断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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3章 隣国へ

3-15 精霊の条件

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「何?私にできることかな?」

「あなたにしか頼めまセン。ここは私たちの故郷。守護を失ったあと、どうなるのか不安なんデス。ですから、私たちの代わりに、ファルガランを守ってくだサイ」

「つまり……私がファルガランで暮らすなら、フーたちはリリィとアルデリアへ行くってこと?」

「そうデス」
 
「そんな、駄目よ……!」

 かすれた悲鳴が上がった。
 リリィが、フーに向かって泣きそうな顔でまくし立てる。

「アナベルだって、アルデリアに家族がいるのよ。だから、ファルガランには……わ、私が……」

 リリィは青白い顔で、手綱を握る手を震わせている。
 当たり前だ。
 彼女はアルデリアで、たくさんの人と支え合って生きてきたのだから。

 そんなリリィと、最も苦楽を共にしてきたのは、レオナルドたち。
 彼らは今、私かリリィかの二者択一を迫られ、苦しげな顔で黙りこくっている。
 悩む彼らを前に、私は胸が痛くなった。

 だって、フーの出した条件に対して、何の躊躇ためらいもなく「いいよ」と言うつもりだったから。
 
 家族やリリィたちと離れることが、寂しくないわけじゃない。
 だけど、どうやら私にとって大切なのは、精霊たちと──イザークなのだ。

 とはいえ、この場ではっきりとは言いづらい。
 リリィたちは複雑だろうし、イザークに聞かれるのは私が恥ずかしい。
 
 ここは、平気な顔をしてみせよう。
 うつむくリリィに、私は明るく声をかけた。

「リリィ、ありがとう。でも大丈夫だよ。私がファルガランに行くから。精霊も一緒だから、寂しくないし」

「でも、ヘイルフォード公爵は悲しむでしょう?私だって寂しいわ……」

 リリィは目元をぬぐい、鼻をすすった。

 そこまで言ってくれて、ありがたいことこの上ない。
 しかし正直なところ、父は喜んで私を送り出す気がする。
 
 イザークは王に、私は聖女に──アルデリアに友好的な人間が、ファルガランのトップに立つのだ。
 国益最優先の父が、ほくそ笑む姿が目に浮かぶ。

「お父様は湿っぽい人じゃないし……今でも毎日は会ってないよ。それに、永遠の別れってわけじゃないから。時々はアルデリアへ遊びに行っていいでしょ?」

 フーに尋ねると、「はイ」と返ってくる。

「ほら、だから大丈夫」

「ちょっと寂しいけど、それなら……」

「僕たちもアナベルさんに会いに行っていいなら……」

 リリィとルークを始め、みんなは渋々納得したようだった。

「本当に平気だよ。イザークも一緒だもん。だよね?」

 私は、背後で手綱を握るイザークを振り返った。
 彼は、しっかりと頷いた。

「はい。ただ、一度はアルデリアに戻りますが」

「サムエルさんが身代わりをしてくれてるもんね……」

「ええ、早く交代しなくては」

 父は心配いらないと言っていたが、サムエルさんはもちろん、リリィやルーシーも不安だろう。

「その後は、レオナルドとリリィが王宮に戻るから、議会で話し合いかな。イザークの処遇をどうするか……父は対策があるって言ってたから、何とかなると思うけど」

「ならなければ脱獄します」

 イザークの問題発言に、ギデオンが「おい!」とツッコミを入れた。

「何でしょう?」

 イザークがギデオンを見る。
 ギデオンは何か言おうとしたが、眉間に皺を寄せて、

「……いや、何でもない。イザークには色々と助けてもらったからな。聞かなかったことにしておく」

 と、呟いた。
 私は心の中で、ありがとう、と手を合わせた。
 
 そして、誰にともなく呟いた。

「それにしても、イザークを助けるための対策って何なんだろう」

「え?」

 聞き返してきたのはレオナルドだ。

「それは、君が一番よくわかってるんじゃないのか?」

「私が?どういうこと?」
 
 共感を求めて周りを見回したものの、リリィもエリオットも、「本当にわからないのか」という目で私を見つめている。
 そういえば、父にも同じ目で見られたような。

 なんとも居たたまれない空気の中、私はボソボソと言った。

「……ごめんなさい。本当に、わからないです……」

「本当に?」

 レオナルドは目を丸くして、それから呆れ混じりの苦笑いをした。

「君の発案で変えたじゃないか、法律を。あれを使うんだよ」

 法律?
 私が変えた法律といえば──

「……あっ!」

 どうして思いつかなかったんだろう。
 私自身が、「変えてくれなきゃ魔王を倒さない」と駄々をこねたくせに。
 恥ずかしすぎる。

 私は、ヘイルフォード公爵邸に帰るまで、みんなの生温かい笑顔に囲まれ続けたのだった。
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