断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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2章 魔王討伐

2-18 最後の一撃

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「手が……右手が痛いぃ……!助けてくれ、イザーク。体を治せない……アルデリアの王を止めてくれ!」

 苦しげな声に、私までたじろいでしまう。
 今さらイザークを動揺させて、魔王は何がしたいんだろう。

「イザーク、イザーク……死ぬのは嫌だ……お前とまた別れるなんて」

「もう、うるさいな……っ!」

 私は力を振り絞って、精霊たちに念じた。
 魔王をぶっ飛ばして、と。

 真っ白な光がフラッシュして、魔王の頭が爆ぜた。
 正しい手順じゃないけど、ほかに攻撃できるところがないのだ。
 仕方ない。
 
 予想通り、顔がじわじわと再生していく。
 リリィたちのおかげで人々の恐怖が減っているから、スピードは遅いけど。

 それでも確実に回復している。

「もう一回……攻撃しないと……!」

「聖女さま、むりなの……」

 丸いコハクが、しょぼんとしぼむ。
 ほかの三匹と一緒に、フラフラとペンダントへ戻っていく。

 頭痛と同時に吐き気がしてきた。
 ステータス画面はないけど、感覚的にわかる。
 魔力が尽きたのだ。

 痛くて苦しくて、気絶することもできない。
 そうしていると、イザークは後ろへ下がり、家の壁に私を持たせかけた。
 それから魔王へ向き直る。

 何をするつもりなんだろう。
 私は頭痛をこらえて様子を見た。

 魔王は再生した口で、またイザークに話しかけてきた。

「イザーク、ごめんな。一人にして……ずっと寂しかっただろ?」

 イザークの体がビクッと震える。
 彼はかすれた声で言い返した。

「今さらです、兄上……あなたは私たちの立場を考えず、覇権を手にするため、謀反を起こそうとした。家族より、プライドの修復を優先したのだ!」

「わかっている……俺は愚かだった。本当に大切なものを、見失っていた……だが、今度はもう間違わない。今の俺にとって、一番大切なのはお前だ。イザーク、また一緒に暮らそう……」

 魔王が、おぞましいほど優しい声で囁く。
 イザークはゆっくりと剣を抜いた。
 しかし迷いがあるのか、剣を構えたり下ろしたりしている。
 
「どうした、その剣は……信じてくれないのか?森へ木苺狩りに行った時、お前は疲れたと言ってぐずった。俺は、すぐにお前を背負ってやった。なぜだと思う?大事な弟だからだ……たった一人の、俺の弟だ」

 そう話す魔王に、私は違和感を覚えた。
 目をこじ開けて魔王を見つめ──気が付いた。
 
 回復速度が上がっている。

 恐怖は減っているはずなのに、どうして。
 魔王を恐れる人が現れたのだろうか。
 でも、もう悲鳴は聞こえないのに。
 まだ眠っていないのは、レオナルドたちと、私と……

 そこまで考えてひらめいた。
 
 イザークだ。
 剣を握る手が小刻みに震えている。
 彼は、強烈に恐れているんだ。
 
 ヴェリクを見殺しにして、また罪悪感に襲われることを。
 それから、再びヴェリクを失うことを。

「イザーク、ファルガランへ帰ろう……な?」

 魔王が、再生しつつある右腕を持ち上げる。
 クレーンのように水平に動いたかと思うと、イザークの真上でピタリと止まった。

 ──人間が恐怖を持ったまま死ぬと、その場に穢れが染みつく──

 あの状態でイザークが叩き潰されれば、穢れが生まれてしまう。
 今、私に浄化する余裕はない。

 じきに王都の人々も目覚めるだろう。
 魔王はあっという間に復活してしまう。
 そうなればおしまいだ。

 イザーク、迷わないで。
 怖がらないで。
 ヴェリクがいなくても、私がいるから。

「駄目だってば……ゲホッ!」

 咳き込んだ私を、イザークはハッとしたように振り返った。

「イザークは、私と、ファルガランに行くんだから……!」

 イザークが目を見開く。
 彼の、剣を持つ手の震えが止まる。

 その頭上に魔王の右腕が振り下ろされる。
 駄目だ、と思った瞬間、光が交差した。
 
 イザークは瞬きのうちに、魔王の右腕へ斬撃の雨を浴びせ、バラバラに裂断させていた。

「イザーク、何を……!お前が一番大切だと言ってやったのに!」

「私には、あなたよりも大切な人がいる!」

 イザークは吼えるように叫び、地を蹴り、魔王の顔に向かって剣を振り下ろした。
 黒々とした口が真っ二つに割れる。

 そして、魔王はもう蘇らなかった。
 黒い塊は、砂のようにサラサラと風に流され、消えてしまった。

 遠くからレオナルドたちの声が聞こえてくる。
 大丈夫か、こっちは終わったぞ、と何度も叫んでいる。

 空を見上げると、魔物たちが飛び去って行くのが見えた。

 終わった。
 やっと、終わった──息をついた拍子に、私は意識を失った。
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