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3章 隣国へ
3-11 二手に分かれよう
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馬を走らせて、魔物まであと五十メートル、という地点に着いた。
魔物の背丈は四メートルくらい。
内側に黒いもやが渦巻き、たしかに魔王に似ている。
ただ、明らかに異なる部位が二つ。
「ねえ……あの尻尾と顔、狼っぽくない?」
背後のイザークに話しかけたものの、返ってきたのは曖昧なひとりごとだ。
「まさか、兄上が……?」
「何?どうしたの?」
「いえ、その……アナベル様、あくまで想像なのですが。あれは、兄の失敗作かもしれません」
「へ?」
「兄は魔王を作る際、自身の魂を分け与えた。覚えていますか?」
「うん……日記を読むと、そんな感じだったね」
「しかし、失敗して自身が死んでしまっては、元も子もない。まず、動物の魂で試したのではないでしょうか」
「その結果生まれたのが、あの魔物ってこと?」
「はい、私の想像ですが」
イザークはそう言うが、あり得る話だ。
彼の兄──ヴェリクは、保護してくれた国で謀反を起こそうとした。
そんな人間が、率先して自己犠牲に走るとは思えない。
どうせ獣の命だからと、何とも思わずに犠牲にしそうだ。
「でも……あの魔物って成長するんだよね?魔王も成長したっけ?」
「魔王も根を伸ばしていました。穢れを食らえば、体を大きくすることも可能なのかもしれません」
「あ、なるほど。じゃあ、どっちみち早めに倒した方がいいね。試しに一発、攻撃してみる!」
狼系なら風属性が効くかもしれない。
なるべく苦しめないようにするから、成仏してほしい。
「ナギ、あいつを倒せる?」
ペンダントに声をかけると、真っ白なナギがふわりと現れる。
「お任せください」
小さな頭をぺこりと下げて、ナギは前方を見た。
その体が強く光ったかと思うと、魔物は風船みたいに膨らみ──爆発した。
飛び散った体が、地面にふりそそぐ。
「うわっ……」
近くで見ると凄惨だ。
得意げなナギの前では言えないけど。
すり寄ってくるナギをよしよししながら、私は祈った。
ごめん、狼さん。
成仏してください。
「それじゃあ、さっそく北東へ──」
「アナベル、待って!」
リリィが叫び、魔物がいた場所を指差した。
さっき爆発した魔物の体が、まるで逆再生のように回復している。
一体、なぜ。
ギデオンとエリオットも動揺している。
「どういうことだ?魔王のように、穢れを糧にしているのか?」
「そうかもしれませんね。……イザーク」
エリオットがイザークに声をかける。
「王都にも穢れはあるのですか?」
「はい、多少は。ファルガランの民は、死を恐れず戦うようにと訓練されますが、大切な者を失う恐怖までは……消せませんから」
「そうですか……では、あの魔物はそれを使って再生している……?」
「可能性はあります」
イザークは頷き、「アナベル様」と私を呼んだ。
「攻撃しても再生するなら、先に浄化を行う方が得策かと思われます」
「そうだね。でも、浄化してる間は攻撃できないし……」
どうすべきか考え始めた時、レオナルドがきっぱりと言った。
「魔物は僕たちが足止めする。アナベルは浄化を頼む」
「えっ!駄目だよ、危険すぎる」
「大丈夫よ」
今度はリリィが微笑んだ。
「私たちだって鍛錬してるんだから。今まではアナベルが強すぎて、力を見せられなかったけど」
「そうだよ、ほら。身体硬化!」
ルークが杖を振ると、肉眼で見えるほど強力な魔法が、肌を覆った。
たぶん、防御力が二倍くらいになったんじゃないだろうか。
「すごい……」
「本当?アナベルさんに言われると嬉しいな」
ルークはにっこりと笑い、胸を張った。
それに対抗するように、ほかのみんなも背筋を伸ばす。
「僕たちだって負けていないよ」
「そうよ、アナベル。だから行って。魔物が再生し切る前に」
リリィの見つめる先では、魔物が胸元まで再生を終えていた。
「わかった……すぐ戻ってくるから!イザーク、王都の中へ入ろう!」
私の言葉を合図に、イザークが馬の腹を蹴る。
王都の正門をくぐり、大通りを駆け抜けて、広場に出たところで、浄化を始める。
しかし、集中できない。
外壁の向こうから、ドォン!バリバリ!という爆音が何度も聞こえてくるのだ。
「みんな、浄化はまだ終わらない!?」
悲鳴のような声で、精霊たちに尋ねてみても、
「まだですー……」
「そうなの。聖女さま、ゆっくりしよー」
と、危機感ゼロである。
ようやく浄化が終わると、またすぐイザークに「さっきの場所へ!」と指示を出した。
ハラハラしながら道を戻り、正門から出た瞬間、魔物を粉砕。
さあ、みんなを回復しなくちゃ。
そう思ったのに、待っていたレオナルドたちは、まったくの無傷だった。
「やっぱりアナベルには敵わないなあ」
レオナルドは、魔物がいた場所を見下ろし、苦笑した。
しかし、私は首を横に振った。
「ううん、みんなも強いよ。こんなに強くなってるなんて、思わなかった」
私の言葉で、みんなはちょっと得意げに微笑んだ。
そこで、イザークがため息をついた。
「しかし厄介ですね。穢れを先に浄化しなくては、魔物を倒せません」
「そうだよね。北東地域には穢れが広がってるって話だったもんね……あのさ」
私は、ふと思いついたことを口にした。
「レオナルドたちが、北東にいる魔物を南へ誘導して、その隙に私が浄化する……っていうのは、駄目かな?」
そのあと私も南下して、誘導グループと合流。
魔物を一網打尽にする、という作戦だ。
「いいじゃないか!」
レオナルドの顔が、パッと明るくなった。
「僕たちが先に穢れのもとへ行って、魔物を南へ誘い出すってことだよね」
「そうだけど……いいの?危ないよ」
私がみんなを見回すと、全員、目を輝かせて頷いた。
「アナベル様が、やっと俺たちを頼ってくださったんですから」
「今までは、自分の無力が情けなくて、消え入りそうでしたよ」
ギデオンとエリオットが、感慨深げに言い合っている。
リリィに至っては、すでに馬を歩かせていた。
「私たちは先に北東へ行くから、アナベルとイザークは……兵士に見つからないよう、王都で待機するのはどう?」
リリィが王都に目をやった。
ふいに彼女の顔が、真剣なものになる。
「リリィ、どうかした?王都が気になるの?」
「あ……ううん、なんでもない。レオ、早く目的地へ向かいましょう」
「そうだな。アナベルたちは、太陽が傾き始めた頃に出発してくれ」
「うん……気をつけてね!」
私は、馬を走らせるレオナルドたちに向かって手を振った。
彼らの姿がまだ見えているうちに、イザークは再び王都へ馬を入らせた。
「しばらくここで待つのかあ……」
「アナベル様、よろしければ馬から降りませんか?そろそろお疲れでしょう」
「あ……そうする。馬も疲れてるだろうし」
まずイザークが、それから私が下へ降りる。
瓦礫の感触が足に伝わり、ここは滅びた都なのだと、急に生々しく感じた。
イザークもそう思ったのか、沈んだ声で呟いた。
「この町のどこかに、父がいます……混乱の中で逃げ出したので、どこで死んだかはわかりませんが」
「イザーク……」
うなだれる彼を見ていると、何かしてあげたい、という思いが湧いてくる。
せめて、お父さんの形見でもあれば……
そう考えた時、突然ペンダントからすぽぽぽぽーんと精霊たちが飛び出した。
「うわあっ!?」
イザークに集中していたので、つい大声で叫んでしまった。
しかし、そんなことは関係ない、とばかりに精霊たちはウキウキしている。
「聖女様、何やらご所望ですね?」
「う、うん」
オコジョの顔が間近に迫って、思わず後ずさった。
「前の王様の──あ、ファルガランのね。持ち物が見つからないかなーって」
精霊たちの圧を感じながら答えた。
すると、ヒナが翼をバタつかせて言った。
「それ、アタシたちなら見つけられるかも!精霊が入る石でしょ!?」
ほかの三匹も、うんうんと頷く。
愛らしい彼らを前に、私は目が点になった。
「でも、イザークが一人でここに来た時は、ペンダントは反応しなかったって、聞いたけど……?」
「だって、聖女様がいないと眠いし……」
「なんだか、ボーッとしちゃうの」
「そうなんだ……」
私はチラッとイザークを見た。
呆然と、立ち尽くしている。
「イザーク……結局、私がいないと駄目だったみたい」
「……そのようですね」
ショックを受ける彼と、居たたまれない私を尻目に、精霊たちはふわふわと町の奥へ飛んでいく。
「聖女様!早く早くー!」
「こちらから気配を感じます!」
そして案内された場所は──廃城の前だった。
魔物の背丈は四メートルくらい。
内側に黒いもやが渦巻き、たしかに魔王に似ている。
ただ、明らかに異なる部位が二つ。
「ねえ……あの尻尾と顔、狼っぽくない?」
背後のイザークに話しかけたものの、返ってきたのは曖昧なひとりごとだ。
「まさか、兄上が……?」
「何?どうしたの?」
「いえ、その……アナベル様、あくまで想像なのですが。あれは、兄の失敗作かもしれません」
「へ?」
「兄は魔王を作る際、自身の魂を分け与えた。覚えていますか?」
「うん……日記を読むと、そんな感じだったね」
「しかし、失敗して自身が死んでしまっては、元も子もない。まず、動物の魂で試したのではないでしょうか」
「その結果生まれたのが、あの魔物ってこと?」
「はい、私の想像ですが」
イザークはそう言うが、あり得る話だ。
彼の兄──ヴェリクは、保護してくれた国で謀反を起こそうとした。
そんな人間が、率先して自己犠牲に走るとは思えない。
どうせ獣の命だからと、何とも思わずに犠牲にしそうだ。
「でも……あの魔物って成長するんだよね?魔王も成長したっけ?」
「魔王も根を伸ばしていました。穢れを食らえば、体を大きくすることも可能なのかもしれません」
「あ、なるほど。じゃあ、どっちみち早めに倒した方がいいね。試しに一発、攻撃してみる!」
狼系なら風属性が効くかもしれない。
なるべく苦しめないようにするから、成仏してほしい。
「ナギ、あいつを倒せる?」
ペンダントに声をかけると、真っ白なナギがふわりと現れる。
「お任せください」
小さな頭をぺこりと下げて、ナギは前方を見た。
その体が強く光ったかと思うと、魔物は風船みたいに膨らみ──爆発した。
飛び散った体が、地面にふりそそぐ。
「うわっ……」
近くで見ると凄惨だ。
得意げなナギの前では言えないけど。
すり寄ってくるナギをよしよししながら、私は祈った。
ごめん、狼さん。
成仏してください。
「それじゃあ、さっそく北東へ──」
「アナベル、待って!」
リリィが叫び、魔物がいた場所を指差した。
さっき爆発した魔物の体が、まるで逆再生のように回復している。
一体、なぜ。
ギデオンとエリオットも動揺している。
「どういうことだ?魔王のように、穢れを糧にしているのか?」
「そうかもしれませんね。……イザーク」
エリオットがイザークに声をかける。
「王都にも穢れはあるのですか?」
「はい、多少は。ファルガランの民は、死を恐れず戦うようにと訓練されますが、大切な者を失う恐怖までは……消せませんから」
「そうですか……では、あの魔物はそれを使って再生している……?」
「可能性はあります」
イザークは頷き、「アナベル様」と私を呼んだ。
「攻撃しても再生するなら、先に浄化を行う方が得策かと思われます」
「そうだね。でも、浄化してる間は攻撃できないし……」
どうすべきか考え始めた時、レオナルドがきっぱりと言った。
「魔物は僕たちが足止めする。アナベルは浄化を頼む」
「えっ!駄目だよ、危険すぎる」
「大丈夫よ」
今度はリリィが微笑んだ。
「私たちだって鍛錬してるんだから。今まではアナベルが強すぎて、力を見せられなかったけど」
「そうだよ、ほら。身体硬化!」
ルークが杖を振ると、肉眼で見えるほど強力な魔法が、肌を覆った。
たぶん、防御力が二倍くらいになったんじゃないだろうか。
「すごい……」
「本当?アナベルさんに言われると嬉しいな」
ルークはにっこりと笑い、胸を張った。
それに対抗するように、ほかのみんなも背筋を伸ばす。
「僕たちだって負けていないよ」
「そうよ、アナベル。だから行って。魔物が再生し切る前に」
リリィの見つめる先では、魔物が胸元まで再生を終えていた。
「わかった……すぐ戻ってくるから!イザーク、王都の中へ入ろう!」
私の言葉を合図に、イザークが馬の腹を蹴る。
王都の正門をくぐり、大通りを駆け抜けて、広場に出たところで、浄化を始める。
しかし、集中できない。
外壁の向こうから、ドォン!バリバリ!という爆音が何度も聞こえてくるのだ。
「みんな、浄化はまだ終わらない!?」
悲鳴のような声で、精霊たちに尋ねてみても、
「まだですー……」
「そうなの。聖女さま、ゆっくりしよー」
と、危機感ゼロである。
ようやく浄化が終わると、またすぐイザークに「さっきの場所へ!」と指示を出した。
ハラハラしながら道を戻り、正門から出た瞬間、魔物を粉砕。
さあ、みんなを回復しなくちゃ。
そう思ったのに、待っていたレオナルドたちは、まったくの無傷だった。
「やっぱりアナベルには敵わないなあ」
レオナルドは、魔物がいた場所を見下ろし、苦笑した。
しかし、私は首を横に振った。
「ううん、みんなも強いよ。こんなに強くなってるなんて、思わなかった」
私の言葉で、みんなはちょっと得意げに微笑んだ。
そこで、イザークがため息をついた。
「しかし厄介ですね。穢れを先に浄化しなくては、魔物を倒せません」
「そうだよね。北東地域には穢れが広がってるって話だったもんね……あのさ」
私は、ふと思いついたことを口にした。
「レオナルドたちが、北東にいる魔物を南へ誘導して、その隙に私が浄化する……っていうのは、駄目かな?」
そのあと私も南下して、誘導グループと合流。
魔物を一網打尽にする、という作戦だ。
「いいじゃないか!」
レオナルドの顔が、パッと明るくなった。
「僕たちが先に穢れのもとへ行って、魔物を南へ誘い出すってことだよね」
「そうだけど……いいの?危ないよ」
私がみんなを見回すと、全員、目を輝かせて頷いた。
「アナベル様が、やっと俺たちを頼ってくださったんですから」
「今までは、自分の無力が情けなくて、消え入りそうでしたよ」
ギデオンとエリオットが、感慨深げに言い合っている。
リリィに至っては、すでに馬を歩かせていた。
「私たちは先に北東へ行くから、アナベルとイザークは……兵士に見つからないよう、王都で待機するのはどう?」
リリィが王都に目をやった。
ふいに彼女の顔が、真剣なものになる。
「リリィ、どうかした?王都が気になるの?」
「あ……ううん、なんでもない。レオ、早く目的地へ向かいましょう」
「そうだな。アナベルたちは、太陽が傾き始めた頃に出発してくれ」
「うん……気をつけてね!」
私は、馬を走らせるレオナルドたちに向かって手を振った。
彼らの姿がまだ見えているうちに、イザークは再び王都へ馬を入らせた。
「しばらくここで待つのかあ……」
「アナベル様、よろしければ馬から降りませんか?そろそろお疲れでしょう」
「あ……そうする。馬も疲れてるだろうし」
まずイザークが、それから私が下へ降りる。
瓦礫の感触が足に伝わり、ここは滅びた都なのだと、急に生々しく感じた。
イザークもそう思ったのか、沈んだ声で呟いた。
「この町のどこかに、父がいます……混乱の中で逃げ出したので、どこで死んだかはわかりませんが」
「イザーク……」
うなだれる彼を見ていると、何かしてあげたい、という思いが湧いてくる。
せめて、お父さんの形見でもあれば……
そう考えた時、突然ペンダントからすぽぽぽぽーんと精霊たちが飛び出した。
「うわあっ!?」
イザークに集中していたので、つい大声で叫んでしまった。
しかし、そんなことは関係ない、とばかりに精霊たちはウキウキしている。
「聖女様、何やらご所望ですね?」
「う、うん」
オコジョの顔が間近に迫って、思わず後ずさった。
「前の王様の──あ、ファルガランのね。持ち物が見つからないかなーって」
精霊たちの圧を感じながら答えた。
すると、ヒナが翼をバタつかせて言った。
「それ、アタシたちなら見つけられるかも!精霊が入る石でしょ!?」
ほかの三匹も、うんうんと頷く。
愛らしい彼らを前に、私は目が点になった。
「でも、イザークが一人でここに来た時は、ペンダントは反応しなかったって、聞いたけど……?」
「だって、聖女様がいないと眠いし……」
「なんだか、ボーッとしちゃうの」
「そうなんだ……」
私はチラッとイザークを見た。
呆然と、立ち尽くしている。
「イザーク……結局、私がいないと駄目だったみたい」
「……そのようですね」
ショックを受ける彼と、居たたまれない私を尻目に、精霊たちはふわふわと町の奥へ飛んでいく。
「聖女様!早く早くー!」
「こちらから気配を感じます!」
そして案内された場所は──廃城の前だった。
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