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第36章「妻の涙(呪いを解く鍵)」
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カルロスの胸に落ちたシャルロットの涙が、
まるで温かな光のように
彼の肌に沁み込んでいった。
そのたった一滴だけで、
彼の胸元に広がっていた白い痣が
ほんのわずかに薄まった。
(……今……確かに……)
シャルロットは震える指で、
もう一度カルロスの頬に触れた。
「公爵さま……
わたくしの涙で……
本当に……?」
呼吸がかすかに戻る。
胸の動きがわずかに大きくなる。
まるで消えかけた炎が、
細い風に揺れながら立ち上がるように。
(わたくしの涙は……
呪いを薄めている……?
そんなこと……)
そのとき。
――「やめて」
影の声が、
荒く震えながら響いた。
シャルロットは顔を上げる。
闇の中に漂うミレイユの影が、
白百合の香りとともに揺れていた。
だがその気配は、
さきほどよりも不安定で、
どこか恐怖を含んでいる。
――「その涙……
何なの……?」
シャルロットは答えられなかった。
そんなこと、自分でも分からない。
影は続ける。
――「そんなもの……
“本妻の席”を奪った娘に……
あるはずない……!」
シャルロットの胸が痛んだ。
(わたくしは……
席を奪ったわけではない……
でも……ミレイユにとっては……)
影は揺れながら、
言葉を飛ばすようにつぶやく。
――「涙で呪いが薄まるなんて……
そんなこと……
わたしにも……できなかった……」
シャルロットは息を呑む。
(ミレイユは……
カルロス様の呪いに触れたことが……?
触れようとしたことが……?)
影の声には、
初めて“焦燥”が混ざっていた。
――「おかしい……
だって……あなたは“影”じゃない」
――「影の涙では……
呪いは癒せない……」
――「なのに……どうして……?」
白百合の花弁がざわりと揺れる。
シャルロットは
涙で濡れた指先を見下ろしながら、
震える声で言った。
「わたくし……
何も知らないのです……
ただ……
公爵さまを……助けたいだけ……」
影が悲鳴のように叫ぶ。
――「だから嫌なのよ!!」
シャルロットは凍りつく。
――「あなたは“知らない”のに……
どうして……
わたしが出来なかったことが……
出来るの?」
影の姿が揺らぐ。
――「どうして公爵様は……
わたしを選んでくれなかったの……?」
――「どうして……
あなたの涙だけ……
彼を生かすの……?」
影は両手で顔を覆ったように見えた。
夜の闇の中で、
影の震えが伝わってくる。
そのとき、カルロスの指が
シャルロットの手を求めるように動いた。
「……シャ……ル……ロ……ット……」
触れると呪いが広がるはずなのに、
今だけは違った。
シャルロットはそっと
その手を包み込む。
(大丈夫……
もう、離れません……
あなたが望むなら……
わたくしは側に……)
シャルロットの涙がまた落ちた。
その瞬間、
影が震えながら叫んだ。
――「やめて!!
それ以上は……!!
彼の呪いが……
“あなたのもの”になる……!!」
シャルロットは涙を拭わずに言った。
「構いません……
わたくしは……
彼の妻です……
その痛みを……半分でも……
受けられるのなら……」
影は目を見開いたように固まった。
――「……妻……?
あなたが……?」
シャルロットの涙が
カルロスの胸に落ちるたび、
呪いの痣が薄くなる。
影は信じられないというように震える。
――「そんなはず……
そんなはず……
“本妻”の涙じゃないのに……
どうして……?」
シャルロットは答えた。
「わたくしは……
彼を愛しています……
その愛が……もし……
影の呪いに逆らう力になるのなら……」
影の瞳が揺れた。
――「愛……?」
――「そんな……
わたしには……
与えられなかった……もの……?」
シャルロットの涙がまた一滴落ちる。
その瞬間、
影の輪郭が大きく揺らぎ、
風もないのに散り散りになりそうになる。
――「いや……
やめて……
壊れる……
わたしの“影”が……」
シャルロットは涙の理由を
まだ知らない。
けれど、
影は知っている。
シャルロットの涙は、
“影の呪いを解く鍵”なのだということを。
闇は揺れ、
白百合の香りが遠ざかっていく。
影は最後に、
震える声で呟いた。
――「あなたの涙だけは……
許さない……」
そして夜の闇へと消えた。
シャルロットは弱々しく息をする夫を抱きしめ、
その胸の鼓動に祈るように耳を当てた。
(わたくしの涙が……
公爵さまを救えるのなら……
わたくしは何度でも泣きます……)
カルロスの胸の鼓動は、
ほんの少しだけ強くなっていた。
まるで温かな光のように
彼の肌に沁み込んでいった。
そのたった一滴だけで、
彼の胸元に広がっていた白い痣が
ほんのわずかに薄まった。
(……今……確かに……)
シャルロットは震える指で、
もう一度カルロスの頬に触れた。
「公爵さま……
わたくしの涙で……
本当に……?」
呼吸がかすかに戻る。
胸の動きがわずかに大きくなる。
まるで消えかけた炎が、
細い風に揺れながら立ち上がるように。
(わたくしの涙は……
呪いを薄めている……?
そんなこと……)
そのとき。
――「やめて」
影の声が、
荒く震えながら響いた。
シャルロットは顔を上げる。
闇の中に漂うミレイユの影が、
白百合の香りとともに揺れていた。
だがその気配は、
さきほどよりも不安定で、
どこか恐怖を含んでいる。
――「その涙……
何なの……?」
シャルロットは答えられなかった。
そんなこと、自分でも分からない。
影は続ける。
――「そんなもの……
“本妻の席”を奪った娘に……
あるはずない……!」
シャルロットの胸が痛んだ。
(わたくしは……
席を奪ったわけではない……
でも……ミレイユにとっては……)
影は揺れながら、
言葉を飛ばすようにつぶやく。
――「涙で呪いが薄まるなんて……
そんなこと……
わたしにも……できなかった……」
シャルロットは息を呑む。
(ミレイユは……
カルロス様の呪いに触れたことが……?
触れようとしたことが……?)
影の声には、
初めて“焦燥”が混ざっていた。
――「おかしい……
だって……あなたは“影”じゃない」
――「影の涙では……
呪いは癒せない……」
――「なのに……どうして……?」
白百合の花弁がざわりと揺れる。
シャルロットは
涙で濡れた指先を見下ろしながら、
震える声で言った。
「わたくし……
何も知らないのです……
ただ……
公爵さまを……助けたいだけ……」
影が悲鳴のように叫ぶ。
――「だから嫌なのよ!!」
シャルロットは凍りつく。
――「あなたは“知らない”のに……
どうして……
わたしが出来なかったことが……
出来るの?」
影の姿が揺らぐ。
――「どうして公爵様は……
わたしを選んでくれなかったの……?」
――「どうして……
あなたの涙だけ……
彼を生かすの……?」
影は両手で顔を覆ったように見えた。
夜の闇の中で、
影の震えが伝わってくる。
そのとき、カルロスの指が
シャルロットの手を求めるように動いた。
「……シャ……ル……ロ……ット……」
触れると呪いが広がるはずなのに、
今だけは違った。
シャルロットはそっと
その手を包み込む。
(大丈夫……
もう、離れません……
あなたが望むなら……
わたくしは側に……)
シャルロットの涙がまた落ちた。
その瞬間、
影が震えながら叫んだ。
――「やめて!!
それ以上は……!!
彼の呪いが……
“あなたのもの”になる……!!」
シャルロットは涙を拭わずに言った。
「構いません……
わたくしは……
彼の妻です……
その痛みを……半分でも……
受けられるのなら……」
影は目を見開いたように固まった。
――「……妻……?
あなたが……?」
シャルロットの涙が
カルロスの胸に落ちるたび、
呪いの痣が薄くなる。
影は信じられないというように震える。
――「そんなはず……
そんなはず……
“本妻”の涙じゃないのに……
どうして……?」
シャルロットは答えた。
「わたくしは……
彼を愛しています……
その愛が……もし……
影の呪いに逆らう力になるのなら……」
影の瞳が揺れた。
――「愛……?」
――「そんな……
わたしには……
与えられなかった……もの……?」
シャルロットの涙がまた一滴落ちる。
その瞬間、
影の輪郭が大きく揺らぎ、
風もないのに散り散りになりそうになる。
――「いや……
やめて……
壊れる……
わたしの“影”が……」
シャルロットは涙の理由を
まだ知らない。
けれど、
影は知っている。
シャルロットの涙は、
“影の呪いを解く鍵”なのだということを。
闇は揺れ、
白百合の香りが遠ざかっていく。
影は最後に、
震える声で呟いた。
――「あなたの涙だけは……
許さない……」
そして夜の闇へと消えた。
シャルロットは弱々しく息をする夫を抱きしめ、
その胸の鼓動に祈るように耳を当てた。
(わたくしの涙が……
公爵さまを救えるのなら……
わたくしは何度でも泣きます……)
カルロスの胸の鼓動は、
ほんの少しだけ強くなっていた。
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