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3章 隣国へ
3-14 二人の聖女
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レオナルドたちは、強風に髪をなぶられながらも、ポカンと口を開けている。
「い、今の……何?」
口をパクパクさせるリリィに、私は拍手した。
「リリィがやったんだよ!」
「私が……?本当に?」
「そうだよ!私、何もしてないもん。ね、ナギ」
ペンダントに声をかけると、宝石からするりとナギが現れる。
「はい。私たちの聖女様に比べればまだまだですが、上出来でしょう」
「上出来って……素直に褒めればいいのに」
私は小さくため息をつき、それからまたリリィを見た。
「それじゃ、ここはリリィに任せても大丈夫そうだね。私が浄化してる間、魔物の相手をお願いできる?」
「え?え?私が戦っていいの?」
「どっちでもいいよ!リリィが浄化する?」
心が浮き立って、声が大きくなってしまう。
肩を丸めていたリリィと、こんな会話ができる日が来るなんて。
ウキウキする私とは裏腹に、フーはぺしょんと平らになった。
「今は私だけなので、浄化には時間がかかりマス……」
その言葉にナギが頷く。
「そうですね。我々が浄化する方が、はるかに早いでしょう。全精霊が揃っておりますから」
「え……じゃあ、リリィは攻撃回数も少ないってこと?」
「いいエ!」
平らだったフーが、ポンと膨らんだ。
「攻撃なら、さっきの風を、あと百回くらいは起こせマス!」
「百回も……それなら、私が魔物を止めるわ」
リリィは、指輪のついている手を握りしめて、回復していく魔物たちを睨みつけた。
「わかった、じゃあリリィは攻撃担当で。私も浄化を急ぐね!」
私がそういうと、イザークが馬の腹を蹴る。
曇天のもと、魔物の群れを迂回して、南へと進む。
次第に、地面にドロドロとした穢れが増えていく。
あまり奥へ進むと、馬の負担になる。
草原がまばらに見える場所で、私たちは馬を降り、浄化を始めた。
しばらくすると、ついさっき聞いた音が近づいてきた。
プニップニッという音が。
「これって、まさか……」
音がする方を見ると、大きなよもぎ大福が跳ねていた。
「……」
私と、イザークと、大福と、馬が、無言で見つめ合う。
沈黙を破ったのはコハクだった。
「あ、レキだ。ひさしぶりー」
コハクが片手をピコピコと振る。
レキと呼ばれた大福は、もちもちと体を揺すった。
「コハクも、ひさしぶリー。ねえねえ、ボクたちの聖女さま、見なかっタ?」
「レキの聖女さま?うーん……」
まずい。
二匹のぼんやりした会話を聞いていると、眠気が襲ってくる。
私は眠気を飛ばす目的で、口を挟んだ。
「あなた、もしかしてファルガランの精霊?」
レキと呼ばれたよもぎ大福が、黒い目で私を見上げてくる。
「そうダヨ、ボクは地の精霊。さっき、強い力を感じたから、聖女さまがいるのかと思ったんだケド……迷っちゃっタ」
ぺちょん、と溶けたレキに、イザークが声をかけた。
「ファルガランの聖女、リリィ様なら、ここから北におられます」
「フーもいるよ」
「えっ、本当?フー、ずるイ!」
レキはシャキッと起き上がると、北へ向かって跳んでいった。
それを眺めていたイザークは、かすかに微笑んで呟いた。
「ほかの精霊様も、リリィ様のもとに向かっているのでしょうか」
「そうかも。ああいうスライムっぽいのも可愛いね」
何気なく言っただけなのに、ナギたちがピクッと反応する。
彼らは揃って私を見ると、顔にしがみついてきた。
「ぶっ!みんな、何してんの……もがっ!」
引き剥がしても、引き剥がしても、もふもふが顔に張り付いてくる。
「聖女様、私どもではご満足いただけませんか?」
「アタシたちの何が駄目なの!?」
「ごめ……ぶはっ!ごめんってば!みんなも可愛いから!」
ドタバタしていると、ふとイザークが目に入る。
彼は、天使みたいに綺麗な笑みを浮かべて、私を見つめていた。
見惚れていると、顔面にコハクがボフッとしがみついた。
私はブルブルと首を振り、鼻と口をふさぐ毛玉を落とした。
「ふふっ」
「イザーク、笑ってないで助けて!」
「ふふ……申し訳ありません。精霊様方、アナベル様は腕の中に収まってほしいそうです」
その一言で、精霊たちが、私の胸元にキュッと集まる。
「……ありがとう」
「どういたしまして!」
ヒナがピィピィと騒いでいる。
イザークに言ったんだけど……まあいいや。
もふもふ団子をなでながら、リリィはどうしているだろう、と北を見やる。
ちょうど、巨大な岩が魔物を押し潰したところだった。
レキが合流したらしい。
ファルガランでも、精霊と聖女の相性が合えば、あんな力が出せるのか。
指輪を聖女に持たせなかったファルガランの王家は、もったいないことを──
「あっ!」
あることを思い出して、私はサーッと青ざめた。
「アナベル様、どうなさいましたか?」
そう尋ねてきたイザークに、私はボソボソと答える。
「イザーク、ごめん……指輪、リリィに渡しちゃって……」
「それが、何か?」
「だって、お父さんの形見なのに……」
「構いません」
「本当に?」
「はい。指輪の代わりに、カスティル公爵が隠し持っているものを取り返しますから」
カスティル公爵が隠し持つ、ファルガラン前王の持ち物。
私はすぐに思い至った。
──王冠だ。
「……そうだね、取り返そう。そのあと、王都を修復してお墓も作ろうか」
それから程なくして、腕の中のもふもふから光が消える。
浄化が終わったようだ。
これで魔物にとどめを刺せる。
私たちはまた馬に乗り、来た道を急いで戻った。
しかし、魔物がいない。
曇天はすっかり晴れ渡り、その下では、リリィが満面の笑みで待っていた。
「アナベル、ファルガランの精霊様が四柱とも集まってくれたの。みんな、すごいのね!」
「う、うん、リリィの力もあるけどね。魔物退治、お疲れ様」
「アナベルが浄化を急いでくれたからよ。ごめんね、私ばっかりいい思いをして」
「いい思い?」
「前にアナベルが言ってたでしょう?『魔物をぶっ飛ばしてすっきりした』って。今ならわかるわ。あんなに大きな魔物を、次々と倒せるなんて……!」
リリィは両頬に手を当て、うっとりしている。
ああ……お花のようなリリィは、どこへ行っちゃったんだろう。
でも、これでリリィは貴族に舐められなくなる。
議会で「偽物聖女」だなんて、もう言わせない。
エリオットやルークは、若干引いてるけど。
あれ?レオナルドだけは、妙に真剣な顔でリリィを見ているような……
「どうしたの?アナベル」
「あ、ううん。本当の力を手に入れたし、もうリリィを馬鹿にする議員はいなくなるね」
「そうね。でも、そんなことより、アルデリアの役に立てることが嬉しいわ。これからは、干魃や土砂崩れはすぐ解決できるし、山火事だって止められる」
リリィは喜びを抑えきれないのか、頬を染め、涙まで浮かべている。
「国が平穏なら、国王の支持も上がるでしょう?」
「リリィ……」
泣きそうなレオナルドと、涙ぐむリリィが見つめ合う。
引き気味だったみんなも、しんみりしている。
すると、フーが指輪からぽよんと出てきて、リリィを見た。
「聖女様……アルデリアへ行くのデスか?」
「ええ、そうよ」
「そのあと、ファルガランに帰るのデスよね?」
「……どういうこと?」
「私たちは、ファルガランの精霊デス。あなたもファルガランの聖女様。ファルガランに、いてくれるんデショ?」
全員、ハッとしたように口をつくんだ。
しんと静まり返る中、レオナルドが身を乗り出した。
「あのっ、精霊様!あなた方は、リリィと一緒にアルデリアへ来ることはできないんですか?」
「行けますヨ。なじむまでに、少し時間がかかりますケド」
「じゃあ、アルデリアへ来てください。リリィと一緒に。お願いします……!」
どことなく切羽詰まったように、レオナルドが言った。
リリィは何も言わないが、ほんのりと頬を染めてレオナルドを見つめている。
この二人、ちょっといい感じになってる……?
ひそかにキュンとしていると、リリィの指輪からぽよん、ぷよんと砲丸サイズのお餅が現れる。
四匹の巨大餅──もとい精霊は、みんなでプニプニと話し合いを始めた。
それが収まると、フーはリリィを見上げた。
「聖女様。私たちもアルデリアへ参りマス。その地の精霊となります」
「本当!?」
「ただし──」
フーの小さな目が、今度は私を映す。
「アナベル様にお願いがありマス」
「い、今の……何?」
口をパクパクさせるリリィに、私は拍手した。
「リリィがやったんだよ!」
「私が……?本当に?」
「そうだよ!私、何もしてないもん。ね、ナギ」
ペンダントに声をかけると、宝石からするりとナギが現れる。
「はい。私たちの聖女様に比べればまだまだですが、上出来でしょう」
「上出来って……素直に褒めればいいのに」
私は小さくため息をつき、それからまたリリィを見た。
「それじゃ、ここはリリィに任せても大丈夫そうだね。私が浄化してる間、魔物の相手をお願いできる?」
「え?え?私が戦っていいの?」
「どっちでもいいよ!リリィが浄化する?」
心が浮き立って、声が大きくなってしまう。
肩を丸めていたリリィと、こんな会話ができる日が来るなんて。
ウキウキする私とは裏腹に、フーはぺしょんと平らになった。
「今は私だけなので、浄化には時間がかかりマス……」
その言葉にナギが頷く。
「そうですね。我々が浄化する方が、はるかに早いでしょう。全精霊が揃っておりますから」
「え……じゃあ、リリィは攻撃回数も少ないってこと?」
「いいエ!」
平らだったフーが、ポンと膨らんだ。
「攻撃なら、さっきの風を、あと百回くらいは起こせマス!」
「百回も……それなら、私が魔物を止めるわ」
リリィは、指輪のついている手を握りしめて、回復していく魔物たちを睨みつけた。
「わかった、じゃあリリィは攻撃担当で。私も浄化を急ぐね!」
私がそういうと、イザークが馬の腹を蹴る。
曇天のもと、魔物の群れを迂回して、南へと進む。
次第に、地面にドロドロとした穢れが増えていく。
あまり奥へ進むと、馬の負担になる。
草原がまばらに見える場所で、私たちは馬を降り、浄化を始めた。
しばらくすると、ついさっき聞いた音が近づいてきた。
プニップニッという音が。
「これって、まさか……」
音がする方を見ると、大きなよもぎ大福が跳ねていた。
「……」
私と、イザークと、大福と、馬が、無言で見つめ合う。
沈黙を破ったのはコハクだった。
「あ、レキだ。ひさしぶりー」
コハクが片手をピコピコと振る。
レキと呼ばれた大福は、もちもちと体を揺すった。
「コハクも、ひさしぶリー。ねえねえ、ボクたちの聖女さま、見なかっタ?」
「レキの聖女さま?うーん……」
まずい。
二匹のぼんやりした会話を聞いていると、眠気が襲ってくる。
私は眠気を飛ばす目的で、口を挟んだ。
「あなた、もしかしてファルガランの精霊?」
レキと呼ばれたよもぎ大福が、黒い目で私を見上げてくる。
「そうダヨ、ボクは地の精霊。さっき、強い力を感じたから、聖女さまがいるのかと思ったんだケド……迷っちゃっタ」
ぺちょん、と溶けたレキに、イザークが声をかけた。
「ファルガランの聖女、リリィ様なら、ここから北におられます」
「フーもいるよ」
「えっ、本当?フー、ずるイ!」
レキはシャキッと起き上がると、北へ向かって跳んでいった。
それを眺めていたイザークは、かすかに微笑んで呟いた。
「ほかの精霊様も、リリィ様のもとに向かっているのでしょうか」
「そうかも。ああいうスライムっぽいのも可愛いね」
何気なく言っただけなのに、ナギたちがピクッと反応する。
彼らは揃って私を見ると、顔にしがみついてきた。
「ぶっ!みんな、何してんの……もがっ!」
引き剥がしても、引き剥がしても、もふもふが顔に張り付いてくる。
「聖女様、私どもではご満足いただけませんか?」
「アタシたちの何が駄目なの!?」
「ごめ……ぶはっ!ごめんってば!みんなも可愛いから!」
ドタバタしていると、ふとイザークが目に入る。
彼は、天使みたいに綺麗な笑みを浮かべて、私を見つめていた。
見惚れていると、顔面にコハクがボフッとしがみついた。
私はブルブルと首を振り、鼻と口をふさぐ毛玉を落とした。
「ふふっ」
「イザーク、笑ってないで助けて!」
「ふふ……申し訳ありません。精霊様方、アナベル様は腕の中に収まってほしいそうです」
その一言で、精霊たちが、私の胸元にキュッと集まる。
「……ありがとう」
「どういたしまして!」
ヒナがピィピィと騒いでいる。
イザークに言ったんだけど……まあいいや。
もふもふ団子をなでながら、リリィはどうしているだろう、と北を見やる。
ちょうど、巨大な岩が魔物を押し潰したところだった。
レキが合流したらしい。
ファルガランでも、精霊と聖女の相性が合えば、あんな力が出せるのか。
指輪を聖女に持たせなかったファルガランの王家は、もったいないことを──
「あっ!」
あることを思い出して、私はサーッと青ざめた。
「アナベル様、どうなさいましたか?」
そう尋ねてきたイザークに、私はボソボソと答える。
「イザーク、ごめん……指輪、リリィに渡しちゃって……」
「それが、何か?」
「だって、お父さんの形見なのに……」
「構いません」
「本当に?」
「はい。指輪の代わりに、カスティル公爵が隠し持っているものを取り返しますから」
カスティル公爵が隠し持つ、ファルガラン前王の持ち物。
私はすぐに思い至った。
──王冠だ。
「……そうだね、取り返そう。そのあと、王都を修復してお墓も作ろうか」
それから程なくして、腕の中のもふもふから光が消える。
浄化が終わったようだ。
これで魔物にとどめを刺せる。
私たちはまた馬に乗り、来た道を急いで戻った。
しかし、魔物がいない。
曇天はすっかり晴れ渡り、その下では、リリィが満面の笑みで待っていた。
「アナベル、ファルガランの精霊様が四柱とも集まってくれたの。みんな、すごいのね!」
「う、うん、リリィの力もあるけどね。魔物退治、お疲れ様」
「アナベルが浄化を急いでくれたからよ。ごめんね、私ばっかりいい思いをして」
「いい思い?」
「前にアナベルが言ってたでしょう?『魔物をぶっ飛ばしてすっきりした』って。今ならわかるわ。あんなに大きな魔物を、次々と倒せるなんて……!」
リリィは両頬に手を当て、うっとりしている。
ああ……お花のようなリリィは、どこへ行っちゃったんだろう。
でも、これでリリィは貴族に舐められなくなる。
議会で「偽物聖女」だなんて、もう言わせない。
エリオットやルークは、若干引いてるけど。
あれ?レオナルドだけは、妙に真剣な顔でリリィを見ているような……
「どうしたの?アナベル」
「あ、ううん。本当の力を手に入れたし、もうリリィを馬鹿にする議員はいなくなるね」
「そうね。でも、そんなことより、アルデリアの役に立てることが嬉しいわ。これからは、干魃や土砂崩れはすぐ解決できるし、山火事だって止められる」
リリィは喜びを抑えきれないのか、頬を染め、涙まで浮かべている。
「国が平穏なら、国王の支持も上がるでしょう?」
「リリィ……」
泣きそうなレオナルドと、涙ぐむリリィが見つめ合う。
引き気味だったみんなも、しんみりしている。
すると、フーが指輪からぽよんと出てきて、リリィを見た。
「聖女様……アルデリアへ行くのデスか?」
「ええ、そうよ」
「そのあと、ファルガランに帰るのデスよね?」
「……どういうこと?」
「私たちは、ファルガランの精霊デス。あなたもファルガランの聖女様。ファルガランに、いてくれるんデショ?」
全員、ハッとしたように口をつくんだ。
しんと静まり返る中、レオナルドが身を乗り出した。
「あのっ、精霊様!あなた方は、リリィと一緒にアルデリアへ来ることはできないんですか?」
「行けますヨ。なじむまでに、少し時間がかかりますケド」
「じゃあ、アルデリアへ来てください。リリィと一緒に。お願いします……!」
どことなく切羽詰まったように、レオナルドが言った。
リリィは何も言わないが、ほんのりと頬を染めてレオナルドを見つめている。
この二人、ちょっといい感じになってる……?
ひそかにキュンとしていると、リリィの指輪からぽよん、ぷよんと砲丸サイズのお餅が現れる。
四匹の巨大餅──もとい精霊は、みんなでプニプニと話し合いを始めた。
それが収まると、フーはリリィを見上げた。
「聖女様。私たちもアルデリアへ参りマス。その地の精霊となります」
「本当!?」
「ただし──」
フーの小さな目が、今度は私を映す。
「アナベル様にお願いがありマス」
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