表情が厳しくなった。
「これは、想像以上に深い闇だ」

翌朝、さらなる衝撃が走った。
ジュリエットも牢内で死んでいるのが発見されたのだ。やはり毒殺。アントワーヌと同じ手口だった。
「口封じね」
フランソワが苦い表情で言った。
王太子の執務室に、私とエリック、フランソワが集まっていた。王太子は深刻な顔で、机に向かって腕を組んでいる。
「セバスチャンが黒幕だとして、一体何が目的なんだ?」
王太子の問いに、私は恐る恐る推測を述べた。
「王位継承権かもしれません。セバスチャン公爵は国王陛下の従兄弟で、継承順位は第五位。もし王太子殿下と王太子妃殿下に何かあれば――」
「俺も狙われているというのか?」
「可能性はあります」
エリックが冷静に言った。
「それより問題は、証拠がないことだ。クロエの『秘められし過去の欠片』は、公式には認められていない能力だ」
確かにその通りだった。私の能力は秘密にしている。そもそも、こんな能力があると公言すれば、王宮中から疑いの目で見られる。「過去を覗く」など、誰もが嫌がるだろう。
表向きは、勘が鋭い錬金術師ということになっている。
「直接対決は無理だな」
フランソワが腕を組んで言った。
「セバスチャンの地位と権力を考えれば、下手に動けば逆に我々が陥れられる」
「では、どうする?」
「罠を仕掛けるしかない」
フランソワの緑の瞳が、危険な光を帯びた。
「罠?」
「セバスチャンの目的が王位なら、必ず次の手を打ってくる。アントワーヌたちは失敗した。だから今度は、自ら動くはずだ」
王太子が頷いた。
「つまり、私を餌にするということか」
「危険ですが、他に方法が――」
「構わない。妻を狙った者を、このまま野放しにはできない」
王太子の決意に、私たちも頷いた。
危険な賭けだったが、他に方法はなかった。


その夜、王太子主催の盛大な舞踏会が開かれた。
表向きは王太子妃の回復祝いだが、実際はセバスチャンをおびき出すための罠だった。
私は深紅のドレスに身を包み、会場の片隅に立っていた。このドレスは王太子妃が用意してくれたものだ。
「あなたのおかげで命を救われました。せめてこれくらいは」
彼女の優しい言葉を思い出す。
でも、平民の私が貴族の舞踏会にいることを、多くの貴族が好奇と侮蔑の目で見ている。
「あれが例の錬金術師?」
「平民のくせに、随分と着飾って」
「王太子殿下のお気に入りらしいわ。怖いことね」
ひそひそと囁かれる声。昔のギルドと、何も変わらない。
息が詰まりそうだった時――
「一曲、踊ってもらえないか?」
フランソワが手を差し伸べてきた。燭台の明かりに照らされて、蜂蜜色の髪が輝いている。
「侯爵様、私なんかと踊ったら、貴方の評判が......」
「構わない。君は美しい。それに――」
フランソワが微笑んだ。
「君を助けたいと思ったのは、俺も同じだ」
頬が熱くなった。フランソワに手を取られ、踊りの輪に加わる。
周囲の視線が一斉に集まる。でも、フランソワは気にした様子もなく、私をエスコートしてくれた。
「緊張しているな」
「......当然です。こんな場所、慣れていないので」
「大丈夫だ。俺がついている」
その言葉は、エリックと同じだった。
二人とも、どうして私なんかを――
「セバスチャンが動いた」
踊りながら、フランソワが真剣な表情で囁いた。視線の先に、セバスチャンが王太子に近づいていく姿があった。
手には、二つのワイングラスが。
「ワインに気をつけて」
私の警告を、フランソワが王太子に伝える間もなく、セバスチャンは優雅な笑みで王太子にワイングラスを勧めていた。
「殿下、王太子妃殿下の快癒を祝して」
まずい。あのワインには、絶対に毒が――
私は踊りを中断し、王太子に駆け寄ろうとした。
しかし――
「おっと、そうはいかない」
知らない貴族たちが、私の行く手を阻んだ。三人、四人、五人――明らかに意図的な妨害だ。
セバスチャンの手の者。
「失礼します!」
押しのけようとしたが、男たちの壁は厚い。
王太子がワイングラスに口をつけようとした、その時――
ガシャン!
エリックが現れ、グラスを叩き落とした。
「失礼」
「ノルドストローム卿! 何をする!」
セバスチャンが怒りの声を上げたが、エリックは涼しい顔で言った。
「失礼、虫が入っていたようでしたので」
床にこぼれたワインから、異臭が立ち上る。明らかに毒が入っていた。
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