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2章 魔王討伐
2-9 ストレス発散、そして出立
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廊下を大股で歩いていると、リリィが小走りに追ってくる。
「あの……アナベル」
「ん?」
「建物は壊さないでね?精霊様は人間の味方だけど、柱とか木は時々折っちゃうから……」
「任せて!一瞬で粉砕するよ!」
「建物はやめてね!?」
リリィが悲鳴を上げると同時に、廊下の突き当りに着いた。
両開きの戸を力いっぱい押し開け、バルコニーに出る。
ここは三階だ。
そこそこ遠くまで見渡せる。
ペンダントを首にかけ、リリィの手を掴む。
目を凝らすと、空と地平線の間から、黒い波が押し寄せて来るのが見えた。
魔物の群れだ。
兵士は一万以上と言っていたけど、たぶんその三倍はある。
「あ、あんなに!?どうしよう、アナベル……!」
「大丈夫。一瞬、一瞬!」
私が答える間に、精霊たちがペンダントからポワンポワンと飛び出してくる。
「みんな、全力でよろしく!」
「かしこまりました」
ナギが長い体を曲げて、ぺこりとお辞儀をする。
四匹の体が光り出す。
魔力の込め方にはだいぶ慣れてきた。
精霊たちの光が、太陽のように強くなる。
「眩しい……!」
リリィが自分の顔を手で覆う。
私も目が痛いけど、攻撃範囲を正確に把握したい。
一匹でも取りこぼしてたまるか。
私は、すっきりしたいんだ!
「行け!」
私の合図で精霊たちが宙を駆ける。
四匹の姿が見えなくなった──と思った瞬間。
滝の音のような轟音と、空が真っ白になるほどの光が、地平線から放たれた。
一拍遅れて、ふわりと風が吹いてくる。
光がゆっくり消えていく。
私は、王都を囲う壁の向こうを眺めた。
晴れ渡る空の下、ただ緑の草原が広がっている。
「いやあ、すっきりしたー!」
リリィから手を離し、軽く伸びをする。
「ほ、本当に一瞬だった……」
リリィが呆然と呟く。
少し髪が乱れているので、直してあげようとリリィの方を向いた。
その拍子に軽くめまいがして、足元がふらついた。
魔力を一気に使いすぎたらしい。
怒りに任せて攻撃するものじゃないな。
おかげで自分の限界がわかってきたけど。
「アナベル、どうかした?ちょっと顔色が悪いような……」
「そう?」
心配をかけないように口角を上げてみせる。
「それより建物は無事かな?」
「ええ、城の周りは大丈夫みたい。アナベルは力の使い方がうまいのね」
二人で見下ろすと、王都の住人が「ありがとうございます!」と笑顔で手を振っている。
私は手を振り返して、リリィを見た。
「じゃ、行くよ!しばらく魔物は来ないだろうから、今のうちに済ませないと!」
「済ませるって?」
「魔王退治!兵士が外に出てるし、ちょうどいいでしょ?」
私の言葉で、リリィの口がぽかんと開く。
私はまた彼女の手を引いた。
そして、「このまま出発しよう」と提案して議員たちを仰天させるため、廊下を戻るのだった。
◇
翌日、まだ太陽が昇る前。
私はリリィやレオナルドたちと草原へ向かった。
王都の門を出る前から熱気が伝わってくる。
村や畑が点在する平原に、数千もの兵士が整列している。
「聖女様、お気をつけて!」
私たちの後ろから、ケッティ伯爵が見送りに来た。
護衛を引き連れた伯爵は、やけにご機嫌だ。
理由はわかるけど。
「いやはや、私の兵がおらずとも何とかなりそうですな。ハッハッハッ!」
「……そうですね。」
伯爵なら、兵隊長を呼び戻すこともできただろうが、
『五年ぶりの休暇ですから働かせるのは気が引けて』
と、聞いてもいないのに言い回っていた。
休暇継続は別にいい。
むしろ休んでほしい。
私が魔王討伐を言い出さなければ、兵隊長は死ぬまで休めなかったんじゃないか。
心の中で、「兵隊長の代わりにあんたが五年間働け」とケッティ伯爵に毒づいた。
すると、横からおずおずと兵士が話しかけてきた。
「あの……アナベル様。お具合がお悪いのですか?」
「ううん、大丈夫だよ。どうかした?」
怖い顔になっていたのだろう。
少しでも吊り目を下げようと、私は目尻を揉んだ。
「馬の用意が整いました。いつでも乗馬できる、とのことです」
「えっ、乗馬?」
私は手を止めた。というか全身が固まってしまった。
背中から冷や汗がにじみ出てくる。
「馬車じゃないんだ……?」
「はい。少しでも早く進みたいとの仰せでしたので……あの、何か?」
「い、いや、大丈夫。馬車じゃ間に合わないよね、馬の方がいいよね。うん、大丈夫」
「アナベル、どうしたんだ?」
前にいたレオナルドが、こっちを振り返った。
リリィは心配そうに私を見つめている。
「アナベルのお母様は、乗馬がお上手だって聞いたけど……アナベルは違うの?」
「ああ、うん。いや、その……ごめん!」
わたしは頭を下げながら、バチンと手を合わせた。
「乗ったこと、ない!」
「えっ!」
レオナルドの叫びのあと、しーん、とその場が静まり返る。
周囲の兵士は微動だにしないが、視線は私に向いている。
しょうがないじゃないか。
父が乗馬に猛反対したんだから。
気持ちはわかるけど。
妻が落馬事故で亡くなったのだ。
娘を馬に乗せたくないと思って当然である。
「えっと……それじゃ、僕と一緒に乗る?」
レオナルドが恥ずかしそうに頬をかく。
それは助かる。
私は万歳しようとして──やめた。
一瞬、リリィが寂しそうな顔をしたのだ。
そういえばゲームのオープニングで、リリィはレオナルドの前で頬を染めていた。
この世界でも、気持ちは同じなのだろう。
「あー……ありがとう、レオナルド。でも、やめとく」
「な、なんで?」
「私、まだ死刑囚だから。相乗りなんかしたら、レオナルドの心象を悪くしちゃう」
レオナルドが目を見開き、リリィは「そんな」と呟く。
「アナベル、気にしすぎよ。みんな、あなたを慕ってるのに」
「いやいや、一回は処刑場に立ったわけだし──」
「アナベル様」
「あっ、ごめん!馬の用意ができたんだよね」
再び呼ばれて、私はまた兵士の方を見た。
だけど、そこにいたのは兵士じゃなかった。
「え……なんで?」
「志願兵として参加しました」
「いや、そうじゃなくて。なんでいるの?呼んでないのに」
「呼ばれずとも、参戦するのは当然です。魔王を作り出したのは……私の兄なのですから」
周りの目を気にしたのだろう。
その人物──イザークは、最後の一言を小声で呟いた。
「あの……アナベル」
「ん?」
「建物は壊さないでね?精霊様は人間の味方だけど、柱とか木は時々折っちゃうから……」
「任せて!一瞬で粉砕するよ!」
「建物はやめてね!?」
リリィが悲鳴を上げると同時に、廊下の突き当りに着いた。
両開きの戸を力いっぱい押し開け、バルコニーに出る。
ここは三階だ。
そこそこ遠くまで見渡せる。
ペンダントを首にかけ、リリィの手を掴む。
目を凝らすと、空と地平線の間から、黒い波が押し寄せて来るのが見えた。
魔物の群れだ。
兵士は一万以上と言っていたけど、たぶんその三倍はある。
「あ、あんなに!?どうしよう、アナベル……!」
「大丈夫。一瞬、一瞬!」
私が答える間に、精霊たちがペンダントからポワンポワンと飛び出してくる。
「みんな、全力でよろしく!」
「かしこまりました」
ナギが長い体を曲げて、ぺこりとお辞儀をする。
四匹の体が光り出す。
魔力の込め方にはだいぶ慣れてきた。
精霊たちの光が、太陽のように強くなる。
「眩しい……!」
リリィが自分の顔を手で覆う。
私も目が痛いけど、攻撃範囲を正確に把握したい。
一匹でも取りこぼしてたまるか。
私は、すっきりしたいんだ!
「行け!」
私の合図で精霊たちが宙を駆ける。
四匹の姿が見えなくなった──と思った瞬間。
滝の音のような轟音と、空が真っ白になるほどの光が、地平線から放たれた。
一拍遅れて、ふわりと風が吹いてくる。
光がゆっくり消えていく。
私は、王都を囲う壁の向こうを眺めた。
晴れ渡る空の下、ただ緑の草原が広がっている。
「いやあ、すっきりしたー!」
リリィから手を離し、軽く伸びをする。
「ほ、本当に一瞬だった……」
リリィが呆然と呟く。
少し髪が乱れているので、直してあげようとリリィの方を向いた。
その拍子に軽くめまいがして、足元がふらついた。
魔力を一気に使いすぎたらしい。
怒りに任せて攻撃するものじゃないな。
おかげで自分の限界がわかってきたけど。
「アナベル、どうかした?ちょっと顔色が悪いような……」
「そう?」
心配をかけないように口角を上げてみせる。
「それより建物は無事かな?」
「ええ、城の周りは大丈夫みたい。アナベルは力の使い方がうまいのね」
二人で見下ろすと、王都の住人が「ありがとうございます!」と笑顔で手を振っている。
私は手を振り返して、リリィを見た。
「じゃ、行くよ!しばらく魔物は来ないだろうから、今のうちに済ませないと!」
「済ませるって?」
「魔王退治!兵士が外に出てるし、ちょうどいいでしょ?」
私の言葉で、リリィの口がぽかんと開く。
私はまた彼女の手を引いた。
そして、「このまま出発しよう」と提案して議員たちを仰天させるため、廊下を戻るのだった。
◇
翌日、まだ太陽が昇る前。
私はリリィやレオナルドたちと草原へ向かった。
王都の門を出る前から熱気が伝わってくる。
村や畑が点在する平原に、数千もの兵士が整列している。
「聖女様、お気をつけて!」
私たちの後ろから、ケッティ伯爵が見送りに来た。
護衛を引き連れた伯爵は、やけにご機嫌だ。
理由はわかるけど。
「いやはや、私の兵がおらずとも何とかなりそうですな。ハッハッハッ!」
「……そうですね。」
伯爵なら、兵隊長を呼び戻すこともできただろうが、
『五年ぶりの休暇ですから働かせるのは気が引けて』
と、聞いてもいないのに言い回っていた。
休暇継続は別にいい。
むしろ休んでほしい。
私が魔王討伐を言い出さなければ、兵隊長は死ぬまで休めなかったんじゃないか。
心の中で、「兵隊長の代わりにあんたが五年間働け」とケッティ伯爵に毒づいた。
すると、横からおずおずと兵士が話しかけてきた。
「あの……アナベル様。お具合がお悪いのですか?」
「ううん、大丈夫だよ。どうかした?」
怖い顔になっていたのだろう。
少しでも吊り目を下げようと、私は目尻を揉んだ。
「馬の用意が整いました。いつでも乗馬できる、とのことです」
「えっ、乗馬?」
私は手を止めた。というか全身が固まってしまった。
背中から冷や汗がにじみ出てくる。
「馬車じゃないんだ……?」
「はい。少しでも早く進みたいとの仰せでしたので……あの、何か?」
「い、いや、大丈夫。馬車じゃ間に合わないよね、馬の方がいいよね。うん、大丈夫」
「アナベル、どうしたんだ?」
前にいたレオナルドが、こっちを振り返った。
リリィは心配そうに私を見つめている。
「アナベルのお母様は、乗馬がお上手だって聞いたけど……アナベルは違うの?」
「ああ、うん。いや、その……ごめん!」
わたしは頭を下げながら、バチンと手を合わせた。
「乗ったこと、ない!」
「えっ!」
レオナルドの叫びのあと、しーん、とその場が静まり返る。
周囲の兵士は微動だにしないが、視線は私に向いている。
しょうがないじゃないか。
父が乗馬に猛反対したんだから。
気持ちはわかるけど。
妻が落馬事故で亡くなったのだ。
娘を馬に乗せたくないと思って当然である。
「えっと……それじゃ、僕と一緒に乗る?」
レオナルドが恥ずかしそうに頬をかく。
それは助かる。
私は万歳しようとして──やめた。
一瞬、リリィが寂しそうな顔をしたのだ。
そういえばゲームのオープニングで、リリィはレオナルドの前で頬を染めていた。
この世界でも、気持ちは同じなのだろう。
「あー……ありがとう、レオナルド。でも、やめとく」
「な、なんで?」
「私、まだ死刑囚だから。相乗りなんかしたら、レオナルドの心象を悪くしちゃう」
レオナルドが目を見開き、リリィは「そんな」と呟く。
「アナベル、気にしすぎよ。みんな、あなたを慕ってるのに」
「いやいや、一回は処刑場に立ったわけだし──」
「アナベル様」
「あっ、ごめん!馬の用意ができたんだよね」
再び呼ばれて、私はまた兵士の方を見た。
だけど、そこにいたのは兵士じゃなかった。
「え……なんで?」
「志願兵として参加しました」
「いや、そうじゃなくて。なんでいるの?呼んでないのに」
「呼ばれずとも、参戦するのは当然です。魔王を作り出したのは……私の兄なのですから」
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