【完結】錬金術ギルドを追放された私、王太子妃を救ったら二人のイケメンに溺愛されてギルド長になりました

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第六章

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会場は静まり返っていた。貴族たちは、呆然と成り行きを見守っている。
そして――
「クロエ様!」
王太子妃が駆け寄ってきた。青白かった顔色は、すっかり健康的な薔薇色に戻っている。
「大丈夫ですか? お怪我が――」
「私は、平気です......」
そう言った瞬間、視界が真っ暗になった。
「クロエ!」
エリックの声が遠くなっていく。
ああ、疲れた。
少し、休もう――
意識が、闇に沈んでいった。



一週間後、私の肩の傷もだいぶ癒えていた。
王宮の医療棟――というより、私専用に用意された豪華な客室の一角――で、侍医が包帯を替えてくれている。
「順調に回復していますね、クロエ様」
老齢の侍医が、満足そうに頷いた。
「ただし、まだ無理は禁物です。少なくともあと一週間は安静に」
「分かりました。ありがとうございます」
侍医が退室した後、私は窓の外を見つめた。
あれから一週間。
セバスチャンは厳重な監視下に置かれ、彼に協力していた貴族たちも次々と捕らえられた。王国の闇が、少しずつ明るみに出ている。
そして私は――
「国の英雄」などと呼ばれるようになっていた。
気恥ずかしい。私はただ、目の前の人を助けようとしただけなのに。
その時、扉が激しく開いた。
「クロエ! 大丈夫か!?」
エリックが血相を変えて飛び込んできた。銀髪が乱れ、息を切らしている。いつもの冷静な彼からは想像もできない慌てぶりだ。
「え、エリック様? どうしたんですか、そんなに――」
「今朝の薬は飲んだか? 傷の具合は? 痛みは?」
矢継ぎ早に質問される。
「落ち着いてください。大丈夫です、ちゃんと――」
その後ろから、フランソワが優雅に入ってくる。こちらは乱れひとつない完璧な身なりだ。
「今頃来ても遅いぞ、ノルドストローム卿。私は朝一番に見舞いに来た」
「うるさい。北の鉱山の調査があったんだ。三日もかかる場所だったんだぞ」
「言い訳は見苦しいな。クロエ嬢のことが心配なら、調査など断ればよかったのに」
「お前に言われたくない。どうせ暇を持て余して――」
「暇? 私は王太子殿下の側近だぞ。多忙極まりないのだが?」
二人の言い合いに、私は苦笑した。
この一週間、毎日この調子だった。二人とも、日に三度は見舞いに来る。そして毎回、こうして張り合っている。
「あの、お二人とも......」
「そうだ、クロエ」
フランソワが私の手を取った。その緑の瞳が、優しく微笑んでいる。
「今日は君の好きなタルトを持ってきたんだ。あのパティスリー・ド・ローズの」
「本当ですか? あそこのタルト、大好きなんです」
「知っている。前に話していただろう?」
覚えていてくれたのか。嬉しくて、自然と笑顔になる。
するとエリックが咳払いをして、別の包みを差し出した。
「俺は北方の氷結苺を持ってきた。傷の回復にいい」
「氷結苺......貴重な薬草ですよね?」
「お前のためなら、これくらい」
エリックの頬が、微かに赤い。いつもの涼しげな表情とは違う、少し照れたような顔。
「クロエはどちらが見舞いに来て嬉しい?」
フランソワが甘い声で聞いてきた。エリックが舌打ちする。
「くだらないことを聞くな。クロエを困らせるな」
「くだらない? これは重要な問題だ。クロエ嬢の気持ちを確認しているだけだ」
「お前の自己満足だろう」
「君こそ、照れ隠しに氷結苺など――」
また始まった。
私はため息をついて立ち上がった。二人とも、本当に子供みたい。
「お二人とも、ありがとうございます。でも私は、お二人が来てくれること自体が嬉しいんです」
「本当か?」
「本当に?」
二人が同時に顔を輝かせる。
その時――
侍従が血相を変えて駆け込んできた。
「た、大変です!」
息を切らし、顔面蒼白で震えている侍従。ただ事ではない。
「何があった?」
エリックが鋭く問うた。
「セバスチャン公爵が......脱獄しました!」
空気が凍りついた。
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
脱獄? あのセバスチャンが?
「なんだと?」
エリックの声が、氷のように冷たくなった。
「どういうことだ。公爵は三重の監視下にあったはずだ」
「詳細を言え!」
フランソワも剣を握りしめている。
侍従は震えながら答えた。
「公爵の元部下――宮廷魔導師団の副団長が手引きしたようです。監視の騎士三名が殺され、牢が破壊されて......」
「いつだ?」
「今朝方、夜明け前です。そして、公爵の私室から書き置きが......」
侍従は震える手で、一枚の紙を差し出した。
フランソワがそれを読み、顔色を変えた。
「......これは」
「何と書いてある?」
エリックが紙を奪い取り、目を通す。そして――彼の顔が、怒りに歪んだ。
「ふざけるな......!」
「何て......書いてあるんですか......?」
私が恐る恐る聞くと、エリックは私を見つめた。その青い瞳に、見たこともない激情が渦巻いている。
「『クロエ・フォンテーヌを必ず殺す。私の計画を潰した報いを、その身で味わわせてやる』......だそうだ」
私の背筋に、冷たいものが走った。
心臓が、激しく打ち始める。手が震える。
殺される。
セバスチャンに、殺される。
「クロエ、すぐに王宮から離れろ」
エリックが私の腕を掴んだ。その手が震えている。
「北方の俺の領地に逃げろ。そこなら、俺が必ず守る」
「待て」
フランソワが遮る。
「逃げるより、王宮にいた方が安全だ。ここには近衛騎士がいる。魔導師もいる。護衛をつければ――」
「護衛? それで十分だと思うのか?」
エリックが吠えた。
「セバスチャンは王国最強の魔導師だぞ。護衛など、一瞬で薙ぎ払われる」
「では君の案は? 逃げて、追われ続けるのか?」
「少なくとも、クロエの命は守れる!」
「守る? 君一人で?」
二人の口論が激しくなっていく。
でも、私の耳には遠く聞こえた。
頭の中で、様々な考えが渦巻いている。
逃げるべきか。戦うべきか。それとも――
「失礼します」
私は立ち上がり、二人の間を抜けて自分の部屋に向かった。
「クロエ! どこへ行く!」
「待て!」
二人の声を無視して、私は小走りに廊下を進んだ。
自分の部屋――王宮が用意してくれた豪華な客室――に戻り、扉を閉める。
そして、ベッドの下に隠していた錬金術道具を取り出した。
小さな携帯用の調合セット。それと、いくつかの試薬。そして――
一週間かけて、密かに作っていた小瓶。
透明な液体が入っている。これは――
「何をしている」
背後から、エリックの低い声がした。
いつの間に入ってきたのか。
「......準備です」
「準備? 何の?」
私は小瓶を握りしめた。
「セバスチャンは必ず来ます。それなら、待っているより――」
「一人で戦うつもりか」
エリックの声が、怒りを帯びた。
「そうです」
「馬鹿な!」
彼が私の肩を掴んだ。傷に触れて、痛みが走る。でも、それよりも――
「これは私の問題です。私が巻き込まれて、私が狙われている。だから――」
「違う」
エリックは私の肩を掴んで、強引に振り向かせた。その青い瞳が、真剣に私を見つめている。
「お前の問題は、俺の問題だ」
心臓が跳ねた。
「な、なぜ......そこまで......」
「分からないのか?」
エリックの顔が近づいてくる。あと少しで、触れそうなほど。
「俺は、お前を――」
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