【完結】錬金術ギルドを追放された私、王太子妃を救ったら二人のイケメンに溺愛されてギルド長になりました

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第八章

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小瓶の軌道が変わった。セバスチャンの魔法を無視して、真っ直ぐ彼に向かう。
「なっ......!」
パリン!
小瓶は、セバスチャンの目の前で割れた。中の液体が霧となって、彼を包んだ。
「ぐっ......これは......!」
セバスチャンの魔法が解けた。私は床に落ち、激しく咳き込んだ。肩の傷が開いたようで、痛みが走る。
「クロエ! 大丈夫か!」
エリックが駆け寄ってきた。
「私の魔法が......使えない......だと!?」
セバスチャンが自分の手を見つめている。指から、いつもなら簡単に生まれるはずの魔力が、何も出てこない。
「その薬には、『魔力忘却』の記憶を刻印しました」
私はエリックに支えられながら立ち上がった。
「あなたの体は、一時的に魔法の使い方を忘れたんです。魔力そのものは残っていても、それを引き出す方法を、体が思い出せない」
「ふざけるな! こんなもの!」
セバスチャンは必死に魔法を使おうとした。呪文を唱え、手を振り、あらゆる手段を試す。
でも、何も起きなかった。
その隙に、エリックとフランソワが残りの部下たちを全員倒していた。黒衣の魔術師たちが、床に倒れ伏している。
「終わりだ、セバスチャン」
エリックが冷たく告げた。その氷のような青い瞳に、憐れみのかけらもない。
「お前の野望は、ここで潰える」
フランソワも剣を構えている。
「大人しく捕らえられるか、それとも――」
セバスチャンは膝をついた。力が抜けたように、がくりと。
虚ろな目で天井を見上げている。
「なぜだ......なぜ私が......平民の小娘などに......」
「あなたは最初から間違っていました」
私は静かに、でもはっきりと言った。
「人を道具としか見ない。部下も、アントワーヌもジュリエットも、使い捨ての駒。そんな人に、誰もついていきません」
セバスチャンの目から、一筋の涙が流れた。
「私は......私はただ......」
「力ある者が上に立つ世界を作りたかった。それは分かります」
私は続けた。
「でも、力だけでは人は動きません。信頼がなければ、誰も従わない。それが、あなたの敗因です」
セバスチャンは何かを言おうとしたが、そのまま気を失った。

騎士団が到着し、セバスチャンと部下たちは連行されていった。
今度は、脱獄できないように厳重な監視がつけられるだろう。
私たちは、夕闇の中を王宮へと戻った。
エリックが私の肩に手を回し、支えてくれている。フランソワが反対側から腕を貸してくれている。
「ありがとうございます、お二人とも」
「礼など不要だ」
「その通り。これくらい当然だ」
二人の声が重なって、思わず笑ってしまった。
王宮に戻ると、国王自らが私たちを迎えた。
玉座の間には、多くの貴族たちが集まっていた。王太子も、王太子妃も。皆が、私たちを見つめている。
「クロエ・フォンテーヌ」
玉座の前で跪く私に、国王は温かい声をかけた。白髪混じりの髭を蓄えた、威厳ある老人だ。
「面を上げよ」
顔を上げると、国王が優しく微笑んでいた。
「そなたの勇気と知恵により、王国は救われた。王太子妃の命を救い、セバスチャンの陰謀を阻止し、そして今また、彼を捕らえた。望みの褒美を取らせよう」
私は深呼吸した。
「恐れながら、お願いがあります」
「申してみよ」
「錬金術ギルドの改革を、お許しください」
広間がざわめいた。
「改革?」
「はい。身分に関係なく、才能ある者が正当に評価される組織に。実力主義を、本当の意味で実現したいのです」
国王は少し驚いたような顔をしたが、すぐに頷いた。
「よかろう。そなたが新しいギルド長となり、改革を進めよ」
「えっ......?」
予想外の言葉に、思わず声が出た。
「異論はあるまい。そなた以上の適任者はいない」
周囲がざわめいた。貴族たちが顔を見合わせている。
平民の、しかも二十代の若い女性がギルド長など、前代未聞だった。
でも――
「承知しました。その大任、お受けします」
私は深く頭を下げた。
周囲がざわめいた。
平民の、しかも二十代の若い女性がギルド長など、前代未聞だった。
錬金術ギルドは創設以来二百年、常に由緒ある貴族が長を務めてきた。それが今、覆されようとしている。
「陛下、それは――」
白髪の老貴族が、震える声で反対しようとした。
「いくら功績があるとはいえ、身分が――」
「身分?」
王太子が立ち上がった。その声は、静かだが威圧感に満ちていた。
「クロエ・フォンテーヌは我が妻の、そして我が命の恩人だ。その功績を認めぬ者は、王家への反逆と見なす」
玉座の間が、しんと静まり返った。
「それに」
王太子は続けた。
「ギルドが腐敗していたことは、今回の事件で明らかになった。アントワーヌ・ド・モンモランシーのような者が長を務めていたからこそ、セバスチャンの陰謀に利用された。改革が必要なのは明白だ」
貴族たちは黙り込んだ。誰も反論できない。
「クロエ」
王太子妃が、ゆっくりと進み出て、私の手を取った。
彼女の手は温かく、そして少し震えていた。
「本当にありがとう。あなたのおかげで、私は生きています。そして――」
王太子妃は、お腹に手を当てた。
「お腹の子も、助かりました」
え。
「おめでたでいらしたんですか......?」
「ええ。まだ初期で、公表していなかったの。だからセバスチャンは知らなかった。もし毒が効いていたら――」
王太子妃の目に涙が浮かんだ。
「考えたくもありません」
私も涙が込み上げてきた。守れた。二つの命を、守れたんだ。
「これからのギルドを、よろしくお願いします」
王太子妃が微笑んだ。
「はい。必ず、より良いものにします」
私は深く頭を下げた。

その夜、祝賀会が開かれた。
王宮の大広間は、華やかな装飾と音楽に満たされていた。貴族たちが着飾り、笑い声が響いている。
私は王太子妃が用意してくれた新調したドレスに身を包んでいた。深い青色の絹地に、銀の刺繍が施された優雅なドレス。こんな高価なものを着るのは初めてだ。
「クロエ様、おめでとうございます」
「これからのギルドに期待しております」
「ぜひ、我が家の息子を副長に――」
多くの貴族たちから祝いの言葉を受けた。かつて私を見下していた者たちが、今は媚びへつらってくる。
「クロエ様、うちの娘がギルドに入りたがっておりまして」
「ぜひとも、特別な配慮を――」
正直、疲れた。
笑顔を作り続けるのが、こんなに疲れるものだとは。
隙を見て、私はバルコニーに逃げ出した。
夜の冷たい空気が、火照った頬に心地よい。
「ふう......」
深呼吸して、手すりにもたれる。
星空が綺麗だった。街の明かりの向こうに、無数の星が瞬いている。
「騒がしいのは苦手か?」
低い声に振り返ると、エリックが一人で立っていた。
いつからいたのだろう。いつもの銀髪が、月明かりに照らされて輝いている。
「エリック様も、ですか?」
「......まあな」
彼の横に並ぶ。夜風が、心地よく吹いていた。
二人で、しばらく黙って夜空を見上げた。
不思議と、気まずくない。むしろ、この静けさが心地よかった。
「ギルド長、か」
エリックが口を開いた。
「まだ実感がありません」
本音が漏れた。
「本当に、私でいいんでしょうか。もっと経験豊富な人が――」
「お前以外にいない」
エリックが断言した。
「きっと上手くやる」
「根拠は?」
「お前を見てきたからだ」
彼は私を見た。その青い瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。
「お前は強い。困難に立ち向かい、決して逃げない。そして――」
エリックは少し言葉を選ぶように間を置いた。
「優しい。人を思いやり、正しいことのために戦える」
頬が熱くなった。こんな風に褒められたのは、久しぶりだ。いや、もしかしたら初めてかもしれない。
「エリック様......」
「これからも、そばにいていいか?」
息が止まりそうだった。
これは――
心臓が、激しく打ち始める。
「もちろん、助手としてだが」
エリックが付け加えた。
少しがっかりしたような、安心したような、複雑な気持ちになった。
助手として。そう、仕事上の関係として。
それでも嬉しかった。

「......はい。ぜひ、お願いします」


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