ドクターダーリン【完結】

桃華れい

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第1部

フェーズ3-7

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 お風呂上がりに私はいつもリビングでボディケアをする。涼とつり合う女性になるために私がしている小さな努力のひとつだ。脚にボディークリームを塗っていると、アイスを食べながら妹の花が声をかけてきた。
「お姉ちゃん、もうすぐ誕生日じゃん。先生から何もらうの?」
 リビングの壁に掛けられたカレンダーに目をやる。あと一カ月ほどで私の十八歳の誕生日だ。
「何も?」
 答えると花は驚いて聞き返した。
「え、なんで!? 医者で金持ちなんだから、何でも買ってもらえるじゃん! ブランド品とか! アクセサリーとか!」
「花、そういう言い方はやめなさい」
 キッチンで食器の片づけをしていた母が注意した。
「本当に何もおねだりしないの?」
「指輪もらったから」
 夏祭りの日に左手の薬指にはめてもらった婚約指輪。一緒に選んだから当然値段も知っている。この上さらに誕生日プレゼントまでもらうつもりはない。
「ああ、給料三日分だっけ?」
じゃなくてよ。あんなすごい指輪が三日分のお給料で買えるわけないでしょ」
 引きつづき聞いていたらしい母が、すげなく指摘した。私は三日分でも十分だったんだけどな。
「えー、先生なら買えそう」
 無理無理。一日にどれだけ稼いでることになるの。アメリカのプロ野球選手じゃないんだから。
「っていうか、その三カ月って大げさなんでしょ? 実際は一カ月か二カ月分くらいなのかな。お姉ちゃん、聞いてないの?」
「うん、聞いてない」
 なんだか聞くのが怖くて。
 「婚約指輪は給料の三カ月分」というのは昔のキャッチフレーズだ。母から聞いた。時代が変われば経済状況や物価も変わるから、今の時代にはそぐわないらしい。一カ月分でも二カ月分でも私にとってはとんでもない金額だし、そんな指輪を贈ってくれた涼には一生感謝だ。
「お給料何カ月分かなんて詮索はしなくていいの。おいくらにしても婚約指輪は一生ものよ。一生どころか、彩の子どもにも引き継いでいけるものなのよ」
 私の子どもにも――。
「ってことはお姉ちゃん、先生から一生プレゼントもらわないつもり?」
「そういうことじゃないわよ。でもいただいたばかりだし、今年の誕生日は遠慮するのもありかもしれないわね」
 やっぱり誕生日プレゼントなんてもらうわけにはいかない。しかし、涼にはまだ伝えていない。何か用意してくれちゃうと困るから、次に会ったときにちゃんと伝えておこう。


 よし、真っ先に伝えよう。訊かれるより先に私から伝えよう。
 ソファにいる涼の隣に座って、口を開きかけた瞬間だった。
「誕生日、何が欲しい?」
 私が「しまった」という顔をしたから、涼が不思議そうにする。
「来月、誕生日だろ?」
 できれば自分から言いたかったけれど、どちらにしても考えは変わらない。
「指輪をもらったから、十年くらいは何もいらない」
 本当は一生でもいいのだけど、好きな人に誕生日を祝ってもらいたい気持ちもある。だからとりあえず十年だ。
 なぜか涼がうれしそうに微笑んだ。
「十年後も一緒にいてくれるのか」
 そこ? そんなの当たり前じゃない。結婚ってそういうものでしょ? 逆に数年しか一緒にいないつもり? 私は胸を張って答えた。
「結婚するんだから、十年後どころか一生一緒のつもりですけど、私は」
 堂々と宣言した。まるで自分からプロポーズしてるような気分だ。勝手に恥ずかしくなっていたら、ぐいっと体を引き寄せられてキスされた。突然されてポーっとしていると、
「指輪と誕生日は別。欲しいもの考えといて」
 すぐにまたキスできそうな距離で涼が言った。
「指輪のお礼もできてないのに」
「それは別にいいって。見返りを求めて贈ったわけじゃないんだから」
 困った。もらうつもりなかったから何も考えてない。欲しいものも今は特にない。涼と付き合えるようになって、特に婚約してからは、毎日が幸せすぎて物欲というものが私の中から消え失せた。一緒にいられるだけで幸せだから。この上何かを望んだらバチが当たりそう。
 誕生日プレゼントとして思いつく定番のものは、アクセサリーとか財布とか香水あたりか。アクセサリーはほとんどつけないし、財布は今使ってるものでいい。香水はつけたことがない。あ、同じ香水をお揃いでつけるのいいかも、とひらめいたものの、医者の涼が香水をつけるわけにはいかないから却下だ。休みの日だけつけようとしても、いつ呼び出されるかわからない。
 このまま誕生日までに何も思いつかなかったら、ショッピングモールにでも連れていってもらい、店を見てまわりながら決めようか。もう指輪があるから堂々とデートできる。プレゼントよりもデートできることのほうが楽しみだ。
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