断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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2章 魔王討伐

2-8 同調圧力、万歳

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 議員たちを見回すと、思いもよらない方向からガタン!と音がした。
 
 私の隣にいるレオナルドが、突然立ち上がったのだ。
 驚く私たちの前で、彼は深々と頭を下げた。

「えっ、何?」

「陛下!?」

 ざわめきの中、レオナルドは声を張り上げる。

「申し訳ない!父が派遣した者の検分に、隙があったのだろう。魔王出現の一因は、父の甘さだ……息子として謝罪する!」

 そう叫ぶレオナルドに、私は心の中で「よく言ってくれた!」と拍手を送った。

 本来なら、ここで私の父が頭を下げ、議員たちを気まずくさせる予定だった。
 その役を国王がやってくれたのだ。
 効果は絶大である。

 私の父もそう思ったのだろう。
 議員たちが冷や汗をたっぷりかくのを待ってから、席を立ち、レオナルド並みに低頭する。

「でしたら、私も謝罪せねばなりません。同胞の罪を見落としたこと、誠に申し訳ありませんでした」

「へ、ヘイルフォード公爵……貴殿がそこまでせずとも……」

 議員たちは、しきりに額の汗を拭いている。
 すると、今度はリリィが立ち上がった。

「私も!」

「リリィも!?」

 うっかり心の声が出てしまった。
 どうにか「ありがとう!」という言葉は飲み込めた。

「そのような行為があったなら、母マチルダは知っていたはずです。そして止められたはず……なのに見て見ぬふりをした。マチルダに代わり、謝罪いたします」

 レオナルド。私の父。リリィ。
 頭を下げる三人を前に、議員たちは視線を彷徨わせる。

 私は「以上です」と呟き、自分もお辞儀をした。
 ヘイルフォード公爵家の娘として、聖女として、謝罪の意を示すために。

 さあ、議員の皆さん。どうします?
 まさか、しらばっくれないよね。

 管理してくれないから悪いことをしちゃったじゃないか!
 ……なんて、子どもみたいなこと言わないよね。

 国のトップ勢に向かって、ねえ?
 
「わ、私が……」

 グレイモア侯爵が、ふらつきながら立ち上がる。

「私が、ファルガランで失言をしたせいで……罪深いのは、私の方です」

 すると、今度は焦ったようにヴァルセリオン公爵が叫ぶ。

「儂も申し訳なかった!」

 クズ石で水増ししたのに、潔く謝るんだな。
 と思いきや。

「鉱夫任せにして、監督を怠った!ヴェリク元王子を追い詰めたのは、儂にも責任がある!」

 思いっきり責任転嫁した。
 このじいさんが不正を指示した証拠はないから、追求できないけど。

 私が半目でヴァルセリオン公爵を見ていると、

「私も、農夫任せにして監督を怠りました!」

 と、ケッティ伯爵も便乗してきた。

「……はあ」

 呆れてそれだけしか言えなかった。

 そこへ、父が「失礼」と手を挙げる。
 いつの間にやら頭を上げていたらしい。

「リリィ様、アナベルの発言が終わりましたな。最後に、私の意見を述べてもよろしいですか?」

「は、はい。ヘイルフォード公爵、どうぞ」
 
 リリィが促すと、父は両手を背中へ回した。
 胸を張り、声を張り上げる。

「魔王出現のきっかけを作ったのは、我々貴族です。その償いとして、ヘイルフォード家は、魔王打倒のかなめを全力で支援します!」

「お父様、魔王打倒の要とは?」

 予定通り、私は父に尋ねた。

「お前だ、アナベル。魔王に対抗できるのは、真の聖女であるお前だけ。我が家の資産の半分を、お前の援助に回そう」

「お父様……ありがとうございます!」

 私は父に駆け寄り、しっかりと握手を交わす。
 申し合わせていた通りに。

「ですが、実は……」

「何だ?」

「魔王打倒のためには、急いで動かねばならないのです。魔王がいつ王都に現れるか、わかりません」

 私の言葉に、議員たちはどよめいた。

 父も「何だと」と目を丸くする。
 演技がうまいな、この人。

 それから、魔王の餌や根について私が話すと、父は渋い顔で「そうだったのか……」と、かぶりを振った。
 やっぱり演技がうまい。

「しかも、あまり長くはかけられんな。各地を浄化して回れば、焦った魔王が捨て身覚悟で襲ってくるかもしれん」

「はい。ですから迅速に移動するため、多くの馬が必要です。それを管理する人手も」

「うむ……我が家の資産だけで全てを賄うのは厳しそうだ」

 それから、父娘二人でチラッとレオナルドを見る。
 私たちの視線に気づいたレオナルドは、すぐに表情を引き締め、議員たちを見回した。

「皆、聞いたか?今こそ償いをする好機だ!アルデリアの総力をもって、魔王を討ち倒そう!」

 よし、伝わった。
 打ち合わせできなかったから不安だったけど、察してくれて何よりだ。
 国王としての意識が高まったんだろうか。

「どうか力を貸してくれ!」

「私も旅支度をします。以前よりも物資を増やして!」

 リリィが小さな拳を握る。

 グレイモア侯爵やヴァルセリオン公爵、ほかの議員もリリィにならう。
 全員から、やけくそ感が放たれている。

「私も馬をお預けしますぞ!」

「儂は……馬具を!」

「わ、私は……私は……食糧をぉ!」

 ケッティ伯爵は白目を剥いている。
 ここで「うちは勘弁」と言ったら、裏切り者呼ばわりされるに違いない。
 同調圧力、万歳。

 父と視線を交わし、ほくそ笑もうとした時。

「失礼いたします!」

 兵士が会議室に飛び込んできた。

「国王陛下にご報告です!」

「な、何だ?」

「北東より魔物の群れが襲来!王都を目指しています!数はおそらく……い、一万を超えるかと!」

 途端に議員たちが狼狽え始める。
 父さえ、ぴたりと硬直した。

 仕方ない。
 最年長じゃないけど私が頑張ろう。

「わかりました。私たちは外に向かいます!ね?リリィ」

「あっ……う、うん!」

 民には、まだリリィも聖女だと思わせておきたい。
 一緒にバルコニーへ出て魔物を倒せば、「二人で聖女だ」とアピールできる。

 私はリリィからペンダントを受け取り、出口へ向かった。
 そこでレオナルドも我に返り、兵士へ指示を出す。

「親衛隊、近衛兵──国王が所有する全戦力を、王都防衛に回せ!総指揮官は国王親衛騎士隊長だ!」

「かしこまりました!」

 それに続いて、議員も次々に「兵力を出す」と名乗りを上げる。

 そんなにいらないよ、すぐ倒せるから。
 そう言いかけて、やっぱりやめた。

 ここで兵士を出させておけば、そのまま準備に入って、すぐ出立できる。
 
 また何やかんやと理由をつけて逃げられたら癪だ。
 そう考えた矢先に、さっそく逃げようとする人物が。

「あ、あの……うちの兵隊長は、先日から休暇中でして」

 ケッティ伯爵が、ニヤニヤしながら両手を揉み合わせる。

「兵士の統率が取れません。足を引っ張りますので、今回は、そのう……」

 そういえば、「大事な臣下をいいように使われては敵わ」ないんだっけ。
 けち臭いことをしてくれる。

「わかった、次があればよろしく頼む!」

 レオナルドは優しいな。
 前王様もこんな感じだったから、貴族が不正し放題だったんだろう。

「はい、陛下!あ、提供する食糧はどんなものでもよろしいですか?」

「ああ、構わない!では、議会は解散。みんな、行こう!」

 レオナルドが拳を挙げると、ケッティ伯爵も嬉しそうに「おおっ!」と続く。

「小ずるい奴め……」

「儂も兵に暇を出しておけば……」

 議員たちはブツブツと言いながら、連れてきた私兵のもとへ向かった。

 一人ずつ飛び蹴りを食らわせてやりたい。
 でも、そんなことをしている場合じゃない。
 代わりに、私は廊下で叫んだ。

「魔物、ぶっっっ飛ばす!!」
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