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2章 魔王討伐
2-8 同調圧力、万歳
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議員たちを見回すと、思いもよらない方向からガタン!と音がした。
私の隣にいるレオナルドが、突然立ち上がったのだ。
驚く私たちの前で、彼は深々と頭を下げた。
「えっ、何?」
「陛下!?」
ざわめきの中、レオナルドは声を張り上げる。
「申し訳ない!父が派遣した者の検分に、隙があったのだろう。魔王出現の一因は、父の甘さだ……息子として謝罪する!」
そう叫ぶレオナルドに、私は心の中で「よく言ってくれた!」と拍手を送った。
本来なら、ここで私の父が頭を下げ、議員たちを気まずくさせる予定だった。
その役を国王がやってくれたのだ。
効果は絶大である。
私の父もそう思ったのだろう。
議員たちが冷や汗をたっぷりかくのを待ってから、席を立ち、レオナルド並みに低頭する。
「でしたら、私も謝罪せねばなりません。同胞の罪を見落としたこと、誠に申し訳ありませんでした」
「へ、ヘイルフォード公爵……貴殿がそこまでせずとも……」
議員たちは、しきりに額の汗を拭いている。
すると、今度はリリィが立ち上がった。
「私も!」
「リリィも!?」
うっかり心の声が出てしまった。
どうにか「ありがとう!」という言葉は飲み込めた。
「そのような行為があったなら、母マチルダは知っていたはずです。そして止められたはず……なのに見て見ぬふりをした。マチルダに代わり、謝罪いたします」
レオナルド。私の父。リリィ。
頭を下げる三人を前に、議員たちは視線を彷徨わせる。
私は「以上です」と呟き、自分もお辞儀をした。
ヘイルフォード公爵家の娘として、聖女として、謝罪の意を示すために。
さあ、議員の皆さん。どうします?
まさか、しらばっくれないよね。
管理してくれないから悪いことをしちゃったじゃないか!
……なんて、子どもみたいなこと言わないよね。
国のトップ勢に向かって、ねえ?
「わ、私が……」
グレイモア侯爵が、ふらつきながら立ち上がる。
「私が、ファルガランで失言をしたせいで……罪深いのは、私の方です」
すると、今度は焦ったようにヴァルセリオン公爵が叫ぶ。
「儂も申し訳なかった!」
クズ石で水増ししたのに、潔く謝るんだな。
と思いきや。
「鉱夫任せにして、監督を怠った!ヴェリク元王子を追い詰めたのは、儂にも責任がある!」
思いっきり責任転嫁した。
このじいさんが不正を指示した証拠はないから、追求できないけど。
私が半目でヴァルセリオン公爵を見ていると、
「私も、農夫任せにして監督を怠りました!」
と、ケッティ伯爵も便乗してきた。
「……はあ」
呆れてそれだけしか言えなかった。
そこへ、父が「失礼」と手を挙げる。
いつの間にやら頭を上げていたらしい。
「リリィ様、アナベルの発言が終わりましたな。最後に、私の意見を述べてもよろしいですか?」
「は、はい。ヘイルフォード公爵、どうぞ」
リリィが促すと、父は両手を背中へ回した。
胸を張り、声を張り上げる。
「魔王出現のきっかけを作ったのは、我々貴族です。その償いとして、ヘイルフォード家は、魔王打倒の要を全力で支援します!」
「お父様、魔王打倒の要とは?」
予定通り、私は父に尋ねた。
「お前だ、アナベル。魔王に対抗できるのは、真の聖女であるお前だけ。我が家の資産の半分を、お前の援助に回そう」
「お父様……ありがとうございます!」
私は父に駆け寄り、しっかりと握手を交わす。
申し合わせていた通りに。
「ですが、実は……」
「何だ?」
「魔王打倒のためには、急いで動かねばならないのです。魔王がいつ王都に現れるか、わかりません」
私の言葉に、議員たちはどよめいた。
父も「何だと」と目を丸くする。
演技がうまいな、この人。
それから、魔王の餌や根について私が話すと、父は渋い顔で「そうだったのか……」と、かぶりを振った。
やっぱり演技がうまい。
「しかも、あまり長くはかけられんな。各地を浄化して回れば、焦った魔王が捨て身覚悟で襲ってくるかもしれん」
「はい。ですから迅速に移動するため、多くの馬が必要です。それを管理する人手も」
「うむ……我が家の資産だけで全てを賄うのは厳しそうだ」
それから、父娘二人でチラッとレオナルドを見る。
私たちの視線に気づいたレオナルドは、すぐに表情を引き締め、議員たちを見回した。
「皆、聞いたか?今こそ償いをする好機だ!アルデリアの総力をもって、魔王を討ち倒そう!」
よし、伝わった。
打ち合わせできなかったから不安だったけど、察してくれて何よりだ。
国王としての意識が高まったんだろうか。
「どうか力を貸してくれ!」
「私も旅支度をします。以前よりも物資を増やして!」
リリィが小さな拳を握る。
グレイモア侯爵やヴァルセリオン公爵、ほかの議員もリリィに倣う。
全員から、やけくそ感が放たれている。
「私も馬をお預けしますぞ!」
「儂は……馬具を!」
「わ、私は……私は……食糧をぉ!」
ケッティ伯爵は白目を剥いている。
ここで「うちは勘弁」と言ったら、裏切り者呼ばわりされるに違いない。
同調圧力、万歳。
父と視線を交わし、ほくそ笑もうとした時。
「失礼いたします!」
兵士が会議室に飛び込んできた。
「国王陛下にご報告です!」
「な、何だ?」
「北東より魔物の群れが襲来!王都を目指しています!数はおそらく……い、一万を超えるかと!」
途端に議員たちが狼狽え始める。
父さえ、ぴたりと硬直した。
仕方ない。
最年長じゃないけど私が頑張ろう。
「わかりました。私たちは外に向かいます!ね?リリィ」
「あっ……う、うん!」
民には、まだリリィも聖女だと思わせておきたい。
一緒にバルコニーへ出て魔物を倒せば、「二人で聖女だ」とアピールできる。
私はリリィからペンダントを受け取り、出口へ向かった。
そこでレオナルドも我に返り、兵士へ指示を出す。
「親衛隊、近衛兵──国王が所有する全戦力を、王都防衛に回せ!総指揮官は国王親衛騎士隊長だ!」
「かしこまりました!」
それに続いて、議員も次々に「兵力を出す」と名乗りを上げる。
そんなにいらないよ、すぐ倒せるから。
そう言いかけて、やっぱりやめた。
ここで兵士を出させておけば、そのまま準備に入って、すぐ出立できる。
また何やかんやと理由をつけて逃げられたら癪だ。
そう考えた矢先に、さっそく逃げようとする人物が。
「あ、あの……うちの兵隊長は、先日から休暇中でして」
ケッティ伯爵が、ニヤニヤしながら両手を揉み合わせる。
「兵士の統率が取れません。足を引っ張りますので、今回は、そのう……」
そういえば、「大事な臣下をいいように使われては敵わ」ないんだっけ。
けち臭いことをしてくれる。
「わかった、次があればよろしく頼む!」
レオナルドは優しいな。
前王様もこんな感じだったから、貴族が不正し放題だったんだろう。
「はい、陛下!あ、提供する食糧はどんなものでもよろしいですか?」
「ああ、構わない!では、議会は解散。みんな、行こう!」
レオナルドが拳を挙げると、ケッティ伯爵も嬉しそうに「おおっ!」と続く。
「小ずるい奴め……」
「儂も兵に暇を出しておけば……」
議員たちはブツブツと言いながら、連れてきた私兵のもとへ向かった。
一人ずつ飛び蹴りを食らわせてやりたい。
でも、そんなことをしている場合じゃない。
代わりに、私は廊下で叫んだ。
「魔物、ぶっっっ飛ばす!!」
私の隣にいるレオナルドが、突然立ち上がったのだ。
驚く私たちの前で、彼は深々と頭を下げた。
「えっ、何?」
「陛下!?」
ざわめきの中、レオナルドは声を張り上げる。
「申し訳ない!父が派遣した者の検分に、隙があったのだろう。魔王出現の一因は、父の甘さだ……息子として謝罪する!」
そう叫ぶレオナルドに、私は心の中で「よく言ってくれた!」と拍手を送った。
本来なら、ここで私の父が頭を下げ、議員たちを気まずくさせる予定だった。
その役を国王がやってくれたのだ。
効果は絶大である。
私の父もそう思ったのだろう。
議員たちが冷や汗をたっぷりかくのを待ってから、席を立ち、レオナルド並みに低頭する。
「でしたら、私も謝罪せねばなりません。同胞の罪を見落としたこと、誠に申し訳ありませんでした」
「へ、ヘイルフォード公爵……貴殿がそこまでせずとも……」
議員たちは、しきりに額の汗を拭いている。
すると、今度はリリィが立ち上がった。
「私も!」
「リリィも!?」
うっかり心の声が出てしまった。
どうにか「ありがとう!」という言葉は飲み込めた。
「そのような行為があったなら、母マチルダは知っていたはずです。そして止められたはず……なのに見て見ぬふりをした。マチルダに代わり、謝罪いたします」
レオナルド。私の父。リリィ。
頭を下げる三人を前に、議員たちは視線を彷徨わせる。
私は「以上です」と呟き、自分もお辞儀をした。
ヘイルフォード公爵家の娘として、聖女として、謝罪の意を示すために。
さあ、議員の皆さん。どうします?
まさか、しらばっくれないよね。
管理してくれないから悪いことをしちゃったじゃないか!
……なんて、子どもみたいなこと言わないよね。
国のトップ勢に向かって、ねえ?
「わ、私が……」
グレイモア侯爵が、ふらつきながら立ち上がる。
「私が、ファルガランで失言をしたせいで……罪深いのは、私の方です」
すると、今度は焦ったようにヴァルセリオン公爵が叫ぶ。
「儂も申し訳なかった!」
クズ石で水増ししたのに、潔く謝るんだな。
と思いきや。
「鉱夫任せにして、監督を怠った!ヴェリク元王子を追い詰めたのは、儂にも責任がある!」
思いっきり責任転嫁した。
このじいさんが不正を指示した証拠はないから、追求できないけど。
私が半目でヴァルセリオン公爵を見ていると、
「私も、農夫任せにして監督を怠りました!」
と、ケッティ伯爵も便乗してきた。
「……はあ」
呆れてそれだけしか言えなかった。
そこへ、父が「失礼」と手を挙げる。
いつの間にやら頭を上げていたらしい。
「リリィ様、アナベルの発言が終わりましたな。最後に、私の意見を述べてもよろしいですか?」
「は、はい。ヘイルフォード公爵、どうぞ」
リリィが促すと、父は両手を背中へ回した。
胸を張り、声を張り上げる。
「魔王出現のきっかけを作ったのは、我々貴族です。その償いとして、ヘイルフォード家は、魔王打倒の要を全力で支援します!」
「お父様、魔王打倒の要とは?」
予定通り、私は父に尋ねた。
「お前だ、アナベル。魔王に対抗できるのは、真の聖女であるお前だけ。我が家の資産の半分を、お前の援助に回そう」
「お父様……ありがとうございます!」
私は父に駆け寄り、しっかりと握手を交わす。
申し合わせていた通りに。
「ですが、実は……」
「何だ?」
「魔王打倒のためには、急いで動かねばならないのです。魔王がいつ王都に現れるか、わかりません」
私の言葉に、議員たちはどよめいた。
父も「何だと」と目を丸くする。
演技がうまいな、この人。
それから、魔王の餌や根について私が話すと、父は渋い顔で「そうだったのか……」と、かぶりを振った。
やっぱり演技がうまい。
「しかも、あまり長くはかけられんな。各地を浄化して回れば、焦った魔王が捨て身覚悟で襲ってくるかもしれん」
「はい。ですから迅速に移動するため、多くの馬が必要です。それを管理する人手も」
「うむ……我が家の資産だけで全てを賄うのは厳しそうだ」
それから、父娘二人でチラッとレオナルドを見る。
私たちの視線に気づいたレオナルドは、すぐに表情を引き締め、議員たちを見回した。
「皆、聞いたか?今こそ償いをする好機だ!アルデリアの総力をもって、魔王を討ち倒そう!」
よし、伝わった。
打ち合わせできなかったから不安だったけど、察してくれて何よりだ。
国王としての意識が高まったんだろうか。
「どうか力を貸してくれ!」
「私も旅支度をします。以前よりも物資を増やして!」
リリィが小さな拳を握る。
グレイモア侯爵やヴァルセリオン公爵、ほかの議員もリリィに倣う。
全員から、やけくそ感が放たれている。
「私も馬をお預けしますぞ!」
「儂は……馬具を!」
「わ、私は……私は……食糧をぉ!」
ケッティ伯爵は白目を剥いている。
ここで「うちは勘弁」と言ったら、裏切り者呼ばわりされるに違いない。
同調圧力、万歳。
父と視線を交わし、ほくそ笑もうとした時。
「失礼いたします!」
兵士が会議室に飛び込んできた。
「国王陛下にご報告です!」
「な、何だ?」
「北東より魔物の群れが襲来!王都を目指しています!数はおそらく……い、一万を超えるかと!」
途端に議員たちが狼狽え始める。
父さえ、ぴたりと硬直した。
仕方ない。
最年長じゃないけど私が頑張ろう。
「わかりました。私たちは外に向かいます!ね?リリィ」
「あっ……う、うん!」
民には、まだリリィも聖女だと思わせておきたい。
一緒にバルコニーへ出て魔物を倒せば、「二人で聖女だ」とアピールできる。
私はリリィからペンダントを受け取り、出口へ向かった。
そこでレオナルドも我に返り、兵士へ指示を出す。
「親衛隊、近衛兵──国王が所有する全戦力を、王都防衛に回せ!総指揮官は国王親衛騎士隊長だ!」
「かしこまりました!」
それに続いて、議員も次々に「兵力を出す」と名乗りを上げる。
そんなにいらないよ、すぐ倒せるから。
そう言いかけて、やっぱりやめた。
ここで兵士を出させておけば、そのまま準備に入って、すぐ出立できる。
また何やかんやと理由をつけて逃げられたら癪だ。
そう考えた矢先に、さっそく逃げようとする人物が。
「あ、あの……うちの兵隊長は、先日から休暇中でして」
ケッティ伯爵が、ニヤニヤしながら両手を揉み合わせる。
「兵士の統率が取れません。足を引っ張りますので、今回は、そのう……」
そういえば、「大事な臣下をいいように使われては敵わ」ないんだっけ。
けち臭いことをしてくれる。
「わかった、次があればよろしく頼む!」
レオナルドは優しいな。
前王様もこんな感じだったから、貴族が不正し放題だったんだろう。
「はい、陛下!あ、提供する食糧はどんなものでもよろしいですか?」
「ああ、構わない!では、議会は解散。みんな、行こう!」
レオナルドが拳を挙げると、ケッティ伯爵も嬉しそうに「おおっ!」と続く。
「小ずるい奴め……」
「儂も兵に暇を出しておけば……」
議員たちはブツブツと言いながら、連れてきた私兵のもとへ向かった。
一人ずつ飛び蹴りを食らわせてやりたい。
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