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2章 魔王討伐
2-19 目覚めたあと
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◇
私は、ぼんやりと目を開けた。
白い天井が見える。
中央にはきらめくシャンデリア。
ここは……王宮内の、自分の部屋だ。
もう朝が来たのか。
……あれ?
いつ、部屋で寝たんだっけ。
首を傾げた時、キイ、とドアの開く音がした。
「ん?」
音の方へ顔を向けると、リリィが部屋に入ってくるのが見えた。
ふと、リリィと目が合う。
彼女はハッと息をのみ、次の瞬間、輝くような笑顔を咲かせた。
「アナベル!」
リリィがパタパタと駆け寄ってきて、私の顔を覗き込む。
「よかった、目が覚めたのね!具合はどう?」
「まだちょっと、だるい……」
「そう……そうよね。魔力がなくなるまで攻撃を繰り返したんだもの」
「え?」
魔力が尽きる……
攻撃……
「あっ!」
一気に記憶がよみがえった。
「そうだった……リリィ、魔王って消えたの?」
「ええ。倒してからまだ二日だから、少し不安はあるけど。穢れはアナベルが浄化してくれたんだもの。大丈夫だと思うわ」
「そっか……」
私、二日も寝ていたのか。
二徹して新作ゲームをクリアした時ですら、半日の爆睡で済んだのに。
よほど疲れていたらしい。
ふう、と息をつくと、リリィは心配そうに眉を下げた。
「もう少し、眠る?飲み物と軽食を頼んでおこうか?」
「うん……お城のふわふわパン、洗濯籠いっぱい食べたいな」
欲望を正直に口にすると、可愛らしい困り笑顔が返ってきた。
「それは明日にして、今はリゾットを頼んでくるわね」
リリィはそう言うと、部屋を出て行った。
静かになると、漠然と気になっていたことが頭の中を占めていく。
イザークはどうしているだろう。
魔王に最後の一撃を食らわせていたけど。
二回もお兄さんを手にかけたようなものだ。
大丈夫かな。
気になる。
気には、なる。
だけどハラハラはしない。
もっと気になることがあるからだ。
イザークは魔王にとどめを刺す時、こう言った。
『私には、あなたよりも大切な人がいる』
あれは誰のことだろう。
……なんて、考えられるほど鈍感ならよかったのに。
というか、私以外に大切な人ができたとしたら、むしろ祝杯をあげたい。
ぼっちのイザークに友達ができた!と。
でも、そんな相手は私だけだろう。
私はイザークの家族より、大切な存在になったらしい。
嬉しいより恥ずかしい。
そして気まずい。
どんな顔で、彼に会えばいいんだろうか。
悶々としていると、ドアがノックされた。
「は、はいっ!」
「レオナルドだ。入っていいか?」
「あ、なんだ。レオナルドか……どうぞ」
考えてみれば、あのイザークが緊急事態でもない限り、王宮へ来るわけがない。
ドアが開き、レオナルドが入ってきた。
子どもみたいにむくれた顔で。
「『なんだ』はないだろ、心配したのに」
「……ごめん。来てくれて嬉しいよ、ありがとう」
そう言ってみても今更だ。
とってつけたようになってしまった。
レオナルドは眉間にしわを寄せた。
「イザークが来た方が、もっと嬉しかったんじゃないか?」
「それはない!」
思わずガバッと起き上がってしまった。
とっさの一言だったけど、完全に嘘でもない。
厳密には、「会えたら嬉しいけど挙動不審になりそうだから今は会いたくない」だ。
レオナルドはちょっとのけぞって目を丸くしている。
それから体勢を整えて、
「そ、そうか。それならよかった」
と、言った。
「よかったって何が?」
「イザークから言付けがあるんだ。『自分の家にはもう来るな』って」
「えぇっ!?なんでよ!」
ショック三割、怒り七割で、ついレオナルドに向かって叫んでしまった。
「いや、だって……そうだろ?もう君は死刑囚じゃないし」
「え?……あ、そうか。魔王を倒したから、死刑が取り消されるんだ!」
「細かいことを言うと、あと三日様子を見て魔王が復活しなかったら、議会を開いて賛否を問うんだけどね」
「でも、もう暗黙の了解みたいになってるでしょ?魔王討伐イコール私の死刑取り消しって」
やっと自由になれる。
好きなところに出かけられる。
時間を気にしなくてもいい。
帰りがけに屋台の串焼きが食べたくなったら、好きなだけ食べてもいいんだ!
何より、イザークにいつでも会える。
膨らんでいく喜びは、レオナルドの言葉で急速に縮んだ。
「でも、イザークの言う通りにすべきだ。町外れの家には、もう行かない方がいい」
済まなさそうに言うレオナルドに、私は口を尖らせた。
「なんで?」
「だって、君はもう元の公爵令嬢に戻るんだよ。しかも今は、聖女の肩書きまでついてる」
「だから?」
「その……処刑人と親しくしていたら、貴族がいい顔をしないだろ。君の実家にまで影響するぞ」
「……う」
言われてみれば確かにそうだ。
私が悪く言われるのは構わない。
だけど父や兄、義姉のルイーズさんはどう思うだろう。
自分とは関係のないところで、自分の評価が下がる──納得できないに決まっている。
「わかった……軽率な行動は控える」
ため息をついて答えると、レオナルドは安心したように頷いた。
「そうだね、思慮は大切だ。ケッティ伯爵も、浅はかな行動をしたせいで開拓地に送られた。五年は帰ってこられないよ」
爽やかな笑顔に、私はちょっと引いていた。
実は腹黒だったんだろうか。
それとも抑圧されてきたから、反動かな。
とにかく軽率な行動は控えなくてはいけない。
だから、慎重に行動すればいいんだ。
私は、ぼんやりと目を開けた。
白い天井が見える。
中央にはきらめくシャンデリア。
ここは……王宮内の、自分の部屋だ。
もう朝が来たのか。
……あれ?
いつ、部屋で寝たんだっけ。
首を傾げた時、キイ、とドアの開く音がした。
「ん?」
音の方へ顔を向けると、リリィが部屋に入ってくるのが見えた。
ふと、リリィと目が合う。
彼女はハッと息をのみ、次の瞬間、輝くような笑顔を咲かせた。
「アナベル!」
リリィがパタパタと駆け寄ってきて、私の顔を覗き込む。
「よかった、目が覚めたのね!具合はどう?」
「まだちょっと、だるい……」
「そう……そうよね。魔力がなくなるまで攻撃を繰り返したんだもの」
「え?」
魔力が尽きる……
攻撃……
「あっ!」
一気に記憶がよみがえった。
「そうだった……リリィ、魔王って消えたの?」
「ええ。倒してからまだ二日だから、少し不安はあるけど。穢れはアナベルが浄化してくれたんだもの。大丈夫だと思うわ」
「そっか……」
私、二日も寝ていたのか。
二徹して新作ゲームをクリアした時ですら、半日の爆睡で済んだのに。
よほど疲れていたらしい。
ふう、と息をつくと、リリィは心配そうに眉を下げた。
「もう少し、眠る?飲み物と軽食を頼んでおこうか?」
「うん……お城のふわふわパン、洗濯籠いっぱい食べたいな」
欲望を正直に口にすると、可愛らしい困り笑顔が返ってきた。
「それは明日にして、今はリゾットを頼んでくるわね」
リリィはそう言うと、部屋を出て行った。
静かになると、漠然と気になっていたことが頭の中を占めていく。
イザークはどうしているだろう。
魔王に最後の一撃を食らわせていたけど。
二回もお兄さんを手にかけたようなものだ。
大丈夫かな。
気になる。
気には、なる。
だけどハラハラはしない。
もっと気になることがあるからだ。
イザークは魔王にとどめを刺す時、こう言った。
『私には、あなたよりも大切な人がいる』
あれは誰のことだろう。
……なんて、考えられるほど鈍感ならよかったのに。
というか、私以外に大切な人ができたとしたら、むしろ祝杯をあげたい。
ぼっちのイザークに友達ができた!と。
でも、そんな相手は私だけだろう。
私はイザークの家族より、大切な存在になったらしい。
嬉しいより恥ずかしい。
そして気まずい。
どんな顔で、彼に会えばいいんだろうか。
悶々としていると、ドアがノックされた。
「は、はいっ!」
「レオナルドだ。入っていいか?」
「あ、なんだ。レオナルドか……どうぞ」
考えてみれば、あのイザークが緊急事態でもない限り、王宮へ来るわけがない。
ドアが開き、レオナルドが入ってきた。
子どもみたいにむくれた顔で。
「『なんだ』はないだろ、心配したのに」
「……ごめん。来てくれて嬉しいよ、ありがとう」
そう言ってみても今更だ。
とってつけたようになってしまった。
レオナルドは眉間にしわを寄せた。
「イザークが来た方が、もっと嬉しかったんじゃないか?」
「それはない!」
思わずガバッと起き上がってしまった。
とっさの一言だったけど、完全に嘘でもない。
厳密には、「会えたら嬉しいけど挙動不審になりそうだから今は会いたくない」だ。
レオナルドはちょっとのけぞって目を丸くしている。
それから体勢を整えて、
「そ、そうか。それならよかった」
と、言った。
「よかったって何が?」
「イザークから言付けがあるんだ。『自分の家にはもう来るな』って」
「えぇっ!?なんでよ!」
ショック三割、怒り七割で、ついレオナルドに向かって叫んでしまった。
「いや、だって……そうだろ?もう君は死刑囚じゃないし」
「え?……あ、そうか。魔王を倒したから、死刑が取り消されるんだ!」
「細かいことを言うと、あと三日様子を見て魔王が復活しなかったら、議会を開いて賛否を問うんだけどね」
「でも、もう暗黙の了解みたいになってるでしょ?魔王討伐イコール私の死刑取り消しって」
やっと自由になれる。
好きなところに出かけられる。
時間を気にしなくてもいい。
帰りがけに屋台の串焼きが食べたくなったら、好きなだけ食べてもいいんだ!
何より、イザークにいつでも会える。
膨らんでいく喜びは、レオナルドの言葉で急速に縮んだ。
「でも、イザークの言う通りにすべきだ。町外れの家には、もう行かない方がいい」
済まなさそうに言うレオナルドに、私は口を尖らせた。
「なんで?」
「だって、君はもう元の公爵令嬢に戻るんだよ。しかも今は、聖女の肩書きまでついてる」
「だから?」
「その……処刑人と親しくしていたら、貴族がいい顔をしないだろ。君の実家にまで影響するぞ」
「……う」
言われてみれば確かにそうだ。
私が悪く言われるのは構わない。
だけど父や兄、義姉のルイーズさんはどう思うだろう。
自分とは関係のないところで、自分の評価が下がる──納得できないに決まっている。
「わかった……軽率な行動は控える」
ため息をついて答えると、レオナルドは安心したように頷いた。
「そうだね、思慮は大切だ。ケッティ伯爵も、浅はかな行動をしたせいで開拓地に送られた。五年は帰ってこられないよ」
爽やかな笑顔に、私はちょっと引いていた。
実は腹黒だったんだろうか。
それとも抑圧されてきたから、反動かな。
とにかく軽率な行動は控えなくてはいけない。
だから、慎重に行動すればいいんだ。
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