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山河 枝

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2章 魔王討伐

2-7 同調圧力って最低

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  ◇

「では、処刑人に責任を取らせればよいではないか!」

 グレイモア侯爵が、ドン!と円卓に拳を叩きつけた。

「処刑人は剣の腕に長けている。アナベル殿がアルデリアを浄化して回る間、あやつが捨て身で護衛すればいい!」

 拳を震わせる侯爵に、リリィが慌てて声をかける。

「あ、ありがとうございました、グレイモア侯爵。次はヴァルセリオン公──」

「その通りじゃ!すべて処刑人の兄のせいであったとは……儂の鉱山は、坑夫ごと魔物に潰されたのじゃぞ!」

 ヴァルセリオン公爵は、こめかみに青筋を立てている。

「……お気の毒です」
 
 私は頭を下げて、しおらしく相槌を打つ。
 心の中で「利益優先で坑夫を避難させなかったんでしょ、父に聞いたよ」と突っ込みながら。

「私も被害をこうむりました!先日の魔王討伐でも、どれだけ援助したことか!」

 ケッティ伯爵は、唾を飛ばして怒鳴っている。

「……返す言葉もございません」

 私は俯き、暗い声で答える。
 そのあと小声で「傷んだ野菜を押し付けたくせに」と付け加えた。
 みんなで協力して、食べられる部分は使ったけど。

「けしからん!」

「ふざけるな!」

 議会の冒頭で、レオナルドがヴェリクの日記の一部を読み──以降、ずっとこの調子だ。
 不平不満の矢が、イザークと私に放たれる。

 罵りたくなる気持ちはわかる。
 魔王討伐のためでも、物資を出し渋っていたのだから。

 だけど、ヴェリクの恨みつらみを読んだあとでは議員たちに同情しづらい。
 それを父にも見せたので、彼も私と同じく戦略的沈黙を保っている。

 もうスキップ機能で話をカットしたいな。
 うんざりしてきた頃、リリィが心配そうに口を開いた。

「あの、次は……アナベル・ヘイルフォード。発言をどうぞ」

「はい……」

 私は俯き、静かに立ち上がった。
 レオナルドが「無理するなよ」と声をかけてくれる。
 
 話すタイミングがなかったので、レオナルドとリリィには私の作戦を伝えられなかった。
 ハラハラさせて申し訳ない。

 思わずため息をつくと、ケッティ伯爵もため息をついた。

「はあ~ぁ……兵隊長に休暇を与えて正解だった。これ以上、大事な臣下をいいように使われては敵わん」

 ほかの議員たちも、またブツブツと文句を言い始める。

「大体、我々はファルガランに援助してやっていたのだぞ。何百年もの間!」

「十年前の件も、誠に許しがたい!前王様が保護してくださったというのに、そのご厚意を裏切りおって……陛下もそう思いませんか!?」

「あ、ああ……」

 憤る議員たちを前に、気の弱いレオナルドは頷くしかない。
 同調圧力って最低。

 国王の同意を得て勢いづいたのか、議員たちはさらに大声でまくし立てる。
 
「アナベル殿、早く終わらせていただきたい!」

「我々も暇ではないのでな!」

「わかりました……」

 私は落ち込んだふりしたまま、ヴェリクの日記を開いた。

「意見を申し上げる前に、聞いていただきたいことがあります」

「それは、あの罪人の日記か?」

「さらに内容を聞けと?それこそ時間の無駄では?」

「……読み上げます。十一年前の日付です。『ファルガランはもう駄目だ。長年、アルデリアを守ってきたというのに。彼の国は我々を切り捨てた』」

「……は?」

 議員たちが一斉に口をつぐんだ。
 私は内心で鼻を鳴らした。

 それから暗い声で、しかしお腹に力を入れて、日記を読み上げていく。

「『先日、父が話していた。グレイモア侯爵が、会合で吐き捨てるように言ったそうだ。これ以上の物資供給は難しいかもしれない、と』」

 グレイモア侯爵に怪訝な視線が集まる。
 彼は青ざめて議員たちを見回した。

「わ、私は何も……!ファルガランの要求が増えていくので、調子に乗っているのかと……交渉術の一環です!」

 喚く侯爵に、私は微笑んでみせた。

「落ち着いてください、まだ続きがありますよ。『その言葉が真実になるとは思わなかった。アルデリアから送られた食糧に、明らかな粗悪品が混ざっている。こんなものを兵士に支給できない』」

 私が一呼吸置くと、父がボソッと呟いた。

「ファルガランへの食糧支給は、ケッティ伯爵の担当でしたな?」

「ち、違っ……私は知りません!私は規則に則って──」

「『鉱石も同じだ』」

 オロオロするケッティ伯爵を遮り、私は続きを読んだ。

「『箱の底に詰まっているのは、使い物にならないクズばかり。これでは武器も防具も作れない。命懸けで他国と戦っているのに。アルデリアの奴らは、俺たちに死ねと言うのか』」

「クズ石だと!儂を疑うのか!」

 ヴァルセリオン公爵が、真っ青な顔で立ち上がる。
 父がその顔をジロリと睨む。

「そのようなことは、誰も言っていませんが。それとも心当たりが?」

「うっ……」

 ヴァルセリオン公爵は苦しげにうめくと、ふらふらと腰を下ろした。
 その隙にまた、私は口を開く。

「ところで……歴史の授業で一度だけ聞いたのですが。ファルガランの王は、元々アルデリアの貴族だったそうですね?アルデリアは自国を守ってもらう代わりに、ファルガランへ物資を提供する約束をしていた──違いますか?」

「えっ……」

 レオナルドとリリィが絶句する。
 無理もない。
 レオナルドは王太子教育をほぼ受けていないし、リリィはマチルダの奴隷状態だった。

 だけど、ほかの議員は下を向いている。
 やっぱり知っていたんだ。


 ──数百年前。
 アルデリア国王は、ある臣下に広大な土地を与えた。

 喜んだ臣下は、アルデリアの盾となることを誓った。
 その忠誠に感謝したアルデリア国王は、物資の支援で応えてきた。

 その関係は、長い年月を経て変わった。

 いつしかファルガランは“国”になり、「守ってやっている」「支援してやっている」と、恩の着せ合いになってしまった── 

「……話を戻します。あと少し、日記の続きをお聞きください」

 私は静かに呟いた。
 押し黙る議員たちが、ゴクリと唾を飲む。

「『こうなれば、俺が国を守るしかない。はるか昔、精霊が人に手を貸す以前、怪物が魔物どもを従えていたという。人と魂を分かち、知恵を得た怪物。そいつを復活させてやる』」

 アルデリアも他国も、ファルガランのもとにひれ伏すがいい──
 そう締めくくり、私はヴェリクの日記を閉じた。

 絶句するレオナルドとリリィ、そしてすっかり大人しくなった議員たちを見回す。

「結局、ヴェリクは魔王を御せず、今の状況を生み出しました。彼の行いは、許されることではありません。ですが……魔王出現の責任をファルガランだけに求めるのは、正当ではないと思いませんか?」
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