断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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3章 隣国へ

3-12 もふもふ と ぷにぷに

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 ファルガランの聖女の証は、国王が身につける。
 つまり、イザークの父親は、お城の前で亡くなったんだ。

「イザークたちを守ろうとしたのかな?」

 私が言うと、イザークは息をのんだ。
 そして一歩踏み出し、

「父上……」

 と、切なげに呟いた。

 早く聖女の証を見つけてあげよう。
 私は精霊たちに呼びかけた。

「このペンダントと同じ石、どこにあるかわかる?」

「お気遣いなく。赤子の手をひねるより容易いことです」

 ナギはそう言って、ほかの三匹と一緒にイザークの足元に集まった。

 イザークの立つ場所は、瓦礫の山のそば。
 石畳が割れて、土が剥き出しになっている。

「ここ……ですか?」

 イザークは戸惑いながら、後ろへ下がった。
 私も驚いていた。

 ファルガランの前王は、瓦礫の下に埋まっていると思っていたから。

「じゃあ、いくよー」

 コハクの光がほのかに強まる。
 土が静かにえぐれて、黒ずんだものが現れた。

 ナギがそれを浮き上がらせて、風で土汚れを払ってくれた。

「これって……指輪?」

「ファルガランの聖女の証とは、指輪だったのですね。ありがとうございます、精霊様。アナベル様も」

「今は真っ黒だけどね……」

 綺麗な状態に戻せたらいいのに。
 私がふと願ったことを、優秀すぎる精霊たちが察知した。

「僕たちが綺麗にしますー……」

 ミゾレが、小さな手で指輪をちょんと突いた。
 すぐさま指輪が水塊に包まれる。

 その水塊にコハクが触れると、水が白く輝く。
 それをヒナがグツグツと沸騰させ、水塊が蒸発して──
 
「わあ……!」

 空中に、古びた銀の指輪が現れた。
 一センチ強ほどの、大きな宝石が飾られている。

 そっと手に取ると、宝石が次々と色を変えていくのがわかった。
 ペンダントの石と同じだ。

「すごいね。みんな、ありがとう!」
   
「恐れ入ります、聖女様。お望みでしたら、指輪の持ち主も掘り出し、清めますが」

「掘り出す?では、やはり父はここに埋まって──」

 そこでイザークは口をつぐんだ。
 私と二人、黙って顔を見合わせる。

 死体が勝手に土に埋まるわけがない。
 誰かが、埋めたのだ。

 でも、お墓を作ったのではない気がする。
 それならもっと開けた場所へ運ぶだろう。

 だけどここは瓦礫のそば──いや、指輪があった場所を見ると、斜め下に向かって穴が空いている。

 まるで、瓦礫の下に死体を隠そうとしたかのようだ。

「魔物に狙われるのを防いだ……って感じでもないよね」

「そうですね。父なら『自分の遺体を囮にしろ』と言い残しそうです。臣下も似たような考えですから、従うかと」

 それはそれですごいな……
 なのに、こうして埋められたということは。

「ねえ。私の考え、言っていい?」

「はい。おそらく、私も同じ考えだと思います」

「うん……イザークのお父さんを埋めたのは、カスティル公爵じゃないかな?王冠を奪ったあと、証拠隠滅のためにやったんだと思う」

 イザークは黙って頷いた。
 眉間にしわを寄せ、拳を握りしめている。

 静かな怒りが伝わってくる。

「今は、公爵が王冠をかぶってるのかな?」

「いえ。『公爵』と名乗っているのなら、身につけていないのでしょう。新たな王が生まれぬよう、隠したのかもしれません」

「ずいぶん念入りだね……結局、王冠を奪ったところは人に見られちゃったみたいだけど」

 肩をすくめた時、ナギが私の目の前に下りてきた。

「聖女様、ところで遺体はどうなさいますか?掘り出しますか?」

「あ、そうだね。じゃあ──」

 よろしく、と言いかけた時、骸骨の姿が頭をよぎった。
 
「…………イザーク、どうする?」

 「ちょっと怖い」と言いたいのをこらえて、彼を振り返る。
 すると、イザークは「今はやめておきましょう」と答えた。

「墓を作る時間も、場所もありません。それに、カスティル公爵の配下に荒らされるのも癪です」

「わかった。じゃあ、今はやめておこう」

 私はひそかに胸をなで下ろした。
 そして、イザークに尋ねようとしたことを飲み込んだ。

 王都も直せると思うけど、どうする?──という質問を。

 お墓が駄目なら王都なんてもってのほかだ。
 カスティル公爵から守る力がない。

 次は王冠だけじゃなく、王城まで奪われるかもしれない。

 あれこれと想像をめぐらせていると、妙な音が聞こえてきた。
 プニッ、プニッという脱力しそうな音だ。

「な、何の音?ファルガランにいる生き物の鳴き声とか?」

「いえ、こんな鳴き声は聞いたことがありません」

「じゃあ何!?怖いんだけど!」

 プニプニした音は、路地の奥から聞こえてくる。
 どんどんこっちへ近づいてくる。

 そして──片手からあふれそうなほど大きい白玉団子が、姿を現した。
 丸い体に、小さな黒い目が二つ。

「……イザーク。これ、何?」

「……わかりません」

 とりあえず襲ってくる気配はないけど──と、様子を伺っていると、ナギが白玉団子のもとへ飛んでいった。

「久しぶりですね、フー」

「えっ……ど、どういうこと?ナギの知り合い?」

 私が困惑していると、ナギは団子をムニムニと押しつつ、こっちを振り返った。

「はい。フーはファルガランで生まれた風の精霊です」

「……え!?」

 驚きすぎて言葉が出ない。
 イザークも私と同じく、ただ目を丸くしている。

 というか、そんなに重要なことをあっけらかんと言わないでほしい。

「精霊って……精霊なの?」

 恐る恐る尋ねると、フーはぷよぷよと体を揺らした。

「はい、そうデス」

「喋った!」

「精霊デスから」

 なんと……どこに口があるんだろう。
 まあ、コハクも似たようなものだけど。

「ところで、アルデリアの聖女様。ファルガランの聖女の証をお持ちデスね?」

「あ、これ?」

 私は、握っていた指輪を見せた。

「入る?私がつけてもいいのかな?一応聖女だけど」

 そう尋ねてみたけど、フーはペチャッと平たくなってしまった。

「あなたは私の聖女様じゃないので、嫌デス」

「……うわお」

 結構はっきりと言われた。
 でも、ナギたちもリリィ拒否!だったし。
 やっぱり自分たちの聖女がいいんだろうな。

 私はフーに同情したが、ナギは違った。
 
「フー!聖女様になんてことを!」

「でも、でも……ナギ先輩だって、違う聖女のところにいるのは苦痛デショ?」

「それでも、アルデリアの聖女様の方が格が上なんですよ」

 ヒナやコハクも、うんうんと頷いている。

「わかってマス……でも、無理なものは無理デス」

 緊迫した状況なのに、もふもふと、ぷにぷにが、可愛らしく言い合いをしている。
 というかナギは先輩だったのか。

 そんなやり取りを眺めているうちに、時間が過ぎたらしい。
 いつの間にか、太陽が傾き始めていた。

「出発してもよさそうだね。北東へ行こう。フーはどうする?」

 ファルガランの聖女はもういない。
 好きなところへ行くのだろうか、と思いきや。

「フーは、私たちについてくるに決まっていますよ。そうでしょう?」

「はい、もちろン」

 ナギとフーが頷き合った。
 
 どういうことなんだろう。
 私はナギたちの聖女だから、フーとは相性が合わないのに。

 聞きたかったけれど、フーがぽよんぽよんと跳ねていくので、私たちは慌てて後を追うしかなかった。
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