断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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2章 魔王討伐

2-19 目覚めたあと

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  ◇

 私は、ぼんやりと目を開けた。
 
 白い天井が見える。
 中央にはきらめくシャンデリア。

 ここは……王宮内の、自分の部屋だ。
 もう朝が来たのか。


 ……あれ?
 いつ、部屋で寝たんだっけ。
 
 首を傾げた時、キイ、とドアの開く音がした。

「ん?」
 
 音の方へ顔を向けると、リリィが部屋に入ってくるのが見えた。

 ふと、リリィと目が合う。
 彼女はハッと息をのみ、次の瞬間、輝くような笑顔を咲かせた。

「アナベル!」

 リリィがパタパタと駆け寄ってきて、私の顔を覗き込む。

「よかった、目が覚めたのね!具合はどう?」

「まだちょっと、だるい……」

「そう……そうよね。魔力がなくなるまで攻撃を繰り返したんだもの」

「え?」

 魔力が尽きる……
 攻撃……

「あっ!」

 一気に記憶がよみがえった。

「そうだった……リリィ、魔王って消えたの?」

「ええ。倒してからまだ二日だから、少し不安はあるけど。穢れはアナベルが浄化してくれたんだもの。大丈夫だと思うわ」 

「そっか……」

 私、二日も寝ていたのか。
 二徹して新作ゲームをクリアした時ですら、半日の爆睡で済んだのに。
 よほど疲れていたらしい。
  
 ふう、と息をつくと、リリィは心配そうに眉を下げた。

「もう少し、眠る?飲み物と軽食を頼んでおこうか?」

「うん……お城のふわふわパン、洗濯籠いっぱい食べたいな」

 欲望を正直に口にすると、可愛らしい困り笑顔が返ってきた。

「それは明日にして、今はリゾットを頼んでくるわね」 
 
 リリィはそう言うと、部屋を出て行った。
 静かになると、漠然と気になっていたことが頭の中を占めていく。

 イザークはどうしているだろう。
 魔王に最後の一撃を食らわせていたけど。
 二回もお兄さんを手にかけたようなものだ。
 大丈夫かな。

 気になる。
 気には、なる。

 だけどハラハラはしない。
 もっと気になることがあるからだ。
 イザークは魔王にとどめを刺す時、こう言った。

『私には、あなたよりも大切な人がいる』

 あれは誰のことだろう。


 ……なんて、考えられるほど鈍感ならよかったのに。
 というか、私以外に大切な人ができたとしたら、むしろ祝杯をあげたい。
 ぼっちのイザークに友達ができた!と。

 でも、そんな相手は私だけだろう。
 私はイザークの家族より、大切な存在になったらしい。
 
 嬉しいより恥ずかしい。
 そして気まずい。
 どんな顔で、彼に会えばいいんだろうか。
 
 悶々としていると、ドアがノックされた。

「は、はいっ!」

「レオナルドだ。入っていいか?」

「あ、なんだ。レオナルドか……どうぞ」

 考えてみれば、あのイザークが緊急事態でもない限り、王宮へ来るわけがない。
 ドアが開き、レオナルドが入ってきた。

 子どもみたいにむくれた顔で。

「『なんだ』はないだろ、心配したのに」

「……ごめん。来てくれて嬉しいよ、ありがとう」

 そう言ってみても今更だ。
 とってつけたようになってしまった。

 レオナルドは眉間にしわを寄せた。
 
「イザークが来た方が、もっと嬉しかったんじゃないか?」

「それはない!」

 思わずガバッと起き上がってしまった。
 とっさの一言だったけど、完全に嘘でもない。

 厳密には、「会えたら嬉しいけど挙動不審になりそうだから今は会いたくない」だ。

 レオナルドはちょっとのけぞって目を丸くしている。
 それから体勢を整えて、

「そ、そうか。それならよかった」

 と、言った。

「よかったって何が?」

「イザークから言付けがあるんだ。『自分の家にはもう来るな』って」

「えぇっ!?なんでよ!」

 ショック三割、怒り七割で、ついレオナルドに向かって叫んでしまった。

「いや、だって……そうだろ?もう君は死刑囚じゃないし」

「え?……あ、そうか。魔王を倒したから、死刑が取り消されるんだ!」

「細かいことを言うと、あと三日様子を見て魔王が復活しなかったら、議会を開いて賛否を問うんだけどね」

「でも、もう暗黙の了解みたいになってるでしょ?魔王討伐イコール私の死刑取り消しって」

 やっと自由になれる。
 好きなところに出かけられる。
 時間を気にしなくてもいい。

 帰りがけに屋台の串焼きが食べたくなったら、好きなだけ食べてもいいんだ!

 何より、イザークにいつでも会える。
 膨らんでいく喜びは、レオナルドの言葉で急速に縮んだ。

「でも、イザークの言う通りにすべきだ。町外れの家には、もう行かない方がいい」

 済まなさそうに言うレオナルドに、私は口を尖らせた。

「なんで?」

「だって、君はもう元の公爵令嬢に戻るんだよ。しかも今は、聖女の肩書きまでついてる」

「だから?」

「その……処刑人と親しくしていたら、貴族がいい顔をしないだろ。君の実家にまで影響するぞ」

「……う」

 言われてみれば確かにそうだ。
 私が悪く言われるのは構わない。
 
 だけど父や兄、義姉のルイーズさんはどう思うだろう。
 自分とは関係のないところで、自分の評価が下がる──納得できないに決まっている。

「わかった……軽率な行動は控える」

 ため息をついて答えると、レオナルドは安心したように頷いた。

「そうだね、思慮は大切だ。ケッティ伯爵も、浅はかな行動をしたせいで開拓地に送られた。五年は帰ってこられないよ」

 爽やかな笑顔に、私はちょっと引いていた。
 実は腹黒だったんだろうか。
 それとも抑圧されてきたから、反動かな。
 とにかく軽率な行動は控えなくてはいけない。



 だから、慎重に行動すればいいんだ。
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